プロローグ2/主人公として生きる為に
『少年、
しかしそんな彼が恋する相手は、必ず誰かが他に狙っていて?
幼馴染、マネージャー、義妹、義姉、義母、他にも沢山!
可愛いあの子と恋をして、迫り来る横恋慕野郎共から守り抜け!
目指せ恋愛成就!目指せ純愛!未来を決めるのは君だ!
※NTR注意』
コレは、『愛する彼女が堕ちるだけ』の説明文である。目指せ純愛だとか言っているが、どの選択肢をどう選んでも寝取られしかないので普通に嘘である。上げてから落とすな。
因みに総ヒロイン数はダウンロードコンテンツ諸々を込みで7人。メインヒロインの幼馴染に始まり、部活のマネージャー、義妹、義姉、義母、メインヒロインの姉、そしてみんなに優しいギャル。
一人一人が個性的で、とても魅力的。だからこそ、寝取られるシーンのダメージは途轍もなく。
「うあぁあああああああ」
ソファに寝転びながら、衝動のままに叫ぶ。やってられなかった。上手い話には裏があるとは良く言った物だ。
なんせ、モテモテのハッピーライフが訪れるのは確かだけど、俺に好意を抱く女の子全員が寝取られるんだから。
蠢く俺の脳内には、ヒロイン達がどのように寝取られるか、どうして寝取られてしまったのか等が駆け巡る。あの時あんな選択をしなければ、もしこう言っていれば―――。そんな後悔が、記憶の中の寝取られCGと共に俺を襲う。
俺ならこうする。俺ならああする。そんな『たられば』がいくつも浮かび上がる中、俺はふと叫ぶのを止めた。
「あれっ?」
間抜けな声を出す。俺は今、何か重要な糸口を見つけたような感覚を覚えていた。
何かを見落としている気がする。この絶望的な状況を変えるに足る、何かが。
姿勢を直すことなく、天井を見上げたまま考える。
数分後、俺は答えを掴んだ。
「覚えて、る?」
覚えている。そう、覚えているのだ。俺は、どのヒロインがどう寝取られたのか。どうして寝取られたのか。
選択肢に無いような、本当の答えすらも、知っていて、覚えている。
これだ。直感的にそう思う。
『愛する彼女が堕ちるだけ』はゲームだ。だからこそ、定められた道しかない。絶対に寝取られる選択肢のみが提示され、純愛への道は硬く閉ざされている。
しかし今、俺にとってこれは現実。確かに寝取られの未来が多く存在しているが、俺はソレを回避する術を知っていて――――尚且つ、どうすれば純愛エンドを迎える事が出来るのかも知っている。
「やれる、のか?俺に」
思い出す。あのヒロインはどんな子か。何が好きで、何をしたら喜び、何をしなければ竿役の手に渡らない?
この状況を変えるに足る情報を、全ヒロイン分思い出す。ブツブツと時折声に出しながら、何が正解で何が不正解かをまとめてみる。
大体、一時間近く経過した頃だろうか。呟き続けていて喉も乾き始めた頃、俺はついに全ヒロイン分の寝取られ回避方法を考え終えた。
まだまだ草案程度の大雑把な物だが、しかし重要な部分は押さえている。
「―――やれる、だろ。俺なら」
体が震える。武者震いだ。強がりではなく、本当に。
叶うかもしれない。俺の夢見た、そして夢破れた純愛エンド。
俺が『彼女』と幸せになる最高のエンドを、俺の手で作れるかもしれない―――いや、作る。作ってみせる!
勢いよく立ち上がる。握る拳は、自然と力が籠っていた。爪が食い込むくらい強く握りしめていながら、しかし痛みは感じない。
痛みなんて、感じている場合じゃない。
「やってやろうぜ俺。
俺は。
クソッタレな結末を変え、俺自身の願いを叶える為に。
※―――
「とはいえ。敵は多いし本当に俺の考えた通りに事が運んでくれるとも限らねぇ。ここは、慎重に慎重に、だ」
場所は変わって俺の部屋。見慣れないはずが、やっぱり落ち着く。
というのも俺は愛島純也になったのではなく、厳密には混ざったのだ。姿形的な意味ではなく、記憶感情的な意味で。
比率で言えば俺が6、純也が4と言った感じか。メインはあくまで俺だが、行動原理の中に深く
多少の違和感はあるが、ソレを気にしている場合ではないので一先ずは置いておくことに。
ノートのページに、シャーペンで文字を記入する。まず初めに、自分の基本スペック。俺がゲームのキャラクターとして知っている愛島純也と、純也自身から見た愛島純也とを箇条書きにしてみる。
「高校一年生。学校が始まって間もない物の、成績は学年上位。多少オタク趣味があるが、そこまでディープなわけではない。趣味は散歩。現在陸上部に所属…………不味いな、陸上部か」
ゲームをスタートする際、なんの脈絡も無く三つの部活から一つを選ばさせられる。
それぞれ『野球部』『水泳部』『陸上部』だが、これは寝取られ回避という視点で見れば『難易度選択』とほぼ同義になる。
というのも、どの部活を選んでも同じ子がマネージャーになるのだが、その子を寝取る相手、所謂竿役が変わるのだ。
野球部なら鬼監督。水泳部ならチャラいOB。陸上部なら両方。どの部活もメイン竿役に加えその他の部活生がモブ竿として参加する為、陸上部のみモブ含め三種の竿役を相手する事になる。
最も難易度が高い部活だ。正直野球部か水泳部の方が良かったが……やるべき事は変わらない。文句を言ったり嘆いたりする暇があるなら寝取られ回避に頭を使おう。
「喧嘩がやたら強く、人の顔色を伺う癖がついていて、やや卑屈……密かに女子生徒からモテている、くらいか。ヒロイン含め」
一部ヒロインは自分からアプローチしないと惚れてもらえないが、ソレはさておき。
取り敢えず愛島純也、つまり俺についてはこんな感じだ。改めて上げてみると、まぁ悪くはないと思う。素質だけは。見た目も鏡で見た感じ、少なくとも自分ではイケメン(だが顔だけでモテるような事は決してない)だと思うし。
まずは部活関係をメインで解決しつつ、他ヒロインについても根回しを進めて……って感じだろうな。少なくともスタートに関してはリビングで只管考えていたチャートで問題ないだろう。机上で考えている今現在は。
「次はヒロインについてまとめる、か」
最初はやはりメインヒロインだよな、とノートの次のページに名前を書く。
幼馴染であり、最もエロく最もCGが多く、アニメにもなった彼女の名前を。
「
髪型は黒髪セミロング。身長は俺より少し低い程度と、女子の中では高め。
最もCGが多いというだけあって彼女を狙う竿役が最も多くバリエーションも豊富で、一番難易度の高いヒロインと言えるだろう。
パッと思いつく重要な情報はこの程度か。殆どゲーム知識で賄えたな。
次はマネージャー。
真尋の次にCGが多く、最もビッチ堕ちが多いヒロイン。
「
赤毛でポニーテール。珍しい髪色と思いそうになるが、ゲームの世界というだけあって意外とそうでもない。寧ろ、赤、青、ピンクなんてザラだ。染めているわけではなく、素で。
彼女の寝取られイベントは大半が俺の部活関係だから、実は意外と大した事無い。
とはいえ騙されやすさのせいでなし崩し的に抱かれる、ってコトも多々あるから、そこの警戒は必須だな。
次は、義妹。検索する際、サジェストにメスガキと表示されるヒロイン。さっきテーブルに置いてあった書置きも、彼女が書いたものだ。
「
黒髪ツインテールで、ややツリ目。服は敢えてサイズの合っていないモノを選ぶ事が多く、萌袖がデフォルト。因みに真尋も萌袖がデフォルトだが、それは彼女の胸のサイズに合わせた場合どうしても袖が長くなってしまうからである。
閑話休題。
次は義姉。ボーイッシュで、クールで、このゲームで二番目に『そもそも恋人になるのが大変』なヒロイン。
「
紺色のショートヘアーで、アホ毛が特徴的。目つきは鋭く、ただボーっとしているだけで怒っているかのように勘違いさせることがしばしば。感情をあまり表に出さないタイプだが、密かに内心では感情豊かだったりする。
男性嫌いの為に、家族だからと比較的優しく扱ってもらえる純也であっても交際するまでが長い。その癖付き合ったら次のシーンで寝取られるので達成感が無い。
ビジュアルは非常に好みなのだが、そういう点であまり好きになれないヒロインだったりする。
次は義母。おっとり系未亡人と、エロゲーのヒロインを務めるに相応しい属性の人だが、男性嫌いの
「愛島ゆらぎ。B112W65H101。作中でスタイル最強の女性。目元の泣き黒子が特徴的で、雰囲気からおっとりしている。立っているだけで男の性欲を刺激する雰囲気と体は小学生の時に出来上がっており、そのせいで幾度となく強姦に遭い、男性を嫌悪するようになる最も過去が重いヒロイン。聡明だが運動の一切が苦手で、そして非常に不運」
茶髪を伸ばし、一部を三つ編みにして肩にかけている。いつも笑顔を絶やさず、誰にでも優しい。
が、過去が過去なので当然だが男性を心の底から憎んでおり、誰かを愛した事は一度も無く、愛された事は一度も無いと思っている。
彼女の場合は狙っても好感度が上がるような事も無いし、他ヒロインと違って竿役に無理矢理襲われる以外で抱かれるような真似は基本しない為(娘の為に脅しに屈する事はある)ある意味一番安心できる人だ。
次は真尋の姉。ゲーム的に見れば一番不遇であり、その扱いの酷さからネット人気の高いヒロイン。
「
黒髪ボブカットで、八重歯がチャームポイント。実は俺が混ざる前から純也本人が苦手意識を抱いている相手だったりする。
彼女自身を攻略していない時……つまり関係ないルートでも、竿役の紹介程度に軽くビッチ化した後の姿が登場してきたりと、都合の良い説明キャラ扱いされる事が多い為、正直一番守るのが難しい人だと思う。
最後に、みんなに優しいギャル。一番最後に追加されたキャラクターであり、実は真尋ルートの時から名前と二、三個のセリフだけ登場していたヒロイン。
「
ウェーブがかった金髪の白ギャルで、本当に誰にでも優しく、誰とでも仲良くできる。だが千尋と違い、距離感の取り方が非常に上手い為、簡単に竿役について行ったりするような真似はしない。
「……ざっと、こんなところか」
改めてノートを見返してみる。自分の現状。ヒロイン達の概要。
他にも色々小ネタとか語る部分は多いにあるが、それは今は関係ない。
「俺が第一に目標にするべきは、ヒロイン全員をあの下半身直結のヤリ捨て野郎共から守る事。ソレが俺にとってのハッピーエンドには必要不可欠、だもんな」
竿役達は、一時の快楽の為にヒロイン達を狙う。誰のルートの時も、どんな竿役でもだ。理由ははっきりと断言できるワケではないが、強いて言葉にするなら『美人は三日で飽きる』ってヤツだろう。どれだけ執着した女でも、いざ抱いて自分の思う通りになってしまえば他の女が欲しくなる。そういう考えのヤツばかりなのだ。この
そうした奴らの趣味に染められて、快楽だけを求めるようになった彼女達は悲惨だ。ゲームではエロく描かれているだけだったが、現実として考えれば最悪という他ないだろう。アダルト作品全般に言える事だが、フィクションだから許されているあれこれが現実になってはダメではないか。
別に彼女達の幸せが俺の幸せだとかそんな事を言うつもりは無い。だが、あの末路を知った上でソレを放置するのが嫌なのだ。
なんなら、純也自身の意志はどうあれ、俺自身の恋愛とかは二の次三の次で良いと思っている。
「………よし、次は攻略チャート的なのを作るか」
姿勢を正し、再びノートと向き合う。
まだ、愛島純也としての生活が本格的に始まるまでは時間がある。その間に、俺は俺自身のハッピーエンド……全ヒロインが真っ当な人生を送れるようになった事を見届けた上での俺の恋愛を完遂するための準備に取り掛かるのだった。
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