第24話◆ダンジョンとは――ダンジョンの発生と消失

「全員馬車に乗り込んだな? いない奴は返事しろぉー! よぉし、全員いるな。大きな怪我もなく無事に全員ダンジョンの外に戻ってきたな。後は馬車に乗って王都に帰るだけだが、無事に町に戻るまでが遠足だからなー、気を緩めるなよー」


「色々ツッコミどころしかないけど、とりあえず遠足じゃないんだよなぁ。まぁ帰り道にいきなり強い魔物が現れることもあるから、気は抜かないようにね」


「それじゃ町に着くまで暫く時間があるし、ダンジョンのまだ詳しく解明されていない話でもするか。

 ダンジョンは濃い魔力が蓄積している場所に発生しやすいという話は講習でも習ったと思うが、実際その発生現場に立ち会った者はほとんどおらず、発生の瞬間に関する記録はあまり残っていないんだ。

 まぁ、普通に考えてダンジョンなんて大規模空間魔法が発現する瞬間なんて、何が起こるかわからないから近くにいたくないよなぁ。巻き込まれて無事で済む保証はないしな」


「ダンジョンが見つかる場所は例外なく不自然なほど魔力の密度が高い場所であることから、そのように言われているんだ。

 じゃあなんでそういう不自然に魔力が高い場所ができちゃうんだろうね? その理由はわかってないけど、大自然を感じるような場所だったり、近くに大きな遺跡があったりと何かしら魔力が集まりそうな要因がある場所のことが多いんだ。

 王都周辺は厳しい自然環境ではないけどダンジョンが三つも纏まってあるんだ。それはユーラティア王国の建国前にこの大陸にあった大国ズィムリア魔法国の大都市が、この辺りにあったことが関係しているのではないかって歴史学者は言っているね。うん、王都の周辺にたくさんある遺跡はその時代の遺跡がほとんどだね。

 ふふふ、歴史を色々な方向から考察するのは面白いよね。ちょっと難しい本だけど、歴史と魔法学的に考察した本がギルドの図書室に置いてあるから読んでみるといいよ。古い時代の本や外国の本を含め多数の本に書かれていることを、語学にも魔法学にも考古学にも詳しい学者がユーラティア語で纏めた本だからきっと知識欲を満たしてくれるよ」


「ああ、エなんちゃらかんちゃら殿下っていう、すごく覚えにくい名前の王弟殿下の著書だね。エなんとか殿下の考古学系の著書は小難しいけど面白いからお勧めだぞぉ。語学や魔法学系は難しすぎて、俺は目次で諦めたけどなぁ。

 おっと、話が逸れちまったな。そんなわけでダンジョンは濃い魔力が蓄積している場所に出現しやすくて、未だ発見されてないダンジョンも世界にはたくさんあるんだ。その数はすでに発見されているダンジョンよりも多いのではないかとも言われている。世界はとても広い、俺達が行ったことのない場所、生きているうちに行けない場所どころか人類が足を踏み入れたことがない場所だってまだまだあるからな」


「ふふ、もしかすると君達の中にも新しいダンジョンの発見者になる人がいるかもしれないね。でももし新たなダンジョンを発見した場合は速やかに最寄りの町の冒険者ギルド、もしくは役所に連絡をするんだよ。

 それからこれが一番大事。新しいダンジョンを見つけても特別な理由がなければすぐに踏み込まないこと。今日、ダンジョンに実際に入った君達ならその理由はわかるよね?

 ダンジョンは中と外とは全く環境が違って、中には何があるわからない、どんな魔物が出るかもわからない、ダンジョン周辺の魔物が弱くても、中に入れば驚くほど強力な魔物がいるかもしれない。

 それは君達が危険なだけではなく、もし災害級いや災厄級の魔物がいてそれを目覚めさせたことにより、ダンジョンの外に出てくるようなことがあれば周囲にも被害が及ぶこともあるからね。歴史にはそうやってダンジョンから出てきたと思われる強力な魔物による災害の記録も残っているんだよ」


「だがダンジョンの中には今日行ったダンジョンのように洞窟のようなわかりやすい出入り口があるものもあれば、遺跡のような形をしていたり、一見すると普通の建物だったりすることもある。中には自然物の姿をして自然の中に溶け込んでいて、言われなければそこがダンジョンの入り口だとわからないような場所もある。そうだなぁ、世の中には自然とダンジョンが融合しているような場所も――いてっ!」


「あ、ごめん、馬車が揺れた拍子に足を踏んじゃった。まぁ、ダンジョンについては未解明なことが多いんだよね。入り口の形状もそうだけど、ダンジョンの在り方自体も多様なんだ。今日みたいにわかりやすい中に階層が別れた色々な空間が広がっているのもあれば、広大な一つの階層だけのダンジョンもある。なかには境目がわかりづらくてただの森や山、海に見えてもダンジョンって場所もあるんだよ。

 でもすでに発見されて統治者や冒険者ギルドの管理下にあるダンジョンは、入り口に監視者がいるか入場を制限する魔道具が取り付けられているから、資格のある者以外がうっかり迷い込むことはないし、簡単に人が入れるような場所は調べつくされていてダンジョン発生の懸念があるほど魔力の濃い場所は定期的に調査がされているから、未発見のダンジョンに迷い込んでしまうなんてことは滅多にないと思うよ。

 ああ……もしかすると案外迷い込む人は結構いるけれど、それが気付かれてないだけかもしれないね。迷い込んだ人がそのダンジョンのことを報告できなくて――」


「そうやってすぐ怖い話にするぅ~。だが未発見のダンジョンに迷い込むことはないとは言えない。冒険者の活動に絶対はない、僅かな可能性でも軽視をしないで用心することを忘れるな。

 ん? ダンジョンが発生し続けたらそのうち世界中がダンジョンだらけになるんじゃないかって? まぁ、そんな頻繁に発生するもんじゃないし? ……ないよな?」


「多分? 歴史上、世界にダンジョンが溢れかえるほど発生した記録は残っていないからそんなことにはならないと思うけど、ダンジョンについては未解明のことのほうが多いから絶対とは言い切れないね。

 でもダンジョンは寿命があるんだ。それはダンジョンによってまちまちだけど、ダンジョンという空間を維持する魔力がなくなった時、ダンジョンは終焉を迎え崩壊を始めるんだ。過去にもダンジョンの崩壊消失の記録はいくつか残っているよ。気になるならこれもギルドの図書室にその記録の載っている本があるから読んでみるといいよ」


「ダンジョンの終焉を目撃した者の証言とそれ基づく考察と研究によると、ダンジョンは自身を維持するだけの魔力がなくなると、ダンジョンの魔力の具現化が解かれて崩壊が始まり、最終的にダンジョンを形成している空間魔法が解けダンションは消失するらしい。この時、ダンジョン内部のもの――ダンジョンが生成したものはダンジョンと共に消え、それ以外の存在はダンジョンの外に吐き出されると言われている。

 要するに崩壊時に中にいた人達や、外から持ち込まれたものはダンジョンの外に放り出されるってことだな。まぁ、俺もその現象を実際に体験したことはないのでよくわからないけど。俺達が冒険者になってから、ダンジョンが消失したことってあったっけ?」


「未発見のダンジョンや外国のダンジョンを含めれば多分あるだろうけど、俺の知っている限りではユーラティアの冒険者ギルドや国の管理下にあるダンジョンの消失は、近年は確認されていないね。

 ダンジョンの発生は大がかりな空間魔法が作用しその魔力は膨大で、そしてそれを維持するにも膨大な魔力が必要となる。そんなものがポンポンと発生するわけがないし、一度発生してしまうと消失まではには長い時間がかかるからね。その場面に遭遇することも滅多にないし、遭遇した人も少ないから、はっきりとしたことがわかるほど調査が進んでないんだ。

 そうだねぇ、発見されてないだけで極々小規模なダンジョンは、どこかで発生して人知れず消えていっているかもしれないね」


「ダンジョンの終焉に巻き込まれても外に放り出されると言われてても、そんな現場にいたいとは思わないよなー? え? 体験してその秘密を知りたい? 君は冒険者だけじゃなく研究者にも向いてそうだな!?」


「ダンジョンが崩壊する時に中の魔物は出て来ないのかって? さっきも言ったようにダンジョンによって作り出されたものは、ダンジョンの消失と共に消えるからね、ダンジョンに作り出された魔物も消えちゃうんだ。

 もしかすると、ダンジョンに生まれながらもはっきりとした意志を持ち、ダンジョンという場を理解しその崩壊に巻き込まれたくないと思うような存在がいたら、ダンジョンから脱出しようとするかもしれないね。

 そのものの性質によってはダンジョンから脱出する道中、そして外に出た後に周囲に大きな被害をもたらすかもしれないし、場合によっては他のダンジョン内の魔物を巻き込んで、たくさんの魔物がダンジョンの外に溢れ出してスタンピードになる可能性もありそうだね」


「スタンピードってのは講習でも習ったと思うが、何らかの理由でダンジョン内の魔物がダンジョンの外に大量に溢れ出す現象だ。スタンピードが発生するとその魔物の進行上は大きな被害が出る。進行上に町や村があった場合の人的被害も重大だが、もしそれがなかったとしても大量の魔物が暴走状態で進むため環境も大きく破壊されてしまうんだ」


「だからスタンピードは発生した場合、速やかにその対処をしなければならないので、冒険者もどんな仕事よりも最優先でその対応に駆り出されることになるよ。そうなった時は冒険者ギルドの幹部職員や、その土地の施政者が指揮を執り対応することになり、冒険者はランクによって配置されることになるね。

 いざその場面に出くわしても落ち着いて対応できるように、過去の記録を読んでおくといいよ。近年発生しているスタンピードは大きな被害になる前に処理されているけど、その戦闘はすごく激しいし体力勝負で酷い乱戦になるからね」


「ああ、ずっと王都に住んでる奴は知ってるよな。三年……いや四年? 五年? そんくらい前にこのダンジョンが発生源のあまり大規模ではないがスタンピードがあったな。

 あの時は王都のギルド長と幹部職員とか、王都の騎士団とか出てきてやっべー戦力だったよ。魔物の数は多かったけどランクの高い魔物の数があまり多くなかったのもあって、すごいいきおいで蹴散らされてたな。

 うん、俺も参加してたよ。ああ、途中からもう戦わなくていいんじゃないかってくらい、ギルド長達がハッスルしてたから途中からずっと素材を回収しててすごく旨かっ……いてっ!」


「また馬車揺れて、グランの足を踏んじゃった、ごめんごめん。あ、もう王都に着くよ、じゃあそろそろ講習も終わりだね。ふふふ、今日習ったことを後でしっかり思い出して、常識に照らし合わせて今後の活動に活かしていくんだよ?」






【ダンジョンの発生と消失】

・ダンジョンは濃い魔力が蓄積している場所に発生する。

 自然溢れる場所、遺跡がある場所などでよく見られるが、詳しいことは解明されていない。


・ダンジョンの形状は色々ある。

 そのため入り口の形状も千差万別である。

 洞窟のような形のもの、遺跡、建築物、中には自然の中に溶け込んでいてダンジョンとわかりにくいものもある。

 統治者や冒険者ギルドの管理下にあるダンジョン入り口に監視者がいるか、入場制限のための魔道具が設置されており、入場資格のない者が迷い込まないようにされている。


・ダンジョンには寿命があり、寿命が尽きたダンジョンは崩壊、消失する。

 ダンジョン消失時、ダンジョンが生成したものは共に消失するが、それ以外の存在はダンジョンが消失し空間魔法が解除された時に、ダンジョン外部に放出される。


・スタンピードとは

 何らかの要因でダンジョン内の魔物がダンジョンの外に大量に溢れ出す現象。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る