第10話 王女の欲しいもの

 食べ終わってひと息ついた頃、お父様とお母様が戻ってこられた。




 まあ主賓わたしが言うなって話だけど、国王と王妃が会場を離れていいのかなあ?




 「お父様お母様、こちらに来られて平気なのですか?」




 「ああ。ティナの姿が見えたのでな、気になってな」




 「ええそうよティナ。病み上がりなんだし、具合が悪くなったらすぐに言いなさいね」




 お父様とお母様はそのまま、わたしと同じテーブルに座った。




 「ご心配をおかけしました。少し疲れましたので、こちらで休憩していましたがもう大丈夫です」




 「そうか。それならば良かった。ところで、回復の祝いに何か贈りたいのだが、欲しいものは無いかな?」




 「急にどうなされたのですか?」




 「まあ、気にするな。それで?何でも言って良いぞ。新しいアクセサリーなんてどうだ?それともドレスにするか?」




 正直、アクセサリーもドレスも興味ないんだよねえ。




 欲しいものなんて思いつかないけど、あのワクワクしてる顔を見ると『いらない』とは言いづらいなあ。そもそも、あんな顔をこの場でして良いのだろうか?王としての威厳はどこいった?




 予定とは違うけど、あのことをお願いしてみようかな。駄目なら駄目で、また考えれば良いんだしね。




 「本当に何でも良いのですね?」




 「ああ、勿論だとも」




 「それでは、街へ行きたいです」




 「・・・・・・は?」




 「ですから、街へ行ってみたいです。勿論お忍びとしてですよ」




 「いやいや、ちゃんと聞こえてるよ。そもそもなんでお忍びで行くんだい?普通に公務では駄目なのかな?」




 驚かせすぎたのか、お父様の口調が変わってしまった気がする。それともこちらが素なのかしら?




 「これは、わたしの我が儘だからです。皆様に余計な負担はかけたくないのです。それに公務にしてしまうと、民の普段の暮らしが見れないと思いましたので・・・」




 「わしの心臓への負担が大きいからダメだ。それに公務で無いと、護衛の数も限られてしまうので危険すぎる」




 うーむ。なかなか手強い。それになにか国王らしからぬ事を言ってなかったかな。




 「お父様の治める街は、そんなに危険な場所なのですか?」




 「い、いや、そんなことは無いぞ。この国で一番治安が良い街だぞ」




 「でしたら何の問題もございませんね」




 「うっ・・・しかしだなあ・・・」




 「あなた。良いではありませんか。ティナが我が儘を言うなんて、初めてな事ですし。それに、一人で出かけたいと言っているわけでは無いのですから」




 おや?意外なところから、援護射撃があったぞ。




 「も、勿論です。それに街の案内に、誰かに付いてきて欲しいとお願いしようと思っていました」




 「・・・ふう・・・・・・わかった。許可しよう。そのかわり、護衛の言うことはきちんと聞くのだぞ」




 「はい。ありがとうございます。お父様大好きです」




 パーティー会場こんなばしょでなければ、首に抱きついているところだが、残念だったな父よ。でも何も無いでは可哀想なので、『大好き』リップサービスは言っておいた。

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