玉座奪取式しりとり②

「しかし、今回は進行役ディーラーの立ち位置が定まらない遊戯ゲームですね」


 シュバッ、と。ソフィアが目の前の貴婦人の首をナイフで刈りながら口にする。

 仮想空間では殺傷の類いは認められている。

 現実世界で怪我をしたり死ぬことはなく、ゲームオーバーという形で仮想空間から退場させられるだけ。

 首を斬られた貴婦人は最後に何か口にしようとしていたが、すぐさま白い光になってその場から消えていった。


「……ソフィア様、絵面が」


 相手を切りつけながら平然と口にするソフィアにカルアは苦笑いを浮かべる。

 余裕そうな態度を見せるのは頼もしいの一言ではある。しかし、もう少し斬りつけたことに対して何か思ってほしいとも言いたかった。


「いいではありませんか、いずれ敵になるような方々ですし、今のうちに倒しておかないと」

「それはそうなんですけど……まぁ、いいのかな?」


『苔』から見事何度か入れ替えを完了して『槍』を手にしたカルラ。

 ソフィアの言葉に納得し、少しだけ小首を傾げる。


「けど、さっき言ってた進行役ディーラーの立ち位置が分からないってなんですか?」

「言葉通りの意味ですよ、カルラ。今回の遊戯ゲームで、進行役ディーラーはどういう立場で参加しているのか疑問に思っただけです」

「それは私達を玉座に座らせないようにする立場なんじゃ……?」

「しかし、今の今まで妨害などされていません」


 参加者の勝利条件はこの空間のどこかにある玉座へと座ること。

 一方で、進行役ディーラーの勝利条件は玉座へと座らせないことだ。

 となると、当然妨害という形で参加者の足を引っ張らなければならない。

 だが、開始してから十数分……参加者と出会うだけで特別なギミックが発生したわけでも、進行役ディーラー本人が妨害しに来たこともなかった。


「前回私が主催した遊戯ゲームは覚えていますよね?」

「も、もちろんですよ!」

「令嬢の花選びの場合は、私自らが足を運んで参加者の勝利条件を妨害していました。内容にもよりますが、本来複数対一の遊戯ゲームでは自由に動けるという点こそが進行役ディーラーのメリットです」


 ルールを誰よりも把握し、勝利条件に縛られない進行役ディーラーのメリットはそこにある。

 自由に動けるからこそ参加者の攻略を待つだけではなく、妨害を起こして攻略を遅らせる。

 特に今回も制限時間ありの遊戯ゲームだ。

 妨害してこそ、進行役ディーラー側のメリットが発生する。


「ですが、今の今まで進行役ディーラーが動いている気配はありません。まぁ、遭遇していないだけの可能性もありますが」


 ソフィアは足を進めて次の扉を開けていく。

 その後ろを、カルラはトテトテとついて行った。


「ルールが明確じゃないからその分進行役ディーラー側が配慮した、ってことはないんですか?」

「ないとは言い切れませんが、希望論を前提に進めるのは危険だと思います。ただでさえ、私達も攻略しながら進めなくてはならないというのに」

「分かりました!」

「……えーっと、本当に分かっていますか?」

「ソフィア様について行けばとりあえず大丈夫ってことが!」

「……サク様の苦労が分かってきましたね」


 はぁ、と。ソフィアは額に手を当てる。

 次の部屋に入ると、そこはまたしても変わらず物が置いてあるだけの空間。

 どこかダンジョンに潜り込んでしまったようだと、カルラは周囲を見渡しながら思った。


「けど、思った以上に広く設計されたみたいなんだよ」


 これで何度目の移動になるのか?

 一向に変わらない景色を見て、カルラは口にする。


「歩いていれば分かったでしょうが、この空間は全体が正方形です。距離感と渡った部屋の数を考えれば中央にも必ず部屋があるでしょう」


 渡った横の幅と縦との幅があまりにも不自然。

 平面図を起こして考えてみると、繋がっている部屋だけでなく中央にもスペースが残り、そこにも部屋があるのだと推測できる。

 とはいえ、今のところはその中央に行く扉は見当たっていない。

 つまり―――


「これは中央を目指していく遊戯ゲームのようですね。恐らく、辿っていく部屋のどこかに中央へ行くための扉があり、最深部にこそ玉座があるのかと」

「サクくんもそうですけど、歩いただけでよくそんなことが分かるなぁ」

「ふふっ、伊達に才女と呼ばれていませんから」


 そのため、まず自分達がするべきことは二つ。

 一つは中央へ向かうための扉を探すこと。

 そしてもう一つは、はぐれてしまったサクとの合流だ。


「まぁ、サク様との合流は後回しにしましょう。まずは攻略が第一です」

「そ、そうですね……」

「おや、やはりサク様がいらっしゃらないと不安ですか?」

「べ、べべべべべべ別に思ってないですけど!? うん、別に全然!? 寂しいなーとか思ってないですし!」


 カルラが顔を真っ赤にして思い切り否定する。

 それがあからさまに否定できていないところがなんとも可愛らしく、ソフィアは思わず笑ってしまった。


「ふふっ、安心してください。サク様のことです―――一人で攻略して先に進めていますよ。とはいえ、私では少々心許ないのは分かりますが」

「むぅ……違うって言ってるのに」


 カルラは頬を膨らませながら次の扉へ向かっていくソフィアの後ろを歩いた。

 その時───、と。背後から音が聞こえてくる。


「どうかされましたか?」


 その音に思わず立ち止まってしまったカルラにソフィアは首を傾げる。

 しかし、後ろを振り向いても誰の姿もない。

 気のせいだと思ったカルラは、笑顔を浮かべて止まった距離を埋めるために小走りをした。


「ううん、なんでもないです!」



 〜〜


 遊戯ゲーム終了まで、あと42分。

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