へびと少女

 むかしむかしあるところに、ひとりの少女が両親と一緒に住んでいました。

 少女は彼らのことをたいそう嫌っていました。その日も母親とぶつかり、父親になだめられ、乱暴な言葉と共に自室に閉じこもりました。

「どうしていつもああなのかしら! あんな人たちなんて、いなくなってしまえばいいのに!」

 少女が部屋で憤慨し、そう喚き散らしたとき、部屋に大きな影がさしました。振り返ると、一匹の大蛇が鎌首をもたげ、巨体で電灯の光を遮っていました。続く大蛇の尾は、まるでそこから出てきたように、少女の布団を押し上げていました。

「あなたは?」

 少女が尋ねると、大蛇は少女の腕ほどの舌を口の端から垂らし、「食べてやろうか」と言いました。

「なんですって?」

「お前の親を食べてやろうかと言ったのだ」

「どうしてそんなことを言うの?」

 少女が言うと、大蛇は舌を長く伸ばし、彼女の頬に這わせました。

「ずうっとお前を見ていたからな。俺はお前が好きなのだ。お前の力になりたいのさ」

 少女はそれを聞くと、大喜びで大蛇に頼みました。大蛇は体を引きずりながら布団から出ると、彼女の親を食べに部屋を出て行きました。


「ありがとう」

 戻ってきた大蛇に少女は言いました。

「おやすい御用さ」

 大蛇の腹は、大きく歪に膨れていました。

「本当は、俺はお前が好きだから、お前のことが食べたいのだが」

「いやよ」

 大蛇は少女の足に尾を絡めましたが、少女はそれを一蹴しました。

「あんな人たちがいるところになんか行きたくないわ。あなたも、それを消化し終わるまで出てこないでちょうだい」

 蛇は頭を垂れ、布団の中へと戻っていきました。

 少女はそれからしばらくひとりで暮らしましたが、次第に不便さと寂しさを感じるようになりました。体を引きずって歩くうちに段々と足がすり減り、這って動くうちに手もすり減って、気づけば少女は小さな蛇になってしまいました。

 少女はあの大蛇に会おうと思い立ち、布団の中に潜りました。けれどもそこに大蛇の姿はなく、ただひとつ、大きな抜け殻が残るだけでした。

 少女はそれに包まり、大蛇の帰りを待つことにしました。

 ここにいればあの大蛇のように大きくなれるかしら、と彼女は思いました。

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眠れぬ夜のおとぎ話 5z/mez @5zmezchan

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