第10話

「樹に言われたんだ。施設に預けても海月ちゃんはなにも変わらないって。俺さそこで思ったんだ。海月ちゃんの心の傷を癒せるのは樹なんじゃないかって、俺はそれをサポートすればいいんじゃないかって」

俺はまっすぐみんなに向かって言った。

「そういうことならいいんじゃない?」

元気はすぐにそう言った。個人的にはこの意見が認められたことがすごく嬉しかった。

「北斗のお父さんはなんて?だっていま全部お金出してくれてるんでしょ?」

俺は優弥の言葉でこれも話すことに決めた。

「自分達の学費を自分達で補えるくらいか海月ちゃんの学費と自分達の食費や生活費が補えるくらいの金を稼げるようになること。そして20歳になるまで自分達が住む家の家賃を払えるようにしたらいいって。もし無理なになったときは父さんに借金するか海月ちゃんを施設に預けるなりしろって言われた。」

正直言いながら自分でもきついなと思った。

「じゃあバイトするの?」

そう深刻そうに嶺に言われた。俺は一間おいて

「まぁ、一緒に暮らすとなるとそうなるね。」

この発言により受け入れて貰えるか貰えないかはわからない空気になったのを俺は感じ取った。正直不安でしかなかった。みんな賛成も反対もできないような沈黙のなか樹が急に

「俺はそれでも海月と暮らしたい。俺も働く。」

と言った。こんな積極的な樹を見たことがないから俺は嬉しいようでどこか不安だった。樹がまた俺たちから離れようとするんではないか。今度こそ樹がいなくなってしまうのではないか。くらげのように海に溶けるようにして消えてしまうのではないか。そんなことを考えていると真哉が

「俺は樹がまたあぁなるならやめといたほうがいいと思う」

「それは俺も、と言うかやめといた方がいいと思う。高校生でなんて無理だよ」どうやら真哉も嶺も反対のようだった。

それに反して

「俺は別にふたりがやりたいって言うならいいんじゃないかな、困ったときは俺もサポートするよ。」と優弥。

一方でなんにも言っていない元気の方に全員の目線が集中した。それに気づいた元気は「俺は、わからない」そう呟いた。

そして俺らの間には少しの間沈黙があった。次、元気が何を言うのか、何が分からないのかみんなそれを聞きたかったんだと思う。だけど元気は目線をしたにしたままだったから尚更聞きづらい空気になっていたのは事実だ。すると樹が口を開いた。

「確かに俺はまたあぁなるかもしれない。だけど俺は海月と暮らすせいでそうなることは絶対ない。そもそもあぁなったのは別に海月のせいじゃない。」

その発言に対して嶺は

「なんでそう言いきれるの?」

たぶん嶺は樹のことが心配で今回のことがトラウマになってしまったんだと思う。海月ちゃんが樹と関わらなければくらげになりたいなんて思わなかったんじゃないか。消えなきゃ何て思わなかったんじゃないか。わからないけどきっと、きっとそう思っているんだろう。


「俺、ずっと後悔していた。海月から離れたこと」


樹はそう小さな声で言った。

「俺、ずっと後悔していた。海月から離れたこと」

もう後悔したくない。俺は海月と暮らしたい。あいつの手助けをしたい。あいつの人生を明るくしたい。この気持ちは果たして恋なのかそれとも妹のような目線からなのかは分からない。でもその思いはやっぱり届きにくいようで、真哉と嶺の顔を覗いて見ると納得していないように見える。

「それがなに?後悔してたからなに?何が関係あるの?実際あの子がいなきゃ樹はくらげになりたいなんて思わなかったんじゃないの?」

「そんなことない」

真哉につめたく低い声でそう言われたのに対してすぐ否定してしまったが正直根拠なんてものはない。だけどここではっきり言っておかないとまたダメになる気がした。


「じゃあ、言わせて貰うけど真哉たちに何がわかるの?ずっと、ずっとお前は価値がない、おまえはダメだ、働け、自分の体売れ、そう言われる人生考えたことある?ないでしょ!?」


あー止まらない、どうしよう、まただ、また迷惑かけている。伝えたいことはこんなことじゃないのに、ねぇ、どうすれば、どうすれば伝わるの?どうしたら理解して貰えるの?気づいたらまた泣いていて俺は下を向いた。

その時背中には温かい手があったった。

「樹、ごめん、ごめんね。でもね俺たちは樹のことが心配なの。だけど樹にとってこれが嫌なことだって言うのも分かってる。だからさ俺は何ができる?樹は俺になにをやってほしい?」

元気は俺の顔を覗き込むようにしてそう言った。俺はゆっくり顔をあげなにかを託すような気持ちで元気に

「俺がダメにならないように支えていて欲しい。もしまた俺がダメになりそうなら止めて欲しい。そうしないときっと海月のこともダメにしちゃうから。」

そう一つ一つ丁寧に伝えた。元気は

「わかった。樹は海月ちゃんと一緒に住みたいんだもんね。でもみんなが心配してくれていることもわかっているもんね。頼ってくれてありがとう。俺きめた。ちゃんと樹を支えるね。」

と微笑んで答えてくれた。

でも肝心の真哉と嶺はなにも言わない。

俺はどうすればいいのか分からずにいると、

「俺はとりあえずその海月ちゃんに会いたい」

そう嶺は言った。そして真哉は

「俺は樹がまたあぁなったらやめる。って約束するならいいと思うし、サポートしたい。」

と言った。

「じゃあ、明後日から海月ちゃん個室だからみんなで会いにいこう。」

という北斗の声でこの件は一旦終了になった。

「てか樹どうやって学校に行ってたの?」

俺は優弥にそう言われ海月がやってくれたいろんなことを話した。

そこから

「ねぇ海月ちゃんって一体どんな子なの?」

という元気の声で次の話題は海月へと移り変わった。

「めちゃくちゃ生意気。」

「無愛想。」

「まぁ最初の印象は最悪だったのは確かだね。」

どうやら話を聞くと優弥と真哉も海月と会ったらしく、2人によると問題児みたいな子というかあまりいい印象ではなかったようだ。あいつはいつもそういうとこがある。心開いたらバカみたいにかわいいやつではあるのだが開くまでが大変なのだ。実際俺と話していても俺じゃない人がひとりでもいるときは全くと言っていいほどしゃべらなくなって冷たい態度をとる。そしてふたりきりになったらめちゃくちゃ喋りだす。だからふたりに対しては勘違いしてほしくないので「それはたぶん人見知りをして警戒して冷たくしていただけ」だと訂正しといた。

まぁそう言ってもふたりが納得している様子はみられなかった。でもやっぱり久しぶりに6人で話すのは案外楽しくて気づいたらもう夕方の4時になっていた。

「ねぇ今日泊まりたーい」

という能天気な元気の声が響いた。

「え、でも迷惑でしょ」と北斗が言うと、「あぁ別に俺らは大丈夫だよ、ねぇ優弥?」真哉は少し微笑みながらそう言うと優弥も「まぁ」と言った。「じゃあ荷物とってくる!」という元気の明るい声で言ってドタドタと部屋を出ていった。こうして今日はみんなで優弥の家に泊まることが自然に決まった。

俺らも一旦家に帰ってとりあえず着替えだけをとってまた家を出た。

そのあとはもうまぁまぁカオスだった。

男たちだけでわーわー言いながらご飯を作り、食べ、誰がどの順番で風呂に入るか言い合ったりしてそんなみんなでわちゃわちゃしている時間がとても楽しかった。

夜も更けリビングの机をどかし布団を引いてみんなで3人、3人で分かれて川の字で寝ることになった。俺はそんなあっという間に過ぎ去ってしまった1日を振り返って修学旅行ってこんな感じなのかな。何て思いながら布団に潜った。電気が消されると

「ねぇふたりの親御さんってどんな人なの?」

ここでこんなことを興味本意だけで聞けるのは元気だけだと思う。

「なに急に。」と優弥が言うと

「いや、修学旅行ぽいからなんか秘密の話したいけど恋愛話なんてないから。」という意味の分からない理由を元気は言ってきた。すると真哉が口を開き

「俺はお父さんがアメリカ人でお母さんが日本人。ふたりとも明るいし、やりたいことをやりなって応援してくれる人かな。」

そう語る真哉の横で優弥はすこしかなしい顔をしていた。

「優弥は?」そう嶺が聞くと優弥は

「わからない、生まれたときからいなかったから。」そう悲しそうに言った。

俺は「そうなんだ、」としか言えなかった。

「え、てかそれでどうやって生活してんの?」

と北斗の疑問に対して

「今は真哉と一緒に暮らしているからバイト代と真哉の親御さんに頼ったりしてやっているかな。」はじめて知った。2人が働いていること。たまに放課後集まろうとすると断ることがあったけどそんな理由があったんだ。

でも優弥はそんな生活でもめちゃくちゃ幸せだとすごい笑顔で話していた。優弥は元々施設にいた。だけどそのときは自分をあまり出せなかったらしい。真哉はそんな優弥とずっと幼稚園から一緒だったらしく優弥はいつも「施設にいても楽しくない。」ことなど色んなことを昔から真哉に相談していた。すると中3の進路決定のときに真哉は「高校生になったら一緒に住も?」と優弥に言ったらしい。

「俺今でも真哉があぁ言ってくれたこと思い出せるもん。」

そう笑いながら言った優弥はとても幸せそうで隣でいる真哉はなんか泣いていた。

「なんでお前が泣いてるんだよ。」と優弥は笑いながら真哉につっこんだ。すると真哉は泣きながら

「だって優弥がそんなことを言ってくれるなんて思わなかったから、」

そんなふたりを見て

「あれ、嶺は真哉達とは中学からだっけ?」

と元気が聞くと

「そうそう、正確に言うと中2からだけど。」

と嶺が答えると

「あークラスが今まで違うくてってこと?」

そこではじめて俺は嶺の過去を知ることになった。

嶺は中1までまともに学校に行けていなくだから学校に行けてもまわりにはグループができていてあまり馴染めていなかった。そんな嶺に声をかけてくれたのが真哉だったのだと話しくれた。

「そうなんだ、」

「そういえばさ、元気はなんでこの高校選んだの?」

次は嶺から元気への問いに移ったようだ。確かに元気は同じ中学校出身の人がいない。それは俺もずっと疑問に思っていた。だってそこまで偏差値が高いわけでもなく特別な学科があるわけでもない。でもおばぁちゃんの家に住んでいるって言うからとくに気にはしていなかった。

「もう環境を変えたかったんだよね。」

「変えたかった?」

と俺は気になって元気の言葉を復唱すると元気は中学の頃うまく人と関われなかったこと。それに加えて家も嫌だったこと。頑張って学校に行ってたけどだんだんしんどくなって自分を押さえ込むようになっていたこと。そんな自分を変えるために環境を変えたかったんだと話していた。

「だからかな、海月ちゃんのことが引っ掛かるの。似ているんだよ、俺と」

元気はそう少し悲しそうに目をしたに向け言った。

「似ているって?」

と真哉が聞くと

「俺のとこも仮面家族だったんだよ。」

そう言う元気に話を聞くと元気のとこも父親が不倫していて母親はそんなことがなくても情緒不安定な人だった。だから小さい頃からいつも両親の機嫌を伺いながら過ごしていた。だけど小さい頃からよく母方のおばぁちゃんが土日遊びに連れ出してくれたらしく、中学生のときも毎週のように通っていたと言っていた。

「でもこの高校に行こうと決めたのは樹が理由だよ」。

「え?」

俺は寝ぼけていた頭が覚めた。

「説明会で樹をみた時直感なんだけどこいつと仲良くしてみたいと思ったんだよね、てか俺声かけたよ?」

俺は必死にそのときの記憶を必死に巡らせる。

「あ、」

そういえば説明会の時隣だった奴に「高校ここにするの?」と聞かれた記憶が微かにあった。

「俺、あの時樹がこの高校行くって言ったからこの高校選んだんだよ、まぁばぁちゃん家が近くにもあったっていうのもあるだけど。じゃあ眠いから寝る!おやすみ!」

と言って元気は布団に潜ってしまった。そんな元気にたいして

「おい、元気!出てこいよ!」

と真哉はいいながら元気の布団をはがしていた。

「おいおい夜中なんだからもう騒ぐな!」

と言う優弥も笑っている。こりゃあなにか言わねぇと寝ないなと思いながらもこのうるささのなか寝るのも無理だったので

「ねぇ明日学校、もぉ寝よ」

と試しに言ってみると、みんな「そうだなぁ」と言って寝ることになった。

そうなぜかこいつらは俺が言うとその事が第一優先になる。10分ぐらいして所々から寝息が聞こえてくる。俺はどこか寂しくなって隣の北斗に後ろから抱きついた。


「樹~樹~!おきて~朝だよー学校行くんでしょ?」

そんな徐々に大きくなる声と焼いたパンの微かな匂いで目を覚ました。

目を少し開けると北斗が

「樹大丈夫?今日は夢を見ていない?」

と心配された。俺は朝からしゃべるのは辛いのでこくりと頷くと「そっか、」と北斗は言って「朝御飯食べれる?」と聞かれるが気分が乗らないので

「いらない」と答えると

「ゼリーはどう~?」

とキッチンから優弥が優しく言ってくれた。ゼリーなら食べれそうだったから食べることにした。俺達は朝御飯を食べる準備をするために朝御飯を作っていない優弥と元気以外の人達は布団を片付け始めていた。

だけど朝が弱い俺からすると体を動かすのがめんどくさくて、どんどん瞼が下がってくる。

「樹~寝ないで~動いてー」

と言う北斗の声と共に体が持ち上げられ後ろの方に引っ張られた。

「樹~おき~て~!」

と言う少々うるさく感じる嶺の声でやっと目が覚めて

「樹?とりあえず歯磨きと顔を洗いにいこう?」

と北斗に言われたのでしかなく、立ち上がり北斗と手を繋ぎ、軽く引っ張られながら歩く。

少し歩いて立ち止まったところで北斗に「顔洗って、はい、ふくよ。」など言われるがままに動いて身支度を終えもといた部屋へと戻る。

戻ると布団はもう片付けられていてみんなも制服に着替え終わっていた。そして真哉と嶺は幼稚園児のように積み重なって端に寄せれた布団に飛び乗っていた。

「おーい、下に響くからやめろ。あともうテーブルだしちゃって、もうすぐ朝御飯出来るから」

何て笑いながら言っている優弥は皿になにかを盛り付けていた。

俺は北斗とテーブルを出して拭いていた。

その間他の四人はなんかよく分からないけど優弥のほうに行ってわーわー騒いでいた。

北斗が「準備できたよ」と言うとみんなが色々、皿なり箸なりを持ってきた。

「ねぇー樹ーゼリーなにがいいー?」

もう俺はこのときにはゼリーを食べることすらすっかり忘れていた。だけどいまさら断ることもできなかった。

「なにがある?」

「えーとね、ふどうとみかんとマンゴー」

「じゃあマンゴーで」

「はーい」

と言って優弥はゼリーとスプーンをもってみんなより遅れてこちらにきた。

「どうぞ」

「ありがとう」

そして俺達は昨日と同じように丸いテーブルを囲んで座った。

真哉がみんな揃ったことを確認して「よし、揃ったよね?」と真哉は確認した。俺らはそれに「うん。」とそれぞれ反応すると

「じゃあ、せーの」

のと言う真哉の掛け声でみんな揃って


『いただきます!』


と言いみんな各々食べ始めた。

「あれ、樹それだけ?」

と元気に食べながら聞かれた。

「うん、朝あんま食べれなくて」そういうと元気は

「そーなんだー」としか言わなかった。すると隣から「あ、マンゴーのゼリーなんてあるんだ」と北斗が呟いた。そして北斗の呟きに対して

「何かいつも行ってるスーパーにあった。」と優弥が答えた。

「よかったじゃん、樹マンゴー好きだもんね」

俺は食べながらこくりと頷いた。

それをみた優弥は

「あ、そうなの。それ間違って買っちゃったんだけど俺も真哉も食べないからちょうどよかったわ。」

「ねぇこれどこで売ってんの?」

「駅前のスーパー。」

「あーあそこか。ありがとう。ストックしとこ。」

思わずお前らは主婦か、とツッコミたくなる会話を聞きながら俺はただただマンゴーのゼリーをゆっくり食べていた。

「ごちそうさま。」

俺は誰よりも早く食べ終わり、スプーンを流しにゼリーのカップをゴミ箱に捨てた。でもまだみんな食べているから同じクラスの元気に

「ねぇ、元気、ノート貸して」

「いいよ、鞄に入っているから勝手にとって。」

「はーい。」

といって元気の鞄から何冊かノートを取り出し、自分のノートにかき写していった。

たまに寝ていたのか読解不可能な文字があったが何とかみんなが食べている間に3日分くらいは写すことが出来た。

「そろそろいくか、」

と優弥の声で俺らは鞄を持ち玄関を出た。

そして俺達はまだ肌寒い風に当たりながら歩き始めた。しかしみんなで話しているからなのか途中からあまり寒さは感じなかった。

「ねぇ、そういえば来週テストだよ。」そんな元気の声で俺は自分のおかれている状況がいかにやばいかを再認識した。

「樹、大丈夫。俺が教えてあげるか」

さすがの北斗だ。俺の顔を見ただけで考えていることがわかったのだろう。

「元気、ごめん今日だけ全教科のノート貸して」

「あー別にいいけど今日だけで大丈夫?」

「写せない分はコピーするから大丈夫。」

「そ、わかった。」

そんな真面目な会話をしている後ろで真哉と嶺は「うわーやだー」と騒いでいた。

そんな久しぶりの6人で制服を着て話すのは楽しかった。

そのあと学校に着いたあとは各自の教室に入った。正直北斗と離れるのは嫌だったが元気が「いこ?」って言ってくれたからさりげなく手を繋いで教室に入った。そして元気はそのまま進んでいると「あっそうだ席替えしたから樹はここね。俺の後ろ」と言われ新しい席へと連れていってくれた。

「あと、プリントとか色々入っているから」その声で机のなかを確認してみるとプリントが山のようにあり、机の上にだすと間違いなく床に落ちてしまう。俺は朝から1枚ずつだして整理するのに追われた。学校からの手紙、授業のプリントとりあえず授業のプリントは各教科ごとに分けていった。いつもならここで荷物をおき屋上へといくのだが今日はそんな時間など無いし、ノートを早く写し終わらないといけないので余った時間は元気にノートを借り写していた。

チャイムがなり先生が入ってきた。

そこから朝のホームルームが始まり出席がとられそのときに先生からは「これからはちゃんとこいよー」としか言われなかった。たぶん先生なりの気遣いなんだろうなと思った。

そこからは授業とノートを写すの繰り返しだった。気づいたらもう4時間目で「樹、お昼食べに行こ?」と元気に言われたが「ごめん。あとちょっと。あ、先行っててもいいよ」なんて返すと「あのさ、頑張るのはいいと思うけど休憩しないと体もたいなよ」と言われた。そのときちょうど廊下のほうから「樹~元気~お昼食べ行こー」と真哉の元気な声が聞こえたので一旦切り上げてお昼を食べに行くことにした。

いつも通り屋上へ行き、輪になってお弁当を広げる。今日は優弥と北斗が作ってくれたからみんなおんなじお弁当。俺は食べながらいつも通り美味しいなとか思って食べていると

「え」

と携帯をさわっていた北斗が呟いた。

「ほくと、なんかあった?」

と優弥が聞くと北斗は

「あーごめん、海月ちゃん個室に移れたって連絡来て。あ、それでもし今日来たいならきてもいいって言われたんだけどどうする?」

正直迷った。まだあの日から1日しかたっていない。そんななか俺は海月と会ってもいったいどう接すればいいのかが分からない。そうやって俺が心のなかで迷っていると

「今日放課後なんにもないし行こうよ」

とまさかの嶺が言った。

そうすると全員「じゃあ行くか、」となり放課後海月の病院に行く事になった。俺も別に反対ではなかった。だけど俺があっても大丈夫だろうかという疑問があった。俺はそんな疑問をお弁当と一緒に体の中に入れ込んだ。

お昼を食べ終え少しだけ雑談をしたあとチャイムがなる前に各自の教室に戻った。

俺は次の授業が始まるまでまたノートを写すことにおわれていた。

そこから授業をまた受けて、帰りのホームルームもちゃんと受けて元気と昇降口へ行った。

行く途中、風と会った。風は俺を見つけた瞬間わざわざ一緒にいた奴らを待たせてまで俺の方へとよってきた。「あ、樹!やっと来た!これからは心配かけんなよ」と言って肩に手をおかれた。

俺は小さく「はーい」と返事しその場をあとにした。こいつとは高1の時に同じクラスでよく俺のことを気にかけてくれていた。俺はあっちがラフに話しかけてくれるお陰であまり気を遣わなくてすむので風は俺のなかで楽な存在ではある。まぁクラスが離れてからも俺をみたら声をかけてきてくれるからなんとなくだが今でも関係は続いている。元気はそんな俺たちのやり取りなんて見慣れているのでなにも言わなかった。

俺は靴を履いて昇降口で待っている間、海月にどう話しかけようか悩んでいた。昨日まともに話すことが出来なかった。それがもし今日も同じだったら俺は一体どうすればいいのか。海月をみて嶺たちに反対されたらどうしよう。まず海月が受け止めてくれるだろうか。とぐるぐるありとあらゆる事を地面のコンクリートを見ながら考えていると

「樹?みんな揃ったよ?行こ?」

と聞きなれた優しい声が俺の鼓膜を包んだ。

俺は「うん。」と言って北斗の隣に行った。

「はーい行きますよー」と真哉の元気な声により俺達は病院へと歩き始めた。

さすがに歩いていくのは時間が掛かるのでバスでいくことにした。学校から少しあるいてバス停でバスを待つ。

俺はバスを待っている間も不安でしかなくてどうしようなんて考えていると。

右手が優しく包み込まれた。

「樹、大丈夫。きっと大丈夫だよ」

そんな北斗の根拠はどこにもないであろう言葉は俺の心をすごく安心させた。

そこからバスに乗り、数十分揺られ目的地のバス停につき6人お礼を言いながら順々に降りていく。

バスから降りるとまたあのときと同じく潮の風を感じる。

微かに聞こえてくる下校中の小学生の声、波の音。俺は目をつぶってその音を感じた。

「よーし行こう!」

という真哉の元気な声で俺達は再び歩き始めた。

そこから6人で色々話しながら歩くこと10分ほど目的の場所に着いた。

なぜだかは分からないが自然と足が止まった。

俺はその建物を目の前にした瞬間再びよく分からない恐怖感と焦燥感にかられた。

足を止めた俺をみて他の5人も足を止めた。

「樹?」

急に右のほうから名前を呼ばれ右のほうをみた。

「大丈夫。海月ちゃんは大丈夫」

北斗は合言葉かのように俺の顔をみてまっすぐ優しい顔で言った。俺はそんな言葉に頷いて他の4人をみた。

俺たちは顔を見合わせ病院の中へと入っていった。

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