寝取られゲーの主人公に転生したので、寝取られ展開全てをねじ伏せてトゥルーエンド目指します
マニアック性癖図書館
プロローグ1/詐欺られてゲーム転生
黒目黒髪。一部のパーツに癖があるわけでもない、そこそこ整った顔。髪型にあまり遊びは無く、やや癖っ毛気味ではあるものの天然パーマという程でも無い。
良く言えばまあまあなイケメン。悪く言うならば特徴も何もない顔。
鏡に映る自分の顔は、そう評する以外にない顔だ。
見た目で悪い印象を与える事は無いが、良い印象を与える事も無い。損も得も無い、喜ぶべきか悲しむべきか微妙な顔だ。
「――――こんな顔、してたんだな」
鏡に映っているのが本当に自分であるのかどうかを確かめる意味を込めて、頬に両手を這わせてみる。鏡の俺も同じ動きをし、頬には手の感触が、熱が、確かに感じられた。
大きなため息を吐く。
コレは現実だ。今俺が鏡の前に立って頬を触り、まるで見覚えのない自分の顔を見つめ、感じているのは何一つ間違いのない事実なのだ。
「そっかぁ、なっちゃったかぁ……俺」
目を閉じて、鏡の前から移動する。足取り重くリビングへ移動する俺の脳内では、どうしてこうなったのかを今一度振り返る試みが行われようとしていた。
※―――
「実はさぁ、神様なんだよね。僕」
薄ら笑いを浮かべながら、向かいに座る友人がそんな事を言ってくる。ビールの入ったジョッキを揺すりながら、ほんのり頬を赤くして、唐突に。
当然そんな事をいきなり、それも酒を飲んでいる時に言われて受け入れられるはずも無く。まだ飲み始めたばかりの俺はその冗談に乗っかってやるようなテンションでも無かったので、やや眉を顰めて、
「何言ってんだよお前、今日そんなに飲んでねぇだろ」
「いやいや、酔っぱらってるとかじゃなくてマジの話」
ぐい、と残るビールを飲み干して、彼は大きく息を吐いた。その姿のどこに神様要素を見つけ出せば良いのだろう。
テレビから笑い声が聞こえる。ゴールデンのバラエティ番組。俺が子供の時からやっているそれは、俺にとって最優先すべき楽しみから明るいBGMに変わっていた。歳は取りたくねぇモンだなぁ。なんて苦笑いしてから、いきなりふざけた話をしてきた友人に口を開く。
「あのな。俺とお前が出会ってから何年経ってると思うよ?約十六年だぞ、十六年。小学校の時から社会人になるまで、家族の次くらいに長い事付き合ってきたお前に、今になって急に『僕神様なんだけど』とか言われて信じる訳ねぇだろ」
「神である僕が、子供のふりをして君に接触した、とは思わないのかい?」
「思わねぇよ。どんなSFだ。……いやSFは違うか。サイエンス要素ねぇし。なんだろ、ファンタジー?」
「神をファンタジーの一言で片づける辺り現代人だよねぇ、君って」
「じゃお前はどういう括りに入れてんだよ」
「ソレを本人に聞くかい?―――神は、神だよ。なんでもできて、何もできない」
「………あー、うん」
いつになく真剣な顔だ。コイツのこんな顔は、今まで二度しか見た事が無い。それくらい珍しいのだ。しかも酒をいくらか飲んで上機嫌であろう所にその表情。
だから俺も、少し姿勢を正して真剣に聞いてやろうと――――するかと思ったなら大間違いだ。
コイツが真剣な顔をしたのは、俺が知る限り二度だけ。そしてその二度とも、すごくしょうもない理由だった。俺を何らかの罠にかけようとしている時の、そういう顔。しかも酔っぱらって上機嫌な時のソレだ。きっと今までの比じゃないくらいしょうも無くて、俺にとってあまりよろしくない事なのだろう。
聞く前から憂鬱な気分になるも、話を聞き終わらないとコイツのコレは終わらないので仕方なく乗ってやる事にする。その前に、手元の酒を一気に飲み干して。
酔っぱらってないとやってられないのだ。コイツのそういう『イタズラ』は。
「神様ってさ、人間が思っている以上になんでもできるんだ。今の僕は人間規格に自分の存在を落としてるから殆ど何もできないけど、俗にいう天界的な場所で正規の力を振るえば、君には想像すらできないような事だって簡単に出来る」
「なのにできないってのは、能力はあっても気概がないとかそういう話か?」
「そんなところだよ。ほら、全てを得るのは全てを失うのと同じって言葉、君が好きなタイプの創作物で良く聞くだろう?」
「普通に漫画アニメゲームだけど……」
確かに全能系のキャラは何処か平熱気味というか、常に退屈している風なキャラになりがちだ。
だがソレを知っているからこそ、俺とくだらない洒落で笑ったり猥談で盛り上がったりしていたコイツがそんな『全てがつまらなく感じている無感情男』だとは思えず、神様発言が冗談にしか聞こえない。
「つまりなんだ?お前はそのやる気のない神様しかいない世界に居るのに飽きて、刺激を求めてここまでやって来たって話か?」
「豪くざっくりとまとめてくれたなぁ……大体あってるけど。一応言っておくと、名前を書いたら書かれた人が死ぬノートとかは持ってないからね」
「来た動機が同じ癖にそこは違うのかよ。仮に持ってても使うつもりねぇけど」
「ノートを持っていない事ともう一つ。どこぞの死神と違って、僕は君を選んでここに来た。それが違いだね」
「選んだぁ?」
面白い事を言う。自分が神と名乗るだけでは飽き足らず、今度は俺にまで何らかの特別要素を足すつもりか。まぁ自分がよいしょされる分にはまるで悪い気はしない。寧ろもっと来てほしいくらいだ。ちょうど酔いも回ってきて、気分も良くなってきたし。
「なんだよ、実は俺は他の人には無い何かがあるって?」
「無い。正直あの年齢層の子供なら誰でも良かった。当時天界で流行ってた、ダーツ方式で決定したし」
「ソレ選んだって言わねぇから!!」
一瞬だけ上機嫌になった俺が可哀そうだろ。設定だとしてもそういうのやめろ。
テーブルを叩いて怒鳴る俺を宥めるように手で制してから、まぁまぁ、と続けた。
「確かに君に接触したのは偶然だけど、けど今は君に会えてよかったと心から思えている。出会った時に比べて、今の僕は人間らしいだろう?君に似て陽気で考え無しで変態で」
「褒めてねぇよなソレ!一瞬良い話かなと思わせておきながら中々辛辣だよなソレ!」
「褒めてるよ。なんせただの人間が神である僕を染めたんだ。時代が時代なら神話になっているとも。神を人レベルに堕とした男、とか」
「やっぱ貶してますよねぇ!?」
この際コイツが神とかなんだとかどうでも良い。俺は自分の不当な評価(陽気で考え無しで変態)を何とかする必要がある。いや陽気は特に変えなくて良いか。俺分類されるなら陰キャだと思うけど。
「さ、本題に入ろうか。どうして僕が急に神である事をカミングアウトしたのかについてだけど」
「それよりもお前が俺をどういう風に思っているのか今一度詳しく語り合っておく方が重要なんだが」
「君、異世界モノの小説をネットに投稿してるだろ?」
むせた。
落ち着いた呼吸を意識しながら、喉の異物感が消えるまで咳き込み続ける。
異世界モノ。最近流行りのアレだ。何の変哲もない主人公が、異世界でチートな能力を得てモテモテになるアレ。主にネット小説で見られるジャンルで、実は俺も密かに投稿していた。当たり前だが、この友人には話していない。というか家族親戚友人その他諸々の知り合いの誰一人にも話していない。
話せるワケが無いだろう。容姿も名前も性格も全てが自分そのものの主人公が手にしたチート能力で無双しながら激モテハーレムを築く作品を、自分を良く知る人に読ませられるわけがない。
「……な、な訳ないだろ。俺は読む専だよ。読むの専門」
「ふーん」
俺の否定の言葉を軽く聞き流しながら、アイツはスマホを手に取る。何をしているんだ、と俺が見守っていると、突然口を開き、こんな事を言ってきた。
―――いや、読み上げた。
「『ガキンガキンガキン!剣と剣が何度も衝突し合う。聖騎士というだけあって敵も相当な強さだ。だが俺の
「わっ、わぁっ、わぁああああああぁっ!!読み上げるな!ごめんなさい嘘つきました投稿してます!!」
凄まじい羞恥心を感じる。まさか小学校から交流の続いている友人に、自分がこっそり投稿していた小説の一部分を音読される日が来るとは思わなかった。
畜生、いっそ殺してくれ。これから俺は文字を入力する度に「でもアイツに読まれるんだよなぁ」ってなってしまう。そんなの嫌だ、嫌すぎる。
「……でも、コレとお前の神様発言がどう繋がるんだよ」
「一応聞くけど、この作品まんま君を主人公にしてるよね?それってつまり、君にはこういう風になりたいって欲求があるって事でオーケー?」
「――――悪いかよ、そういう願望持ってて」
一瞬いうべきか否か迷ったが、この際その程度の願望、明かしても問題ないだろう。
大学に通ってた時から投稿してる作品を読まれてたんだ。もうバレて恥ずかしい物なんて殆ど無い。
俺の返答を聞き満足そうに頷いてから、俺の目を真っ直ぐに見据えて一言。
「無双云々はともかく、モテモテって意味なら似た状況になれるんだけど、どう?」
※―――
確かに頭の中に残っている自宅でのやり取りが、あまりに現実離れしすぎていて笑えて来る。
ゲームの世界に転生。神様を名乗る友人が提示してきたのは、そんな良く聞く話だった。
どうも神様には期間内に一定数の人間の魂を循環させる……つまり、転生させる義務があるらしく、アイツはその時のノルマがあと一人の所で満たせていなかったらしい。
そこで白羽の矢が立ったが、転生に興味のある現代っ子こと俺である。
「……誰もいない」
人一人いないリビングで、小さく呟く。見慣れない内装のはずなのに、記憶にある。居心地の悪さと、自宅特有の安らぎとを同時に感じる。それが何とも気持ち悪く、少しよろめく。
神様は俺に、とあるゲームの世界に転生させてやる、とだけ言った。そこは異能だとか魔法だとかが無い平和な世界だが、恋愛要素があり、当たり前のように主人公がモテモテだという。
そしてその主人公に、今なら転生させてやれると言ったのだ。
既に天涯孤独の身な上、仕事で特に重要な役職に立たされていたわけでもない俺は、勿論二つ返事で了承した。
当たり前だ。モテモテな主人公に、今ならなる事が出来る。特に良い事も悪い事も無い人生から、可愛い女の子達に囲まれる人生に変わる事が出来る。
ソレを、後顧の憂いの無い俺が承諾しない訳がなかった。
「『寝坊助さんへ。三人で買い物に行ってくるので、朝ごはんはテーブルの上の物をチンして食べてください』か」
テーブルの上の紙に書かれている内容を音読する。可愛らしいイラストが横に小さく書かれているソレに、自然と笑みが零れた。どうやら今日は休日らしい。新たな自分としての生活を開始する前に猶予が与えられた事に胸を撫でおろしながら、テーブルに置いてある料理を電子レンジの下まで運ぶ。
―――神は、俺の承諾を聞くと満足そうに微笑んでから、行先も告げぬままに契約書的なモノを差し出してきた。
死んでいない人間を転生させる事は出来ない。だから神の力で安楽死的な殺し方をする必要があるのだが、ソレの同意書が必須だったらしい。勿論俺は、何も考えることなく名前をサインし、拇印を押した。
これで俺は、特に女に恵まれる事も何もないこの生活から抜け出せる。完全に酔っぱらっていた俺は、アイツが本当に神なのかと疑っていた事すら忘れて、のほほんと思っていた。
だが、そんなお花畑モードに入った俺でも、思い浮かぶ疑問が一つあった。
なんてことはない。ただ、なんてゲームの世界に転生させられるのか、それが気になっただけだ。
「いただきまーす」
両手を合わせて、律義に挨拶する。シンプルな和食だ。味噌汁に、白米に、焼き魚。美味しそうなソレ等を、箸で食べていく。
美味しい。つまり、味がある。それがこの受け入れがたい状況が現実である事を照明する一つの要因となって、微かに気落ちさせてくる。
そう。気分が沈むのだ。話を持ち掛けられた時は、あれほど喜んでいたというのに。
全てはこの世界が、このゲームが何というゲームなのかを知ってしまったから。
普段の倍以上の時間をかけて食事を終える。料理自体はとても美味しかったが、いかんせん気分が最悪だ。空腹は最高のスパイスというが、その時の気分、機嫌というのも重要なスパイスであると思い知らされた。
「………どーっすっかなぁ」
背もたれに全体重を預けながら、天井を仰ぐ。言葉に込められた意味は、今日この後どうしようかという意味と、これから先俺はどうすれば良いだろうかという不安だ。
転生先のゲームが全く知らないゲームだったわけではない。ストーリーも、設定も、世界観も、何もかもを一般的なプレイヤーよりも理解している自負がある。何せ、俺は救いを求めてあらゆるルートをクリアして、結局報われる事が無かったのだから。
なら、鬱ゲーなのか?と聞かれれば、それも少し違う。要は、ゲームの性質と俺が合っていなかったのだ。ストーリーの終わらせ方が俺と相性が悪かっただけで、すぐに人が死ぬような鬱ゲーという訳ではない。
では、キャラクターに……ヒロインに魅力を感じないのか?
そんなはずがない。全ヒロインが各々の魅力に満ち溢れ、メインヒロインである『とある少女』なんか、俺が元々ゲームのキャラに恋をしてしまうような人間だった事もあってか、本気で好きになってしまった。
……答えを言おう。
俺が転生する事になったゲーム。ソレは他でもない、あの神を名乗っていた友人が数か月前に俺に勧めてきたゲーム。メインヒロインの可愛らしさに恋をして、何とかハッピーエンドを迎えようと襲い掛かる脳破壊に耐えながら完全クリアまで成し遂げたゲーム。
タイトルは、『愛する彼女が堕ちるだけ』。
全CGオール寝取られの、完全寝取られゲーである。
寝取られ趣味があるどころか大っ嫌いな俺は、神に半ば騙される形で、
――――誰か、助けて。
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