第11話
「
そう俺が彼女に問いかけても彼女は窓の外をみているだけだった。
先生言わく精神的ダメージが大きく会話がままならないらしい。これから
そんな夜があってからの今日だから一気に6人が入ると
だけど2日ぶりにみた彼女は魂が抜け落ちていた。一体なにを考えているか分からなかった。
俺はどうすればいいか分からずとりあえず奥に進みベッドの横にあった椅子に座ってとりあえず彼女と同じように窓の外を眺めていた。そしたら後ろからずっと聞きたかった声が聞こえた。
「いつになったらここから出れますか?」
俺はその声が聞こえた瞬間勢いよく振り返った。すると彼女が俺のほうをじっとみていた。彼女が言葉を発してくれたことがとても嬉しかった。だけどここで冷静さをなくしてしまうと怪しくなってしまうと思い、なるべく落ち着いて答えた。
「うーん2週間は退院出来ないかな。」
と言うと彼女はさっきまでの落ち着きをなくし明らかに慌て出した。「はやく行かなきゃ。」彼女は小さくそう呟いて腕に刺さっている点滴の針を抜こうとした。
「
俺は必死になって彼女の点滴の針を抜こうとしている手を押さえる。だけど彼女の力は弱まらず一体どこからこんな力が出ているのかと思うほどに強かった。
「やだ!はやく、はやく、行かないと、」
そう言って彼女はどこかへ行こうと俺の手を振り払い、ドアのほうに向かおうとしていた。彼女はもうみて分かるようにパニックに陥っていた。俺は必死に暴れる彼女を後ろから押さえた。
「
そう言っても彼女は
「はやく、はやく行かないと。殺されちゃう。ママが。ママが。」
俺は座っている状態だと無理だと思い立ち上がり
するといきなりドアが叩かれる音がした。
「樹、大丈夫?」
たぶん
そのとき
それと同時ぐらいに
「樹?入るよ。」という声が聞こえた。
その声と共に外で待っていた5人が入ってきた。
俺はとりあえず目で合図をして5人には静かにしてもらった。
俺の腕の中にいる
「
とりあえず過呼吸が収まるよう優しく声をかけながら彼女の背中をさすり時折トントン、と優しく叩いてあげた。
彼女は落ち着いてきたのか叫び声はだんだんと小さくなっていった。
気づいたら抜け出そうと動かしていた体も動かなくなっていき静かな呼吸音が聞こえてきた。
「あ、寝ちゃっている。」
「え?」
北斗の声で
「ごめんな、」
俺は気づいたらそう言っていた。
「樹、」
その声が聞こえ俺は顔を上げると他の5人の後ろに
「岩田くん、ありがとう。でもすごいね、昨日僕たちじゃ全然落ち着かなくて結果的に鎮静剤をいれることになったんだ。もし今回落ち着かなかったら拘束になるとこだったから本当にありがとう。」と礼を言われた。
俺は「いえ、」と言った。
「じゃあ後ですこしお話聞いてもいいかな?」
と聞かれたので「はい」と言った。
「樹?大丈夫、だった?」
と元気が心配そうに聞いてきた。俺は「大丈夫だよ」と答えた。
「ねぇ、樹。やっぱり
嶺は険しい顔をしてそう言った。
「そんなことない!」
「じゃあなんでさっき謝っていたの!」
「ふたりともここ病院。」
だんだんヒートアップしていった口喧嘩に入ってきた北斗の声で俺と嶺は元の世界へ戻った。
俺と嶺は黙り込んだ。俺は今回のことで更に
「謝ったのは申し訳ないから。俺のせいで
「じゃあ樹は
俺は真哉のその言葉を否定することは出来なかった。
「樹、自分を責めたちゃう気持ちも分からなくはないよ。だけどさ嶺の言うとおりこのまま
元気は俺に優しくそう言った。自分でも分かっていた。このままじゃダメだなって。だけど
「ねぇ樹、樹は他の人を悪く言えないんじゃないかな?」
そう優弥が優しく俺のほうに来て言った。
自分がそんなにいい人だと思いたくないから自分がそんな人だと思わなかった。だけど確かにあんなことをしてきた親をいまでも俺は憎むことが出来ていない。俺がいい子じゃなかったからこうなった。いい子じゃなかったから父さんに殴られた。性処理として扱われた。そう考えていた。
「樹は優しい子だもん。だけどねこれだけは言える。
俺は優弥にそう言われても俺のせいだと思ってしまう。そのとき嶺から
「樹、
「なに?、」
「樹も自分のことと向き合って。自分を大切にして。」
そう言われた。俺はできるかわからないが
「…わかった。」
そう答えた。たぶん俺にとって難しいことだ。今まで自分を大切にするなんて無理だったし、自分のことが嫌いだからこそ向き合いたくなかった。だけどこの機会いいのかもしれないと思った。だから
「じゃああとは
そう北斗が眠っている
*
この日は結果的に
樹は
待っている間俺はなにをすればいいか分からずただただ気まずかった。
だけど俺はひとつ気になっていることがあった。それは嶺がなぜ樹にあんな条件を出したのかだ。あれほど反対していたのになんであの条件で
「北斗、どうした?」
「へ?」
急に俺が考えてる人物であった嶺にそう言われたせいで間抜けな声を出してしまった。
どうやら俺は自分の世界に入り込んでいたらしい。
「いや、なんかぼーっとしているから考え事かなって思って。」
俺は思いきって聞いてみることにした。
「いや、なんで樹が
「あー、何でなんだろうね。」
「え?」
俺が返ってくるであろう答えではなかったせいでまた間抜けな声を出した。
「いや、たぶんだけどね。樹がどうしてあんなことを考えちゃうのか分かったからかな。」
本当にそれは分かったと言えるのか。
「あとあの子をみて樹があの子と一緒にいたいって理由が分かった気がするんだよね。」
「分かったって?」
「今のあの子には樹が必要だし、樹を変えるにもあの子が必要だと思うんだよね。」
と嶺は言った。
「ねぇなんで樹が変わらなきゃいけないの?」そう俺が聞くと嶺は
「いや、別に変わらなきゃいけないって訳じゃないけどさ、今のままだと樹が苦しんでいることは変わらないと思うんだ。俺達がいくら樹に寄り添っても樹が自分と向き合わないとあの考え方は変わらないよ。まぁ俺の直感だけど。」
と言って少し笑った。なんか妙に納得した。小4からずっと一緒にいるが樹の考え方は俺と出会った頃からたぶん変わっていない。そして今日の樹は俺の知っている樹じゃなかった。あんなに生きることに対して、だれかに対して一生懸命な樹をはじめてみた。俺にはそんなことすらできなかった。俺は樹になにもしてやれなかった。守るとか言いながら何も、何も出来なかった。ただ一緒にいることだけしか出来なかった。
「ただいま。帰ろ。」
俺は樹のその声でまた自分が違う世界にいたことに気がついた。
「うん。そうだね、帰ろ。」
そう言う俺の声で俺達は今日のところは帰ることにした。
帰り道はいつもみたいにバカみたいに騒いでいた。だけどそれは俺を除いての5人だけだった。俺は端っこでその5人を眺めていることしかできなかった。
今日は昨日と違いそれぞれの家へと帰った。俺は樹とこれからのことを話しながらご飯を食べお風呂に入った。そして自分の部屋へいって目前までに迫っているテスト勉強をした。だけどなにをしていても頭にあることは樹を守れない自分に対してのイラつきと絶望だった。自分の不甲斐なさがすごく嫌になった。なんで、なんで樹を守るなんて言ったのは俺なのに結果的に樹を苦しめていたなんて本末転倒じゃねぇかよ。ずっと、ずっと樹に幸せになって欲しくてだけどどうすればいいか分からなかった。なのに
少し夜風にあたってこよう。そう思ってロングのトレーナーを直しアウターを羽織り外に出た。
夜風はとても冷たかった。俺は一体なにをしているんだろう。さっき切った脇腹が少し痛む。
俺はなんかいてもたってもいられなくて走りだした。気づいたら泣いていた。俺は泣きながら走っていた。行き先は分からない。息が苦しくなっていった。だんだんと走れなくなって自然と走るスピードを落としていった。でも俺は走りたかった。でも限界でだんだんとスピードを落として立ち止まった。そして大きく息を吸った。空を見上げると綺麗な三日月が出ていた。そのとき俺の頬に一粒の涙が伝った。
「ほくと?」
聞き馴染みのある声が後ろからした。振り返ると黒いパーカーを着て片手にノートと紙を何枚か持っている樹がいた。
「いつき、」
「ほくと?どうしたの?」
そう聞かれたが樹に言うわけにはいかない。
「大丈夫だよ、帰ろう。」
「やだ。」そう冷たく低い声でまっすぐ俺の姿を見て樹はそう言った。
「え?」
俺はそんな樹にビックリした。俺は黙ってしまった。そして急に樹はさっきとは違う明るい声で
「ねぇブランコ乗らない?」
そう言って樹は右にあった公園のブランコを指差した。俺は「あぁ、うん。」と答えた。
そしたら樹はニコッといたずらっ子みたいに笑って俺の手を引いてブランコへと走り出した。
ちょうどふたつしかなかったブランコの片方に俺は座った。樹ももう片方の空いているブランコに座った。少しブランコをこいでいると
「ありがとね」
隣のブランコに座っている樹からそう言われた。
「え?」
隣を見ると樹はフードを被って俺のほうをみた。
「
樹はそう言うとまたニコッと笑った。
「あー別に。俺は樹も
俺は樹に礼を言われる筋合いはないのだ。逆に樹を苦しめていたんだから。そんな申し訳なさに顔をしたに向けていると
「そっか、でもさ」
という樹の声と共にブランコのチェーンが揺れる音と靴が砂についた音がした。そしてその数秒後俺は人影に覆われた。顔を上げると樹がいた。樹はそのまま俺の正面にしゃがんだ。
「こんなことはして欲しくないな」
そう言って樹は俺のロングのトレーナーをめくった。そして赤い傷を撫でた。
俺は固まってしまった。それはすぐさま言い訳を考えたが思い付かなかったから。ただ自分のしたことを後ろめたかった。声が出なかった。時折車が走る音が聞こえる。樹は俺が自分でつけた傷を悲しそうに見て俺の様子をうかがってからは何も言わず俺の服を元に戻した。そして樹は服の上から再びその傷を撫でた。俺はやっとの思いで
「気づいていたの?」
そう声を出した。そのときの声は自分でも怖いぐらい震えていた。樹は
「うん、」とどこか悲しそうに答えた。そして樹は続けて
「ごめん、俺のせいだよね。」と悲しそうに言った。
違う。違う。樹のせいじゃない。俺が樹のことを守れない自分にムカついただけだ。守るどころか樹を苦しめていた。そんな自分に対しての怒りをこうすることでしか発散できなかっただけ。樹は何も悪くない。
「違う。樹のせいじゃない。俺が、俺が悪いから。。」なんでかわからないけど涙がどんどんあふれでてきて、息が苦しくなっていった。だけど言わないと。まだ言えていない。樹に謝れてない。苦しめてごめん。守れなくてごめん。何もできなくてごめんって。
「北斗。北斗は何も悪くないよ。俺北斗がいなきゃ今生きてないもん。」
そう俺の両肩をつかんで樹は言った。そのときの樹の顔は目から涙がぽろぽろ溢れているのにも関わらずに笑っていた。
「ねぇ北斗。俺もさ頑張って自分と向き合うから北斗も向き合おう。なにが正解でなにが間違いかわからないけど、俺は少しずつ生きていていいんだって思えるようにがんばるから。ねぇ、一緒に頑張ろう?」
あぁ嶺が言ってたのはこう言うことなのかと思った。樹も俺も自分のことを責めてだけど相手が自分のことを攻めていたらそれはダメだと言う。それは思いどおりにいかない現実を自分のせいだと思い込んでいたからなのかもしれない。だってそうすれば全て丸く収まるから。自分と向き合わないですむから。自分の弱いところを知らなくてすむから。そんなこと誰も責めはしないから。だけどそれじゃ何も解決しない。自分と向き合わないと人に頼れない。人に頼れないと起きている問題がわからない。自分はなんで苦しんでいるのか、なんで泣いているのか。いろんなことがわかんなくなってしまう。だから俺も樹となら少しずつ頑張ってみようかな。
「うん。俺も頑張る。」
そう言った時俺は心のなかでなにかが変わった気がした。
*
元気から借りたノートをコピーしにコンビニへと行った。春が近づいているとは言えとても寒かった。まぁまぁな時間コピー機を占領してしまったので北斗の大好きなチョコレートを買ってコンビニをあとにした。家に帰ろうと歩いていると公園の入り口付近で息を切らしている北斗がいた。俺はなんでこんなとこにいるんだろうなんて思いながら後ろから声をかけた。
「ほくと?」
俺の声に気づいて振り返った北斗の顔は泣いていた。久しぶりにこんな顔をみた。北斗は少し黙ると「帰ろう?」と言った。だけど俺には分かる。今帰ったら北斗は俺のことをはぐらかして何も教えてくれない。自分でも怖いほど低い声で「やだ。」と俺は言っていた。
北斗はビックリしていた。俺はとりあえずなにか話さないと、と思った。俺はなぜか北斗をブランコに誘っていた。だけどブランコに座ってもまずなにを話すべきかわからなかった。たぶんだけど北斗はまた自分のことを傷つけた。つい最近はやっていなかったのに。
だけど「急にまたやったでしょ?」なんて聞いたら北斗はまた自分責めちゃう。だからまずはさりげなく感謝を伝えることにした。すると北斗は「俺は樹も
俺はここで彼に話を切り出すことにした。
俺はゆっくりとたって北斗の前まで行きそしてしゃがんだ。そして目の前にある白い布を見つめる。
「こんなことはして欲しくないな」俺はそう言って北斗が着ているロングのトレーナーをめくった。そうするとやっぱり新しい傷があった。北斗は明らかに動揺していた。少し沈黙があった。その沈黙は北斗の「気づいていたの?」という声で破られた。俺は「うん。」と答えた。そして「俺のせいだよな」と言って俺は謝った。本当は違う。北斗はこんなこと望んでいない。そんなことわかっているけど謝ってしまった。
「違う。樹のせいじゃない。俺が、俺が悪いから。。」
ほら北斗はいつもこうやって謝る。北斗は何も悪くないのにだから北斗に伝わるように一生懸命に伝える。
「北斗。北斗は何も悪くないよ。俺北斗がいなきゃ今生きてないもん。」
これだけ、これだけしか言えなかったけど、本心だから。北斗はちゃんと俺を守ってくれたよ。大丈夫だよって。俺も自分を責めてしまう気持ちはわかる。自分のことなんて大嫌いだし、自分なんていい人じゃないから。だから自分のことを責める。だってそっちのほうが楽だから、誰も悪者にならないから。だけど今日嶺に言われてわかった。俺が向き合わなきゃいけないのは俺自身だって。でもきっとそれは北斗もだから俺は
「ねぇ北斗。俺もさ頑張って自分と向き合うから北斗も向き合おう。なにが正解でなにが間違いかわからないけど、俺は少しずつ生きていていいんだって思えるようにがんばるから。ねぇ、一緒に頑張ろう?」
そう北斗に笑いかけた。そうすると北斗は
「うん。頑張る。」そう言った。
「よし帰ろ」俺はそう言って北斗に手を差しのべた。北斗はそんな俺の手を握った。俺たちは幼稚園生のようにそのまま手を繋ぎながらその夜は帰った。
その日の夜は俺たちにとってなにかが変わった夜になった気がした。
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