第9話
「樹!」
ちょうどもらった朝御飯を食べ終わったとき
俺を呼ぶ声と共に勢いよくドアが開けられた。
そこには息を切らして肩で息をしている北斗の姿があった。俺は北斗に近づきながら「どうしたの?」と冷静を装って聞いてみると
「みづき、みづきちゃんが、、」
俺は海月に何かあったんだとすぐに感じドアのところにいる北斗をよけてICUと呼ばれる場所へと走った。
走っている間は不安でいっぱいだった。
後ろから俺を呼び止める声が聞こえているような気がする。だけど俺はそんなことを気にしているほどの余裕などなかった。ただ必死にガラス張りの部屋へと走った。
ガラス張りの部屋が少し見えたらへんで俺はスピードをすこし下げた。そしてゆっくり歩いていった。ガラス越しに彼女のほうを見ると嫌な予想が当たってしまった。足を止めて目をやると医者や看護師達が彼女の回りを囲んでいた。
え、何があったの、海月死んだりしないよね?え、俺まだ、海月になんにもできてない。まだ聞かなきゃいけないことたくさんあるのに、やだ、いやだ、海月を失いたくない。海月をこの手から放したくない。海月とまだ一緒に笑っていたい。海月とまた泣いて、お互い頑張ろって、ねぇ、海月、俺から離れないでよ。ねぇ、、
気づいたら俺はその場へしゃがみこんでいた。
「樹くん?」
突然左のほうから名前を呼ばれ顔をあげると北斗のお父さんがいた。
「どうしたんだ、そんな顔して」
そう言って俺に近づいてきた。右のほうからは「樹、ちょっと待ってよ」
と言って北斗が息を切らしながら小走りで走ってきた。
俺はふたりから何を言われるか分からず北斗のほうをぼーっと見ていると北斗は俺に近づいて俺と目線を合わした。そして北斗は息を飲んで少し、いや、飛びっきりの笑顔でだけど少し涙目になっている顔で
「海月ちゃん、意識戻ったって!」
そう言った。俺はその状況がうまく飲むことができず自然と
「ほんと?」と声が出ていた。
俺がそう言うと北斗はその笑顔のまま「うん、」っと大きく頷いた。
俺は安心してなのかなんなのかで力が抜け全身を支えていた足は崩れその場に座り込んだ。
「とりあえずここは邪魔だしいま先生が色々みてくれているからそこの椅子に座っとけ。」
そう北斗のお父さんに言われて北斗と俺は隣同士で目の前にあった椅子に座った。北斗のお父さんは同僚の人ぽい警察の人となにか話していた。
俺の心のなかは嬉しさの後に戸惑いが出てきた。
どうしよう。海月に会ってはじめに何を言おう。海月は俺を見てどんな反応をするだろう。あ、そういえば北斗との話もどうしよう。そもそも海月は話せるような状態なのだろうか。あんなことがあってあっちの世界へいこうと思っていたのに無理だった。そんな彼女は一体俺に何を話そうと思うのだろう。そもそも、もし彼女が俺のことを嫌っていたら俺はどうすればいいんだ。考えれば考えるだけ彼女との会話、彼女と目を合わすことがだんだん怖くなっていく。するとぽんっと背中になにかがあたった。そのあたったものは上へいき下へおりるをゆっくり繰り返した。その手はとても大きくて、温かいものだった。
「大丈夫、海月ちゃんなら、」
そう優しい声で北斗は俺の背中を撫でてくれていた。北斗の目線はずっと前を向いていた。だけど時々床に目線を落としていた。
目の前のドアが開いた。海月の担当医が出てきた。
「松木さん目を覚ましましたよ。意識もちゃんとあります。ですがあんなことのあとなので会話ができるか分からないような状態です。それでもお会いになりますか?」
と聞かれた。もちろん答えは会う一択だった。それは北斗も一緒だったようで2人でガラス張りの部屋へと入っていった。
俺は案内されながら最初に海月になんて声をかけるべきかずっと考えていた。しかし彼女の所につくのは思ったよりはやいものだった。結果的に答えは思い付かず俺が最初に海月にかけた言葉は
「海月?」
と名前を呼ぶだけだった。その声は震えていた。海月の口には昨日とは違い管には繋がれておらずその代わり酸素マスクをつけられていた。海月はゆっくりと俺のほうを向いた。だけどなにも言わずに天井に目線を戻した。北斗は何も言わなかった。きっと北斗も何を言えば良いのか分からなかったんだと思う。
俺は海月の横にしゃがみ海月の手を布団から出して握った。昨日と変わらずしっかりあったたかった。よかった。生きてる。海月が生きていることが感じられて俺はなぜか安心した。そして俺は海月に向かって独り言のように話し始めた。
「ねぇ海月?俺ね海月が意識ないって聞いたときめっちゃくちゃ怖かった。俺さ、ずっと海月のこと守りたいって思ってるの。だけどまた守れなかった。あのね、俺は海月にとってなんなのかな?どんな存在?ねぇ、俺海月のこと勝手に全部知っているもんだと思ってた。だけどまだ全然知らないかった。ねぇ教えて、海月は何を抱えているの?海月は何に縛られているの?」
彼女は何も答えずずっと天井を見ていた。
「まぁ、言いたくないなら言わなくてもいいから。言ってくれるまで俺待つから。だから俺から、離れないで。もう俺、海月から離れたくない。お願い、勝手にひとりにならないで。」
声がどんどん震えていく。出しづらくなっていく。でも必死に言葉を繋いでいく。
「今まで海月に守ってきてもらったからさ今度は俺が海月を守りたい。海月から離れない。」
海月は一ミリたりとも動かなかった。
それは本当に生きているのか疑いたくなるくらいに。だけど彼女はちゃんと生きているらしく、耳をすませば呼吸音が聞こえてきて同時に酸素マスクが薄く曇っていた。
「ねぇ、海月?もし俺が海月と北斗と一緒に暮らしたいって、暮らそうって言ったらいや?」
俺がそう言うと微かに海月の指が動いた気がした。
だけど彼女がなにかを答えることはなかった。
俺は1回息をはき握っている彼女の手を見つめながらめちゃくちゃくだらない話を彼女にしていた。「あのかぼちゃの煮物おいしかった。どう作るか今度教えてよ」とか「俺最近別室だけど学校頑張ってたの偉くない?」とか本当に中身のない話を淡々と続けていた。正確には続けないと気が済まなかった。
「樹、一旦お家にかえろ?」
その声と一緒に肩にあたたかさを感じた。だけど俺はまだ彼女の手を離したくなかった。まだ離れたくなかった。微かに感じることのできる温もりをまだ感じていたかった。
「樹、もうそろそろお昼だし、一旦帰ろ?」
後ろから両肩を抱え込まれた。その声には微かに怒りと不安が感じられた。
俺は聞こえない振りをした。
「ねぇ樹?大丈夫。海月ちゃんはいなくならないからまた明日も来よう?」
もう彼の声はあきれていた。いつもそんな声がでない彼に怖さを感じた。そして俺も正直このままなにも反応を感じられない彼女に話しかけるのが少し辛くなっていた。だから俺は小さく頷き立ち上がり部屋を出た。彼女には
「じゃあね、またあした来るね、」と声をかけそとに出た。そのあと担当医からの話では精神的ダメージが強いためしばらくあのままかもしれないということ明日、明後日には個別部屋へと移ることができるということを伝えられた。
正直なにも話が入ってこなかった。
北斗は話を聞き終えたとき担当医に向かって一礼をした。俺は何もできなかった。ただ立ちすくむことしかできなかった。俺は北斗につれられ一夜を越えた部屋に戻り北斗は荷物を整理してその間に俺はダウンを着てふたりで病院を出た。
少し歩いてバスに乗る。時間的に車内はとてもすいていた。俺は北斗とふたりがけの席に座った。俺は奥の方に座り窓から流れる外の景色をみていた。
彼女は俺の話に対して一言も答えなかった。
彼女はまるで、そう、くらげのようだった。
くらげのようにただそこに存在しているだけのようだった。
『くらげってね脳がないからなんにも感じないの。』
そんな遠い昔の彼女の声がふと頭の中を横切った。
もしかしたらあの時から彼女は感情というものを失っていたのかもしれない。だけど周りにその事を悟られないように必死に隠してあたかもあるように振る舞っていただけなのかもしれない。
そもそも彼女にとって俺は一体何だったのか、どんな存在だったのか。何であんなに優しかったのか。寂しそうだったのか。何であんなに孤独でいることを見せなかったのか。何で平気な振りをするのか。俺は彼女のことは世の中で1番といってもいいくらい知っているつもりだった。だけど案外知らないことが多すぎた。そんな自分に幻滅した。
「樹?」
隣からおちつく声が聞こえた。
俺はなにも言わずただ顔を右に向けると心配そうに様子を伺う北斗の顔があった。
「どうしたの?何で泣いてるの?」
そういって彼は冬の冷たい空気によって冷やされた自分の手で俺の頬を撫でた。
この時初めて自分が泣いていたことに気がついた。
喉の奥が熱かった。声がでなかった。息が苦しくなっていった。どうすればいいのかわからなかった。もう今自分の身に何が起こっているのかすらわからなくなった。
頬を撫でられる感触がなくなり頭を右のほうに抱き寄せられ撫でられた。
その時に聞こえたのはバスの走る音と親子の小さな会話だけだった。
バスから降りて足が自然と止まった。2週間ぶりの景色懐かしい景色。なんとなく「あぁ帰ってきちゃったな」という謎の罪悪感に近いものを感じた。
「樹行こう。」
先に降りて少し歩き始めていた彼は俺に声をかけるとと同時に手をさしのべてきた。
俺はなにも言わず彼のほうにいき指先のほうだけをつかんだ。
歩いている間は終始無言だった。時おり感じる冷たい空気はいつもよりも冷たく感じた。だけど太陽は強い光で俺達を照らしてくる。
キーンコーンカーンコ
12時だ。俺は思わず足が止まる。北斗は俺が足を止めたことに気づいて足を止める。
「どうした?」
いつもの優しい顔だけどどこか怒ってそうな顔。俺はなんにもないといい歩き始めた。
しばらく歩いて、やっとマンションの前までついた。そのまま中に入ろうと歩き出した。すると後ろからなにかを落としたような少し大きい音と共に
「北斗と樹?、、」
そんな声が後ろからした。俺と北斗はその声がした方へと振り返ると
「あぁ!やっぱりふたりだ!ねぇ!北斗!どこ行ってたの!みんな心配してたんだよ!昨日帰るとか言って帰ってこないし!」
元気は早歩きで北斗の両肩をつかみ北斗の体を揺らした。
元気には俺らへの不満がたまりまくっているのだろう。元気の口は止まる気配がない。
俺は仕方がないと思い
「ねぇ元気、心配かけたのはごめん。だけどさ寒い、家入りたい。」
そう呟いた。だってはずいんだもん。こんな道の端っこで騒いでいる高2男子2人とそれに戸惑っている俺。そしてしまいには道のほぼ真ん中におかれているやや大きめな袋が二つ。これを恥ずかしい何て言わないのならなんというのか教えてほしいくらいだ。
「あぁ、そうだね。あ、今優弥と真哉の家で集まっているからいこ!てかお前らは強制的に来い!」
そう言って元気は俺の腕を勢いよく引っ張った。
だけど元気の手にはなにも持たれていなかった。
「ねぇあの袋はいいの?」
俺がそう道路の真ん中にある袋を指すと
「あぁ!」と元気は思いだし急いで道路に行き袋をとって「はやく行くよ!」といって俺の手をまた引っ張った。
幸い車通りが少ない場所だから袋は大丈夫だった。
北斗は少し経ってから「おい、まて!」と言って追いかけてきた。
きっと元気は俺を連れていけば北斗が着いてくるのがわかっていたのだろう。
元気は「うわ、逃げろ!」なんて笑いながら俺の手を引っ張ってエレベーターではなく階段をかけあがった。俺もそのスピードに必死に食らいつく。なんだか楽しかった。そして気づいたら階段を駆け上がりながら笑っていた。この時間が永遠に続けばいいのにと本気で思った。
何段か上って右に曲がり突き当たりまで走る。もう北斗は疲れてしまったのか後ろを見ても姿はなく階段をゆっくり上る音だけが聞こえていた。
目的の部屋の前まで来ると俺たちは笑いながらその場に座り込んだ。笑いながら息をととのえようと必死に深呼吸をした。少しすると北斗がやっと追い付き息を荒くしながら「おまえらな、」と恨みが入った声で言われた。元気はなにもなかったかのように立ち上がった。
「よし、入ろ。」
そしてそのままドアを開けて
「ただいま~ジュース買ってきたよ」
と言い笑いながら入ってしまった。俺たちは入るべきかそうではないか目の前のドアを見て戸惑っていると目の前のドアがあき
「何やってんだよ、早く入ってこい」
そう言われて俺と北斗は1人ずつ手を引っ張られなかに入れられた。
そうして俺と北斗は優弥と真哉の家の中に必然的に入れられもう上がる以外の選択はないと悟り靴を脱ぎ始めた。
元気もその様子を見て靴を脱ぎ俺たちより先に部屋に入ろうとした瞬間。
「元気~?飲み物持ってくの手伝おっかー?」
この声は真哉だ。
「うん。来てー」
「はいはーい、あとさ、なんか外うるさくなかった?」
そういって目の前の扉から真哉が現れた。
会いたかったようで会いたくなかった人。それは真哉も同じなのかはたまた違うのかはわからないが俺と目があった瞬間気まずそうな顔をしていた。
そんなことをきにせず元気は明るい声で
「あーごめんごめんそれ俺たちだわ。おいかけっこしてて、あ、これもって」
真哉は「え、おいかけっこ?なんで?」なんて笑いながら元気が持っていた袋を1つ受け取っていた。
「2人もはやく入りな寒かったでしょ」
なんて真哉は優しい言葉を俺たちにかけ入っていった。
俺らも素早く靴を脱ぎ急いでリビングへと歩き進めていった。(人の家だが)
俺らが入るのを躊躇していると
「はやく入りな」と言って元気は優しく言ってくれた。俺たちを恐る恐るリビングへと足を入れた。
俺と北斗が順々に入るとみんなビックリして黙って俺らが入る姿をみていた。でもみんなすぐ笑顔になって
「おかえり!」「どこ行っていたんだよ!」
など俺と北斗の周りに集まって様々な声をかけられた。
俺らは考えていることは一緒のようで二人揃って「ただいま!」と言っていた。
そのあと優弥の「あ、ふたりとも座りな」と言う声と同時にみんな机の上を片付けて俺らを座らした。
優弥と真哉の家で集まるときはいつものこの低いけど大きい机にそって丸くなって座布団をしいて座る。そんなことも久しぶりすぎてどこか懐かしく感じた。
俺は元気と北斗の間に座り北斗のとなりには優弥が座った。
「ゆるーく飲み物のみながらおかし食べながら話そう」
優弥はそういった。優弥はいつもこういうときみんなをまとめるのがうまい。
「じゃあお菓子の袋開けちゃうね、あ、これジュース」そういって元気は机の上に袋を二つおいた。
みんな次々とジュースやらなんやらとっていき元気はお菓子の袋を開けて机の上にちらばしている。
「ふたりも飲み物とりな?」
俺はないと思っていたから「え?」と思わず声を出すと
「いつもの癖で6人分買っちゃったの。だから飲んで」
そう言われた。俺はちょうど大好きな緑茶が残っていたのでありがたくいただいた。北斗はミルクティーを選んだ。
少しの間これは誰のだー俺のだーって騒いでいたけどだんだんと小さくなっていった。そこで優弥が
「昨日何してたの?」
そう聞いてきた。
昨日のこと。正直思い出したくない、なんなら今日のことも。俺は何も言えずにただ一点を見つめて考えていると隣から北斗が
「あーごめん、ちょっと色々あって」
と苦笑いして言った。
「いろいろって?」
そう問い詰めてくる嶺に俺たちは黙ることしかできなかった。
すると真哉が
「じゃあ樹に聞く、いままで何やってたの?」
俺は急に問いかけられたその問いにどう答えればいいかわからなく戸惑っていた。
それにしびれを切らしたのか真哉は
「ねぇ、なんなの?俺らのこと友達だと思ってないとかいって勝手にどっかいって心配させていったいなんなの?おまえにとって俺らはなに!?お前は一体何がしたいの?」
そうどんどんヒートアップする真哉を優弥は「まぁまぁ落ち着け」といって真哉を落ち着かせた。
「友達なわけないじゃん、」
俺が少し笑ってそう力なく言うとみんな俺の方をみて「え?」と言葉を失った。俺はもう全部言っちゃっていいやと思った。嫌われてもいいや。見捨てられてもいいやって。だってこいつらといても迷惑かけるだけだし。だったらもう嫌われた方が清々する。
「俺はみんなに迷惑をかけているだけで、本当はいなくならなきゃいけない存在なんだよ。みんなの友達に値するような人間じゃない!お前らのことを友達っていえるほどの存在意義は俺にはない!」
気づいたらどんどん口が動いていた。俺は心のうちで思っていることを話し終えると息が上がっていて呼吸がしづらかった。そしてこの場の空気が一気に居心地が悪くなって部屋を出ようと立ち上がった。
となりから「いつき、」と弱々しい声で呼び止められているのが聞こえる。
だけど俺はそれを無視して一旦外に出ようとした。
「おまえ、まじでふざけんな」
その声と共に手を力強く握られた。握られた方向に顔だけ向けると真哉が俺の手首を握っていた。そして
「なんで泣いてんだよ。」
そう悲しそうな顔で俺を見つめながら真哉はそう言った。俺はそのとき自分が泣いていることに気づいた。
「本当は生きていたいんじゃないの?」
俺は真哉にそう言われても生きていたいのか、そうではないのかは分からなかった。
ただ俺はここにいるべき人間じゃないということだけはわかっていた。
「あのね、樹はいていいんだよ!俺らは友達だよ!人の価値なんてみんなおんなじじゃん。生きていていいとか悪いとかそんなのないんだよ。ねぇ、もし樹がその理由で俺たちから離れようとしているなら、友達じゃないって言うなら俺、樹が友達だって言うまで離れない。」
真哉はそうまっすぐな瞳と声で俺に向かって言った。俺はそんな真哉になんと言えばいいか分からなかった。
「樹、真哉の言う通りだよ。」
真哉の後ろの方から北斗の優しい声が聞こえた。
そして北斗のとなりにいた優弥は立ち上がって
「ねぇ樹?俺たちは樹に何があったのか詳しくはわからない。だから教えて?何がそんなに樹を苦しめているの?何が樹をそんなに縛り付けているの?」
そう優弥に肩を捕まれて優しく問いかけられたときこいつらなら話してもいいかもしれないと思った。こいつらなら北斗みたいに全部分かって、受け止めてくれるんじゃないかって。
「わかった。」
俺はそういってゆっくりとさっきの場所まで行き座りいままでのことを話し始めることにした。
小さい頃から父親に虐待をされていたこと。父親に殺されかけたこと。その夢をずっと見ていること。海月とは小学校のときに出会ってふたりでよく海に行っていたこと。海月のことをずっと後悔していたこと。高1のとき海月に助けてもらったこと。そこで海月のお母さんにくらげになれと言われたこと。最近その夢を見るようになっていたこと。実家に帰ろうとしたときに海月と久しぶりに会ったこと。その間海月にお世話になっていたこと。ちゃんと学校には行っていたこと。くらげになろうとしていたこと。北斗が助けてくれたこと。海月がくらげみたいになっちゃったこと。もう、どうすれば正解なのかわからないこと。
俺の生い立ちから今に至るまでのことを全て話した。みんななにも言わずただ俺の話を聞いてくれた。話し終えると1番に嶺が
「話してくれてありがとう」と言った。そのあと優弥が
「えーとまず海月ちゃん?だっけこれからどうなるの?もう家族は樹しかいないんだよね。」
「うん。だけどまだわからない。」
本当は一緒に住めることが理想だ。だけどそれは俺だけの問題じゃない話だから勝手には決められない。だからこう言うしかなかった。すると北斗がとなりから
「まぁ父さんからは施設に入ることになるだろうと言われているけど」
と言った。あ。やっぱり北斗は海月と暮らしたくないんだな。そう思った。まわりもそれだったら安心できるねみたいな反応だしなんなら元気は
「じゃーよかったじゃん」と言った。まぁ無理か、未成年だし、所詮子供だしと思っていると
北斗は「でも」と前置きをしてから
「俺は一緒に暮らしてもいいんじゃないかって思っている」
そう言った。
みんな口を揃えて
「え?」と言っていた。
俺は声がでなかった。だってあんなに拒否ってたのに。
どうして急に北斗が一緒に住むことを自分から提案したのか俺には分からなかった。
*
「え?」
こうなることは大体想像ついていた。
となりにいる樹なんて声すら出てない。でも本当にそう思った。あの子と一緒に暮らしてもいいんじゃないかって本気で思った。
だからまずこいつらに言うべきだと思った。
助けてもらうことになりそうだと思ったから。
そしてこの選択は俺の人生でも重要なものだと思った。
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