玉座奪取式しりとり④

 部屋は中央に行く度に数が減っていった。

 当然だ、囲むような四角形の中を中心部へ向けて進んでいけば自ずと面積は小さくなっていくのだから。

 一度だけではなく二度、三度、四度と進んでいったカルラ達は五度目の扉を前にする。


「ここまで来れば流石に参加者も少なくなってきましたね~」


 カルラが槍を小さく振りながら口にする。

 目の前にある赤い扉に彫られている言葉は『り』。

 扉を開けるには『り』を合わせなければならないのだが、運がいいことにカルラの持っている『槍』でことが終わる。

 ただし、大きなリスクを背負わなければならないのは前に説明した通りだ。


「そうですね、二人で参加者の数を減らしていきましたから。数えると私達だけでも三十一人でしょうか? 他の参加者達同士が削っていればもう少し減るのでしょうが」

「ってなると、やっぱりもうそれほど人は———」


 そう言いかけた時、ガチャリと部屋の別の扉が開かれる。

 すぐさま、カルラは音に反射したかのように槍を投擲した。

 何か声が聞こえた―――そう思った時には、見知らぬ一人の体が地に伏せられる。脳天に槍が突き刺さったまま。

 流石は武に特化した家系の一人娘。

 相手が反応する前に素早く屠る技術には圧巻としか言いようがなかった。


「……サク様でしたらどうされたおつもりなので?」

「……ハッ!」

「いつかサク様が誤射で亡くならないか心配です。早いところカラー家に迎え入れなければ」


 とはいえ、と。

 ソフィアは不思議そうに首を傾げる。


「ここに至るまで、結局サク様を見つけることはできませんでしたね。まぁ、あまり考えたくない話ですが、すでに退場してしまったのかもしれません」

「サクくんは確かに腕っぷしが強いわけじゃないからなぁー。でも―――」


 ソフィアの言葉に、カルラは自慢げに胸を張る。


「サクくんがリタイアなんてあり得ないっ!」


 どやぁ、と。腰に手を当ててカルラは胸を張る。

 どうしてそんなに自信を持って言えるのか?

 主従関係からか、過ごした年月によるものか、それとも……サク自身に対しての印象故か。

 ソフィアが主催した秤位遊戯ノブレシラーでは、サクの実力を疑っていたはずなのに今は全面的に信頼している。

 それはサクの実力を知ってしまったからかもしれない。

 しかし―――


「だって、子だもんっ!」


 その言葉にソフィアは目を少し見開いてしまう。

 しかし、すぐさまおかしそうな笑みが浮かんだ。


「あらあら、それは自慢という惚気ですか?」

「ち、ちちちちちちちちちちちちちち違いますよ!? ただ、本当にサクくんはそういう子ってなだけで、それが嬉しいとか安心してるとかそういうんじゃ……!」


 頭から湯気が出てしまいそうになるぐらい真っ赤に染まるカルラの顔。

 きっと、今の姿を見ればサクは大喜びで脳内フォルダに即時保存していたかもしれない。それどころか、これを中継で眺めている会場の人間ですら乙女らしい反応に見惚れるだろう。


「はいはい、お熱はあとにしましょうね」

「だ、だから違うもんっ!」

「それより、この先をどうするかです」


 ソフィアが赤い扉に視線を向けると、カルラの顔が先程までの真剣なものへと変わる。


「もうすでにダミーの部屋も数える程度しか残っていません。となると、中心部まで二つ……か、これで最後の可能性があります」

「最後……」

「ですので、私かカルラのどちらかがこの扉を交換で手に入れてもいいと思います」


 これが最後、もしくはもう一つの状態だったとしても参加者が少なくなってしまった現状では交換する方が最善だとソフィアは考える。

 何せ、ここまで残っているのだとすれば中心部にこそ玉座があると考えついた者のみしか集まっていない可能性が高い。

 そんな人間が参加者を蹴落とすためだけにわざわざ交換したあとの扉をほしがるとも思えないし、ここまで交換の必要がなかった状態でこの先交換が必要な可能性も低い。

 ならば、誰かに先を越されるよりかは抜かされないよう先んじて前に進んだ方がいいはずだ。


「この部屋でも恐らく私の『ナイフ』を交換できる『物』はあるでしょう。ですので、私が交換しても構いませんが―――」

「ううん、ここは私が交換します」


 カルラがソフィアの言葉を遮って『槍』を『り』と彫られた扉に当てる。


「自慢じゃないけど、肉弾戦闘だけなら私の方が強いですから!」

「ふふっ、認めてしまうのは悔しいですが頼もしいですね」


 ソフィアが笑みを浮かべる中、光に包まれてカルラの持っていた槍は消えていく。

 そして、赤い扉が横に転がると、目の前の視界が一気に開かれた。

 すると―――



「やぁ、先着順のチケットを始めに取りに来たのはやっぱり君達だったね。けど、あの執事くんがいないのは少し予想外かな?」



 薄暗かった部屋とは一転、チカチカするような白い何もない空間が現れる。

 そこにいたのは、両手に二本の剣を携えた一人の青年———ロキ・バレッド。

 奥には一つ、金色の扉がロキを跨ぐように存在感を示していた。


「……どうやら、今回のゲームは最後の最後まで運動型のようですね。加えて『剣を』持っているということはしりとりの枠には縛られない立ち位置」

「でも、戦闘なら私も戦えそうなんだよ」


 カルラとソフィアが同時に構える。


 ここまで来ればもうあとは何をすればいいのかなど誰でも予想がつく。

 最後の最後まで進行役ディーラーの妨害がなかった。

 それは、最後……一本道に立ち塞がるように参加者を倒していくためであったが故。

 確かに、ここへ繋がる道はカルラ達が潜った扉しかない。

 どうしても、必然的にロキの正面へと立つことになる。


「悪いけど、ここは通さないよ。時間いっぱいまで僕と遊んでもらおうかな」

「二対一だというのに余裕ですね」

「私、こう見ても結構強いんだから」


 ―――玉座奪取式しりとり。


 残り時間15分。


 その座を奪うために、天秤を賭けた最後の戦いが始まった。























「さて、俺もそろそろ動きますかね」

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