第4話 とりあえず…よろしく?

私は朝から何度か宇野零夜に話しかけている。が、

「宇野、聞きたいことが…」

「…」

「ねぇ、宇野ってば…」

「…」

「宇野!聞きたいことがあるんです…」

「…」

「宇野、さん…」

「…」

「宇野くーん!」

「…」

「宇野さーん!宇野、レイヤさーん!」

「…」

「ネ、ネェ、昨日、一樹くんのSNSに載ってた写真って…」

「…」

ガン無視…。まあそうだよなー、自分から喋るどころか、絶対知られないように鉄壁のガード作ってるもんなー…どうしようか…

昼休みまでガン無視。流石の私もこたえてる…

真隣で無言で菓子パンをたべている。私もお弁当を食べているが、なかなか話しかけられない…。

「えーなになに?この地獄みたいな雰囲気」

私に話しかけて来たのはほぼ毎日会っているor電話している親友恋愛先輩先生の同級生。美しいボブに凛々しい目元。涙ぼくろにきらつく八重歯。美しいマリ様だ。フルネームを「琴乃マリ」という。

「ナ、ナンデモナイヨ。ハハ」

「なんでもない様な感じじゃないぞ?」

「ホント、ナンモナイ」

「なんでカタコト?」

「エーット」

私はカクカクの状態で宇野を見る。マリは私の視線を辿ってうのを見て、面白いものを見つけたような顔をした。

(うわ、やな顔!)

「ねーねー宇野くーん、彩となんかあったの〜」

ニヨニヨ。

は、腹たつー!すごく腹たつー!めっちゃ馬鹿にされてる!とんでもなく馬鹿にれてるー!

「…」

宇野は当たり前のようにマリをガン無視している。

「え、もしかして、もしかして?気まずいー?気まずいからガン無視してんのー?」

ものすごいからんでる…いつもなら話しかけないのに…私含めて遊べると思ったら一気にダル絡み始めた〜!マリが一番怖い!

「…」

「ねーねー宇野くーん!ねーねー」

「ま、マリ…そろそろ辞めてあげて…」

私が言うと一瞬だけ目を鋭くさせて

「わ〜たーしーずっと腹立ってたんだよね〜」

「ま、まり?」

「ずっと自分は無関係ですって顔してさ、腹立ってたんだよ。話しかけたら言い方もキツいし、何様って感じ」

「ど、どうしたの?いきなりマリらしく…」

私が止め入ろうとすると、宇野が強く机を叩いた。その音でうるさかった教室内が、一気に静かになり、宇野に視線が集まる。

「煩い。言いたいことがあるならはっきり言え。遠回しは嫌いだ」

え?

これだかはっきり言ってるのに?もしかして宇野、意外と天然?

「…」

「琴乃、お前の算段立ててる感じがクソ兄貴に似て気に食わない」

「ちぇ」

ちぇ?

「算段たててると思ったら乗るのが気遣いじゃない?」

「そんな気遣いをする理由はない」

「あ、ダル絡みの仕返しだ」

宇野は話しかけるマリを無視して私の腕を取る

「満月、ちょっと来い」

「うえ?ちょ!」

そのまま教室を出て、人気の無い裏階段の踊り場にくる。わたしたち一年生は教室が一番上の階にあり、上にあるのは閉鎖された屋上への意味のない踊り場だ。

「あ、え?う、宇野?えっと昨日の写真のこと…」

宇野は私の腕を離すと私の制服のリボンを掴んで引っ張る。私の体は踏ん張る事も出来ずにそのまま勢いよく壁に押し付けられる。

「いっ」

壁ドンじゃなくて恐喝?ここ壁ドンでいいのでは?

「ウルせんだよ。どいつもこいつも…」

「え?」

「お前も、本当にうるせぇ」

宇野は苦し紛れのような悲しい声で言う。

「どうせ、一樹とどうこうだろ?俺に聞くなよ。どいつもこいつの俺を一樹のに橋渡しにしか見てねぇ。いい加減にしろ。煩わしいんだよ」

宇野の掴んでいる手にぎりぎりと力が入っている。

「…」

「ウゼェ…いいか、俺に話しかけるな、喋りかけるな、近づくな、何も聞くな。わかったか」

いつもの冷たい瞳よりもっと冷たくて暗い。深海みたいに濁った瞳が私の事を見下す。

クソ怖…

課金しすぎた時の母より怖い。

「ひ…」

だが、恐い以上に悲しそうで辛そう。

「っ…わかったかよ。俺に二度と話しかけんな」

勢いが消え、ようやく手が離れた。

「うん…」

きっと、変な噂を立てっれている私より、ずっと大変だったのかもしれない。憶測だし、考えはないけれど。色々悔しくても飲み込んだんだろうな…

何処かで過去の自分と重なった。

 私は大きく息を吸って、

立ち去ろうと背を向ける宇野の腕を掴んで無理やりこっちを向かせた。

「やだ‼︎」

「………は?」

私の言葉に宇野は完全に固まった。少し考えたそぶりをして、私のキラキラした、完全に期待している目を見て、また固まる。

「だから、やだ。私は宇野に話しかける」

「…はぁ…マジなんなの?」

サラッとギャル語!すごい、コイツ…素が意外とギャルなのかもしれない…!

「なんか、失礼なことを考えてないか?満月」

「いや?全然?てかあれー?話しかけないで欲しいんじゃなかったのぉ〜」

自分でもうざいくらいにわざとらしくしてやった。これくらいはいいだろう。さっき死ぬほど怖かったし。今の宇野にはさっきみたいな突き刺さるような棘は感じられない。だからきっと大丈夫だと思う。

「しね…」

「本当にシンプルな悪口…」

「ふん…」

「ねぇ、宇野〜、一樹くんと宇野って兄弟?」

宇野は大きくため息をついて、屋上に続く階段に座る。

「それ聞いてどうすんだよ」

宇野は下を見いて顔が合わない。よく感情はわからないけど、それでもどこか疲れ切っていることはよくわかった。これがよくある小説や漫画や映画なら、なんか意味深なことや思い過去が執拗なんだろうけど…ま、どうでもいいか。

人生に深い理由はいらないし!


「私が、宇野を知る。ついでに推しのことも知る!」


ちょっと決まったのでは?

「………。二個目が本音だろ」

「…てへぺろ」

「はぁ、俺と一樹は、双子だ。俺が弟であいつが兄貴」

「一樹くんがお兄ちゃんなの!」

マジ?

弟キャラなのに、お兄ちゃんか…燃えるぜ☆いや、そそるぜ!

「一樹くんの弟か…なんだか感慨深いな…」

「何がだよ」

私は顔を宇野の横に座って、顔を覗き込む。宇野の伏せた目をちゃんと見て、笑顔を作る。

「宇野、友達になろうよ」

「…………………断る」

「断らせない☆」

「待て、本当に待て。お前は今までの会話でなんで俺と友達になりたいなんでバカを考えるんだ!てか友達ってそう言うなり方なのか?!絶対違うだろ!」

「えー!この現代に友達のなり方とかググるバカいないでしょ」

何言ってんだか

「いや…え?」

宇野の顔に困惑の二文字が顔に書いてある。

「あれだよ。宇野と仲良くなりたいと思ったら友達申請しとこうかなーみたいな?なんか、他のやつみたいに気づいたら友達戦法は宇野にはめんどくさそうだし。だから口に出して言っとこうかなーって!」

「お前の友達感覚…友達少ないやつみたいだな」

「うっさいなー!最近人間関係でしんどいことがあったんだよ!迷走してんの!」

「あっそ」

「て事で」

私はスマホを差し出した。

「あ?」

「ニャット交換しよ!」

「…はぁ。それで一樹の写真よこせとか言うんじゃねぇだろうあ?」

「はっ!天才?やってくれんの?」

「やらねーよ!」

「えー!」

私は勝手に宇野のスマホをとってアプリを開く。

「もう…好きにしろ」

と、宇野は色々諦めているようなんの抵抗もしない。QRコードを読み取って、ニャットにフレンド追加する。

「やっシャー!」宇野の腕をひっぱって教室に駆け出す。この時、ちょっとだけ、宇野の瞳の深海に薄い光が差し込んでいるように見えた。

教室のドアを開けてマリに自慢する。

「マリー!宇野と友達になれた!」

「お前やりたい放題だな!」

「第一関門突破!」

「なんのだよ!」

「ニャット交換!」

マリが近づいてきて

「えー!宇野くんニャットやってたんだー私も交換する〜」

「お前、さっき散々言ってなかったか?俺のこと」

「まぁまぁ!」

と、こんな感じにに話がまとまった。やったね!

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