第4話 素直な言葉
魔物に一発を食らわせた直後、リアンは、ぼてっ、と魔物の上を跳ね、地面に落ちた。
「んぎゃ! ……っ!」
頭っから落ちたが、すぐに起き上がってテルアに駆け寄る。
「テルア! だいじょうぶ!? テルア!!」
テルアの体をおもいっきり揺らす。
「ん……? ああ、わりい、一瞬気失ってたわ……」
テルアの無事を確認すると、リアンは安堵の表情を浮かべ脱力した。
その後ろに、もう立ち上がっていた魔物が、リアンに向かって腕を振り下ろした。
ドガンッ、と地面をえぐり、
パラパラと転がる砂利の音。
それもすぐに落ち着き、視界が晴れる。
しかし、そこには誰もいなかった。
魔物がふたりを探そうと、振り返った瞬間。
――ヒュン。
テルアが、鋭い目つきで彩焔刀を魔物の首めがけて振った。
魔物は時が止まったかのように硬直し、その場に崩れ落ちた。
首を斬ったかのように見えたが、傷はなかった――まるで何か別のものを斬ったかのように。
◇
「ふう、なんとか終わったな」
目を凝らし、魔物が完全に気を失ったのを確認する。
「――テルア!!」
放心状態だったリアンが、はっとしてテルアに抱きついてきた。
「お、おい……」
「しんじゃうかとおもった……」
そう言って、テルアの胸に顔をうずめる。
「ああ、わるい。怖かったか? その気になれば、いつでもおまえを背負って逃げるくらいの準備はしてたか――」
「ちがう」
「え?」
「テルアがしんじゃうかもって……こわかった」
「リアン……」
そんなリアンに、愁いを帯びた表情でテルアが話す。
「俺は……ずっと一緒にいられるか、わからないからな……?」
「……どういうこと……?」
不安げな表情で見上げたリアンの問いに、ずっと黙っていたことを、少しずつ吐き出していく。
「名前も、いや……俺の身体はみんなとは少し違うみたいなんだ……。誰かにつくられたみたいな……。術式が見えるのも、そこらへんが関係してると思う」
リアンは黙って聞いている。
「だから、気持ちはうれしいけど……本当の人間かどうかわからない、いつ消えるかも知らないような俺とは――」
「ちがう!!」
リアンが大声で叫んだ。
「テルアはちゃんとひと! だって、おはなししてくれたし、いっしょにごはんたべてくれたし――まりょくもちゃんとみえる。まちのひとよりテルアのほうが、まりょくきれい!」
ぎゅっ、とテルアの服を握りしめ言う。
「だから……ひとじゃない、なんていわないで……」
絞り出したようなリアンの声は、泣いているようにも聞こえた。
「リアン……」
「さみしいのも、いっしょ……」
その言葉に、息が止まった。
胸が一瞬、締め付けられたが、なぜか不快ではなかった。
リアンに寂しい思いをさせないように、と考えていたつもりが、本当は自分がリアンに離れられるのが怖かったのではないか――
身体が偽物だとか、つくりものだとかなんて、都合のいい言い訳にして。
見ないようにしていた自分の感情も偽って――
(さみしい、か……)
得体の知れない感情に、ぐちゃぐちゃの心に、すぐ整理をつけられるわけではなかったが――
まっすぐに気持ちを伝えてくるリアンに、少しだけ、素直な言葉をかけた。
「ありがとな……飛ばされたとき、助けてくれて」
◇
「どうぶつさん、だいじょうぶ?」
「ああ、こいつの持ってた魔力を使って治癒力を強化してやれば……」
テルアは何やら魔物に術式を付与しているらしかった。
魔物の下に魔法陣が出現すると、魔物はみるみる縮んでいき、リアンやテルアの倍くらいの、普通のクマになった。
「くまさん!」
リアンがクマに抱きつくと、クマのほうもそれに応えるようにじゃれあった。
テルアは疲れたのか、その場に座り込み、それをただやさしく眺めている。
騒がしかった廃墟に、穏やかな空気が戻っていた。
クマはリアンとひとしきりじゃれあうと、今度はテルアのところに、礼でも言うかのように顔を舐めにきた。
「ん? おわっ!?」
「やっちゃえ、くまさん!」
リアンは押し倒されたテルアを見て、楽しそうに笑っていた。
テルアをもみくちゃにして、ようやく気が済んだらしいクマは、ゆっくりと森へ帰っていった。
クマに手を振っているリアンに、テルアが顔を拭いながら声をかけた。
「そういや、もうひとつの魔力、使えてたな?」
えっ、とリアンが振り向く。
「ほら、魔物に一発食らわせたとき」
「あのときは……テルアのことたすけなきゃって……」
リアンにはあまり自覚がないらしい。
「んー、精神的なものがトリガーになってんのかな……
「……
その問いかけに、テルアが不穏な笑みを浮かべる。
待ってました、とでも言いたげな顔をして、まくしたてるように語りはじめた。
「それな! 正式名称は
「うん、わかった。
死んだ魚のような目をしながら、リアンがそっけなく遮った。
「……おまえ、だんだんいい加減になってきたな……」
しかしテルアの不服そうな様子とは対称的に、
「でも、テルアとおはなし、たのしい!」
あどけない笑みを浮かべ、どこまでも幸せそうなリアンだった。
◇
――そのころ、リアンとテルアのいる町からやや離れた森の中。
二人の走る影があった。
急いでいるのか、表情に焦りが見える。
「間違いないのか!?」
鎧を着た、騎士のような男がたずねた。
「花の魔力なんて間違えようがないだろ。だが制御ができてない――おそらく、まだ子供だ」
黒く長い髪を、後ろで束ねた女が答えた。
軽装に魔導士と思われるローブを着ている。
「それって、六年前に滅んだっていう――」
「ああ――”
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