第2話

「樹、おきて~朝だよ~」

そんな北斗の声で目覚めたのはいつぶりだろうか。

今日はなんも夢を見なかった。

父さんに殴られて殺されかける夢、知らない女の人にくらげになれって言われる夢。

見たくないと思っていた夢をほぼ毎日見ていたのに、いざ見なくなるとよく寝れたなと思う。しかし同時に今が消えるときだ、くらげになるべきだと神様から直々に言われている気がする。俺は少し時間が経ってから今日は学校いかないとな、と思いクローゼットから制服を出して着替え鞄を持ちリビングへと行く。

「おはよ。」

俺が朝からぶっきらぼうに言うと

「おはよう、今日は学校行く?」

と優しい声で北斗は言ってきた。

「うん」 

北斗はわかったと言ってご飯を作り続ける。

その間俺はご飯を食べる椅子に座って携帯を見ながらどうやって彼の前からいなくなるか、どうやってくらげになるかを考えていた。

「はーい、ごはんできたよ。食べる?」

そう言いながら彼はエプロンを外しながら俺に聞いた。

俺はいつもみたいに食べる気力が湧かないので「食べない。」と言うと北斗は

「ゼリーあるからそれ食べれば?」

と言ってきてくれた。

だけどそれよりも一旦ひとりで考えたい。今は極力人には会いたくない。誰とも話したくない。でも今日はさすがに学校にはいかなきゃ。誰にも会わないようにしてひとりで考えるなら早く家を出ないと。俺は椅子から立ち上がり

「ごめん、今日先に行く」

と北斗に言い俺は自分の部屋へパーカーを取りに行く。

すると後ろから

「え?ちょっと待って俺も行くよ。朝御飯すぐ食べるから待って。」

「いい。1人で行くから」

俺は一瞬振り返って北斗の顔を見て突き放すように言った。

あーこれでさすがの北斗にも嫌われるかな。怒るかな。何て思っていたけど全然違くて

「わかった、なんかあったら連絡してお弁当は学校ついてから渡せばいい?」

そう優しく聞いてくれた。俺はどこまで迷惑をかけるのだろうか。

俺はリビングで荷物をまとめながら

「、うん」

と自分でも消えそうな声だなって思うほど小さい声で答えた。そしていつも通り制服の上からパーカーを羽織って呟くように「いってきます」と言って家を出た。


季節を感じさせる冷たい風を全身で感じながら俺は1人で一昨日ぶりに歩く通学路を歩きながら一体この約2年間俺は何をしていたんだろうと思った。

まわりに助けられてもらってばかりだな。

いろんなことから逃げてばっかりだな。

あいつらも、もしかしたら俺のこと憎んでいるのかな。それとももはや呆れているかな。とか色々思ったりしたらやっぱり俺は消えるべき存在なのかなと思った。

だったらこのまま高い建物か海かどっか行こうかなって思ったけどここで学校に行かなければ彼が騒ぐなと思った。だからとりあえず学校には行こう。なんてよくわかんない結論にたどり着いた。

学校に着き、昇降口へ行くとまだ靴箱の上段がほぼ埋まっていた。俺はとりあえずいつもどおり教室に荷物置いて、静かな階段を上って、ドアを開けた。すると朝日の眩しい光が目に入った。そして俺は少し歩いて冬の澄んだ青空を見上げるように寝転んで目を閉じた。

ひとりでこの後どう学校をサボるか考えて20分ぐらいした時ドアが開く音がした。


「ゆっくりできた?」


声だけで北斗だとわかった。

「うん、」

俺は目を閉じたままそう答えた。

「今日さ一人だから来るの結構遅くなっちゃった」

その声から北斗が場を重くしないのように少し笑顔で語る姿が俺の脳内に浮かんだ。俺は目を開けて変わらず澄んだ青空を見つめた。

「そっか」

と俺は呟いた。彼は「うん。」と答えた。

「あ、これお弁当。」と言った。

きっと俺の分のお弁当を差し出してきたのだろう。

「置いといて。」

と俺は冷たく言った。「わかった。」と北斗は言った。そして北斗は続けて

「もうすぐホームルーム始まるよ。」

そんなことを言った。

もうそんな時間かって思ったけどなんだか行く気になれなくて「先行ってて。」と言った。そんな俺に対して北斗は

「わかった、先生には体調悪いって伝えとく。」

そう言って北斗は屋上から出ていった。

気づいたら涙が頬をつたっていた。

なんで、なんで泣いてるの。

あーまた迷惑かけたよ。やっぱり今日消えるべきだな。

そんな考えが思い浮かんだ。そしてなんでかは分からないが辛くなって気づいたら立っていた。そして俺は目にたまった涙をパーカーの袖拭いてそのまま教室には行かず保健室に向かった。

保健室のドアを開けるといつもサボっているから保健室の先生も俺のことはわかってくれている。だから否定もなにもせず「またサボり?」なんて笑って迎えてくれた。

俺はそんなこと気にせず

「かい、誰か来ても俺に近づけないで」

俺はそう言って置くにあるカーテンを開け、そして閉めてベッドに横になった。

寝るとあの夢を見ちゃうかもしれないからただ横になってこの後どうするかを天井を見つめながら考えていた。

2時間目のチャイム終了のチャイムが聞こえそろそろ勝手に帰っちゃおうかな何て考えているとガラガラとドアが開く音がした。

あー出れなくなったとか思っていると聞き覚えのある声が聞こえた。

「ねぇかい、樹知らない?ずっと帰ってこないから俺らさっきの休み時間からめっちゃ探してるんだけど。」

優弥だ、この声は

「まず俺先生ね。それと樹のことは知らないし、来てないよ。」こういう時、唯一頼れるのはやっぱりかいだ。

「そっか、今日1回もきてない?」

完璧と言っていいほど優弥が怪しんでいることが声からで分かる。だけどかいはそんなことに動揺を見せず

「来てないよ。」

という間抜けた声で返していた。その後はただキーボードを打つ音だけが聞こえてきた。

「あーもう俺疲れた。次の授業ちょっとサボるわ」

「あ、そこは今使用中だからだめ!」

というかいのこわい声と同時に俺のベッドのカーテンが開いた。

少しの間保健室が無音になったように感じた。

その無音をかき消すように優弥は

「なーにしてんの」とベッドに横で寝転がっている俺の顔を覗き込んできた優しく問いかけてきた。

俺は起き上がって

「授業そろそろ始まるんじゃない、行かなくていいの?」と聞くと、「それはお前もだろ」と笑っていた。

だけどそんな優弥の反応すらなんか怖くてたぶんそれは優弥に対して後ろめたいことがあるから。

かいはもう無理だなって思ったのか無言でカーテンを閉めてくれた。

そしてドアが開いて閉まる音がした。

「とにかくお前は早く行けよ」

とあえて強く言うと

「じゃあ樹も行こ」

と優弥も負けじと言い返してきた。

「やだ、てかなんで俺なんかに構うの」

俺はしつこい優弥にイライラしてきていた。


「友達だから」


そう優弥は言った。

は?友達?意味わかんない。そんなことどーせ思ってない癖に。情で一緒にいてるだけの癖に。そもそも俺はこいつらと友達と言えるような立場の人間じゃないのに。

「優弥はさ優しさで俺といてくれてるだけでしょ。だからいいよほっといて。」

「樹それは、違」

と話している優弥の言葉を遮って俺は

「まず俺はお前らを友達なんて思ったことない。」

そういうと彼は驚いたようなそしてどこか悲しそうな顔をみせた。その間はただ休み時間の賑やかな音が微かに聞こえてきていた。

「わかった、俺戻るわ。帰るなら帰ってもいいけどさ北斗には言えよ。めっちゃ心配してたから。」

優弥はそう言い残してカーテンを開けて閉めて去っていった。

そのあとすぐしてチャイムが鳴った。

優弥授業まにあったかな?傷つけたよな、絶対。別にあれが本心じゃないわけでもないけど、100%の本心だったかと聞かれればそういうわけでもない。

少しするとまたドアが開いた音が聞こえた。

俺はカーテンを開けて

「かい、俺帰る。」と言った。そしたらかいはパソコンでなにかをしながら

「わかった。荷物どうする?」

と俺に聞いてきた。できれば取りに行きたくないけど行くしかないよなと考えていると

「俺が取ってこようか?ほらさっきのお詫び」

と気をきかしてくれた。きっと俺がなにを考えているのかわかったのだろう

「すみません、お願いします。」

と何故か敬語で言うとかいは

「はーいちょっと待ってて」

そう言って保健室をあとにした。

こういうときだけかいも先生なんだなって思う。そしてなぜか自分も敬語になってしまう。

かいが出ていってすぐまたドアが開いた。見てみると校長だった。

「あれ?高良先生は?」

と聞かれた。

「ちょっと今はいないですね、たけどすぐ戻ってきますよ。」と俺が言うと

「そうか、なんだお前はサボりか?」と校長は笑っていた。

俺は「まぁ」と言って床を見つめる。

「どうだ最近は?」と聞いてくるから「ぼちぼちかな」と答えると

「そうか、今日はその様子だともう帰るのか」と聞かれるたから「うん、」と答えた。そのあと色々校長の話の相手をさせられているとまたドアが開いた。

「お待たせ~」と言ってかいは俺の荷物を片手に持って現れた。

かいは校長に気づいて少し会釈して俺の方へ来て俺の鞄を俺に渡した。

「ありがと。」

「うん、気を付けて帰りなよあと、どっか行くなら着替えてから行きなね。」

「わかった。」俺はそう言って保健室をあとにした。

帰る前に俺は屋上に北斗が作ってくれたお弁当をおいたままだということに思い出した。あのときは風を感じるのすら嫌になっていて周りを見ることができなくて、見つけることができなかった。屋上に取りに行くとどこにもなかった。たしか優弥が前の休み時間から探しているって言っていたからたぶん北斗が俺を探しているときに持っていったんだろう。

これはもう3時間目が終わるまで帰れないなと思い、朝と同じく屋上の床に寝転がり空を見上げた。3時間目終了のチャイムを聞いて、すぐに北斗のクラスへ向かう。そして入り口にいた人に「北斗いる?」と聞いた。北斗は名前を呼ばれると俺のもとへ小走りで来た。

「樹!どこにいたの!めっちゃ心配したんだよ。」

そう言って北斗は俺のかたを揺らした。まるで自分の子供が迷子になってやっと見つけることのできた親のように。

「ごめん、保健室行ってた。それよりお弁当ちょうだい。」

俺はそんな北斗の圧に圧倒されながらそう言うと

「え、もしかして帰るの?」

と聞かれた。俺はうん、と頷いて答えると

「じゃあ俺も今から一緒に帰るよ。」

と意味不明なことを言ってきた。

「ふざけんな、ちゃんと授業受けてから帰れ。」

「それは、樹もじゃん。」

と北斗は不満そうに言っていた。俺はそれに対して特になんにも答えないでいると諦めたのか「ちょっと待っていて」と言って俺のお弁当を持ってきた。

「はい、お弁当。帰るのはいいけどちゃんと食べてね。」

北斗はそう言って俺にお弁当を渡した。

俺は「ありがとう」だけ言ってあまり使われていない階段を使って学校を出た。


家に着き、俺はパーカーを脱いで少し早いが制服のまんまさっき貰ったお弁当を机に広げた。

そのお弁当はいつもと同じのはずなのになぜだか悲しく見えた。

なんだか最後の晩餐を今から食べるような気分になった。

俺は静かなひとりだけの空間で「いただきます」と小さく呟く。食べているとなんかどんどしょっぱく感じていった。北斗、珍しく味付けミスったのかな。なんて思いながら食べていると机に雫が落ちた。それで自分が泣いていることに気がついた。俺は取り合えず涙を拭きながら食べた。そして食べ終わって空になったお弁当箱を流しに入れた。

そして制服からチャックがないパーカーとジーンズに着替えて財布と携帯だけ持って家を出た。

俺はとある場所に行くことした。そこまで行くのに歩いていこうか迷ったがさすがに歩いて30分以上するのでバスに乗り外を眺めているとあっという間に目的地へと着いた。

バスから降りると潮の匂いを連れた少し湿っている風が吹いてきた。

そこから少し歩いてついた彼女とよく見た海。

ここに来るのはいつぶりだろうか。

たしか最後に来たのは高校に入る前。引っ越すことを彼女に打ち明けたときだ。

海を眺めながら、今日どうやってこの世から消えるか考えていた。

そんなときふとこんな考えが頭によぎった。


このままくらげみたいに海に溶けちゃえばいんじゃないか。


まぁ人間だから海にとけるということはありえない。だけどなぜだかこういうときの行動は早くて気付いたときにはもう海へと歩き始めていた。

頭のなかではわかっている。

こんなことするべきじゃないって。

あいつらもきっと望んでいないって。

いや、望んでいないはずと信じたい。友達じゃないって言ったけどあいつらにとって大切な存在ではありたい。だけど今は誰といても誰と話しても生きている心地がしない。

いつも自分が自分じゃないみたいで、まわりとの考え方のギャップに一人でもがいて苦しんでどうせ一人なんだなって孤独感にさいなまれている。


気づけば靴と靴下を脱いでいて


気づけば足に砂があたっていて、


気づけば足に海水が触れていた。


だけどなんでか分からないが歩くことをやめようとは思わなかった。

もう水が足首まで来た。

このまま歩けばいいんだ。

もう死なないといけないんだ。

自然とそう思った。

もう膝くらいまで水がきた。

足が重い。

正直もう1歩すら踏み出すのも辛い。

あぁこのまま前に倒れたらいいかな、そうしよと思って俺は重心を前へと傾けた。 



あれ。。



顔に水がついていない。



なんで?

だれ?誰が俺のことを止めているの?

支えているの?


そんなことをぼーっと考える。

なぜだか時の流れがゆっくりに感じる。

だがそれは1人の声によってもとの時のはやさに戻された。


「ばか!何やってんだよ。」


俺は言葉を発することすらできなかった。

俺のことを支えている誰かは一呼吸おいて

「とりあえずここからでよ。」

とさっきとは違う優しい声でそう言った。

誰かは俺の体を引っ張りながら俺が歩いてきた道を戻っていく。

うしろからまたひとりだれか俺のことを支えてくる。

気づいたら足に砂があったっていて、そして気づいたらなんか丸太に座っていた。

「まじでお前何やってんだよ。」

俺のことを最初に助けたのは真哉だとこのときやっとわかった。

少し右に視線を向けると優弥がいた。優弥はだれかに電話していた。

そして終わったのか俺の方へと来た。

「北斗に電話しといたから。」

そう優弥に言われた。

だけどなにも頭にはいってこなくてぼーっとしていた。

「おまえさ、学校サボるとかはお前の勝手だけどさ、頼むからこんなことするなよ。」

「こんなことって?」

俺は真哉の言っていることが分からず気づいたらそんなことを言っていた。

「真哉が言いたいのは自分で自分のことをいじめたり命を絶とうとしないでってこと」

は?意味がわからない、え?なんで?俺はしなきゃいけないことをしたのに?しちゃいけないってどうゆうこと?


「意味わかんない、なんで?俺はしなきゃいけないことをしただけだよ」


「は?」


ふたり揃って俺の言っていることが理解できないみたいだった。だから俺は付け加えて

「俺はみんなと生きている世界が違うんだよ。俺はこの世界に生きているべき存在ではないんだよ。」

俺はふたりにそう話しながらどうやっていなくなるか考えてた。海はダメ。高いところは学校しかない。けど学校だったらばれやすいしどっちみち迷惑もかける。そこで思い付いた。父さんのところに行けば、くらげみたいになにも感じなくなって消えることができるのではないか。

俺の話しに対して優弥は

「ちょっと樹それは違うよ」

と言いかけたであろうその時に


「俺、今日家出ていく。」


「は?なに急に、ちょっと待ってどうゆうこと?北斗には言ったの?」

もう優弥は明らかに焦っているし真哉はなにも言わないけど俺のことを心配そうにみている。

「言ってないし、言うつもりはないだけど、今決めたから。」

そう言うと優弥はもうもうほぼ諦めているだけどどこか心配そうな目をしていた。

沈黙のなかにはただ波の音と時々うしろの道路を通る車の音だけ。

その中真哉が口を開いた。

「意味わかんない、なんでなんでそんなことしようとするの?なんでそんなこと言うの?これ以上北斗のことを傷つけんなよ」

こいつは何を言っているんだ。俺がいた方が北斗は傷つくのに。

「だからだよ。傷つけたくないからだよ、これ以上北斗に負担かけたくない。」

俺は今まで砂をみていた顔をあげてそう真哉に言った。

「俺は負担になんかなっていないと思うけど。」

真哉は否定するが世間的にはそんなはずはない。

「とにかく、俺とお前たちじゃ生きる世界が違ったんだよ。だから俺はもとの場所に戻るの。」


「もとの場所って?」

ずっと黙っていた優弥が口を開いた


「は?決まってるだろ実家」

それ以外どこがあるというのだろう。俺が戻るべき場所はあそこだ。

「おまえそこだけは、」

と真哉が言いかけたとき俺は

「てかさ、なんでそんな俺をひきとめようとするの?」と聞くと。

「友達だから、大切な人だから!」

急に手を握られいつものあのほんわかした優弥とは思えないくらい大きな声で言われた。

素直な気持ちを言うならば嬉しかった。だけど俺はこれ以上こいつらと一緒にいてはいけないと思った。だから俺は

「悪いけど、優弥。俺さっきも言ったけどおまえたちのこと友達なんて思ったことないから」

そう冷たく言いはなった。


「あぁ、そうなんだ、わかった、もう勝手にすれば友達だと思っていった俺がバカだった。」

「ちょっと真哉、」

普段こんな冷たいことを言わない真哉にそう言われ正直泣きそうになった。でもばれないように下を向き唇をかみながら真哉の言葉を聞く。

「なんとか言えよ。」

俺がなにも答えないのにイラついたのか真哉はいまにも殴りかかりそうな勢いで俺の方へと近づき胸ぐらを掴んだ。俺のことを立たせた。

「ちょっと真哉」

それを急いで止めようと真哉の腕を優弥がつかんだ。そこになにかを察知していたのか聞き覚えのある透き通った声が聞こえた。


「ごめん、遅くなった、お待たせ」


ふたりは北斗を見てやばいと思ったのか真哉は俺の胸ぐらを放して優弥は真哉の腕をつかんだまま立っていた。


「どうしたの?」


北斗はきっとこの状況はかなり不審に感じている。だけど北斗は北斗なりにそれを感じさせないように少し笑って聞いてきた。

俺はなるべく明るい声で

「なにもない、ごめん大丈夫だから、もう帰ろわざわざ迎えありがとうね。」

と言った。うまく言えていたかはわからないけど俺がここでなにか言わないとこのふたりがなにを言いだすかわからないから。とにかく早く帰らないと。俺は心のなかでふたりに北斗にはなにも、言わないでくれそう思った。

「そっか。わかった。じゃあ帰ろ、ふたりともありがとう、また連絡する。」

北斗は納得してなかったと思うけどしているような振りをしてそうふたりに言って歩き始めた。

そうして俺は北斗とふたりで歩きはじめて少ししてから俺はひとつ、ふたりに伝え忘れたことを思い出した。

「あ、北斗ごめん、ちょっと忘れ物した先行ってて。」

「わかったひとりで先いくのやだからここでまってるよ。」

「わかった。」

そう言って俺は北斗に背を向けて気まずそうに戻っていくふたりのあとを追った。

それに気づいたふたりが俺の方をみて立ち止まった。

俺はそのふたりに向けて言い忘れていた言葉を口にした。

「このこと。今日何があったか北斗に聞かれても絶対言わないでくれ、言うとしても俺がいなくなってからにしてくれ、頼む。」

ふたりはただ頭を下げる俺のことを見てなにも答えなかった。俺は顔をあげてふたりの顔を一回見てそのまま北斗の方へと走っていった。

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