馬車で
流石に『決闘』をするということになってから呑気に買い物ができるわけがない。
母親と思わしき女性からお礼を言われたカルラ達は、買い物することをやめてそのまま屋敷に帰ることにした。
そして現在、三人は馬車に揺られていた。
「ご、ごめんなさい……」
馬車の中で、カルラが申し訳なさそうに頭を下げる。
対面にはソフィア、横には窓の外を眺めていたサクが座っている。
「今回も当主様に怒られそうですね」
「うぅ……」
前回はまんまとソフィアの口車に乗せられてしまった。
今回に関しては自ら首を突っ込み、自らがその場の感情に任せて『決闘』を申し込んだのだ。
それも自分の身を賭けて───親としても当主としても怒らないはずがない。
「ソフィア様も巻き込んでしまいましたしね」
「うぅ……!」
カルラがサクの容赦ない言葉に涙目になる。
そんなカルラは隣にいるサクの胸元に顔を埋め、不安を紛らわせるように背中に手を回した。
サクは安心させるようにカルラの頭を撫でる。
「まぁ、感情的に行動してしまったことにかんしては、一人の貴族として軽率だと思いますが……巻き込まれたということには、私はどうとも思っていません」
「ほ、本当ですか……?」
「はい、私にもメリットがありますからね」
ソフィアが涙目のカルラを見て満面の笑みを向ける。
「カルラが『決闘』をしてくれれば、サクのかっこいい姿が近くで見られますから」
「…………」
取り繕うことも誤魔化すこともしないストレートな好意。
それを受けて、カルラはホッとしたようなモヤモヤするような複雑な気分になった。
「まぁ、ソフィア様もこう言ってるんですし、怒られることだけ覚悟して、あんまり気に病まなくてもいいと思いますよ」
「でもさ……『決闘』に巻き込んじゃったから」
「といっても、ソフィア様も俺もただ参加するだけですがね」
巻き込むといっても、巻き込まれたのはゲームの参加という部分しかない。
実際に影響があるのはカルラだけであり、ソフィアとサクは実質的にただの『
ソフィアに至っては他所のパーティーでよく参加しているため、あまり普段と変わらないのだ。
故に、カルラが気に病む必要などない。
しかし、カルラは申し訳なさそうにする。
それは優しさからか、愚かな行動が過度な罪悪感を募らせているのか。
「確かに、お嬢が軽率な行動を取ったことには反省していると思っていますがね……」
サクは気に病んでいるカルラの顔を持ち上げ、真っ直ぐに覗き込む。
「俺は嬉しかったっすよ。あの時、俺を助けてくれたお嬢のままでいてくれたことが」
「ッ!?」
覗き込まれ、顔が近くにあるからか。
それともサクの言葉によるものなのか。
カルラは顔を真っ赤にさせる。
「俺を助けた時みたいな正義感を持って助けたんなら、俺が賛同しないわけがないっす……だって、それこそが俺の好きになったお嬢だから。お嬢は胸を張って、堂々としていりゃいいんですよ───気に病む要素なんて、どこにもないんですから」
「サクくん……」
「『決闘』が不安に思うって言うんなら、安心してください。俺が絶対に勝ってみせますから。だって、俺はいずれお嬢に好かれる男ですからね」
自信たっぷりに、サクは笑う。
サクの笑みは不遜だとも傲慢だとも思えない……ただただ、カルラにとっては頼もしく映った。
それを受けて、カルラは頬を赤くしたまま口元を綻ばせる。
「な、なんだよもぅ……好かれるって決まったわけじゃないのに」
「俺の中では決定事項です。それに、あんなクソ豚に俺のお嬢を好きにさせるのは我慢ならねぇんで、どちらにせよ負けるわけにはいかないっす」
「本当に……私、サクくんのものじゃないのに」
カルラはサクに愚痴る。
だが、その表情には不快という色は浮かんでおらず……先程とは違って晴れやかなものだった。
「ふふっ、本当にお二人は仲がよろしいですね……妬いてしまいます」
「残念なことに、俺の腕はお嬢専用なのでソフィア様の頭を撫でてあげることが……」
「あら、残念。ですが、もし私が
「仕方ありません……その時は、この腕を一時的にお貸ししましょう」
「あらまぁ! では、俄然やる気になってしまいました」
負ける気など毛頭ないが、ソフィアが本気を出してくれるならサクにとってはありがたい。
最低、当事者の中から勝利者が現れず、どこかの参加者が
ソフィアがこちら側にいる以上、少しでも勝てる要素が増えることに越したことはない。
サクの腕一本……頭を撫でるぐらいで『才女』がやる気を出してくれるなら安いもんだと考える。
しかし、抱き着いていたカルラが何故か唐突にサクの背中を抓る。
「私も頑張るけど……サクくんが勝って」
「どうしてです? いや、いいところを見せたいからそりゃ勝ちにはいきますけど───」
「……なんか、ソフィア様が勝つのはやだ」
味方に向かってなんてことを、と。内心思ってしまうサク。
だが、カルラの胸の内は───
(サクくんが私以外の女の子の頭を撫でるのは……なんか嫌だ)
サクがソフィアの頭を撫でる。
それを想像すると、何故かカルラは前回のパーティーでソフィアとサクが踊っていた時の光景を思い出してしまったカルラ。
何故か、その時に似た胸の苦しさを覚えた。
グリグリと、カルラはサクの胸に頭を押し付ける。
「あら……これは私も、うかうかしていられませんね」
ソフィアの言葉に、サクは首を傾げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます