玉座奪取式しりとり①
絢爛たるシャンデリアに照らされたパーティー会場が真っ白に染まる。
そうなったのは、壇上に上がったロキ・バレッドという主催者の声によってであった。
そして、目を開けると―――カルラの視界には見慣れない松明によって照らされた部屋が視界に映った。
「こ、ここが今回の仮想空間……」
部屋の中は簡素だ。
飾りっけもなければ構造もいたってシンプル。長方形の部屋の両端に扉があるだけ。強いていうのであれば、ところどころに様々なものが棚や机の上に置かれてあることだろうか。
それは剣だったり槍だったり、花瓶から本まで多種多様。
カルラはとりあえずここが
すると―――
「あら、今回はカルラと同じスタートなのですね」
カツン、と。薄暗い空間からドレスに着飾ったソフィアが姿を現す。
松明も淡い朱色の光にでも輝く銀髪は見蕩れる以外の言葉が見当たらない。
だが、それでもまず先に襲ったのは安堵であった。
「よ、よかったぁ~……ソフィア様と一緒だぁ!」
「しかし、サク様の姿は見かけませんね。どうやら離されてしまったみたいです」
辺りを見渡すと、確かにサクの姿はどこにも見当たらない。
それどころか、二人以外の人間の姿さえなかった。
「残念です、近くで競いたかったのですが」
「あははは……」
ソフィアの言葉にカルラは苦笑いを浮かべる。
だが、カルラの胸の内にはソフィアと同じ気持ちがあった。
もっとも、それは闘争心などというものではなく一抹の寂しさによるものであるが。
何せ、常日頃共にいる存在であり、自分の不安を容易に拭ってくれる存在なのだから。
もちろん、本人の前では絶対に言ったりしない。調子に乗る故。
「しかし、
「あ、そうだ
カルラはソフィアの言葉で思い出し、慌てて腕を振って
急いで……ではあるが、見落としがないようしっかりと目を通した。
「本当だ、すっごくシンプル」
かいつまんで言えば、制限時間内に空間のどこかにある玉座に座れば参加者側の勝利となるゲームであった。
「『物』っていうと……」
「恐らく、私達の腰にあるものでしょう」
ソフィアが腰にある小型のナイフをカルアに見せるように持ち上げる。
それを見て、カルラは慌てて腰に視線を落とすと、ドレスに引っ掛かるようにしてぶら下げてある箱を見つけた。
そして、蓋を開けると―――
「こ、
「どうやら、これが私達の開始時に与えられる『物』のようですね」
開始時に参加者には一つ『物』を所持という形で与えられる。
だが、カルラの脳内には「何故、苔?」という疑問しかなかった。
ナイフがよかった。目の前のナイフがすこぶるよかった。なんだよ苔って、せめて乙女らしいものを持たせてくれよ、と。
頭の中が疑問以上に文句で埋め尽くされたカルラは地団駄を踏み始めた。
「もうちょっと! あったじゃん! 色々と!!!」
こんなものでゲームを進めていられるか、と。カルラは部屋の隅に立てかけてある剣の下へと向かった。
しかし、手に取ろうとした寸前でソフィアの腕がカルラの腕を掴む。
「待ってください」
「えっ?」
「恐らく、その剣は取ってはいけないものです」
ソフィアは首を傾げるカルラに向かって
「今回の
「う、うん……だから『苔』から『剣』を選んだですけど……」
「構いませんが、『剣』だと『ん』で終わってしまいますよ?」
「あ……っ」
別に『剣』を選ぶのは構わない。
しかし、今回のルールは一度交換した『物』は消失する仕組みになっている。
ここで『苔』を『剣』と交換してしまえば、カルラは今後ずっと剣で進めなければならない。
『ん』から始まる物など存在しないのだから。
「ただでさえ、今回の
「は、はいっ!」
「だから気をつけていきましょう。とりあえず『剣』以外で」
ソフィアの言葉に納得したカルラは伸ばした手を引っ込める。
言われてみれば当たり前のことだ。しかし、それに気がつかなかった自分が恥ずかしい。
「しかし、サク様がいないカルラは
「馬鹿が露見したすっごい恥ずかしいっ!」
カルラは顔を真っ赤にしてその場に蹲る。
そんな少女の姿を見て、ソフィアはおかしそうに笑うのであった。
♦♦♦
「おいおい、マジかよ。早速お嬢と離れ離れじゃん」
とある部屋にて。
燕尾服を身に纏った少年は大きなため息を吐く。
「これじゃあ、お嬢にいいところアピールできねぇ……まぁ、頑張るしかないか」
手に持っていたのは、カルラに渡そうとした『ベニューカ』の花であった。
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