閑話 古着屋セシル、受難の始まり
初めて受けた『仕立て』の注文だけど、なんとか無事に完成してお客様に渡すことができたわ。
とはいえ、完成品の受け取りに来たのがアリアさんだけだったから、数日間は手直しが入るんじゃないかと気が気じゃ無かったわね。
それに結局、余分にもらったお金も返せなかったしね。
でもまあ、もうけっこう日数も経つけど、何も言ってこないのはあれで問題なかったのよね。
いつもの暇つぶしの商品整理をしていると”カランカラン”とお店の入口が開く音が聞こえた。お客さんかしらね?
「いらっしゃいませ・・・え?」
人の気配がする方へ行くと、二人の騎士様がいた。一人は見覚えがある気がするんだけど、誰だったかしら?
「ブラオ。この女性で間違いは無いか?」
「はい隊長。この方で間違いないです」
騎士様達は私を見ながら何かささやいてるけど、私には聞こえてこなかった。
「あ、あの?本日はどのようなご用件でしょうか?」
「うむ。城であなたに会いたいと仰っているお方がいます。できれば本日これから、それが無理でしたらご都合の良い日をお伺いしたい。その日にお迎えに参ります」
少し立派な格好をした方の騎士様が説明してくれたけど、理解が追いつかないわ。いえ、頭が理解するのを放棄してるわね。
「え?あ、いや、え?」
「お久しぶりです。大丈夫ですから、落ち着いてください」
「いやそんなこと言われても、突然すぎて何が何やら・・・え?お久しぶり?あっあの時の・・・」
もう一人の騎士様に「お久しぶり」と言われてようやく思い出せたわ。この人は仕立てを注文しにきたお嬢さんと一緒にいた人じゃない。
「はい。先日は名乗らずに失礼しました。自分は王国第三騎士団所属のブラオ・ゲドルトと申します。本日はある方の要請でお迎えに上がりました。内容をここでお話しすることはできませんが、決してあなた様を害する目的で無いことはお約束いたします」
「・・・」
直立不動で挨拶されてしまった。え?何?王国騎士団?そんな人が黙って付き従っていたあのお嬢さんは何者なの?
「急な話ですので、直ぐには無理だと思いますし、三日後にまた参りますね」
「・・・・・・っは。あっいえ・・・い、今すぐで平気です」
あまりの情報量に思考が停止しちゃってたわ。どうせ数日経っても覚悟が決まるわけないし、変な
「そうですか?問題なければ直ぐに参りましょう。表に馬車を待たせていますの、そちらにお乗りください」
「あ、でも、お城へ行くのにこの格好で平気ですか?」
馬車へ乗る直前にそんな考えが頭をよぎった。お城といえば女性はドレスというイメージよね。少しでも良い服に着替えた方がいいのかしら?幸いにも服は売るほどあるわ。
「その心配には及びません。本日は公式な場ではございませんし、普段の格好で問題ないと指示を受けてますので大丈夫ですよ」
立派な格好をした方の騎士様がそう教えてくれた。
「あ、そうなんですね」
軽く思考停止していた私は、促されるまま案内された馬車に乗り込んだ。後日、この時に馬車に付いていた王家の紋章に気付けていたらと後悔することになるのだけど、この時の私はそんな事を考える余裕なんて全くなかった。
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