第9話

 昭和二十年十一月一日、米軍を始めとする連合軍は南九州の三箇所(宮崎海岸・志布志湾・吹上浜)に同時侵攻を開始する。

 海上部隊は史上最大空前の規模であり、アメリカ軍とイギリス軍、オーストラリア軍とニュージーランド軍、カナダ軍、南アフリカ軍からなる空母四十二隻を始め、戦艦二十四隻、四百隻以上の駆逐艦が投入される予定であった。

 陸上部隊は十四個師団の参加が予定されていた。

 これらの部隊は占領した沖縄を経由して投入される。

 事前攻撃として、アメリカ軍とイギリス軍により種子島、屋久島、甑列島はあっという間に占領されてしまう。

 本土上陸海岸の近傍に良好な泊地を確保することが目的であり、この泊地は輸送艦やダメージを受けた艦の休息場所に使われる。


また、九州主要戦略目標地域に対して、マスタードガス等の化学兵器を主体とする虐殺攻撃も決定されていた。


 上陸部隊はアメリカ第六軍であり、隷下の三個軍団がそれぞれ宮崎、大隅半島、薩摩半島に上陸することとなっていた。これは日本軍の三倍以上の兵力になると、アメリカ軍では見積もっていた。


 大隅半島には日本軍の防御施設があったものの、宮崎や薩摩半島は手薄であったということも判断材料となった。


 主軸となるアメリカ軍の動員される兵力は、二五万二千人の歩兵と八万七千人の海兵隊から成る十六個師団であり、ヨーロッパ戦線の部隊は予定されていない。


 上陸作戦を支援するため、太平洋艦隊司令長官『チェスター・ニミッツ』提督は歴戦の提督である『レイモンド・スプルーアンス』大将と『ウイリアム・ハルゼー』大将に第三艦隊と第五艦隊を与えたが、これは太平洋で利用できるすべての艦隊に等しかった。

 第三艦隊『ウイリアム・ハルゼー』提督は、十七隻の空母と八隻の高速戦艦によって機動攻撃を担当した。

 第五艦隊『レイモンド・スプルーアンス』提督は、十隻の空母、十六隻の支援空母で上陸作戦への近接支援を行う予定であった。

 イギリス連邦軍は、オーストラリア軍やニュージーランド軍 カナダ軍 南アフリカ軍のみならず、イギリス領インド帝国やビルマに展開するインド人兵士まで動員することを計画しており、同じく地上兵力だけで万単位の兵力が動員される見込みであった。

 またイギリス海軍もオーストラリア海軍とニュージーランド海軍、カナダ海軍、南アフリカ海軍を含めて、インド洋から南太平洋、極東方面に展開していた巡洋艦や空母からなる艦隊を派遣することとなった。

 全ての連合軍がオリンピック作戦に投入する機数は実に一万機の規模であった。

 上陸用舟艇や輸送船、駆逐艦を含めた補助艦船の数は3,000隻に達した。




 このオリンピック作戦は、航空基地の確保が目的のため、南部九州のみの占領で作戦は終了し、北部九州や朝鮮半島、四国への侵攻は行わないことになっていた。


 この基地は、翌年三月に予定されているコロネット作戦のための前進基地であり、数十万人の兵員と数千機が収納できる巨大基地となる予定である。


 この基地からは、B―29長距離爆撃機のみならず中距離爆撃機も関東平野を爆撃することができた。

 またアメリカ軍は原爆の戦術支援を検討しており九州南部への上陸前に1発、援軍に来る日本軍にもう1発、さらに山を越えて来る日本軍に三発目を投下する計画だったが去る七月半ばに原子爆弾二発を積んだ重巡洋艦“インディアナアポリス”を撃沈された為、不可能になったのである。


 新たに原子爆弾が運ばれる予定は今年の十二月頃とされていた。

 総司令官は第六軍司令官『クルーガー』大将でコロネット作戦の為の橋頭保というべき飛行場の設置の為の南九州侵攻作戦である。

「さて、いよいよ黄色い猿共の本土に侵攻か! ククク、イエローモンキーの狩場というべきか! グハハハ、楽しみだ」

 下品な笑いを上げながら強襲揚陸艦“ベイグル”内で幕僚たちに笑いかけている。

 艦橋内にいる者も釣られて笑う。

「ええ、黄色い猿の頭を砕いて頭蓋骨でアクセサリーを作って彼女にプレゼントしようと思っています」

 上級士官の兵士が笑いながら喋る。

「閣下はいつ出発なされるのですか?」

 艦長『ヘンリー』大佐が彼に質問するとクルーガーは余裕綽綽顔で部隊が橋頭保を確保した時に前線に出ることを言うとヘンリーも頷く。

「了解致しました、それまでこの“ベイグル”でゆっくりとお過ごしください」

 ヘンリーが艦橋から出ていくとクルーガーは再び笑うと宮崎平野の方を見た。


♦♦


 アメリカ合衆国首都“D・Cワシントン”ホワイトハウス大統領執務室にて第三四代大統領『トルーマン』は本日、開始されるオリンピック作戦概要を今一度、見ていた。

「しかし改めて思うのだがこの規模はノルマンディー上陸作戦以上の規模だな、しかしこれで日本も降伏してくれればいいのだが?」

 大統領の言葉に陸軍長官『スチムソン』が首を横に振りながら否定する。

 彼は反日の最先端たる存在で本土決戦も彼がごり押ししたといってもいい。

「大統領、日本がポツダム宣言を受け入れないばかりか陸軍によるクーデターで徹底抗戦を叫ばれれば最早、この地球上から黄色い猿を全て抹殺しないといけません。この戦いは聖戦でリメンバーパールハーバーなのですから」

 トルーマン大統領はスチムソンの言葉に頷くが果たして連合軍の犠牲がどれだけ大きくなるか未知数で嫌な予感がしていたのであった。


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