第4話 地球では

 東京都、国会議事堂内部に設けられた宇宙戦隊地球支部で、室町堅二は気まずい思いをしていた。

 命は取り留めた。

 宇宙戦隊の最新設備によれば、死んでいない限り回復は可能なのだ。出血が酷かったため、しばらくの安静は余儀なくされた。


 同僚の里村宏美も、優しく看護してくれた。大顎男爵の一件以来、宇宙貴族の事件は起きていなかった。

 しかし、時々、給湯室ですすり泣く声が聞こえたのである。


「男爵か……今まではせいぜい騎士か、手ごわくても準男爵くらいまでだったが、いよいよ本格的に地球を狙い始めたということか……」


 宇宙貴族の爵位は、どういう訳か古代中国で使用されていたものと酷似しているという調査結果が出ている。

 公爵を最上位とし、以下、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士と続く。大公とは、正式な国王がいない場合の代理の座で、実質的には国王と同じ意味である。


「たまたま迷い込んだだけかもね。最近大人しいし。それに、勝てない相手じゃないわよ。大顎は、オニオンソルジャーだけで倒したんだしね」


 室町が寝ているベッドの横で、里村はパソコンの画面から顔を上げなかった。インターネットにつながっている。

 検索しているのは、事件か、あるいは、消えた人間の情報か。


「本部からは、なにも言ってこないのか?」


 実際の宇宙戦隊本部は、遥か遠くの外宇宙にある。そこでは、地球上の全ての様子を把握しているはずだ。


「ええ。彼は、消えたみたいね」

「消えたって……死んだのか?」

「バカなこと言わないで! 剛山君が死ぬわけないでしょう!」


 怪我をして動けない人間を、怒鳴りつけるような女性ではないはずだった。


「じゃあ……消えたっていうのは……」

「どこかにいるわ。多分、別の世界よ。『超サロン』自体が、私たちの知っている通常の世界観からは外れた異相に存在するもの。どこに飛んだのか、想像もできない。ひょっとして、見えていないだけで、私の目の前にいるのかもしれない」


 画面から顔を上げ、里村は、椅子の背もたれに体を預けた。


「呼び戻せるのか?」

「わからない。でも、諦めなければ……きっと……」


 室町は、ベッドの上で、固く目を瞑った。眠りたかったのではなく、里村の背を、見ていられなかったからだ。本当に剛山豪に帰ってきて欲しいと思っているのか、室町自身は微妙なところだろう。


 目を瞑っているうちに、室町は眠りに落ちた。宇宙戦隊地球本部では、パソコンのキーボードを叩く音が、いつまでも聞こえていた。

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