第18話 屋台での食事

 そんなわけで、わたしとアリアは屋台の近くで待機して、ブラオに串焼きを買いに行ってもらった。


 暇だったので何となく周囲の屋台を見回してみたけど、思ったよりも色々な屋台が並んでいた。目に付いただけでも、スープにパン・・・あそこのはエールかしらね?


 そこそこ賑わっているようで、行列ができている屋台もまばらにあった。これで飲食スペースが設けられていれば立派なフードコートなんだけど、残念ながらそういった気の利いたものは設置されていないようだった。


 そんなことを考えていたら、ブラオが戻ってきた。言ったとおりに手には串焼きを三本持っていて、少し湯気も立っていた。そこからいい匂いも漂ってきて、よだれが垂れそうになるのを我慢するのが大変だったよ。


 なにしろ記憶が戻ってから一月ちょっととはいえ、王宮で出る料理はどれも冷めたものばかりなのだ。正直、美味しいとは思えず、生きるための義務で食べてる感じなんだよね。


 そりゃ、毒対策で仕方ないのは分かるけど、前世の記憶がある分ツラかったよ。


 「お嬢様、お待たせいたしました」


 「ありがと。それじゃあ、いただきまーす」


 ブラオから串焼きを受け取ると、そのままかぶりついた。アリアとブラオが『あっ』と息をのむ感じがしたけど、今は気にしないことにした。


 「お、お嬢様・・・」


 「ん?どうしたのアリア。あなた達も温かいうちに食べなさい」


 それにしても美味しいお肉ね。塩がふられてるだけみたいだから、この美味しさは肉の力かしらね?


 「それにしても美味しいお肉ね。ブラオ、このお肉は何の肉かしら?」


 「は?あ、いえ・・・申し訳ございません。存じ上げません」


 「あら?そう。じゃあ、屋台の人に聞いてきますわね」


 「あっ、ちょっと・・・」


 わたしは言い終わる前に屋台へ向けて走り出した。後ろからブラオの慌てた声が聞こえてくるけど、聞かなかったことにしよう。


 「おじさん。この串焼きのお肉は何のお肉なんですか?」


 ちょうど屋台に並んでる人が居なかったので、走ってきた勢いそのままに聞いてみた。


 「ん?お嬢ちゃん。口に合わなかったかい?」


 「逆よ。とても美味しかったわ。それで何のお肉か知りたくなったのよ」


 「おう。ありがとよ。これはオークの肉さ」


 「オーク!?オークですの?」


 異世界ファンタジー定番のオークさんのお肉でしたか。機会があればお目にかかりたいものですな。


 「リスティーお嬢様っ!」


 急に名前を呼ばれたので振り向くと、息を切らしたブラオが立っていた。


 「あらブラオ。どうしたの?」


 「『どうしたの?』ではありません!急に離れないでください」


 「ごめんなさいね。それよりも何のお肉か分かりましたわ。これはオークのお肉だそうですわ」


 「オーク・・・」


 オークの名前を聞いた途端、ブラオが青ざめた。よく見ると遅れてやって来たアリアも青ざめてるようだった。


 「どうしましたの?」


 「あーお嬢ちゃん。もしかしてお忍びの貴族様かなんかか?」


 ブラオとアリアの様子に困惑していると、屋台の店主が困ったように小声で聞いてきた。


 「え?ええ。似たようなものですわ」


 「なら仕方ないかもな」


 「何故ですの?」


 「オークみたいな魔物で比較的簡単に手に入るものは、一部の人々の中には下賤な食べ物とされてるみたいだ・・・です」


 「こんなに美味しいのに。その一部の人たちはバカですの?」


 恐らく一部の人たちのトップが王家うちなんだろうけど、心の底からバカなんじゃないかと思ったよ。


 「まあ、鮮度や処理の仕方が悪いと、味がかなり落ちるから一概には言えないんだけどな・・・です」


 「クスッ無理に丁寧に話そうとしなくても、いつも通りで大丈夫ですわよ。ということはこのお肉は処理の仕方が良いのかしら?」


 「そりゃ助かるぜ。ああ、この肉は俺が今朝狩ってきたものだからな。鮮度も処理も王都一だと自負してるぜ」


 「へーおじさん凄「お嬢様」・・・なによ」


 屋台のおじさんに色々聞いていると、突然ブラオが話しかけてきた。興味深い話を邪魔されたので、思わずにらみ返してしまったのは仕方のないことだと思う。


 「ッ・・・お話中失礼します。そろそろご帰宅のお時間でございます」


 「え?いや、まだ・・・ちょっとぉ・・・・・・」


 その後、お城じたくへ強制送還されたのは想像に難しくないだろう。途中でアリアに助けを求めたけど無理だったよ。たしかに不敬罪は適用しないとは言ったけど、これは酷くないかな?

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