第18話 宮殿『超サロン』内部での戦い
魔法の国の地下に魔界が存在するという。
その主たる魔王の住む宮殿がある。
踏み入れた6人は、あからさまに不快の念を顔に表した。その6人とは、宇宙戦隊カレーソルジャー所属、オニオンソルジャーこと剛山豪、ポテトソルジャーこと里村宏美、キャロットソルジャーこと室町賢二の3人と、魔法の国の女将軍ミリエンダ、王宮つき魔法使いジブラルドール、その弟子である猫娘のラミリーである。
里村と室町は既に変身済みで、二人とも輝く装甲に全身を覆われている。
入った途端、そこはベルサイユ宮殿鏡の間を思わせる豪奢なホールだった。全員が知っていた。魔王こと宇宙大公が、配下の貴族の力を高める場所として利用する『超サロン』そのものである。
「おいでなすった」
剛山が顎をしゃくる。正面にある巨大な階段から、静々とお品良く降りてくるのは、ドレスをまとった悪鬼夜行であった。
その先頭を行く者が階段を降り終え、片腕を上げた。背後に居並ぶ気持ちの悪い連中が、ピタリと止まった。片腕を上げたその物体は、不定形の軟体動物としか見えない、見ただけで鳥肌が立つような造形をしていた。
それが、口を開いた。口らしきものがあった。正面を向いているのは確かなようだ。
「ここから先に行かせるわけにはいかん」
「貴様が宇宙大公か?」
剛山が仲間達を手で制しながら進み出る。
「大公陛下はお休み中だ。目を覚まさせるわけにはいかん」
「どこかの女王みたいな奴じゃな」
「駄目ですよぅ。今、緊迫した場面なんですから」
魔法使い達の会話は無視して、剛山がさらに一歩進み出る。
「起こす必要はない。俺達は、奴の首を取りに来た」
「……ふっ。愚かな」
「ミリエンダ! ジブラルドール! ラミリー! ポテトソルジャー! キャロットソルジャー!」
「交渉の余地はない。ということだな」
「行くぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
「者ども、かかれ」
「染色!」
剛山が変身するまでの3秒の間、2人の宇宙戦士が化物たちに突っ込んだ。超鋼アルミのボディーは、それのみで武器となりうる。
ジブラルドールが魔法の杖に集中し、ラミリーが補佐する。近寄る者をミリエンダが斬りつけた。
「オニオンソルジャー!」
びしっ、とポーズを決めた時には、既に乱戦の最中となっていた。
「秘技『でんぷん地獄』!」
「秘技『玉ねぎ皮向け』!」
「秘技『カロチンの舞』!」
「針の山、レベル18」
宇宙戦隊の秘技が炸裂し、ジブラルドールの魔法が一同を薙ぎ倒す。
「突破する! ポテト! キャロット! 合体奥儀だ!」
「おう!」
キャロットが元のサイズに戻る。
「久しぶりね」
ポテトソルジャーは、戦いながらも親しげにオニオンに寄り添った。
「行くぞ!」
「「「合体奥儀『激辛カレー百倍(当社比)』!」」」
空間が揺らいだ。『超サロン』にいた全ての者に、それは襲い掛かった。突然、口の中を辛さが襲ったのだ。あまりの激辛ぶりに、全ての宇宙貴族達がのた打ち回った。
「くっ……なんだこれは……」
気の強さでは負けたことの無いミリエンダが膝をつく。辛さが襲い掛かったのは、敵味方区別は無い。しかも、技を使っている当人達も例外ではないのだ。しかし、鍛え方が違う。『カレーソルジャー』の肩書きは伊達ではないのだ。
「ポテト、キャロット、3人を頼む! 俺は味覚がおかしい奴等を叩く!」
「「了解!」」
茶色と赤色に輝く2人が、オニオンソルジャーの側を離れる。化物たちと同様にもがいている魔法の国の重臣達を担ぎ上げ、『超サロン』から奥の大階段へ向かった。
その間、オニオンソルジャーは赤い斬戟と濁った光線を両手に奮戦した。数体が白煙と共に巨大化し、それに潰される形でさらなる犠牲者を生む。
超サロン全体が巨大化した宇宙貴族達ですし詰めになったとき、オニオンソルジャーをしんがりにした一同は、回廊の奥に消えていた。
※
6人の侵入者は、客室と思われる比較的狭い部屋に避難していた。
「ひ、ひどい技じゃった……」
「やる前に、言ってくださいよぅ」
魔法使い達は脱力している。意外と辛さに弱かった女将軍ミリエンダは、声もなく震えていた。全身に汗が滲んでいる。
「大丈夫か?」
輝く飴色のオニオンソルジャーが覗きこむが、技を繰り出した張本人である。険しい目で睨み返すだけで、ミリエンダは何も言わなかった。正確には、言えなかったのだ。
「まだ、わしらの知らん秘技があるのか?」
老魔法使いが問うが、それには応えなかった。丁度、2人の戦士が戻ってきたところだった。
「どうだった?」
「辺りに敵のいる気配はないわね」
ポテトソルジャーが先に部屋に入り、キャロットソルジャーが警戒しながら扉を閉める。
「『超サロン』であれだけ叩いたからな。他が手薄になっても不思議はないが……問題は宇宙大公の居場所だ。キャロット、細かくなって探れないか?」
「広すぎるな。やってみてもいいが」
「いや」
口を挟んだのはジブラルドールだった。地上から持ってきた水を全て飲み干し、荒い息を吐きながら立ち上がる。
「一つだけ、極端に大きな波動を感じるわい。これだけ大きいと、隠しようもない。しかし……本当にあれと戦うのか?」
「当然だ。そのために来たのだからな。どこにいる?」
ジブラルドールは言いよどんだ。長い髭をしごき、頬を撫でる。ラミリーを見下ろした。
「例のあれ、持って来ておるな?」
「もちろんです」
喉を押さえたまま、猫娘が器用に胸を張ってみせた。
「なら、なんとかなるじゃろう。わしには、人間が立ち向かえる相手とは思えんがのう」
「勝つさ。どんなことをしても。ジブラルドール、恐ければここで待っていろ。俺達とラミリーで行く」
「待て!」
燃えるような目をしたのは、ミリエンダだった。
「私を置いていくつもりではないだろうな」
怒気で空気が揺らいだ。オニオンソルジャーに顔の表情はない。装甲で覆われているのだ。ただ、声は隠せない。笑っていた。
「何が可笑しい!」
「老人を一人残して置くのは、かわいそうだとは思わないか?」
「自分の身ぐらい守れるだろう」
「だ、そうだが?」
老人は首を左右に振った。
「行くわい。死なばもろともじゃ。死ぬ覚悟は当にできておる。奴は地下じゃ。一番偉い奴が、なぜ地下にいるのかは知らんがな」
「上の階では、建物がもたないのかもしれないな。それだけ巨大な奴だということか」
オニオンソルジャーは一同に宣告した。
「行くぞ」
「休まないの? みんな疲れているわ」
言ったのはポテトソルジャーだ。オニオンソルジャーは振り向きもしなかった。
「24時間休むつもりか? 変身時間がない。決着は、あと10分でつける」
オニオンソルジャーは扉を蹴破った。5人が続く。
「わしの覚悟を語った台詞には、誰も感動せんのか?」
ただ、老ジブラルドールだけが不服そうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます