銀髪赤眼の幼馴染がかわいすぎる
この世界での幼少時代といえば、ほとんどルカと二人きりで過ごした記憶しかない。
ルカへ向けられる心無い発言や嫌がらせから庇い続けたことで、彼女はすっかり俺に懐いてしまい、片時も傍を離れようとしなかった。
「その、ルカ? 明日の朝もちゃんと迎えに行くからさ。そろそろ家に帰らないとお手伝いさんが心配するぞ?」
「や。帰らない。今日はずっとダイキから離れないんだもん」
そんな具合にむぎゅーっと俺に抱きついて無邪気に甘えてくる美少女に敵うはずもなく、そのまま俺の家にお泊まりすることがほぼ日常化していた。
幸い俺の両親は理解のある人たちだったので、不思議な力を持つ少女であっても「自分の家だと思っていいから」と温かくルカを迎えてくれた。
ルカが根は良い子であることをわかっていたからだろう。
「ダイキの家……ポカポカしてて、好き……。私の家、お手伝いさんしかいないから……こうやって皆でご飯食べるの……嬉しい……」
何てことのない一般的な家庭料理を、ルカはまるで貴重なご馳走を前にしたかのように味わっていた。
少女のそんな様子を見て、父さんと母さんはますます放っておけなくなったのだろう。
結果として俺の家はルカにとっての『第二の家』となった。
隣家の広い屋敷には、ルカと住み込みのお手伝いさんしか住んでいない。
父親は仕事にかまけてほとんど家を空け、娘のことはほったらかし。
娘と同じように霊能力者である母親は……すでに亡くなってしまっている。
とても美しい女性で、幼い俺をまるで息子のようにかわいがってくれた、穏やかで優しい人であったことを覚えている。……しかし彼女は突如、命を落とした。
詳しい死因は聞いていないが……恐らく、ルカの様子を見るに怪異が関係しているのは間違いない。
思えば、ルカのお母さんが亡くなってから怪異に遭遇する頻度が高くなった気がする。
ひょっとしたら、ルカのお母さんが怪異を遠ざける何かしらの仕掛けをしていたのかもしれない。
お手伝いさんは怪異に精通している曰く付きの立場らしいのであちら方面でも手厚くルカの世話をしてくれる善人ではあるが……やはり両親の代わりにはなれない。
一般的な家庭の幸せを、ルカはほとんど知らない。
常人とは異なる力を持ち、そのせいで周りから恐れられ、疎まれ、イジメられる孤独な幼少時代……。
いや、物語の主人公に悲しい過去はお約束ではあるが、それでも俺はこの漫画の原作者にこう言いたい。
加減しろ莫迦!
いくら何でもこんな幼少時代あんまりだ。
そりゃ心を閉ざした少女にもなりますわ。
というか、あんな酷いイジメを受け続けたにも関わらず、頼れる両親もいない環境でも歪まず、人々を怪異から守るルカって……聖人君子すぎやしないか?
普通なら人間に絶望して、怪異が出ようが知らんぷりして見殺しにしてしまってもおかしくない。
それでもルカが人間を見捨てないのは、もともと心優しい正義感の強い娘ということもあるが……一番の理由は、亡き母の教えを忠実に守っているからだ。
『力のある者は力の無い人たちのために、正しく力を使わないといけない』
同じ霊能力者として師でもある母は生前、娘のルカにそう強く言い聞かせていたという。
敬愛する母の言葉に従って生きることが、孤独なルカにとって唯一の心の拠り所だった。
それしか自分の存在意義はないと思い込んだのだ。
……だが原作のルカは、やがて自らの行いに虚無感を覚えていく。
どれだけ怪異から人々を守っても、誰もルカに感謝することはなく、それどころか化け物と同種とばかりに不気味に思われるだけ。
だから原作の開始時点では、ルカは依頼でない限りは人助けをしない冷たい少女となっていた。
もはや報酬が無ければ、怪異から人々を守る自分を納得させることができなかったのだ。
ある意味、闇堕ち寸前だったといえる。
だが、ルカは出会う。
数々の怪異事件を通して、本当の理解者となってくれる少女たちに。
原作の大ファンであった前世の友人ヤッちゃん曰く『銀色の月のルカ』は『ホラー風味を加えた少女たちの友情物語であり、ヒロインであるルカの成長物語』だという。
孤独に怪異と戦ってきたルカの苦しみや寂しさを知って、手を差し伸べてくれる少女たち。
彼女たちの優しさに触れて、ルカも徐々に心を開いていく。
やがて怪異と戦う目的も「母の教えを守るため」だけでなく「大切な友達と、その日常を守るため」という方向性へ変わっていく。
不器用な少女が次第に笑顔を取り戻していき、友情を育んでいく。
そんな成長の軌跡や微笑ましい美少女たちの掛け合いは、まさに「尊い……」のひと言で、涙無しには読めないという。
それは、あたかも愛娘の行く末を見守るがごとく。
キャラクター人気ランキングで常に一位を獲得してきたように、ルカという少女はそれだけ多くの読者に愛されたヒロインなのだ。
……実際、こうしてルカ本人と出会った俺だって父性というか庇護欲みたいなものを刺激されてしまったのだ。
だって、ルカってば本当に純真無垢でいたいけな娘だからとにかく放っておけないんだ。
そして、とにかくかわいい。マジでかわいい。
ロリコンと罵られようと「致し方なし」と認めざるを得ないほど自分はルカに参ってしまっている。
「ダイキ……ぎゅって、シテ? ……うん。こうしてると、お母さんに抱きしめてもらったときのこと、思い出すの……。ダイキの胸の中、すごく安心する。あったかくて……好き」
全国の男子諸君。
こんなことを言って甘えてくる銀髪赤眼の美少女の魅力に抗える男がいると思うか?
いや、本当にこんなお人形さんみたいに愛らしい美少女をイジメる連中の気が知れない。
それとも常軌を逸した美しさというのは、逆に人を恐れさせてしまうものなのだろうか?
母譲りの美しい容貌に色白の肌、雪のような銀色の長髪にルビーのような赤い瞳。
思えば、ルカを初めて肉眼で拝んだ瞬間から、俺は彼女の異質なまでの美しさに魅了されてしまっていたのかもしれない。
やはり漫画越しで見るのとでは違う、生身の相手として触れ合ってきたからこそ、見えてくるものがあるのだ。
実は人の温もりを求める寂しがり屋なところ。尊敬する相手にはとても物腰が丁寧なところ。意外とマイペースでワガママなところ。
作品を通すだけでは気づけなかった、ルカの一面を知っていけば知っていくほど俺は彼女の虜となった。
認めよう。
黒野大輝は、白鐘
「ねえ、ダイキ。……ダイキは、私のこと、怖くないの?」
いつものように同級生たちから嫌がらせを受けた帰り道のある日のこと、ルカはそう不安げに尋ねてきた。
「私といるせいで、ダイキも、嫌な思いしてる……」
イジメの矛先は気づけば俺にも向いていた。
まあ俺は大人しいルカと違って「ヤラれたらヤリ返す……倍返しだ!」を信条にきちんと報復はしていたので、さほど気にしてはいなかったのだが……。
心優しい少女は自分のせいで仲の良い幼馴染が周囲から浮いていることを気にしているのだった。
本当に、どこまでも自分よりも他人を優先する娘さんだ。
そんな少女を、どうして怖いと思えようか。
怪異や平然と他人を傷つける人間のほうがずっと怖い。
「……今夜はハンバーグだってよ」
「え?」
「ウチの晩飯。ルカも好きだろ? 母さんの作るハンバーグ。行こうぜ。そろそろできる頃だぜ」
「……うん」
返答はそれで充分だった。
本当に怖いのなら、家に誘わないし、手だって繋がない。
女の子らしい華奢な手が、きゅっと控えめに握り返してくると「この娘にもっと幸せを知ってほしい」という気持ちが、ますます募るのだった。
自分の『第二の人生』はこの娘のために使えばいい。
疑いなくそう思えてしまうほどに、ルカは自分の中で掛け替えのない存在となっていた。
「……ダイキは、本当に優しいね。優しくて、あったかくて、一緒にいると、とっても幸せ。だから……ダイキを傷つけるヤツは、絶対に許さない、許さない、ユルサナイ……」
「ん?」
背後の幼馴染から何やら決意を固めたような気配を感じたその後日……なぜかイジメは突然ピタリと嘘のようになくなった。
いじめっ子連中はルカを見ると「ヒッ……」と顔を真っ青にしてビクビクと震えるばかりで、俺たちから距離を置くようになった。
「もう大丈夫だよダイキ。あなたは、私が守るからね?」
「え? ア、ハイ」
よくわからんが、それ以降は嫌がらせもない穏やかな学校生活を送れたので、まあ良かったことにしておこう。
……怪異は相変わらず、頻繁に現れたけどね!
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