第20話◆ギルド長会議――ダンジョン研修実況

「あー、今回の会議の進行役を務めるピエモンのバルダーナだ。遠路はるばる会議のために王都まで集まってもらい――って俺もメチャクチャ遠かったんだが!? しかも、なんでここまで来て俺が進行役なの!? 王都のギルド長仕事しろ!!」


「ん? すまない、俺は魔道具の扱いも苦手だし恥ずかしがり屋なのでやはりこういうのは、新しいもの好きで情報通のピエモンのに任せるに限るだろう」


「遠いだけなら我がルチャルトラの方が遠いぞ。しかもピエモンのは偉大な俺が毎回道中で拾って送迎してやってるじゃないか」


「そうだな? 恥ずかしがり屋かどうかはおいといて、新しい魔道具をハンクに任せて壊されるよりはいいか。それとベーの送迎はありがたいんだけど、うん……。送迎はありがたいんだけど……あっ、ありがとうございます、時間と交通費が浮きました! ちっ……誰だよ、こいつらを一番前の席にした奴。

 おっと、いきなり話が逸れてしまった。それで今日集まってもらったのは王都のギルドで試験的に行われている、低ランク冒険者のダンジョン研修の様子を、この新しく導入された映像転送装置の試験も兼ねてここで見ながら、今後の新人育成と新魔道具の導入について話し合っていく予定になっている。その前に現在ダンジョンで行われている実地研修について、王都ギルド長ハンブルクから説明がある」


「む、俺が? ダンジョンに初めて入る冒険者の事故率は非常に高い。特にダンジョン未体験の者が中心となっているパーティーだとさらにだ。よって経験の浅い冒険者のダンジョン事故を未然に防ぐため、ダンジョン慣れをしている冒険者に引率をしてもらい、難度の低いダンジョンで実戦を交えた研修を試験的に行うことにした。

 今回の講師兼引率はAランクの冒険者が六人――日頃同じパーティーで活動している者達なので連携には問題ない。ダンジョンのランクはDランク、探索範囲は三階層辺りまでの予定となっており、安全面には問題ないと思われる。手元の資料に引率役の簡単な情報が載っているので、確認しておいてもらえればこの後の映像資料が理解しやすいと思われる」


「ふむ、確かに人間は伸びしろが大きくとも、成長前は非常に脆いからな。これから伸びる希望がある者が、成長前に潰えてしまうのは惜しい。無駄に希望が失われない良い試みだな。して、映像を転送する魔道具とあるが、映像転送関連はかの魔法大国ズィムリア魔法国でも広くは普及しなかった高度な技術で、コストも非常に高いと思うのだが……まぁ、俺は魔道具みたいな小難しいものは苦手だから詳しいことは覚えてないな」


「おい、ベー、最後の方は稀少な歴史資料の情報かな? 色々ポロリしてるぞ……コホン。あーあーあーあー、その映像の魔道具は西方諸国の一つベシャイデンからの輸入品だ。

 つい最近、ベシャイデンと新たな貿易条約が結ばれたのは皆も知っているだろう。それで魔術、魔道具の技術が進んでいるベシャイデンからその製品と技術の輸入が大きく緩和された。その影響で冒険者ギルドにも新しい魔道具が多く導入される予定となっている。これは、ギルドの規模に合わせて順次になると思われる。まぁ、うちやルチャルトラみたいな田舎は最後の最後だな」


「真っ先に渡されても使い方がわからないと意味がないのだがな」


「ふむ、ルチャルトラは遠いし規模も小さいからな。まぁ最後だといっても、人間の時間など偉大な俺にとっては瞬き――」


「はーーー、王都のギルド長なんだから魔道具音痴は気合いでなんとかしような!? あと田舎は時間の感覚がのんびりだからな、少々時間がかかっても気にならないもんな!!

 まぁ、そんなわけで今後色々な魔道具が導入され、特に情報伝達面がスムーズになりギルド運営も便利に変わっていくだろう。ああ、文字による遠距離会話装置はもうだいたいのギルドで導入が終わったか? まだ使い慣れない者のためにこの後、そちらの研修時間も設けられているそうだ。使い方に不安がある者は参加を推奨する。ハンクも参加するように、これは絶対。

 それでは、ダンジョン研修の様子を見てみることにしよう。

 この魔道具は遠くの場所で起こっていることを"目"の機能を持った魔道具で取り込み、それをこちらの魔道具を使って平面に映し出す仕組みになっている。壁に張られている白い幕に注目しておいてくれ。

 なお、これは距離や魔力環境で使用範囲は制限されるが、一部のダンジョンを除きダンジョン内の様子を映すことができる優れものだ。これから色々な調査に役に立つことだろう。それでは、映すぞーポチィィィ」




『っちょ、ちょっとまったーーーーー!! うおおおおおおおお、カリュオン何やってんだーーーーーー!! ダメ!! 良い子はアレを真似したらダメ!! 無計画な範囲挑発は絶対ダメ、いいね!? 人数分魔物を連れてくるとか、変な気を利かせなくてもいいから!! 良い子は俺みたいに、清く正しくお行儀良くダンジョン狩りを楽しむんだぞ。爆弾は投げるなら爆発炎上を伴わないものだ、つまり凍結系の爆弾ならセーーーーーーフッ!! くらえ、必殺エターナルフォースフローズンボンバーーーー!!』


『ちょっと、グラン!! 氷系は俺の専売特許!! 真似しないで!! ていうか床まで凍らせてどうするの!! トゥルットゥルッになってるじゃない!! 爆発はダメっていいながら爆弾――うぎゃ!!』


『うぉっとおおおおおお!! 足が滑ったあああああああ!! すまん、アベル。氷で滑ってついタックルをしてしまった』


『あらあら、アベルが吹き飛ばされてそのまま滑っていってしまったわね。グラン、床は凍らせたら危ないわよぉ?』


『凍ったなら炎で溶かせばいいじゃなぁ~い?』


『うおおおおおおお!! シルエット、ダンジョンで炎はやめええええ!! 新感覚、水蒸気風呂!! 新観光地ダンジョン☆サウナ!! 良い子は絶対真似しちゃらめえええええ!!』


『お? なんだぁ~、ダンジョン観光温泉旅行かぁ? あぁ~~~、熱くて楽しくて因果応砲出ちゃう~~~!!』




「………………映す場所を間違えたかな? 思わず切っちまったわ」


「いや、あってると思うぞ? 資料にもドリアングルムパーティーとあるだろ」


「うむ、手元の資料にはあの赤毛と銀髪の名前がちゃんとあるし、映し出されたのは紛うことなくアイツらだったぞ」


「おい、お前らそこは空気読んどけ。はー、ドリーは何をやってんだ。引率役の引率役が一緒になって遊んでるじゃねーか。これは奴の姉貴達に報告案件だな。まぁ、もう一度見てみるか……ポチッ」




『あ、また繋がった? やっぱ、繋がってる。どうも、現地リポーターのグランです。現在、王都近郊にあるDランクダンジョン二階層では、ダンジョンでの禁止事項の講習中に発生したトレイン、及びそれが原因となった大リンクの影響でアクティブ状態の魔物が徘徊しております。お近くを通行の際は十分にご注意の上、気が向いたら処理をしてお進みください。なお、当フロアの徘徊型ボスも現在進行系でお散歩中――うぉああああああああ!? ボスをこっちに吹き飛ばしてくるんじゃねえええええ!! ちゃんと受講者の皆さんが倒せるようにサポートしろおおおおお!!

 ダンジョンに初めて来た諸君、これは試練だ! もしもの時の対応方法を体で知っておくとこの先に役に立つからな!! ボスの周囲には取り巻きもいるからな、取り巻きを処理しながらボスを倒す練習だ!! というわけで、この巨大クマーなボスはいらないから返すぜ!!

 そんな感じで現場からは以上です!!! ブチッ!!!』




「…………」


「…………」


「…………」


「お前は何故あのパーティーを講師にしようと思ったんだ?」


「イレギュラーな事案の処理に関してはピカイチのパーティーなのだが、自分らでイレギュラーな事態を引き起こす能力もピカイチなのが玉に瑕だな。まぁダンジョンでの禁止事項の講習なら仕方ないな」


「禁止事項の実演なんだよなぁ」


「なぁに、厳しい環境で育てば、それだけ強く成長するのが生き物というものだ」


「厳しすぎてトラウマになるか、間違った常識を覚えるかどちらかだな。ん? なんすか? 俺達も昔似たようなもんだった? え? 俺とハンクとベーが? ははは、ハンクとベーは仕方ないとして、俺は比較的まともな方だけど? あ? なんか文句あっか? 誰が一番常識人かは訓練用アリーナで決める? お前ら二人で勝手にスパーリングしてろ!! 暴れすぎてアリーナが壊れてもピエモンには関係ねーし。よっし、ダンジョン講習の現場もアレだし、今日のギルド長会議はここまでだな! 解散!」






【ダンジョンでは】

 マナーを守って安全に。

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