赤い服の女

   * * *



 ──ねえ、知ってる? 『赤い服の女』の話?


 ……ドコ?


 ──ああ、知ってる知ってる。気に入った男に付きまとうってヤツでしょ?


 ……ドコニ イルノ?


 ──何ソレ? そんなのただのストーカーじゃん。

 ──まあね。でもさ……それがどうやら、ヒトじゃないらしいんだよね。


 ……コンナニモ ■シテイルノニ。


 ──男に捨てられた女の怨念の集合体とか、死んだ恋人の後追いをしてずっとその面影を探して彷徨さまよっている霊とか……まあ諸説はあるんだけどさ。目を付けられた男の人は……ずっとその女に追い回されるんだって……。


 ……ニガサナイワニガサナイワニガサナイワ。


 ──ドれダけ逃げテも……どコまデも、本当に……ドコマデモドコマデモドコマデモドコマデモ。




 たとえ、死んで転生したとしても。




 少年はいずれ知ることになる。

 仮に『銀色の月のルカ』を全巻熟読していたとしても、シリーズに登場するすべての怪異の対処法を把握していたとしても……未知なる脅威の前では何の意味も為さないことを。

 少年は、少女の信頼を得るしかない。

 それしか彼に生存の道はない。

 ……いや、むしろ死こそが彼にとっては安息なのかもしれない。

 それがであるならば、の話だが。


 死後の世界を知る生者は存在しない。

 三途の川も、楽園も地獄も、すべては生きる人間の想像物に過ぎない。

 臨死体験も個人の中で完結している話である以上、誰も死後の世界の実在を証明することはできない。

 ……だがここに、例外的にソレを知っている少年がいる。

 彼は知っている。死した魂は、ただ『無』になるわけではないことを。

 前世の記憶を持ったまま、第二の生を得る可能性もあることを。


 ……その事実の裏に潜む危機に、少年が気づく瞬間は、はたしてあるのだろうか。

 死して『無』になれるのなら、それはむしろ救いなのだ。

 彼は、想像に至れるだろうか。




 死した魂が……得体の知れないモノに囚われ続け、永劫の苦しみを味わうかもしれない、ということを。




 必ズ ミツケルワ ドコニ逃ゲテモ……キャハハハハハ。




 ソレは彷徨さまよい続ける。

 見初めた少年が存在する『次元』に辿り着くまで。

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