第3話 子爵家の恥さらし

「いくらなんでも酷いじゃないですかっ!」


マリアンはいつだってイリスの味方だよ。

赤ん坊の頃からずっと世話をしてるものねぇ。

6才年上のお姉ちゃんみたいな存在だ。


「しょうがないよ・・・」

「これじゃお嬢様が・・・」

「ありがとうマリアン。でも良いのよ、

却ってこの方が気楽だから。本当よ」

「お嬢様・・・」


王都の中でも高級にランクされているホテル。

本館は貴族専用で、当然だけどお高ぁ~い!

今朝まではその本館の部屋に泊っていたんだ。


王都の外堀の門をくぐったのが2日前。

そして今日、降霊の儀をおこなった。

コーランド子爵家からは4人の子女が参列したよ。

本家嫡男フランクの子ダニエル、二女で分家に嫁いだ

コルデリアの娘ナンシー、同じく分家の子グレッグ。

そしてイリスだ。


精霊にはランクがあってね。

虫や爬虫類系は下級で、平民の大部分はこのクラス。

鳥類と小動物は中級、貴族なら当然!

犬猫以上の哺乳類と猛禽もうきん類は上級、高位貴族にはこのクラスが

相応しいとされているね。


法力の強さって遺伝するのよ。

ってゆーか遺伝に左右されるってのが正解。

精霊遺伝子ってのがミトコンドリアDNAに組み込まれてるの。

その遺伝子の発現率が高ければ高位の精霊と契約が出来るのよ。

貴族たちは高位精霊の契約者同士で婚姻を結んで来たのよね。


そして最も上のクラスが人型の特級精霊!

しかも何故か女子限定!

いや、ちゃんと理由があるんだけどね。

その話はまた今度にするよ。

その特級精霊と契約した娘を聖女と呼ぶの。

まぁ~滅多に出ないよ。


イリスの母親が準男爵家出身なのに上級精霊と契約したのが、

どんだけぇ~~~

なのが分かるでしょう?

そりゃ~もう厚待遇で迎え入れたのよ。

イリスにもすんげぇ~期待してたの。


ダニエルはハトの精霊、まぁこんなもんだな。

ナンシーはムササビ!おぉ~哺乳類だ!

ドヤ顔がちょっとムカつく。

グレッグはツバメ、3人共に子爵家として及第点だね。


さぁ!本日のメインイベント!

イリスちゃんの番だよ!

さぁさぁ、祭壇に登ってぇ~

呪文を唱えるんだよぉ。

いっぱい練習したもんね!


すぅ~~~っと深く息を吸い込んで・・・


「クワズィーヤォー(風よー)

   ヒューキャリィーヤォー(光よー)

ニュインパオッ!(忍法!)

   ツィッティーヒュンゲル!(ちち変化!)」


あのね・・・実はね・・・かなり発音が変だけどね

よ~く聞いてもらったら分かると思うんだけど、

呪文ってね・・・日本語なの・・・


ほら、サーシアって転生者だって言ったじゃん?

じゃぁ~どっから来たの?って事だよね~

日本人なんだよぉ~

しかも昭和バリバリ~


色々と事情があってさぁ、全ての呪文がリセット

されちゃった事があってね。

サーシアとルルナがもう一度、全部を作り直したのよ。

この降霊の呪文もそうなんだ。

昭和の特撮ヒーローのセリフをパクったの。

ライオンなんちゃらってやつ。

本人は大真面目なんだよね。

そーゆー奴だったの、サーシアって。


まぁ、それはさておき。

肝心の精霊だよね。

さぞかし高位の精霊が降りて来るんだろうね!

みんなが、おぉ~~~ってなるくらい!


イリスの詠唱に呼応して、祭壇に虹色の光が螺旋を描く。

精霊の降臨だ!


「え?」

「何あれ?」

「そんなバカな!」


当主ハロルドの顔が驚きから失望へ、そして怒りへと変わって行く。


「さっさと降りて来なさいっ!」


精霊殿の中には他の貴族たちも居る。

とんだ恥さらしだ!

下位とは言え貴族の子女にあるまじき醜態だ!

間違いなく噂になるだろう。

なんて事だ!


「何をしておるのだ!こっちへ来なさい!」

「は、はい・・・お父様」

「宿に戻っていなさいっ!部屋から出てはならぬぞ!」

「はい・・・も、申し訳ありません・・・」

「もう良い!早く行かぬか!」


もう泣きそう・・・

でもダメ!泣いちゃダメ!

笑うんだ!笑ってこの子に言うんだ!

良く来たね!って・・・

宜しくね!って・・・


イリスの腕の中でチロチロと可愛い舌を震わせて

真っ白な小さいヘビが見上げている。

爬虫類で何が悪い!

こんなに可愛いのに!

こんなに可愛いのに・・・


ごめんね・・・泣いちゃった・・・


***


宿に戻って部屋に籠り、ヘビちゃんの頭を人差し指で

撫でながら、どんな名前にしよーかなぁ~って

考えてたら、コンコンってノックの音がした。


「どう言う事ですかっ!」


ん?

なんか随分怒ってるなマリアン。

どうやら、この階を仕切るパーサーと揉めてるみたい。


「どうしたの?」

「部屋を移れと言うんですよ!」

「部屋を?」


え?なんで?


「子爵閣下の御指示で御座います」

無表情のパーサーが言うには、ハロルドの使者が来て

別館の部屋に移るようにとの事らしい。


「お父様の?」

「はい、速やかにとの事で御座います」

「そう・・・」


「そんな!何故お嬢様が------」

「分かりました、案内して下さい」

「お嬢様!」

「お父様の指示に従いましょう、マリアン」

「お嬢様・・・」


要するに体裁ていさいが悪いってわけね。

貴族だらけの本館に爬虫類の精霊を連れた娘が

子爵家でございまぁ~す!なんてねぇ。

笑い者にされるに決まってるもの。


案内されたのは三つある別館の中でも最低ランクの

建屋の一室。

それでも結構に立派だよ?

平民用だけど金持ち連中が泊る所だからねぇ。

まぁ、本館と比べたら安っぽく見えちゃうよね。


「なんで・・・なんでお嬢様が・・・」

「お茶にしましょう、マリアン」

「はい・・・畏まりました・・・」


気分転換には、お茶が一番!

マリアンの淹れるお茶は優しい香りがする。

お母様も大好きだった。


「さぁて、あなたの名前よね!」


どんなのが良いかなぁ~?

騎士様のようなカッコ良いの?

それとも王子様みたいに優雅な?

あっ!でも女の子かも?

どっちだろう?

精霊にオスメスなんてあるのかな?


「う~~~~~~~ん」

「どうしたのですか?」

「ねぇ、この子は男の子かなぁ?それとも女の子かなぁ?」

「さぁ?」

「あなたはどうやって決めたの?」

「エリザベスの事ですか?」


マリアンの契約精霊はスズメだ。

これでも準男爵家の娘なんだよ。

母アマンダの姪っ子なんだ。

イリスとは従姉いとこの関係ね。

まぁ貴族と言っても扱いは平民と大して変わらない。

貴族戸籍に名前が載ってる家柄って事くらいだね。

それでも平民よりは信用できるから使用人として重宝されているんだよ。


「私は憧れのコブシ・ジェンヌにあやかりました」


古い伝統と格式を誇り、世界中に劇場を持つ歌劇団。

その名もコブシ歌劇団。

創始者は大聖女エルサーシアの娘アルサラーラ。

情熱の聖女と呼ばれた芸術の守護者だよ。


「あっ!それ良いかも~!私もそーしよーかなぁ」

『まっぴらごめんだわ』

「えぇ~なんでぇ~?」


・・・・・・「え?」


「お、お嬢様・・・今、この子・・・」

「しゃ、しゃべった?」


おやまぁ~精霊が言葉を話すなんてねぇ。

そんなの有り得ないよねぇ。

でも・・・昔は喋ったんだけどね・・・


『私にはリンゴって最高に可愛い名前が有るのよ。

別の名で呼ばれるなんて嫌よ』


わぉっ!リンゴちゃんだったの?

あっ!喉に八個の赤い鱗があるね。

確かにリンゴちゃんだぁ~

気が付かなかったよぉ~ごめんねぇ~

いやぁ~久し振り~


「な、な、なんで?なんでしゃべるの?」

『高級精霊なんだから言葉くらい話せるわよ』

「高級?でも、あなた・・・ヘビ・・・」

『ただのヘビじゃ無いわ!よ!十二支の巳なのよ!』

「ミ?ジュウニシ?」

『はぁ~これだから田舎者は嫌いなのよね。

サーシアの契約精霊くらい勉強しときなさいよね』


そう!リンゴちゃんはサーシアの眷属けんぞくなの!

特級の次に高位の高級精霊!

他にもいるよん!十二支だもんね。

そうかぁ~そうだったのかぁ~

おかしいな?とは思ったのよね。

イリスの法力なら人型じゃね?って思ってたからさぁ。

リンゴちゃんなら納得だよ!


「サーシアって?」

『あんた馬鹿なの?サーシアを知らないの?』

「ば、馬鹿・・・サーシアってまさかエルサーシア様?

そんなわけ無いか~ははははは・・・マジで?」

『マジで!』


マジで!

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