素敵な写真を撮ろう【中編】

   * * *



「そうそう! いいぞ白鐘君! もっと表情を物憂げな感じに……そう、そんな感じだ! いいねいいね~! 女子高生が出す色気じゃないぞ~!!」


 藤木さんはハイテンションで愛用のカメラでシャッターを切りまくっていた。


「次はそのバランスボール乗ってみてくれたまえ!」

「いいよ~。んっ……ダイキ、見ててね? あっ。んっ……」


 カメラというよりも俺に対して見せつけるようにルカはバランスボールの上で跳ねる。

 体操着越しで特大のオッパイがバルンバルンと盛大に弾む。

 サイズが小さめのためか、チラリと見えるお臍とくびれも大変セクシーだ。


「……何か、グラビア撮影の現場みたいだね」

「やめなさいレン。思ってても口にしちゃダメ」

「はわわわ。ルカさん、とっても扇情的です。スズナ、ドキドキしちゃいます!」


 後方ではルカ以外の女子陣が撮影を見守っている。

 あたかも自分たちが被写体にならないことを祈るように。

 ……しかし、その祈りは虚しく散ることとなる。


「ん~……違う! 確かに扇情的だが、私が求めるエロスとは何か違う! 未成熟な少女でありながら極上の発育をした女体にブルマの組み合わせ。これが最適解だと思っていたが……何か! 何かが足りない! やはり王道は黒髪に熟した女の色気ということか!」

「え?」


 藤木さんの目はレンのほうに向く。


「うおおおお! 『なんだその膝枕に特化したぶっとい太ももはビーム!』」

「みぎゃ~!?」


 藤木さんのビームが今度はレンに炸裂!

 見る見るうちにレンの衣服が替わっていく!


「赤嶺君! 君には女教師をやってもらう!」

「え~!?」


 レンの格好は先生たちが身につけるような教員スーツになっていた。

 しかしそれはまるでアダルト作品に登場する女教師のように際どいデザインだった。

 スカートはタイトで短く、黒タイツに包まれたムッチムチの太ももが大変セクシーだ。

 ブラウスは普段通り胸の谷間が見えるくらい外されており、豊満なオッパイが強調されている。

 JKの制服姿だと小悪魔的な印象だったが……女教師の格好だとまさに魔性的なエロスを醸し出す。

 やべえ、女教師の格好、滅茶苦茶似合うなレンのやつ……。


「……こら~ダイく~ん? どこを見ているのかな~?」


 いきなり女教師の格好にされて困惑していたレンだったが、俺が注目をしていることに気づくと、いつものスイッチが入ったようで、イタズラっぽい笑みで迫ってくる。

 しかし格好のせいか、いつもの小悪魔っぽさとは異なる、大人の色香がムンムンと漂ってくる。

 レンはスーツに押し込められた特大のオッパイをぷるんと弾ませながら、俺の耳元に顔を近づけてくる。


「いけませんよ~? 先生をエッチな目で見たりしちゃ。後で、先生のところに来なさい? ……お・仕・置・き・しちゃいますからね~?」


 ふぅーと耳に息を吹きかけて、色っぽい声色で囁くレン。「あひぃ~」と情けない声が出てしまう。


「……レン、何だかんだであんたもノリ気じゃないの」


 キリカが後ろで呆れ顔を浮かべていた。


 選手交代で今度はレンが被写体となって撮影が始まる。


「いいよ赤嶺君! もっとこう蔑む感じで! 見下ろす感じで! そうそう! いいね! サディスティックな色気が出ているよ~! 今度は机の上に座って足を組んでみてくれたまえ! かぁ~っ! なんてエロい太ももなんだ!」


 さすがは一流のインフルエンサーといったところか、レンのカメラ写りは大変良いようで、藤木さんは満足そうに撮影を楽しんでいた。

 しかし……。


「……惜しい! まだ何か足りない! なぜだ! モデルはこんなにも完璧なのに!」


 どうもまだ彼女の納得のいく一枚ができないようだ。


「くっ! こうなったらいろいろ試行錯誤していくしかあるまい! 次は君だ黄瀬君! 『お嬢様のご奉仕するところが見てみたいんだよビーム』!」

「あ~れ~!?」


 今度はスズナちゃんがモデルとなった。


「ご主人様~! スズナの愛情たっぷりの紅茶飲んで欲しいですニャン♡」


 スズナちゃんが身につけたのは猫耳ミニスカメイド服だ。

 肩や胸の谷間が盛大に見えるだいぶエッチなデザインである。

 うっ。普段露出の少ないスズナちゃんの際どい格好……たいへん目に毒だ!


「ん~! 清楚なお嬢様がハレンチなメイド服でご奉仕する姿! 実にアンバランスで背徳的だ! ……でも違ああああう! たいへんエロくてキュートだが、求めているエロスと離れてしまった! 次は君だツンデレ君!」

「だから何でアタシは名前じゃなくてツンデレ呼びなのよ!? ちなみにアタシは絶対にやらないからね!?」

「問答無用! 『実は押しに弱いだろビーム』!」

「ぎゃああああああ!!」


 抵抗も虚しく、キリカもビームを浴びて衣装を替えられてしまった。


「うむ! やはり君はくノ一姿が似合うと思っていた! 試しに『くっ! 殺せ!』って言ってみてくれ!」

「この格好のどこがくノ一なのよ!? 体のラインが丸わかりじゃないのよ~!! うわ~! 黒野コッチ見るなああああ!!」


 キリカの格好は一応、くノ一とのことだが……どう見てもそれはラバースーツを和風にアレンジしたもので、巨大な乳房やくびれたウエスト、丸く大きなお尻の形がそれはもう凄いくらいに強調されていた。

 くノ一というより、女スパイって感じだな。いや、くノ一もスパイだから、あながち間違ってないのか?


「ん~! その抵抗する姿が嗜虐心をそそる! でも、惜しい! まだ、まだ何か足りない! あともうちょっとって感じなのに! ああ、他に極上の爆乳美少女はいないのか!?」


 藤木さんの願いが届いたのかわからないが、オカ研の部室に来客が訪れる。


「クロノ様~♡ 親愛なる貴方様のためにわたくしヨーグルトを作ってまいりましたの~♡ 特別なミルクからたっぷりと熟成させましたのできっとお口に合うと思いますわ~♡」


 毎度のように勝手に学園に侵入してきたアイシャであった。


「って、何をしてますの皆様! そんなハレンチな格好をなさって!」

「いやどう見ても君の格好が一番ハレンチだと思うな! 何だい、そのドスケベなシスターのコスプレは!?」

「んまっ!? 何てことをおっしゃいますの!? これはコスプレではなく立派な正装でしてよ!?」

「性装とな!? ええい何でもいい! 何てエロいシスターだ! オッパイもお尻も太もももバインバインンしやがって! あちこち『むちむち』うるせー体だなオイ! 『もう充分エッチだがもっとエロい姿が見たいんだよビーム』!」

「んほおおおおおおおお!!?」


 なし崩し的にアイシャもモデルとなった。


「はぁん♡ 事情はよくわかりませんがクロノ様が喜んでくださるのなら、アイシャは喜んでモデルとなりますわ~♡」


 着崩れた浴衣姿のアイシャは、指示もしていないのに自らなやましいポーズを取る。

 身動きするだけで、いまにも浴衣からこぼれ落ちそうなバカデカイおっぱいが「どたぷん♡ ばるるるん♡」と弾みまくる。

 布の切れ込みから伸びる生足も色気たっぷり。


「あむっ♡ くちゅっ♡ おいしい♡」


 持参してきたヨーグルトを艶めかしく口にする姿もたいへんセクシーだ。

 エロい。相変わらず、エロ過ぎるぞこのシスター。

 これこそ究極のエロスと言えるのではないか?


「あ~ん♡ クロノ様の熱い眼差しを感じますぅ♡ 必要とあらばこの浴衣も脱ぎ捨てて生まれたままの姿になりますわ♡ 芸術のためならば脱ぐのも仕方ありませんわよね♡」

「……ダメだ! これはエロスではなく、ただの淫乱だ! 淫乱なシスターだな!」

「なんですって!? 清き淑女であるわたくしのどこが淫乱だとおっしゃいますの!?」

「「「「鏡見なさい」」」」


 オカ研女子総出でツッコミを入れた。

 残念ながらアイシャであっても藤木さんのお眼鏡に適わなかったようだ。


「な、なぜだ! これほどの逸材が揃っていながら、なぜ納得のいく一枚が撮れないんだ!」


 思うように写真ができないせいで、藤木さんはすっかり頭を抱えてしまっている。

 弱ったな~。芸術のことはまったくわからんから、これ以上力になってやれそうにないぞ。


「……むっ? 黒野君……君って、結構体を鍛えているね?」

「はい?」


 藤木さんの興味の矛先は、なぜか撮影のサポート役である俺に向けられる。


「……そういえば、男性を被写体に選んだことは、まだなかったな」

「あ、あの、藤木さん?」

「黒野君。脱ぎたまえ」

「え?」




 フラッシュが瞬く。

 パンツ一枚になった俺の姿を激写すべく。


「カァーッ! これだ! これぞ求めていた境地だよ! なんてバランスの取れた肉体美! 男性にしか出せないエロスが滲んでいる! 黒野君! 今度は猫のようなポーズを取りたまえ!」

「こ、こうですか?」

「いいねいいね! 実にエッチだよ! 大変エッチだ! 特に鎖骨! なんてエッチな鎖骨なんだい!」


 いや、男のセミヌード写真とか誰得なんだよ! アイドルならともかく!

 しかし、なぜか藤木さんを含めて他の女子陣も俺の撮影に盛り上がっていた!


「ダイキ! 本当になんてエッチな鎖骨なの! いっつもそのエッチな鎖骨で私を誘惑するんだから! 反省してよダイキ!」

「本当! エッチな鎖骨だねダイくん!」

「ダイキさん! 鎖骨エッチです!」

「ハレンチな鎖骨だわ!」

「ぶはあああああああっ!!! クロノしゃまのお美しい鎖骨を見てアイシャもうたまりませんわあああああああああ!!!」


 ひどい! そんなに鎖骨をエッチと言わないで! 何だか恥ずかしくなってきたじゃないの! いやん!


「いいこと思いついた! 白鐘君たち! ちょっと黒野君にくっつきたまえ! 皆のエロスを合体させるのだ!」

「何ですと!?」


 何かとんでもないことを言い出したぞこのエロスの探求者!

 キリカを除いた女子たちの目がキランと光り出す。


「芸術のためなら仕方ないね」

「そうだね、仕方ないね」

「仕方ありません♪」

「仕方ありませんわあああああ♡♡♡」

「どわあああ!!」


 エッチな衣装を身につけた爆乳美少女たちが体を押しつけてくる。

 ルカは赤ブルマを身につけたお尻を。

 レンは黒タイツに包まれた太ももを。

 スズナちゃんはメイド服からこぼれ落ちそうな深い胸の谷間を。

 アイシャは股間に向けて顔を押しつけて思いきり深呼吸してきた。


「ツンデレ君! 何をしている! 君も参加したまえ!」

「いやよ! 何でそんなことまでしなきゃいけないのよ!?」

「頼む! あと少しで完成するんだ! 私が求めている至高のエロスが! それを見れれば成仏できるから! どうか私を救ってくれ!」

「ぐぬぬぬぬ……ああもう! やればいいんでしょうが! おらあああ!」

「わぷっ!」


 キリカがヤケクソ気味に飛びかかってくる。

 体の輪郭がピッチリとしたラバースーツで爆乳やら太ももを密着させてくる。

 かくして全身が五人の爆乳美少女たちに包まれた男の図が完成する。


「……これだ。これだよ! 私が探し求めていたエロスは! ……ありがとう! ありがとう君たち! これで心置きなく成仏できて……あれ?」

「……ん?」


 至高の一枚が撮れたことで、感動の涙を流す藤木さん。

 そのまま昇天していくかに思えたが……しかし彼女の霊体はいまだに現世に留まり続けていた。


「ど、どうして!? 満足のいく一枚が撮れたのに! なんで成仏できないんだ!?」

「ちょっと! 話が違うじゃない! あんたが成仏できるようにこんな恥ずかしいことをしたってのに! 実はこれが未練じゃなかったっていうの!?」

「い、いや! 違う! 私にとってエロスは撮りたかった題材だ! それが未練のはずなんだ! でも……何か、忘れている? 私は、他にも、撮りたかった写真が、あるのか?」


 藤木さんは記憶を掘り返すように自問自答する。

 霊にはよくあることだ。肝心な記憶が朧気で思い出せなくなるのは。

 まだ、あるのだ。

 藤木さんを現世に留める理由が。


「……うわああああ! 思い出せん! こうなったら何でもいい! 『私の本当に見たいものを見せてくれビーム』!」

「「「「「わああああ!?」」」」」


 五人一斉に藤木さんのビームを浴びる。

 破れかぶれに放たれた衣装替えビーム……いったいどんな格好にされるのか不安に思いつつ目を開けると……。


「……え?」


 目の前に広がっていたのは、先ほどまでのエロスとは程遠い光景だった。

 白いウェディングドレスを身につけた五人の美しい花嫁たち。

 そして俺はタキシードを着ていた。


「ウェディングドレスだぁ。憧れてたから、嬉しい」

「わあ! 素敵!」

「皆さん、お綺麗です!」

「え!? ちょ、ちょっと! こ、これじゃまるで黒野とけけけけけけっこ……する、みたいじゃないのぉ……」

「まさか二度もこの装いができるだなんて……感激ですわ」


 やはり女の子にとっての憧れだからか、ルカたちはウェディングドレスを着れてはしゃいでいた。

 でも……これが藤木さんにとって本当に撮りたいものなのか?


 カシャッとフラッシュが瞬く。

 見ると、藤木さんは涙を流しながら写真を撮っていた。


「……思い出した。やっと、思い出せた。私が、最後に撮りたかったもの……」


 先ほどまで自由奔放に振る舞っていた態度は薄れていた。

 やるべきことをハッキリと見つけ、覚悟を決めた顔がそこにはあった。


「……すまない。最後にひとつ、頼まれてほしい」


 藤木さんは、かつて暗室だった物置部屋に入り、しばらくして、ひとつのカメラを持ってきた。


「お願いだ。このカメラを、ある場所に持っていってほしいんだ」



 

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