第23話◆ダンジョンとは――セーフティーエリア内の施設

「食べ終わったら片付けは自分でちゃんとするんだぞー。セーフティーエリアにはゴミ捨て場があるから、ゴミはそこに捨てること。ゴミ捨て場っていっても、ただのセーフティーエリア外にゴミが投げ捨てられる場所だけどな。セーフティーエリアの外に捨てたゴミはダンジョンが吸収してくれるだけ!

 そこに捨てるだけだから、セーフティーエリアにはゴミは置いて帰るなよー、自分で出したゴミは自分でダンジョンにポイポイッ! わかってると思うがポイ捨てが許されるのはダンジョンだけ! ダンジョン以外の場所ではポイ捨てはダメだぞ。人が捨てた妙な素材や魔道具を食って恐ろしいユニーク個体に成長する魔物もいるからな」


「ダンジョンは外部から持ち込んだものは吸収するから、いらないものを捨てるのに便利だけど限度ってものがあるし、周囲の迷惑になるほど捨てたらダメだよ。あと物によっては犯罪を疑われるから注意するんだよ。まぁ、ダンジョンで回収しすぎた素材や、魔物を解体したゴミを捨てる分には全く問題ないからね。その程度なら問題ないけど、マジックバッグに岩や大木を入れて持って帰って、やっぱいらないとかっていうのもダメだよ。これは捨てるなっていうんじゃなくて最初からそんなものを持って帰るなってこと。いい? とくにグランのことだよ?」


「丸太も大木も水も雪も土砂も便利なのに……。自然物はしゅ……マジックバッグに入れておくといざという時の高火力範囲攻撃になるんだよぉ」


「いい? 良い子はマネをしたらいけない範囲攻撃だからね。マジックバッグは高級品だし、収納スキルや空間魔法系の収納も使える人はほとんどいないよね? 余裕があるならともかく無駄遣いをしたらダメだよ? いや、余裕があってもマジックバッグの中は常に整理整頓!

 いずれ君達もランクが上がればマジックバッグを持ち歩くことになると思うけど、たくさん入るからって整理しないと肝心な時にいっぱいになるからね? って、あっ! カリュオン、それ俺のプリン! 最後に食べようと思って残してたの! 油断も隙もない――っていうか君達のパーティー、何で俺達のとこで一緒にご飯を食べてるの!?」


「ドリーとカリュオンのパーティーも、リヴィダスとシルエットのパーティーもやばそうな料理になりそうだったから俺らのパーティーのと一緒に作ったけど……うん、ダンジョン講習に来て集団食中毒はギルド長に怒られそうだし。

 ダンジョンは魔物の巣窟であり、素材の宝庫だ。そんな場所だから美味しい食材はたくさんある、その食材を楽しむため、ダンジョンでも簡単にできる料理とセーフティーエリアでの快適生活を纏めた"ダンジョン拾い食い生活"ってハンドブックが冒険者ギルドの売店で売ってるぞ! よろしく!」


「どんだけ本を出してるの……それにその拾い食いってどうなの? いや、グランって日常的に拾い食いをしてるよね? たまにお腹も壊してるよね? ちゃんと鑑定と浄化をして? そもそも拾い食いはやめて?」


「拾い食いと食い倒れはダンジョンの醍醐味なの!!」


「何を意味のわからないことを言ってるの!? ダンジョンに詳しくない子達に変なこと教えないで! さぁ、昼食が食べ終わったら、セーフティーエリアの施設の講習を始めるよ」


「そうだなー、片付けは終わったか? アベルはプリンをさっさと食べろー。アベルがプリンを食っている間に、今俺達がいる野営スペースの話をするか。

 見てわかる通りセーフティーエリアには野営スペースがあって、そこにテントを張って寝泊まりできるようになっている。野営スペースといってもテントを張る場所があるだけで、そこで野営するための道具は自分で用意しないとダメだからな。あとスペースはその時の混み具合で、譲り合うんだぞぉ? セーフティーエリアは他の冒険者と縁を結びやすい場所だからな、冒険者同士横の繋がりは大事にしておけよ」


「横の繋がりは大事だけど、グランは無節操にあちこちで餌付けしすぎなんだよねぇ。君達も餌付けされてない? 大丈夫? グランの料理に慣れすぎたら今後が辛くなるよ? 俺? 俺はいいの、グランの相棒だから」


「まぁ、料理はレシピ通り作ればだいたい失敗しないから。そのレシピが間違っていなければだけど。

 話を戻すぞ、野営に必要な資材は自分で用意しないといけないが、セーフティーエリアにはトイレと給水施設は設置されているところが多い。あと、その階層の環境によって独自の施設があるとこもあるな、セーフティーエリアの中に特殊な効果のある泉が湧いてるとか、近くの植物がセーフティーエリア内に張り出しててそれが食用になるとか、海や湖川の傍のセーフティーエリアなら釣りができるところもあるな。

 俺のおすすめは火山系かなぁ、温水が湧く泉があるとこもあるんだ。そういうとこを巡るのもダンジョンの楽しみの一つだぞ、もちろんそういう場所は皆が気持ち良く使えるように綺麗に使って、汚したら掃除をするのを忘れないようにな」


「ダンジョンを観光地みたいに思ってるのは少数派だけどね!? でも火山性の暖かい泉は足をつけるだけでも疲れが取れるから悪くないね。

 それじゃ、プリンも食べ終わったし、セーフティーエリア内にある他の施設も見に行こうか。え? 俺だけプリンがあるのはずるい? これは、俺の弁当だから全くずるくないよ」


「プリンは卵があれば作れるからなぁ。砂糖は高いってなら蜂蜜でもいいしな、ほら蜂蜜なら養蜂箱が置いてあるエリアで採り放題だしな。そっそ、あれも冒険者ギルドが置いてるやつ、勝手に蜂蜜を採取しても問題ないからお得だぞぉ。コカトリスのいるエリアが近くにあれば卵も手に入るし、あとはミルクと鍋とマグカップがあればいけるぞ! 現地調達料理はいいぞ!

 おっと話が逸れた、それじゃセーフティーエリアにある施設の説明。セーフティーエリアには簡易的な解体場が設置されているんだ。ほら、あそこに魔物を吊す機材が置いてあるだろ。施設っていってもあれだけだけどな。だが、大型の魔物を吊す場所があるだけでもかなり楽になるし、いらない部位を捨てれば荷物も減る。ここで解体していらない部位は、その辺からセーフティーエリアの外に捨てるんだ」


「ダンジョンでプリンを作るのはグランくらいだと思うんだよなぁ……。プリンの話はおいておいて、ここはランクの低いダンジョンでまだ三階層だからここには設置されてないけど、大きなダンジョンの深い階層には帰還用の転移魔法陣が設置されてるんだ。だいたい、区切りのいい階層のセーフティーエリアやそのダンジョンの最深部だね。

 この帰還用の転移魔法陣は魔道具に一定量の魔力を通すと作動する仕組みになっているよ。自分の魔力でも魔石の魔力でもいい、もしどちらもなければギルドカードをかざせば作動するよ。でもギルドカードで作動させた場合は転移魔法陣の使用料が発生して、報酬を受け取る時にその使用料を引かれるからね。そのギルドカードに記録されてるから誤魔化せないよ。

 ん? 魔力も魔石もなくて、ギルドカードもなかったら? ふふふ……帰還用の転移魔法陣のあるとこまで来てるってことは、通常ならそのダンジョンのランクに相応しい力を持った冒険者なんだ。それほどの実力なら最低限の魔力があるか、魔物を倒して魔石を手に入れられる実力があるよね?

 その両方がないってどういうことかな? しかもギルドカードもない、紛失しただけなら魔力で起動できるよね? ふふふふふ……だけど、そこに入る資格のない者だったらどうかな?

 ふふ、真面目に冒険者をやってダンジョンの規則を守っていれば、命からがら帰還用の転移魔法陣に辿り付いたけど起動できないって場面には出くわさないから安心していいよ、ふふふふ」


「ダンジョンは一攫千金の夢があるから時々いるんだよな、不正な手段で資格がないのにダンジョンに入って稼ごうって奴が。ここまで来た君達ならわかると思う、ダンジョンは儲かるし、一攫千金の夢がある。だが決して安全な場所ではなく、ランクの低いダンジョンでも油断をすれば命に関わる。

 ダンジョンの入場制限は、ダンジョンに入る者の命を守るためにあるんだ。稼ぎたい気持ちや、上にいきたい気持ちはあるだろう、だが全ては命があってこそ、冒険者を続けられる体があってこそだ。自分の命、そして体は大事にするんだぞ」


「うっわ、ツッコミどころがないくらいまともなことを言ってる」


「うるせー、このダンジョン講習もこれが終わったら帰るだけだから最後くらいかっこ良くしめさせろよー……うっ!?」


「グラン? どうしたの?」


「……急に腹がっ! ちょっちょっちょっちょっとおトイレ! お花摘み!」


「あー、行っちゃったよ……道中で変な木の実を摘まんでたしね。自業自得、最後の最後も残念だったねぇ。いい? 無闇に拾い食いはしちゃダメだよ?」






【セーフティーエリア内の施設について】

・セーフティーエリアには野営スペースが設置されている。

 ただしスペースがあるだけなので、野営のための道具は自分で用意しなければならない。

 給水施設とトイレは設置されているところが多い。

 場所によってはその階層の環境に合わせた施設がある。

 ゴミはセーフティーエリアの外に捨てれば、ダンジョンが吸収してくれる。

 セーフティーエリアは、マナーを守って綺麗に使いましょう。


・セーフティーエリアには簡易的な解体作業場が設置されていることがある。

 大型の魔物を吊すための機材だけのことが多いがないよりはまし。

 解体していらない部位はダンジョンへ還す。


・大きなダンジョンの深い階層には帰還用の転移魔法陣が設置されている。

 魔力により作動し、その魔力は使用者本人でも魔石でもよい。また冒険者ギルドのカードでも起動できる。

 ギルドカードで起動した場合使用料が発生し、カードに使用記録が残りそれにより報酬から差し引かれるようになっている。


・ダンジョンには冒険者ギルドの設置した養蜂箱があり、自由に蜂蜜を採取してよい。

 ただし蜂に刺されるのは自己責任。

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