素敵な写真を撮ろう【前編】


 今日はオカ研の皆で部室の掃除をしていた。

 いろいろと物が増えたので整理することになったのだ。


「ダイくん、ついでだから隣の物置部屋も片付けよっか」

「おう、了解だぜ部長」


 オカ研の部室には内扉がある。なぜか窓もない部屋で、俺たちの代よりもずっと前の生徒たちの私物が置きっぱなしの状態になっている。

 俺とレンはそこを担当して、必要そうなものと不要なものをダンボールに小分けしていった。

 それにしても随分といろいろなものがあるな~。

 ひと昔の雑誌だけでなく、ラジカセやら卓球ラケットやらメイクセットなんかも出てくる。この果物のオブジェとか何に使うんだ?


「わっ! 見てダイくん! ポラロイドカメラだよ!」


 レンが目を輝かしながら見せてきたのは、古いデザインのポラロイドカメラだった。

 写真を撮ると、その場で現像された写真が出てくるタイプのカメラである。


「へ~、古そうだけど随分と立派なカメラだな。やっぱインフルエンサー的にこういうのに興味あるのかレン?」

「くくく、こういうマニア受けしそうな古い物ほど高値で売れたりするのだよダイくん。捨てずに残すならこういうヤツだよ……」


 黒い笑顔でレンが言う。

 そっちが目的かい。


「ねえねえ、このカメラまだちゃんと使えるか試してみようよ! ダイくん! そこ立ってて! ほら、ピースピース!」

「え? え~と……いえ~い」


 レンがカメラを構えだしたので、咄嗟にポーズを取る。

 フラッシュが瞬く。

 どうやらまだ壊れてないらしい。

 音を立てて写真がカメラから抽出される。


「おっ、出てきた出てきた。どれどれ、ちゃんと撮れてるかな~?」


 レンと一緒に出てきた写真を確認する。


「あれ? まだ真っ白だぞ?」

「えーと、すぐには現像されないみたいだね。だいたい十分くらいかかるらしいよ?」


 スマホで調べたレンがそう教えてくれる。何だ、そんなにかかるのか。


「ついでだから私のことも撮ってよダイくん! 綺麗に撮ってね~♪」

「おう、任せろ」


 ポラロイドカメラという未知のアイテムを見つけた俺たちは片付けも忘れて撮影を楽しむという、見事にお片付けの途中で起こりがちなトラップに嵌まってしまった。


「はい、チーズ」

「いえーい♪」


 フラッシュが瞬く。

 可愛らしいポーズを取るレンの後ろで……一瞬だけ、人影が映った気がした。


「え?」

「ん? どしたのダイくん?」

「いや、いまレンの後ろに……」


 ……き、気のせいだよな。うん、そうあってほしい。


「い、一枚目の写真、そろそろ現像できたんじゃないか?」


 怖さを誤魔化すため、撮った写真を見てみる。

 するとそこには……。


「ひっ!?」


 ゆっくりと現像されていくポラロイド写真。

 笑顔でピースをする俺の背後に……黒い影のようなものが映っていた。


「ダ、ダイくん、これって……」

「し、心霊写真っ!」


 じゃあ、やっぱりさっきレンの背後に見えたのは……。


 とつぜん、物置部屋の電気が明滅する。


 ──……シテ。


「ひっ!?」


 掠れるような声が物置部屋に響く。

 ……いる。俺たち以外の気配がする!


 ──カメラ……返シテ……。


 震えながらレンと一緒に声のした方向を振り向くと……。


 ──私ノ……カメラ……返セ!


 長く黒い髪の女が立っていた。


「いやああああああああああああああああああ!!!」


 恐怖の臨界点を越えた俺は悲鳴を上げてレンに飛びついた。


「ちょっとダイくん! いつも思うけど普通こういうのは女の子の私がすべきリアクションじゃないかな!?」

「そんなこと言われたって怖いもんは怖いんじゃあああああ! 助けちくり~!!」

「あっ、ちょっ、こら、どこ触って……んっ♡ やんっ♡」


 際どいところを掴んでしまっているためか、艶やかな声を上げるレン。

 しかし怖さのあまり、それどころではない俺は悲鳴を上げるばかりであった。


 ──っ!? いいね! その色っぽい表情! 被写体としてグッドだ!


「え?」


 何やら霊の様子が急変する。

 ドンヨリとした黒いオーラは霞み、キラキラと星のような煌めきと一緒に実体がハッキリしていく。

 うちの学園の制服を身につけた少女の姿だった。


「うむ! その美貌と抜群のスタイル! モデルとして申し分ない! そこの君! 是非写真を撮らせてくれないか!?」


 霊はポラロイドカメラを握りながら、そんなことを頼んできた。



   * * *



 とりあえず害はなさそうなので、霊をルカたちのところへ連れて行った。


「私は藤木ふじき織絵おりえという。この部室は元々、写真部でね。私はそこの部長をやっていたんだ」


 霊の少女、藤木さんはそう自己紹介をしてきた。


「へえ~、ここって写真部だったんだ。すると隣の窓のない部屋は暗室だったんですね」

「そういうことだ。しかし、まさか写真部がなくなっていたなんてね……やはり今時カメラなんて流行らないのかね~……」


 藤木さんは寂しそうにポラロイドカメラを撫でた。

 どうやらお気に入りのカメラらしく、彼女の霊魂はそこに宿っていたらしい。俺とレンが触ったことで、目覚めてしまったようだ。


「ふぅん、これがいまのケータイカメラか。随分と高性能になっているね。私の時代でもケータイで写真を撮るのがもう一般的になっていたが……なるほど、これほど技術が進化したんじゃ、カメラを買って写真を撮る若者が減るわけだね」


 藤木さんは借りたスマホで何枚か写真を撮り、その性能に驚いている様子だった。

 確かにガラケーのカメラと比較すると、とんでもない進化を遂げている言えるだろう。それこそわざわざ専門的なカメラを買う必要がないほどに。


「でもね、私はやっぱりカメラで写真を撮るのが好きでね。生前は何でも撮ったものだよ。ほら、そこの棚にアルバムがあるだろ? それを作ったのは私だ」

「あっ! このアルバムのことですか!? とても綺麗な写真ばかりでスズナ気になっていたんです! どんな御方が撮られたのかなって!」


 スズナちゃんが嬉々としてアルバムを開くと、そこにはプロの世界でも通じそうな美しい写真でいっぱいだった。

 すごい。とても学生が撮ったものとは思えない。


「いや~、懐かしいね~。どれも大切な思い出ばかりだ。本当はもっといろんな写真を撮りたかったんだが……とほほ。まさかこんな若さで死んでしまうとはね」


 藤木さんはホロリと涙を流した。

 確かに、これほどカメラへの情熱を持ちながら、こんな若さで亡くなられるとは、さぞ未練があることだろう。


 ……そう、未練があるからこそ彼女はこうして霊としてこの世に残っているわけで。

 つまり、その未練を晴らさない限り彼女は成仏できない。


「そこでだ! 君たち頼む! 私の撮影に協力してくれないか!? 生前では実現できなかった、どうしても挑戦したいテーマがあるのだよ!」


 藤木さんは俺たちに必死に頼み込んできた。

 とても真剣な顔だ。

 なんせカメラに霊魂が残るほどの強い思いである。

 いったい、どんなテーマなのだろう。


「私が撮りたいもの。それはすばり……エロスだ!」

「よし、ルカ。ちゃちゃっと除霊しちゃおっか」

「りょーか~い」

「待ってくれ!? 何その鎌!? こわっ! いいのかな!? 暴力で訴えちゃっていいのかなぁ!? あーあー! 悪霊になっちゃうぞ~!? 未練を晴らすのに協力しないと悪霊になってそこの男子くんを襲っちゃうかもな~!?」

「ひいいいい!? ルカ待ってくれ! せめて話だけでも聞いてあげて~!」


 マジで悪霊化されても困るので、とりあえず詳細だけでも聞いてあげることにした。


「私の同級生の女の子に写真屋の娘がいてね。撮影道具を融通してもらったり、顔立ちもいいからモデルもやってもらっていたんだ。ほら、そこに写っている子だよ」


 アルバムの中に、亜麻色の髪の女子生徒の写真があった。

 確かに、モデルとして申し分ない清楚系の美人さんだ。


「彼女の魅力を引き出すために、私はあらゆるテーマに挑戦しようと思った。そして最終的に辿り着いた結論が……ずばりエロスだったのだよ! やはり女子はエロスで魅力が引き立つと! だが断られてしまった!」


 そりゃそうだろうよ。


「土下座して頼もうが、逆立ち全裸で放課後の校内を一周しようがスルーされてしまったんだ! そしてとうとう彼女のエロスを表現することもできないまま、ポックリ突然死してしまったというわけさ! 同情するならエロい写真を撮らせてくれ!」


 同情の余地がまるでない。


「ルカ! こんなハレンチな霊やっぱり早急に除霊すべきよ!」


 キリカも顔を真っ赤にして除霊を提案してきた。まあ、キリカは絶対にエッチなモデルなんて引き受けないだろうしな。

 ルカは面倒くさそうに溜め息を吐きながら藤木さんに照準を定めた。


「悪いけど、あなたの要求は受けられないよ? というわけで悪霊になられる前に除霊しま~す」

「そうはさせん! 喰らえ! 『銀髪赤眼の爆乳美少女とか最強属性過ぎんだろビーム』!」

「にょわ~!?」

「ルカ~!?」


 ルカが除霊を開始しようとした途端、藤木さんは手から謎のビームを放出!

 ビームはそのままルカに直撃してしまった!


「ルカ!? おのれ霊め! よくもルカを!」


 キリカが怒り顔で神木刀を藤木さんに向ける。


「安心したまえツンデレポニーテールくん」

「誰がツンデレよ!?」

「いや、どう見てもツンデレ属性がプンプンしているぞ君。そこの銀髪くんなら大丈夫だ。体に害はない」

「え?」


 確かに、よく見るとビームを浴びたのにルカの体に傷らしきものはなかった。

 変化していたのは……服装だった。


「あらま~?」


 ルカの格好はいつのまにか、制服から体操着に変わっていた。

 それも、うちの学園が指定している短パンではなく……。


「ブ、ブルマだとおおおおおお!?」


 そう、現代ではすっかり失われてしまった、赤色のブルマであった!


「んうううう! やはり私の目に狂いはなかった! 似合う! 実に似合っているぞ!」

「ちょちょちょっと! ルカに何て格好させてんのよあんた!」

「ふはははは! やろうと思えばできるもんだね! 彼女に着て欲しい衣装を想像しながらビームを放ったら見事イメージ通りの格好になってくれたぞ!」


 土壇場でなんちゅう霊術を身につけているんだ、この人。


「へいへい、そこの君~。黒野君と言ったか~? どうだい、彼女のブルマ姿は~? なかなかに刺激的だと思わないか~い?」


 やらしい笑みを浮かべながら藤木さんが同意を求めてくる。

 くっ。た、確かに、ブルマ姿のルカ……すごく、エッチだ。

 普段はあまり見せないルカの生足。レンほどではないが、ムッチムチに実った色白の太ももがブルマを着用することによって、これでもか強調されている。

 わ、わぁ。ルカってやっぱり足長いなぁ。白くて綺麗で……すごく柔らかそうだ。


「……ねえ、ダイキ? ブルマ姿の私……そんなに気になる?」

「え!?」


 素足に向けられる熱い視線を感じてか、ルカは蠱惑的に微笑みながら近づいてくる。

 心なしか、その表情は嬉しそうだった。


「いいよ? もっと近くで見ても」


 そう言ってルカは体育座りをして、足を強調するように見せつけてくる。

 ムチッとした太もも。

 股に食い込む赤いブルマ。

 思わずゴクリと唾を飲む。

 ルカはそのままコロンと寝転がって、お尻を見せつけてくる。

 食い込みによってヒップラインがハッキリとわかり、とんでもなくエッチだ。

 ルカはオッパイだけじゃなく、お尻も大きい。

 ブルマを履くことによって、まん丸としたセクシーなお尻の破壊力が増す。


「……ふふ♪」


 視線がお尻に釘付けになっていると、ルカはますます機嫌を良くしたのか、サービスとばかりにブルマに指を挿れ……。


 パチン♡


 と食い込みを直した。

 ……やべえ、鼻血出そう。


「おおおお! そのポーズいいね! 白鐘君と言ったか!? 君は男心を実に理解しているね! 撮れる! いまなら至高のエロスを撮影できそうだ!」

「いいよ。ダイキが喜んでるから、協力してあげる」

「ルカ!? あんた正気!?」


 キリカが困惑顔でツッコミを入れるが、ルカはすでにヤル気満々のようだ。


「その代わり、できあがった写真ちょうだい? ダイキにあげるから」

「承知した! 黒野君! 君はこのレフ板を持ってくれたまえ! さあ、撮影開始だぁ!」


 かくして、藤木織絵によるエロスをテーマにした撮影大会が始まった。



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