第12話 集結! 宇宙戦隊カレーソルジャー

 剛山豪に与えられた個室で、部屋の持ち主が荷物をまとめていた。本来の持ち物はほとんどないが、保存食やランタンを荷袋に詰めていた。


「本当に行くんですかぁ?」


 甘ったるい声を出して質問したのは、頭に猫の耳、尻から猫の尾を生やしたラミリーだった。


「ああ。俺の仲間たちが、別の世界で苦労している。その元凶を断てるのは、俺だけだからな」


 二人きりだった。剛山を説得することなど、誰にもできないだろう。最後まで、諦められなかったのが猫娘だった。


「でも、魔界の結界もちゃんと張り直したし、ケルベロスも元気になったから、このままでも問題ないんですよ。私達と一緒に、この国で暮らせばいいじゃないですか」

「帰れないのなら、そうするつもりだ。だが、その前に宇宙大公は倒さねばならない」


 荷物を詰め終り、背中に背負った。


「じゃあ、私も行きます」

「なんだと?」


 険しい表情でラミリーを見つめる。ちょっぴり、すくみあがった。


「ま、魔法の使い手が、必要でしょう?」

「使えるのか?」


 魔法使いの弟子であることは知っていた。だが、使ったところは見たことがなかった。


「炎の玉、レベル1」


 ラミリーの指先に、小さな火が灯った。


「これで、なにをしようと言うんだ?」

「これを投げつければ、びっくりして……」

「投げてみろ」

「えいっ! ……あれっ? うわっ、あちちちちっ」


 手をぶんぶんと振り回す。風を送られ、かえって火が大きくなる。


「わ、私の手がー」

「貸せ」


 腕をとり、その指先を炎ごと掴む。鎮火した。


「あ、ありがとうございます」

「気持ちだけ貰っておく」

「え……でもぅ」


「悪い。足手まといだ。あんたを守りながら戦っていては、勝てる相手にも勝てん」

「で、でも、その宇宙大公の名前がせっかくわかったんです。師匠から、力を封印する呪物を預かってきました。魔力がないと扱えませんから、私が行かないと意味がないんです」


 戸口に向けかけた足が止まる。振り向き、ベッドに腰掛けた。


「宇宙大公を倒せるということか?」

「ち、力を封印することはできると思います。近くまで行けば」

「封印しなければならないということは、倒せないということか?」

「た、多分……」

「強い敵を倒してこそ……いや……止めよう。今は、倒すことを優先すべきだ。ラミリー……」


 射るような視線で猫娘を見た。名前で呼ばれ、猫娘は緊張した顔をした。


「は、はい」

「逃げ足には自身があるな?」

「はい!」

「よし。行こう」

「はい!」


 必ずしも褒め言葉ではないが、猫娘は飛び上がった。一度に留まらない。立ち上がる剛山の腕に、ぶら下がるようにしがみついた。

 扉を開けると、銀色の髪をした軍服姿の女性が、壁に背を預けていた。その姿を見て、ラミリーが慌てて剛山から離れる。名にしおう魔法の国の女将軍ミリエンダだ。


「行くのか」

「ああ」

「止めても無駄だろうな」

「ああ」

「一人でも行くのだろう?」

「ああ」

「お前らしい」


 壁から背を離す。魔法のサーベルに手を掛けていた。抜刀しようとする瞬間、その柄を剛山の手が抑えていた。抜くことさえできない。


「悪いが、遊ぶ気分じゃない」


 剛山が、ミリエンダには一瞥もくれずに立ち去ろうとする。その足が止まったのは、ついてくる足音が増えていたからだ。


「どうした、なぜ止まる」

「なんのつもりだ?」

「なにが?」

「その荷物はなんだ?」

「旅をすれば、どんな美人でも腹が減る」

「駄目だ!」


「剛山、私に命令できるのは、女王陛下だけだ」

「生きては帰れないぞ」

「えーっ、そうなんですかぁ」

「黙っていろ」


 二人の声が揃い、ラミリーは不満げに俯いた。


「お前の変身時間は30分、一度変身を解くと24時間は変身できない。そう言ったな」

「ああ」

「では、その24時間の間、背中を守る者が必要だろう。その娘だけでは役者不足だ」


 一歩進み出る。美しい女だった。緑かがった目が印象深い。剛山を説得するのと同じくらい、説得が難しい相手でもある。


「勝てる保証はない」

「勝負に、保証などあるものか」

「それはそうだが……」

「私なら、お前に守って貰う必要もない」

「残れ」

「まだ言うか」


 顔が、つきそうなほどに距離が詰まる。睨みあう。


「……ミリエンダに何かあれば、俺は帰る場所を失う。生きていてくれないと、困るんだ」

「では、結婚式の準備をしておくぞ」

「頼む」

「うむ」


 口付けをかわした。きびすを返す。


「ラミリー、行こう」


 手で顔を覆っていた猫娘は、小刻みに首を振っていた。


 ※


 地下へと続く階段の入り口で、年老いた男が杖をついていた。誰よりも強い力を持った年寄り、王宮つき魔法使いジブラルドールだ。


「別れは済んだのか色男」

「別れとは限らない。俺は、死ぬつもりはない」


 足を止めない。歩き続ける。


「生きて帰るつもりもなかろう」

「結果に責任は持てん。ただ、それだけだ」

「女王陛下がお呼びだ」


 すれ違う寸前だった。剛山の足が止まる。ラミリーが鼻を打った。


「痛いですよう。急にとまらないでください」

「今さら、何の用がある?」

「そう申すな。お前が倒そうとしている相手、わが国にとっても宿敵なのじゃ。それを送るのに、花も持たせないのでは、わらわの姿勢が問われるのじゃ」


 その声は、ジブラルドールの背中から聞こえてきた。顔を出す。背中から、にょきりと生えた。


「ど、どこから出るんですか」

「何、簡単な魔法じゃよ」


 ジブラルドールを手で制し、一歩進み出る。この国に厄介になっている以上、剛山は片膝をつき、臣下の礼をとった。


「そなたが欲しがるとは思わぬが、これを授けておこう」


 女王が差し出した手の上には、勲章と思しきものが乗っている。


「なんでございましょう」

「そなたに、ナイトの称号を与える。その証じゃ」

「申し訳ございませんが、受け取るわけにはまいりません」

「ふむ。理由は?」


 怒った様子もない。女王は、男狂いであることを除けば立派な為政者だと、最近知ったばかりだ。


「見事魔王を討ち果たした後でなければ」

「固い男じゃ。心配するな。ナイトの上にも、いくらでも上の階級があるのじゃ。わらわの代理として命をかけるのじゃ。これぐらいのことで恐縮するには及ばぬ」


 背後から、老ジブラルドールも口を挟む。


「それには、魔法の守りがかけてある。つけて行けば、多少の役には立つじゃろう」

「ジブラルドール卿……」


「なに、礼には及ばん。不肖の弟子を押し付けるのじゃからな。これぐらいはさせてくれ」

「……お前は行かないのか?」


 片膝を付いた姿勢のまま、剛山は真っ直ぐジブラルドールを見ていた。女王から勲章を受け取り、胸につけていた。女王も、ラミリーも老人を見やった。


「ぬっ!」

「魔法の力はよく見せてもらった。一緒に行ってくれるものと思っていたが」

「ラ、ラミリーがおる」

「不肖の、と言ったよな」

「はい」


 剛山の背後で返事をする。


「弟子のフォローをするのも、師匠の責任だろう」

「じゃから……勘弁してくれんか。老い先短い年寄りに……」

「どうせ短い命なら、最後に一花咲かせたらどうだ?」

「ジブラルドール、この男は貴様の助けを必要としているのだ」


 女王までが背中を押した。


「お、お許しくだされ。この老骨では、魔界を渡るだけの力はございませぬ」

「途中で力尽きてもよい」

「人事だと思って、勝手なことを」


 最後の台詞を言おうとして、ジブラルドールは思いとどまった。ジブラルドールが返事に詰まり、助けを求めるもどこからも現れず、困り果てていたとき、近衛兵の一人が女王のもとにかしずいた。


「報告します。陛下のご寝室で、化物が暴れている由にございます」


 一同は、同時に顔を見交わした。女王が声を張り上げる。


「ジブラルドール! 貴様、結界を張り直したと申したではないか! どうして魔物が現れるのじゃ!」

「も、申し訳ありません。ですが、魔界から出られるはずがないのじゃが……」


 剛山が立ち上がった。老魔法使いを黙らせ、近衛兵を覗き込む。


「どんな奴だ?」

「巨大な獣です。オオカミだと思われますが、部屋いっぱいに巨大な体があり、全体を見ることができません」

「……同じだ……」

「なに?」


 女王と魔法使いが、同時に声を上げた。


「俺が来たときと同じだ。そのオオカミ、宇宙貴族かもしれん」

「お前さんの言うことが事実なら、魔族とその宇宙貴族は、同じものということになるが」


「ああ。だから、魔族なんだろう。魔界にはいない。だから、魔界に張った結界なんぞ、意味は無い。こんなところで議論している場合じゃない。だれが行っている?」

「ミ、ミリエンダ将軍が」

「よし!」


 剛山は駆け出していた。


「おい、旅に出なくてもいいのか?」


 女王の声が続く。しかし、振り返らなかった。


「ああなったら、誰にも止められませんよう」


 ラミリーが一声かけ、後に続いた。


「やれやれ」


 魔法使いが追う。


「おーい。わらわは女王じゃぞ。一人にしておくのか?」

「仕方ありますまい。非常時ですじゃ」


 老魔法使いも、難儀そうに腰を伸ばした。


「仕方ない。歩くとするか。おーい。わらわの昼寝までに、片付けておくのじゃぞー」

「わかっている!」


 剛山の声だった。女王は、小さく肩を竦めた。


 ※


 数日前にワニの化物が大暴れした部屋の前で、軍隊が整然と並んでいた。その前に立つ銀髪の将軍は、さながら軍神のようであった。


「突撃!」

「待て!」

「……またか。なぜ私が攻撃命令を出すときに限って、邪魔が入るのだ」


 兵士たちは、どうしていいかわからずに固まっていた。胡乱な視線を隠さずに振り向いた将軍の顔が、一転して輝いた。すぐに引き締める。


「剛山、まだ行っていなかったか」

「ああ。女王陛下に引きとめられてな」

「陛下に?」

「そんな顔をするな。ナイトの称号を賜った」

「ほう」


 剛山の胸の飾りを見て、女将軍が目を細める。


「よし。お前がいたのはありがたい。一気に片をつけるぞ」

「その前に、兵隊どもを下がらせてくれ」

「なに?」

「俺の時と同じなら、この中にいるのは最終形態になった宇宙貴族だ。ミリエンダも先日戦っただろう」


 魔界の入り口で戦った、渦巻き男爵とウニ侯爵だ。


「うむ。あれは強かったな。まさしく魔族の幹部達だろう」

「あの仲間だ。俺がやる」


 女将軍すらも下がらせ、剛山が扉の前に立つ。


「一人でか?」

「ああ」

「変身は?」

「それも無しだ。魔界に行って、変身しなくては戦えないようなら、大公までは辿り着けない」

「よし。見届けさせてもらうぞ」

「すまん」


 ミリエンダが回れ右を告げ、訓練された兵士たちが一斉に背を向ける。こういう訓練はしっかりしているのだが、戦闘訓練はいまいちな連中だ。

 ラミリーが追いついた。ミリエンダが小さく顎を引くようにうなずき、一同と共に壁際に寄る。剛山が武器持たず扉に手をかける。内部の音が漏れないような魔法がかけられているので、警戒のしようがないのだ。


 扉に手をかけたまま、しばらく静止した。目を瞑り、息を吐く。一気に引き開けた。

 確かに、オオカミらしい。その鼻先が目の前にあった。開け放たれた扉から、正に顔を出していた。突出した口の前にいたのが剛山でなければ、餌になっていた。

 自らの左右から迫った牙を、上下の犬歯を、左右に一本ずつ握り、止めていた。


「剛山!」


 ミリエンダの悲鳴にも似た呼び声にも応えず、剛山は右足を巨大なオオカミの口腔に突っ込んだ。

 足で下あごを押さえつけ、右手を放す。一時的に口が閉じかけ、剛山が食われかける。


 誰も手を貸さなかった。剛山の苦鳴が上がり、徐々にオオカミの口がこじ開けられる。右手が、腰のブラスターを掴んでいた。


「『ラッキョウブラスター』」


 濁った水色の光線が、オオカミの赤い口蓋に当たる。一撃に留まらなかった。何度も引き金を引き、全く同じ箇所に撃ち込んだ。その光線が、後頭部に抜ける。壁が崩れ、差し込んだ日光でそれを知った。


「ぐがぁぁぁ」


 部屋から首だけをだしたオオカミは、苦しそうに大声を上げた。いっぱいに開かれた口に、さらに剛山は飛び込んだ。


「『フクジンブレード』!」


 残像が走り、舌が落ちる。血が噴出し、押し流される前に、剛山は後退した。

 オオカミの目が、剛山を捉えた。憎憎しげに口を開き、しかし血に満たされた口からは、もはや声を出すことはできなかった。ただ唸り声のみを発し、その瞳に、剛山がブラスターを撃ち込んだ。オオカミが動かなくなるまで、約五分を要した。


「ご苦労だった」


 荒い息を吐く剛山の肩を、ミリエンダが労うように叩いた。同時に死骸を片付けるように指示が出る。


「おう。どうやら約束どおり、わらわの昼寝時間前に片付けたようじゃな」


 死闘を全く知らぬ女王が、朗らかな声とともに階段を上がってきた。


「では、後は頼む」


 剛山は軽く敬礼した。ミリエンダは強く下唇を噛んでいた。一瞬で敬礼の姿勢をとり、乱暴に腕を振り下ろす。

 ミリエンダが一同を振り向くと、全員が剛山に礼をとっていた。ラミリーが影のように寄り添い、その前から、魔法使いが息を切らせて階段を上ってきた。


「おお。もうやっつけたのか」

「ああ」

「で、すぐに出るのか?」

「そのつもりだ。後を頼む」


 階段を降りながら、老人の肩を叩く。白い眉毛が吊りあがった。


「わしは!」

「んっ?」

「わしを置いていくというのか!」

「当然だ。年寄りなど、戦場へ連れて行けるわけがないだろう」


 足を止め、振り向いた剛山は、すでに何事もなかったかのように落ち着いていた。


「さ、さっき、一緒に来いと、あれほど……」

「冗談に決まっている」

「そうですよ。師匠は、将軍とお留守番していてください」

「わ、わしが、覚悟を決めるのに、どれだけ……」

「気持ちだけ貰っておく」


 悪びれる様子は微塵もない。老魔法使いの両肩を力強く掴み、抱き寄せる。


「ミリエンダを頼む」

「未亡人にさせるでないぞ。まだ、式もあげておらんのだ」

「わかっている」


 その時だった。女王の部屋の中で、何かが光った。


「新手か!」


 一番近くにいたミリエンダの声が上がった。剛山が駆ける。下りつつあった階段を、駆け上がった。腕のブレスレットが、小さな光りを発した。


『剛山君?』


 わずかな、声だった。左腕から聞こえた。ブレスレットを耳に当てる。


「里村か?」

『剛山君、剛山君なのね?』

「ああ。俺だ」


 ブレスレットから耳を放した。


「ミリエンダ、何かいるか!」

「おう。妖しい人影が2人……いや、2体か?」


 空間が、歪んだかのようだ。兵士たちも下がる。ミリエンダがサーベルに手を掛けた。その肩を剛山が掴む。


「俺の仲間たちだ」

「なに?」

「剛山君!」


 もはや、ブレスレットを通さずに聞こえる。あまりにも懐かしかった。


「剛山!」

 もう一人の、仲間だ。

「里村! 室町!」


 叫んだまま、立ち尽くした。言葉が見つからなかった。両手を広げようとして、思いとどまった。空間の歪みも、光りもおさまっていた。動きやすそうな軽装の男女が、呆然と立ち尽くしていた。


「どうして来た?」

「貴方を……」

「オオカミ伯爵を追ってだ」


 里村の声に、室町が被せた。


「そうか。じゃあ、俺と同じか」

「ああ。そうなるな。オオカミ伯爵はどこだ?」


 剛山は、黙って背後を指差した。倒された獣は、剥製か敷物にされるのだ。近衛兵たちにより、解体作業が始まっていた。


「もう倒していたか。お前がやったのか?」

「そうだ」


 事実である。室町は、興味深げに覗き込む。しかし、その周りを取り囲む兵士たちは、決して歓迎はしていなかった。突然女王の寝室に出現した不埒者なのだ。剛山の時も、逮捕されたのだ。


「剛山君」


 気がつくと、里村宏美が目の前に立っていた。真っ直ぐ、剛山を見つめていた。


「久しぶりだな。地球はどうだ?」

「なんとかなっているわ。貴方が抜けて、苦戦しているけど」

「そうか……悪かった。里村……少し、痩せたか?」

「誰かが、心配させたから」

「すまん」


 口を開き、そのまま、喋らなかった。里村の目の端から、涙がこぼれた。驚き、身を乗り出す剛山豪は、里村の涙を初めて目にしていた。


「どうした? 負傷したのか?」

「バカ」

「なにを……」


 口が塞がれた。里村のそれに、唇を奪われていた。

 剛山の喉下に、青白く輝くサーベルの剣身が押し付けられた。切れ味なら、科学技術の粋を結集した『フクジンブレード』を凌ぐと思われるサーベルである。


「剛山」


 氷のような、ミリエンダの声だった。


「里村……」


 唇が離れた。唾液が糸を引いた。


「この人は誰?」


 活発な少女のような里村が、彫刻のような女を見た。明らかに、敵意に満ちた視線だった。


「戦友だ」

「そう。よろしく」


 里村が手を差し伸べた。その手を、ミリエンダは邪険に払いのけた。


「戦友だと!」

「間違っているか?」

「……いや」


 長年ともに戦ってきた里村を手で制し、その里村に剛山は背を向けた。ミリエンダの背に腕を回しながら、数歩移動する。耳元で囁いた。


「里村とあっちの男は、俺の仲間だった」

「昔は、だな」

「ああ。しかし、俺と同じような変身能力を持っているし、長い間3人で戦ってきた。それに、宇宙大公を憎んでいる」


「……魔界に3人で行くというのか」

「確実に勝てる。宇宙と魔法の国の平和のためだ。こんなことで、里村に戦線離脱してもらうわけにはいかないんだ」


「ふむ……戦士としてだけでなく、戦術家としても多少の心得があるらしいな」

「ただの浅知恵だ」


 ミリエンダの顔が、かすかに動く。横目で里村を捉えた。里村は胡散臭そうに見つめていた。特に、銀色の髪を持つ女将軍を。


「あの女、本当にただの仲間なんだろうな」

「当然だ」

「では、さっきのあれはなんだ」


 食物を受給する器官の一部が結合した。


「わからん。始めてのことだ。環境が変わって、里村も動転したのだろう」

「……本当にそう思っているのか?」

「ああ」


 ミリエンダの目は、射抜くように剛山を貫く。しかし、平然と受け止められる。嘆息にも似た吐息が漏れる。


「お前が生きて帰る可能性が高まるのなら、それもよかろう」


 ミリエンダは固く瞳を閉ざす。両の手が拳を作り、震えていた。剛山が離れ、里村を振り返る。


「話がある」

「なに?」


 見事に里村の表情が変わった。満面に笑みを湛えていた。これほど器用なことができる女だとは、剛山は知らなかった。


「宇宙大公の居場所がわかった」


 一人の女が、戦士へと豹変した。

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