私がヲタクになる事を何故か母上は許してくれない 〜異世界転生してもヲタクの私は異世界でもヲタクライフを始めようと思います!〜

天馬汐里

第1話 私が死んでから異世界転生するまで

「――ってことで、今日の配信はここまでかな?

 こんな遅い時間まで見てくれてありがとう!みんな大好きだよ!

 じゃあまた来週の生配信で会いましょう!またねっ!」


そう湊生そうくんが言って、今日の配信が終わった。

そこでふらっと時計に目を向けてみると時刻は午前2時。

今日はいつもより遅くなっちゃった。はあ。でもやっぱり凄く幸せな時間だったな。

どうせ死ぬなら湊生くんに埋もれて死にたいなぁ。そんな現実味のないふわふわとした事を考えながら、私はこの後の予定のついて考え始めた。

うーん。この後もう一回アーカイブ見て、新しく出てた動画も見て、最後に曲を聞きながら課題を終わらせようと思っているから、今日はオールかな。

姫野ひめのるるはそんな事を考えながら再びスマホの画面を開いた。

スマホの電源ボタンを押して初めに目のつくのは、ロック画面に映る湊生くんの綺麗な横顔。その写真を見ると、何だって頑張れる気がする。

なんてったって!今日は私のお茶爆に気付いてくれた。それに名前呼びもしてくれた。さらにその上お礼の言葉まで貰えた。なんてラッキーな日なんだろう。今日が命日なのかな。るるは椅子の上で体をくねくねさせながら1人そう悶えた。

そう、高校2年生である姫野るるは、配信者である桐生湊生きりゅうそうの大ファン――ではなく、限界ヲタク女子高生だったのであった。


*****


次の日の朝。

見事に宣言通りにオールしたるるは、ワイヤレスイヤホンを片耳に突っ込み、湊生くんの歌声を爆音で聞いて体を奮い立たせながら学校へと向かう準備をしていた。

早く学校に行って昨日の事を誰でもいいから共有したい。もしかして、親友の菜那なら昨日のことを一緒に喜んでくれるんじゃないか、そんな淡い期待を胸に膨らませながら支度をしていたその時。

突如目の前のグッズ収納棚が倒れる音がして、気付けば私は棚の下敷きになっていた。

「......え?何が起こったの?」

私は状況が理解できず、頭の中はパニック状態だった。

けれどもそこから、”イヤホンで爆音で音楽を聞いていたがために、地震に気が付くのが遅くなり、結果棚の下敷きになってしまったと” いう現実を理解するのにそう時間はかからなかった。

「......ははっ。こんな事って、ありなわけ、?」

そして自分でその結論に達した時、私は乾いた笑みが口からこぼれ出た。

どうせ死ぬなら湊生くんに埋もれて死にたい。そんな現実味のないような事をふわふわとしか考えていなかった私には、全くもって自分のこの現実を受け止めることが出来なかった。

そんな。嫌だ。今日の夜も、また明日も、湊生くんが活動を辞めるその時まで毎日笑って配信を見て、毎日を謳歌して生きていく予定だったのに。何でここで?

私、このまま死んじゃうんだろうか。嫌だ、死にたくない。

もっと湊生くんの笑顔を見ていたかった。もっと湊生くんの近くにいたかった。もっと湊生くんを応援していたかった。もっと、もっと―――。

そうやって考えれば考えるほど涙が溢れてきた。苦しくて、悲しくて、ちょっぴり悔しくて。......ああ、やっぱりこのまま死んじゃうのかな。嫌だな。もっと生きたかった。ねえ誰か、助けて。ねえ、湊生くん、湊生くん―――。

瞼が重いのは寝不足のせいなのか、はたまたもう自分の命が短いのか、どちらを示すものなのかが分からなくなって、叫び声すら出なくて。私は心のなかでそうやってずっと湊生くんに語りかけていた。

しかしそんな声にならない虚しい叫びは言葉にもならず、空を描いた手は誰にも受け止められることなく床に落ちていった。賢明に足掻いていたるるの意識は、そこでぷつっと途切れた。


*****


「◎△$♪×¥●&%#?!」

「○×※□◇#△!◯♭●□▲★※?」


なんだか外が騒がしくなって、私は頭の中が混乱した。

あれ、私、確かあのまま棚の下敷きになって死んだんじゃ――?

そう不思議に思いつつも、今自分がどうなっているのかが気になって、私はおそるおそる目を開いた。

すると目の前には、侍女さんたちだと思われる沢山の人たちと、かなり豪華だと思われる装飾がゴテゴテとした部屋が広がっていた。

何がなんだか分からなくて助けを求めようと声を上げた時。

「えっと、ここ、どこ?」

けれども私の口から出たのは、幼い声で紡がれる、つたない言葉だった。

あれ、おかしくないか?私、16歳なんだよね?声、幼くない?

もしかして、後遺症で知能が低下しちゃったとか?

そう思い、急に怖くなって空に手を伸ばそうとした時、姫野るるとの決定的な違いが明らかになった。

まず、16歳にしては小さな手。それに、服が中世ヨーロッパの貴族のようなおしゃれなレースの服になっている。ますます混乱した私がとりあえず侍女さんの方に視線を向けると、

「シャネル姫様。シャネル姫様は、急に高熱で倒れ、ここ一巡りほどずっと寝込んでいらしたのですよ。母上様も大層ご心配になられていたのでお目覚めになって良かったです。」

と、1人の侍女さんが教えてくれた。

「えーっと、シャネル姫様って私のこと、?」

シャネル姫様って誰?私のこと?そう不安に思って侍女さんに聞くと、

「――?はい。シャネル姫様は貴方のことですよ。

 貴方の名前は、シャネル・プリシパラ・ガーナルドです。

 ここ、ガーナルド王国の国王、ジョシュア・プリシパラ・ガーナルド国王と、ガーナルド王国の王妃であるエメラルド・プリシパラ・ガーナルド王妃の娘です。」

私のその発言に少しばかり驚いたような顔をしつつも、そう丁寧に教えてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私がヲタクになる事を何故か母上は許してくれない 〜異世界転生してもヲタクの私は異世界でもヲタクライフを始めようと思います!〜 天馬汐里 @siori_tenma0621

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ