第12話 お忍びの設定

 今わたしの目の前には、商人風の格好をした男女が緊張した面持ちで立っている。




 「それじゃあ、まず自己紹介をして貰えるかな?」




 「自分はブラオ・ゲドルトです!所属は第三騎士団です!よろしくお願いします!」




 うーむ。なかなか元気の良い挨拶だけど、少し力が入りすぎかなあ。まあ、第三騎士団ということは、下級貴族か平民だろうから、緊張するなと言う方が無理があるかもね。




 とても馬鹿馬鹿しい伝統だけど、騎士団の第一第二は上級貴族しか配属されないらしいのよね。それなので、騎士団の戦闘力は第三が一番上とい事らしい。国王おとうさま宰相様おじさまか知らないけど、ブラオをわたしの護衛に選んだのがその証拠だと思う。




 「わたしはアリア・プレヒティーです。よろしくお願いします」




 アリアと名乗ったメイドも緊張してるような声だけど、ブラオよりはマシかもね。というかプレヒティーってどこかで聞いた気がするんだけど、どこだったかしらね?




 「ブラオとアリアね。今日はよろしくね。ところで、今日の内容というか設定は聞いてるのかしら?」




 「は、はい!本日は王女殿下の専属護衛を選ぶ試験と伺っています」




 「わたしも同じです。王女殿下の専属メイドを選ぶ試験と伺っています」




 流石に『王女のお忍びおあそびのお供』というのは体裁が悪かったようで、宰相様おじさまがそういう設定を追加したんだよね。ただまあ全部が嘘というわけでは無く、わたしはこれを利用して本当に専属を探そうと考えてる。




 「試験の内容は聞いてるのかしら?」




 「いいえ。伺っていません」




 「わたしも詳しくは現地で直接聞くようにと、仰せつかってます」




 えーこれ、わたしが説明するの?情報漏洩のリスクを考えれば、これが正解なんだろうけど、たぶん説明がめんどくさかっただけだろうな・・・。




 「こほん。わたしと貴方たちの服装を見ればなんとなく分かると思うけど、これから王都を散策するのでそれに付いてきてもらうわ。それからわたしはリスティー・ミラージュという商家の跡取り娘という設定なので、そのつもりで接してもらうからね。そして貴方たちはミラージュ商会の番頭とメイドという設定よ。それとミラージュ商会はイーサスト領都に本店がある、公爵家出入りの商会だからね。ここまでで質問はあるかしら?」




 わたしの話を聞いて、ブラオとアリアは驚いた表情で顔を見合わせた後、ブラオが気まずそうに口を開いた。




 「・・・・・・不敬を承知で言いますが、正気ですか?」




 「正気だし本気よ。今日のことは国王おとうさま宰相様おじさまも承知の事よ。それとついでなので言うと、今このときから城に帰るまでの間はわたしに対しての不敬罪は存在しないからね」




 「・・・承知しました。この命に代えましても王女殿下はお守りします。ところで、帯剣は許可していただけますでしょうか?」




 「え?ダメよ。今日の貴方は騎士では無く商人なのだから、剣なんて持ってたら不自然だし目立つじゃ無い」




 「し、しかし・・・」




 「これも試験の課題よ。納得しなさい。とはいえなにも無いと不安でしょうから、服の下に隠せる武器なら許可するわ。それとわたしを呼ぶときは、王女ひめでは無く名前で呼びなさい」




 「承知いたしました。ただ、王女殿下のお名前を呼ぶなど恐れ多い事です。お許しください。・・・お嬢様と呼ぶのではダメですか?」




 「まあ、いいでしょう。アリアもよろしくね」




 「畏まりましたお嬢様」




 「それじゃあ時間も無いことだし、そろそろ行きましょうか」




 彼らの緊張も少しは解れほぐれたようだし、そろそろ行きましょうかね。

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