閑話 古着屋のお姉さんの苦悩・・・の始まり
私はセシル。ウィンシュテル王国の王都で代々古着屋をやってるわ。代々とか言ったけど歴史が古いだけで、潰れない程度に細々と営業してる程度のお店よ。
古着屋とは言ったけど、注文を受ければ新しい服を作ることもしているわ。でも、私の代になってからは一度もそんな注文は無いわね。
まあそれも当然だけどね。うちは王都の商業ギルドの近くに建ってるとはいえ、庶民向けのお店だもの。古着だって庶民だと滅多に購入できないのに、新品の服なんて買う人がいるわけ無いわよね。
そんなだからお客さんもあまり来なくて、少し退屈な日々を過ごしていた。
「暇だなー。私が成人した直後に父さんと母さんが、私にお店を押しつけて行商と言う名の物見遊山の旅に出た理由が分かったわ」
”カランカラン”
あまりに退屈すぎて独り言を言いながら、品物の整理をしているとお店の扉が開く音がした。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
手を止めて入口の方へ向かうと、育ちの良さそうな感じの女の子と、私と同じくらいの年齢の男女がいた。親子・・・といった感じじゃ無いわね。どこぞの商会のご令嬢とその使用人といったとこかしらね。
「ええ。服の仕立てを注文したいのだけど、頼めるかしら?」
「はい・・・できますが、お嬢ちゃんが注文するの?後ろの二人はご両親・・・というわけじゃなさそうね」
女の子から発せられた言葉を直ぐに理解することができなかった。確かに仕立てもやっているって看板は出してるけど、まさか本当に注文してくる人がいるとは思わなかったわよ。
「へえ・・・なかなかいい目をしてますわね」
まあ、見れば十人中九人はそう思うでしょうね。
「まあ、なんとなくね。感よカン」
「ま、そういう事にしておきましょう」
女の子が何か勘違いしてるみたいだけど、本当に感なんだけどなあ・・・ま、ここは合わせておきましょう。
「「ふふふふふ」」
やっぱり笑って誤魔化すは最強ね。
「早速だけど、見てもらいたいものがあるのよ」
女の子がそう言いながら差し出した紙を見ると、なにやらドレスっぽい絵が描かれていた。
「・・・・・・これは・・・ドレス、ですか?」
恐る恐る聞いてみたら、女の子からは「これは仕事着」との返答だった。
話を聞いてみると、これは女性の使用人に着せるための服とのことだった。そもそも使用人にお揃いの服を着させるといった発想はどこからくるのかしらね?生地にもよるけど、服を仕立てるとなると安くは無いしそれを使用人全員となるとどれくらいの金額になるか想像もつかない。
それ以前に女の子が言ってる『仕事着』だけど、これは少し質素なドレスだわ。この絵の仕事着が”エプロン付きのドレス”だと思ってないのは、恐らくこの嬉々として語る女の子だけね。
この常識の無さはお貴族様なのかしらね。だとすると、慎重に行動した方がいいかもね。
「なるほど。それで着用されるのは、そちらの女性ですか?」
一緒に来てるしそういう事なんだろうなと思って聞いてみたら「え?」っと、予想外の質問をされたという反応が返ってきた。
「あーそういえば誰が着るのかは想定していなかったわね。でもちょうどいいし、アリアのサイズで作ってもらおうかしら。それとアリアよりも一サイズ大きいものと小さいものを一着ずつの合計三着をお願いしたいわ」
むりー。
「承知いたしました。ただできれば一着完成させて、ご確認をいただいてから追加を作れると助かるのですが・・・」
「うん?そのほうが都合がいいなら、それでかまわないわ」
恐る恐る聞いてみたけど、あっさり納得されたのにはこっちが驚いた。
この流れで値段交渉をしてみたらいいかなあとやってみたら、あっさり了承されてしまった。倍とまではいわないけど、そこそこふっかけた金額だったんだけどなあ。
値段交渉される前提の金額だったけど、今更言うのも変だしね。完成品を渡すときにでもそれとなく返金すればいいかな?
それから採寸の時にそれとなく女の子のお付きのアリアさんに、女の子の身分について聞いてみたけど、地方の商会の跡取り娘とのことだった。
採寸が終わって完成が三日後だと伝えて、この日の話は終了したわ。
それにしてもそれほど時間も経っていないのに、凄く疲れた感じがするわね。
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