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詠美は台車を引きながら、店から出てきた。
午後十時、その店周辺は皆既にシャッターを下ろしており、人通りも無い。
それでも詠美は、金髪のウィッグにキャップ帽、普段は着る事の無い作業着姿、だて眼鏡にマスクまでしていた。
車は少し離れたコインパーキングに停めてある。
車は名簿屋から買った、別名義を使って借りたレンタカー、ハイエースだ。
この日のために購入した台車に乗せたそれは、百キロ前後ある。
台車を使えば運ぶのは容易だが、問題は車に乗せる事だった。
だから、この特殊なジャッキ付きの台車を買った。
ハイエースの後部トランクを開け、荷物を乗せた台車を横付けにする。
足元のレバーを足踏みすると、台車が上へ上がり、ちょうどトランクと同じ高さになった。
後はトランク側へ荷物を倒せば完了だ。
荷物と台車を乗せ、詠美は目的地へ車を走らせた。
車内は、ヒーターをじゅうぶんにきかせている。
着いた先は、先日退職したばかりの会社だった。
近くのコインパーキングに車を停め、再び台車に乗せた荷物を会社まで運ぶ。
周囲を確認すると、ドアをピッキングでこじ開け、台車を押して中へ入った。
勤め先がセキュリティの厳しい企業じゃなくて良かったと思う。
監視カメラも無く、セキュリティ会社にも登録していない事を彼女は知っていた。
荷物を転がす様にして置くと、台車を外へ出し、荷物の封を開けた。
それが出てくる前に、彼女は駆け足で外に出て再びピッキングで鍵をかけておいた。
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