願いを叶えたのは……
「……な~にイチャイチャしてんのさ? 私が聞き込み調査している間に」
「うおっ」
いつのまにかレンが戻ってきていた。
俺たちのやり取りを見ていたのか、何やらご立腹のご様子である。
「レン。いや、べつにイチャイチャはしてないだろ?」
アイシャがひとり勝手にフィーバーしているだけだよ。
「あら、レンさん。聞き込み調査、ご苦労様ですわ♪」
そして相変わらず切り替えが早いなこのシスター。
先ほどまでの奇行はどこへやら、ニコニコと清楚な笑顔を浮かべて、ひと仕事終えてきたレンを労う。
「良き収穫はございましたか? いつものように解決の糸口になるような情報が見つけられたのなら喜ばしいことですが……さすがに、今回は相手が悪すぎましてよ?」
穏やかな笑顔はすぐに真顔へと変わった。
エクソシストとしての顔だ。
本当に、彼女は切り替えが早い。
「……こうして護衛の依頼を承っておきながら、こんなことを申し上げるのは心苦しいのですが……やはり今回の事件は我々人間にどうにかできることとは思えません。ましてや、この土地の神は自然そのものの具現……稲妻や嵐を相手にするようなものでしてよ? それでも、まだ諦めないとおっしゃるのですか?」
「……」
やはりアイシャの目から見ても、俺たちの行動は無謀に映るようだ。
縁結びの神。人間の不義理によって
真っ向から挑んで勝てる相手ではない。
そんなことは百も承知だ。
それでも。それでもだ。
「それでも、このまま放置しておくわけにはいかないだろ? こんな危険な『おまじない』が流行っているんだ。これ以上被害が広がらないためにも、せめて防ぐ方法を探さないと」
そうだ。
神に勝てないからといって、被害の拡大を傍観していい理由にはならない。
意中の相手の心を操り、強制的に縁を結び、都合の良い恋人として人格を豹変させる危険な『おまじない』。
そんなものがこの中学校では流行っているのだ。見過ごすことはできない。
恐らく、この学校には皆瀬さんのように【アカガミ様】の力によって結ばれたカップルが何組もいるはずだ。
つまり……それだけ人格が豹変した生徒がいるということ。破局した場合【アカガミ様】の手によって殺されるリスクを背負った生徒が数名いるということ……。
いったい、どれだけの数の被害が出ることか、想像するだけで恐ろしい。
徒労に終わるかもしれない。それでも、これ以上悲劇を起こさないためにも、何か行動せずにはいられない。
そして……ほんのわずかでもいい。
皆瀬さんを救える方法が見つかる可能性に賭けたい。
神の『誓約』を破らず、神の怒りに触れずに、皆瀬さんを助ける方法を……。
「それで、レン。どうだった? この学校には、あとどれぐらいの生徒が【アカガミ様】の被害にあってるんだ?」
「それなんだけどねダイくん……ちょっと、予想外な話ばかりでさ」
レンの返答はどこか歯切れが悪い。
想像していた答えとは異なる事実を目の当たりにして、困惑している様子だった。
「あのね? ……【アカガミ様】は全然効果のない『おまじない』だって。皆、そう言ってるの」
「……は?」
レンの言葉に、俺も困惑する。
全然効果のない『おまじない』?
そんなバカな。
だって……現に皆瀬さんは『おまじない』で憧れの相手と結ばれているじゃないか。
それがどうして……。
「実はね……カナエちゃんが【アカガミ様】をするずっと前に……他の女の子たちも、ハヤトくんに対して【アカガミ様】の『おまじない』をしたらしいの。……でもハヤトくんに、まったく変化は無かったって」
「え?」
皆瀬さんよりもずっと前に【アカガミ様】を実行した女生徒がいた?
……そうだ、よく考えてみたら、女子の間で人気者の男子ならば、そういうことが起きても不思議ではない。
だが……その場合、どうなるんだ?
不義理を許さない【アカガミ様】。
複数の女子と交際することなど、とうぜん許すはずがない。
……だが、それでは『必ず好きな相手と結ばれる』という『おまじない』として噂が広まるはずがない。
いったい、どういうことなんだ?
「それとね。カナエちゃんも男子の間で隠れた人気があるらしくて。特にサッカー部の子たちがカナエちゃんに対して【アカガミ様】をやったみたい。……でもカナエちゃんはハヤトくんと結ばれた。他の子の『おまじない』は全部失敗してるの。だから皆、驚いてるみたい。……【アカガミ様】を唯一成功させたカップルがいるってことに」
「……」
必ず好きな相手と結ばれるという、恋の『おまじない』──【アカガミ様】。
だが実は、そうではなかった。
無差別に願いを叶える『おまじない』ではなかったのだ。
「カナエちゃんだけなんだよ。【アカガミ様】に、願いを叶えてもらったのは」
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