第21話◆ダンジョンとは――ダンジョンの性質

「ふう……やっと片付いたか。少し混乱したが、ほぼ講習参加者だけで片付けたし、今日の参加者は優秀だな。全員大きな怪我はないか? 負傷者は状態に応じて回復持ちに手当してもらうか、ポーションを使用してくれ。

 それと先ほどのボス討伐はダメな例なので、ボス討伐をする時はできるだけ周りの魔物が寄ってこないように注意しながら戦うんだ。纏めて狩ると効率はいい、だがそれは危険も伴う。周囲を巻き込む危険もある。いいか、敵を纏めて効率を上げるためでもトレイン行為は基本的に禁止だ。トレインは周りに人がいないことを確認して――いでっ!」


「周りに人がいなくても、狩りの効率的を上げるためでも、相手が弱い敵であってもトレイン行為は禁止だ。いいか、情報というものは必ずしも正しいものではなく、それを伝える者の主観が混ざっていることが多い。その主観のせいで情報がねじ曲げられることも多い。自分が手に入れた情報や教わったことが正しいかどうかは、冷静に自分の常識と知識、周囲の状況に照らし合わせて判断するんだぞ? 中にはサラッと間違った情報が混ざっていることもあるからな。それをさも当然のように話す奴もいるから気を付けろ。今日はそれについても学ぶいい機会だな」


「うげっ! ドリー!! そ、そうだな! 情報は主観によってねじ曲げられやすいからな、手に入れた情報を客観的に解析して正しい情報を見極めるのも冒険者にとって非常に重要なことだな。って、ドリーは自分のパーティーの場所に戻れよぉ。こっちに寄って来ても今日は素材の回収は手伝わないぞ? 今日は講師なんだから、自分のパーティーのとこに戻って素材の回収は自分でやりながら受講者に教えてやれよぉ。

 っと、ボスもボスのオマケのトレインも片付いたし素材の回収をしないとな。のんびりしてると素材が消えちまうから、回収しながら話をしようか。素材大事、ダンジョンに来たからには……いや、ダンジョンに限らず素材は大事。冒険者の収入源、集めると楽しい、たくさんあると嬉しい、いつかどこかで役に立つ、今日のゴミは明日の資源」


「無計画に溜め込んで持ち主すら忘れてる素材は、もはやゴミなんだよねぇ。素材には旬や流行もあるからね。残しておけば役に立つとかいずれ値上がりするということもあるけど、売り時を見て売るのも大事。残しすぎてダメにしてしまったり、他にもっといい素材が増えて値崩れしたりとかもあるからね。それから溜め込みすぎたら単純に邪魔だから、マジックバッグがあっても容量には限界があるからね。持ち物は整理整頓、使わないものは売るか捨てる、生ものは腐る、臭いものを持ち歩かない、密室で臭いものを出さない、液体は漏れないようにする、変な生き物を拾ってこない、変な爆発物も拾ってこない。驚くかもしれないけどこれは俺が冒険者活動中に非常によく体験することだからね!」


「おーい、アベルー、素材回収の手が止まってるぞー。ダンジョンはものの劣化が速い、倒した魔物もすぐに劣化する。素材は鮮度が命、手早く回収すればそれだけ高く売れるぞー。

 講習でも習ったと思うが、ダンジョンでは外部から持ち込まれた命のないものや、ダンジョン内で命を失ったものはダンションに分解吸収されてしまう。装備品や衣服などの身に着けているものは目に見えるような速度で分解されることはないが、対策をしていないものはダンジョンの外より劣化が速いから気を付けろ。倒した魔物を回収しないで放置していると、どんどん分解されて吸収されていくからな。もちろんうっかり落とした武器や道具なんかもだ。

 冒険者ギルドや装備品屋に売っているものには"ダンジョン対応"って表記がされているものを見たことがあるだろ? その表記があるものはダンジョン内でも劣化がしにくいんだ。しにくいだけで劣化はするから気を付けろよ。特にダンジョンの床と接している靴は装備品の中でも劣化が速い。足回りは命にも関わる部位だ、ダンジョンに入る時は靴の点検は絶対に忘れるな。持てるなら予備を持っていくくらいでもいい、予備が難しかったらスペアの靴底と中敷きだけでも持っていけ。

 そうそう、俺が開発した吸水性が良くて靴の中を除湿する効果のある中敷きが、冒険者ギルドでも売られているからそれを使ってもいいぞぉ」


「ああ、あの中敷きは便利だね。靴の中は蒸れやすいし、蒸れると衛生面も良くないし足が臭くなったり痒くなったり、病気にもなっちゃうから足回りは快適にしようね。戦っている途中、足が痒くて集中できないとかいやでしょ? 足に限らず、手袋も防具の下に着るアンダーウェアも、快適さを保てるものにしておかないと、不快感で集中を乱されると戦闘にも影響が出るからね。

 そうだ、ダンジョンでは命のないものが吸収されるって話だったよね。ふふふ……これがどういうことかわかるかい? そう、人間の死体も吸収されちゃうってことだよ……ふふふふふふふ。ダンジョンで死ぬと死体すら見つからないってことになるからね。ふふふ、勘の良い子は気付いたよね? そう、そういう場所だから犯罪も隠蔽されやすいんだ。もちろん仕掛けた方が返り討ちに遭うこともあるね。ふふふ、ダンジョン内では魔物やダンジョンの仕掛けだけじゃなく、同じ冒険者にも気を付けないといけないよ」


「あんま、脅してやんなよ。でも、そういう場所だからその性質を悪事に利用する奴はいる。対策らしい対策はないが、できるだけ他の冒険者と対立をしないこと、ダンジョンで会った冒険者とは仲良くしておくことかな? たまたま会った他の冒険者に自分達の存在をアピールしておけば、何かあった時にお互いの存在が記憶に残っている。それが事件に巻き込まれた時に解決の切っ掛けにもなりやすいんだ。そうだな、たまたま出会った人との交流や、偶然の共闘が上手くいった時の楽しさは冒険者の醍醐味だな。これからの冒険者活動でそういう場面にたくさん出会えるといいな」


「そうやってあちこちで人を誑し込んでいくのがグランなんだよなぁ。君達も人誑しはほどほどにしておくんだよ?

 うん? ダンジョンはどうしてものが分解されるかだって? それはまだあまり詳しくは解明されていないんだ。ダンジョンは魔力が非常に濃い場所に発生しやすく、大規模な空間魔法で形成されたものなのは習ったよね? ダンジョン内部はその濃い魔力が具現化したもので、そのダンジョンを保つ魔力の補充のために命のないものを分解して、魔力として吸収しているのじゃないかといわれているんだ。

 だけど魔力に対する抵抗力の高いものは吸収される速度が低いものより遅いんだ。だからダンジョン用の装備は魔力抵抗の高い素材が使われているよ。それでもダンジョンで使っているとちょっとずつ劣化していくけどね。それにダンジョン内にいると生きている者も体感できないくらい少しずつ魔力を吸われているんだよ。ダンジョン内は外にいる時よりも疲れやすいから気を付けてね」


「ああ、そうだな。体感できるほどではないけど、長時間いると気怠さも出てくるから気を付けるんだぞ。そうそう、それと極稀にダンジョンの中でも吸収されたり劣化したりしないものがあるんだ。それらはだいたいダンジョンの出土品で、特殊な付与が施されたものが多くてお高い値段で取り引きをされているんだ。ものによっては一生遊んで暮らせるくらいの値段になるな。どうだ、冒険者は夢があるだろぉ? そういうお宝を見つけたいよなぁ? ん? 俺? それほど高額なものは見つけたことがないな。そんなものを見つけたら売り飛ばしてたくさん素材を買って、作業場にたくさんいろんな道具を買ってー、どんな道具がいいかなぁ? 欲しいものがありすぎて何を買っていいかわからないな」


「一生遊んで暮らせるくらいのお金が手に入っても、やっぱり素材を弄くるんだ……」


「え? 素材弄らないで何を弄るっていうんだ?」






【ダンジョンの性質】


・ダンジョンでは外部から持ち込まれた命のないもの、ダンジョン内で命を失ったものはダンジョンに吸収される。

 身に着けているものは目に見える速度で分解はされないが、ダンジョン外部より劣化が速い。特にダンジョンの床と接する靴の劣化は速い。


・ダンジョン内部でできた死体はダンジョンに吸収されるため、ダンジョン内で死亡すると死体が残らない可能性が高い。

 犯罪には気を付けましょう。


・ダンジョンは高濃度の魔力が溜まった場所に発生しやすく、大規模な空間魔法で形成されたもの。

 ダンジョン内部のものは、ダンジョンの魔力が具現化したもの。

 ダンジョン内に持ち込まれたものや、ダンジョン内部で死亡したものが吸収されるのは、ダンジョンを維持する魔力を補充しているのではないかといわれている。


・魔力抵抗の高いものは劣化が遅い。

 ダンジョン用の装備や道具はダンジョンでも劣化しにくい素材が使われている。

 極稀にダンジョンでも吸収されたり劣化したりしないものもある。だいたいがダンジョンで出土するもので特殊な付与が施されたもの。とてもお高い。




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