玉座奪取式しりとり、奪取完了

 何故、サクが目の前にいるのか?

 真っ先に最後の部屋に訪れたソフィアは驚かずにはいられなかった。


 ロキが待ち構えていた時点で、奥の部屋に玉座があることは分かっていた。

 それは予想通り……そう、予想通りではあったのだが、サクがいることに関しては完全に予想外。

 グルっと一周してもこの部屋に辿り着くための扉などどこにもなく、あるのはロキの部屋を経由しなければならないのは事前に調べこんでいた。

 戦闘している最中、ロキいる部屋に入った姿など目撃していない。

 それどころか、ここに至るまでサクの姿一度も見かけなかった。


 魔法の類いは使用が禁止されている。

 用意されていた『物』もどれも現実にあるものばかりで、姿を透明にさせるような摩訶不思議な『物』はなかったはず。

 だからこそどうして?

 どうして、この場にサクがいるのか───


「な、ぜ……」

「ん?」

「何故、サク様がここに……」

「おや、ソフィア様は答え合わせをご所望でいらっしゃる?」


 玉座に座るサクはとぼけるかのように肩を竦める。


「まぁ、でも普通は気になるわな。そりゃそうだ……が理由をスルーするなんてあり得ないし」


 サクは固まるソフィアを無視して言葉を続ける。


「別に俺はそんな特別なことはしていません。一番乗りでこの部屋に入って、あからさまに分かりやすいこの椅子に座っただけです」

「ですから、その方法を……!」


 そう訴えようとした時、サクが指で背後を指した。

 そこには薄暗い空間に差し込む光が映っており……よくよく見ると


「まさか!?」

「そう、俺は『壁』を交換したんです───初めに渡された『ベニューカ』の花を使って」


 交換した『物』は所持する際、自分の近くに現れる。

 手に持てるサイズの『物』は握られ、扉のようにサイズが大きいものは近くへ転がるようになる。

 ならば、『壁』は綺麗にくり抜かれサクの横に転がるはず。

 そうすれば、扉を経由しなくとも奥へ行けるようになるのだ。


「この仮想空間が四角形……それも、奥に進んでいく遊戯ゲームだというのはすぐに分かりました」


 部屋の位置、進行方向、扉の向き。

 遊戯ゲーム開始時、少し進んでいけば自ずと理解できる構造。

 どの部屋も必ず一つ奥の部屋へと壁が隣接しており、隙間がない。

 ソフィアが気づいたように、サクもまた同じ結論に至った。


「一番の中心部。そこに玉座があると予測するのは容易。あとは、しばらく進んでいってからですかね───進行役ディーラーが一向に何もしないことに違和感を持ったのは」

「…………」

「偶然出会していないかもしれない、もしかしたら参加しているが直接的な干渉はしないルールでもあるのかもしれない───ですが、そんな『もしも』の可能性を信じて進むのは愚策だ。ならば、最も現実的で警戒を考慮した案を信じるのが道理」


 ───奥で待ち構えているのかもしれない。

 警戒しつつ、中心部に向かっていく遊戯ゲームだからこそ可能性も信憑性も高い考え。

 ここまではソフィアも同じ考えをしていた。

 遊戯ゲームを進めていけばいくほど、その可能性が高いと思っており……最後に、予測は的中した。


「そう考えたので、俺はこの遊戯ゲームで俺が知っている限り最も実力のある参加者の後ろをついて行くことを決めました。生憎と、俺は腕っ節に自信があるわけではありません。おかげで最後まで何もせずに辿り着くことができましたよ」


 サクは目下『ベニューカ』を最後まで運ばなければならなかった。

 そうしないと最後の最後で部屋に侵入できないし、運よく途中で『か』で終わる『物』と交換できるとは限らなかったから。

 しかし、道中の扉を交換して進まなければならない以上、最後まで運ぶことなど不可能。

 だから乗っかった───最も強い参加者の後ろについて行くような形で。

 サクが今までソフィア達と合流しなかったのは、こっそり見られないよう後ろにいたからである。


「最後の部屋の手前でロキ様が待ち構えているのは入口越しから分かりました。あとは簡単です───周囲に回り込んで奥に部屋と繋がる部屋を探す。そんで『壁』を交換すればはいおしまい。ロキ様を超えなくても、攻略できる手段はしっかりとあったんですよ」


 故に、サクこの場であの椅子に座っている。

 誰にも気づかれないまま、余計な最後の試練を受けないまま、真っ先に。


「ソフィア様がもう少し早く棚に置かれてある『物』だけじゃなく全てが交換できると気がついていれば苦労してドレスを交換しなくても話は変わっていたでしょうけどね。ここに至るまでなら、探そうと思えば『か』で終わる『物』ぐらいはあったはずですから」

「………………」


 種明かしに、ソフィアは押し黙る。

 特別なことは何もしていない。

 サク気づいたことは自分も気がついていて、途中までは同じような方法で進んでいたのだから。

 ただ、一手……一手だけ、思考が浅かった。

 それだけであった。

 ロキを倒さなければ───そんな先入観が抜けられずにいたからこそ、手前で思考が止まった。


「であれば」

「はい」

「……待ち構えているのだと分かっていれば、私達と協力するという手段はなかったのですか?」

「え、ありませんよ?」


 だって、と。

 サクは獰猛に笑う。


「俺が勝たないと……?」


 サク行動原理は初めから一貫している。

 カルラ・チェカルディ好かれること。


 その想いが───ソフィアの才能を上回った。


「……ふふっ」


 ソフィアは思わず天を仰ぐ。

 そして───


「負けました。お強いですね、サク様は」

「そりゃ、俺はお嬢に好かれる男ですから」


 そう口にした瞬間、ソフィアの視界が真っ白に染まる。


 それは、遊戯ゲーム終了の合図だ。





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 規定書スクロールナンバー.5

 遊戯ゲーム名 〜玉座奪取式しりとり〜


 ゲーム時間:59分28秒

 勝者:サク

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