邪心母との決着
邪心母の腹から大量の子蜘蛛がついに解き放たれる。
子蜘蛛といっても、人間大サイズの巨大な蜘蛛の群れであり、一匹いっぴきが強大な霊力を保有している。
あんな数を一匹ずつ相手にしていたら、こちらの霊力がもたない。
しかし……。
【 《子蜘蛛の群れ》 を 《凍てつかせよ》 ! 】
ルカの言霊と同時に、凄まじい吹雪が起こる。
広範囲に吹き荒れる氷の暴風は、たちまちに子蜘蛛の群れを凍結させてしまった。
「あ、あれだけの群れを一瞬で!?」
「なんて力ですの!?」
「あれが、璃絵さんが使役していたっていう『妖魔』の力なのか!」
高密度に編まれた霊力の奔流に、俺たちは目を見張る。
アレが『百鬼夜行』──妖魔一族と呼ばれる者たちの力!?
【 《砕けて》 】
ルカがパチンと指を鳴らすと、氷塊と化した子蜘蛛が一斉に砕け散る。
「やめて! 私から家族を奪わないで!」
子蜘蛛を失ったことで邪心母が悲鳴混じりの絶叫を上げる。
邪心母の腹部が縦に割れたかと思うと、牙の生えた口のような器官が開く。
その切れ目から、毒々しい光が生じ、霊力による破壊光が放出される。
アイシャが慌てて防護結界を張ろうとするが、それをルカが手で制す。
「大丈夫。雹妃に、凍結できないものは存在しない」
ルカが手を前にかざすと、再び吹雪が起こる。
【 《霊力の塊》 を 《凍てつかせよ》 】
破壊光が俺たちのもとへ飛来する寸前に氷の暴風が壁となり、その進行を防ぐ。
……いや、防ぐどころか。
熱量の塊であるはずの破壊光は白い氷柱となって、粉々に砕け散った。
マ、マジかよ!? ビームを凍らせる氷技なんてバトル漫画でも見たことねえぞ!?
「いかなる技だろうと、それが霊力なら、雹妃は凍らすことができる」
『その通り。そして──あなたのことも』
「っ!? ああああああ!!」
邪心母の体が足下から上に向かって徐々に凍り付いていく。
イケル! あのままなら邪心母も氷漬けにして砕くことが……。
「私は……負けられない! 影浸、あなたのためにもおおおおお!!」
「っ!?」
氷漬けになった部分だけを、邪心母は切り離した。
体はすぐに再生し、元の異形の姿を取り戻す。
「殺ス! 皆殺シニシテヤルゥゥゥ!!」
邪心母の全体が紫色の炎に包まれる。
まるで彼女の執念と怨嗟を物語るように、煌々と。
──ギィギィ!
邪心母の腹からさらに凶悪な姿となった子蜘蛛が大量に出現し、こちらに向かってくる。
「……やっぱり、一筋縄ではいかないみたいだね」
ルカが俺たちのほうを振り向く。
「みんな。力を、貸してくれる?」
答えるまでもなく、俺たちはルカの隣に並ぶ。
「最初からそのつもりよ」
「ルカだけに良いところは見せられませんわ!」
「今夜はさんざんあの女に振り回されてるんだ。オレも一発くらいは殴らないと気がすまないぜ」
「ああ、一緒に戦おうルカ」
ルカの片手を俺はそっと握りしめる。
「ダイキ」
「前にも言ったろ? 俺たちはもう守られ守るだけの関係じゃない。俺もルカも、こうして新しい力を得た。俺たちは──これからずっと一緒だ。同じ道を、進んでいこうぜ!」
「ダイキ……うん!」
同じ目線に立って、俺とルカは敵と向かい合った。
『
「おわっ!? 何だ!?」
いきなりルカの体からまた掛け軸のようなものが飛び出した。
墨まみれの掛け軸からは粗暴で乱雑っぽい男の声が響く。
『宿主が璃絵から変わったときは心配してたがよぉ……どうやら退屈せずに済みそうだ! いいぜお嬢! 俺様も力を貸してやるよ!』
掛け軸が赤黒い光を放つ。
『さあ呼びな! 俺様は火の妖魔を統べる頭領! 名は──』
掛け軸の墨が消え、炎を吐き出す百足の絵が現れる。
「妖魔八大将・
ルカの背後に炎を纏った巨大な百足が現れる。
って、あっちいいいいい!?
『呵呵呵呵! 悪ぃなお嬢の旦那よぉ! 俺様ってば火力の調整が下手でなぁ!』
「ダイキが旦那さん……お前、イイコだね。よしよし」
現れた巨大百足の頭をルカがご機嫌に撫でる。
宿主だからなのかわからんが、ルカは百足に手を触れても大丈夫らしい。
俺は尻が熱いってのに。
『さてお嬢! あの女郎蜘蛛への道は俺様が造ってやる! 乗りこなしてみな! 「炎の道」をよ!』
「これは……なるほどね!」
ルカは紅糸繰を出現させ、大太刀の形態『繊月』に変える。
「はっ!」
刀剣を握りしめてルカが跳躍すると、その体は高速で空中を飛び交った!
「ハアアアアア!!」
繊月の刀身に炎が灯る。
高速で宙を旋回しながら、ルカは擦れ違いざまに子蜘蛛の群れを断ち斬っていく。
──ギィィィィ!!
子蜘蛛は裂かれると同時に炎で焼かれ、爆散した。
ルカは止まることなく、まるで見えない足場があるかのように空中を滑っていく。
「お前ら! ボーッとしてる場合じゃねえぞ! お嬢さんがあの蜘蛛女のところに辿り着けるようにフォローするぞ!」
「っ!? 押忍!」
ツクヨさんの指示で俺たちも動き出す。
無尽蔵に生まれでる子蜘蛛の群れを各個撃破していく。
『キリちゃん! 右から攻撃! アイシャちゃん! そこで砲撃! ツクヨさん! 後ろから奇襲! ダイくん! 「狼」から「虎」に霊獣を切り替えて!』
『鐘の音よ──皆さんに癒しを!』
レンとスズナちゃんのサポートもあり、俺たちは確実に邪心母のもとへ近づいていく。
「やめろ! やめろ! これ以上、私から大切なものを奪うなあああ!!」
邪心母が騒然と叫ぶ。
ルカは彼女を救うべき人だと言った。
……なんとなく、俺にもわかる気がする。
悲壮めいた唸りを上げる邪心母は、煉獄の炎に焼かれて、苦しみ悶えているように見えた。
「ダイキ! 一緒に来て!」
「っ!? ルカ!」
空を疾走するルカが俺に手を伸ばす。
伸ばされた手をしっかりと取り、俺はルカと共に空を駆ける。
「これは!?」
ルカと手を繋いだ影響か、俺にも見えた。
ルカが見ている景色が。
それは、まさに『炎の道』だった。
百足のように長く伸びる足場が、まるでジェットコースターのように空中でカーブを描いている。
それは赤い炎を発しながら進路を変え、ルカを邪心母の元へと導いている。
ルカはその道の上を疾走していた。
ルカと手を握っている俺も、特に熱さを感じることなく、進路に従って足が滑っていく。
「一緒に、終わらせよう。邪心母との因縁を」
「ルカ……ああ!」
炎の道は終わり、俺とルカは邪心母の真上へと飛び立つ。
【 《炎》 よ 《我が刀剣に宿れ》 ! 】
邪心母を包む炎が、ルカの刀剣に向かって集まっていく。
『呵呵呵呵! この程度の炎、俺様の炎として呑み込んでやるよ!』
奪った炎によって、刀剣の輝きがさらに増幅し、光の柱を生み出す。
「破ッ!!」
ルカが燃えさかる刀剣を一閃する。
邪心母はおぞましい悲鳴を上げながら、全身に深いを切り傷を負う。
「……あれは!」
見えた。
邪心母の胸元に、黒く変色した心臓が鼓動を上げているのを。
影浸を撃破した俺には、直感でわかる。
魔骸転身した侵徒にとって、あれこそが弱点だと。
「ダイキ! お願い!」
「おう!」
霊獣『砂霧』の力で、空中に砂の足場を作り、思いきり踏み込む。
「うおおおおお!!」
邪心母に向かって、空中で加速。
「霊獣解放──火花!」
拳を構え、霊獣を『火花』へと切り替える。
爆炎を拳に宿し、振りかざす。
「終わりだ、邪心母!」
無防備な心臓に向けて、いまこそ渾身の一撃を放つ。
「餓狼拳!!」
炎の拳が、邪心母の心臓を貫く。
黒い心臓は眩い白光を放ちながら、潰れた。
「ウゥ……ウワアアアアアアアアアアア!!!」
心臓を中心にして、邪心母の全身に白く輝く亀裂が広がる。
ルカと共にすぐに炎の道で邪心母から離れると……。
「イヤ……マダ、消エタクナイ……アアアアアアアア!!!!」
凄まじい爆音を立てて、邪心母は弾け散った。
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