閑話 古着屋セシル、注文を受ける

 無事?お城に到着したんだけど、通された部屋の豪華さに戸惑ってるわ。


 絨毯はフカフカだし、家具はどれも高級そうな感じがするわ。今座ってる椅子だって身体が沈み込むほどフカフカだもの。そして目の前にはメイドさんが用意してくれたお茶が置いてあるけど、もし落としたらとか零したらと考えると手を付けることができないわ。


 本当にどうしてこんな豪華な部屋に案内されたんだろう?


 そりゃ薄暗い取調室みたいなところよりは、遥かにマシだと思うわ。マシだとは思うけど、もっとこう分相応な部屋があると思うのよね。


 そして極めつけは目の前に笑顔で座ってる女性だわ。


 年齢は私よりも上だと思うけど、私の両親よりは若そうね。それと豪華なドレスを着ているところから、かなり身分のある方の奥様なのだと思うわ。


 入ってきたときからずっと笑顔を絶やさないから機嫌は良いんだろうけど、こっちを見てニコニコしているだけなんだよねえ。


 はっきり言って、すっごく気まずいわ。


 え?これって私から話しかけても良いの?不敬罪とかにならないかなあ・・・。


 「あ、あの・・・本日はどのようなご用件・・・なのでしょうか?」


 「あら、ごめんなさいね。今日来て貰ったのは、あなたが作った服について聞きたいことがあったからなのよ」


 私から声をかけたのに不快に感じたそぶりも無くニコニコしたまま、今日呼ばれた理由を教えてくれた。教えてくれたけど、その理由が頭に入ってこない。


 私が作った服なんてあの1着しか思い浮かばない。え?でもなんで呼ばれたんだろう?あのお嬢さんからも、受け取りに来たアリアさんからも今まで一度も苦情どころか何も言われてないのに。


 「ふふふ、ごめんなさいね。突然言われても分からないわよね。アリア入ってきなさい」


 「え?アリアさん?」


 女性が呼ぶと”失礼します”と1人の女の人が入ってきた。そしてもっと驚いたのは入ってきたのはあのとき女の子と一緒にいたアリアさんで、あのときに私が注文を受けて作った服を着ていたのだ。


 「今日来て貰った用事というのは、このアリアの着ている服についてなのよ。あなたにはこの服をたくさん作って欲しいのよ」


 「はい。・・・・・・え?あ、いや、ちょっと待ってください」


 女性の言葉に納得しかけて返事をしてしまったけど、事の大きさに慌てて言葉が乱れてしまったけどそんな事を気にする余裕がなかった。


 「難しいかしら?」


 「た、たくさんとのことですが、具体的にはどのくらい作るのでしょうか?」


 「そうねえ、お城のメイド達の分だから300着くらいかしら?」


 「さ、さんびゃくちゃく・・・」


 予想外の数字に不敬にも声が裏返ってしまったわ。目の前の女性は気にしてないようだから助かったけど。いやいや、そうじゃなくて300着なんて無理よ。大口の注文は助かるけど、これは断るしかないわね。不敬罪で首をはねられないといいなあ。


 「・・・お、恐れながら、私1人で作っていますので300着はとても作れません。それに、あのときのお嬢さんに何の断りも無く承るわけにはいかないと思います」


 相手の顔色を窺いながら、恐る恐る言ってはみたけど生きた心地がしないわ。


 「あらそうなのね。それじゃあ、城のお針子を何人か手伝いに行かせれば大丈夫かしら?それと娘からは許可を取ってるから大丈夫よ」


 決死の覚悟で言ってみたけど、目の前の女性はあっさりと受け入れてくれた。それよりも気になる単語が混ざってた気がするんだけど。


 「はい。それならなんとか大丈夫だと思います。え?むすめ??」


 え?なにつまり、目の前の女性はあのときのお嬢さんの母親なの?


 「ええ。そうよ。それじゃあよろしくね」


 その日はそれで帰れたのだけど、お店に手伝いに来たお針子さんさか「王妃さまに言われて手伝いに来ました」と言われて絶叫することになるとは思わなかったわ。つまり、あのとき注文に来たお嬢さんは王女さま・・・。


 



 


 


 


 

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