第18話◆ダンジョンとは――ダンジョンランク

「はいはーい、今日は"初めてのダンジョン講習"に参加ありがとう。ダンジョンについての基礎知識はすでに講習で習ってると思うが、ダンションに向かいながらもう一度おさらいをしとこうか。ああ、俺達と同じ馬車になった人だけの特典みたいなものだな。わからないことがあったら今のうちに聞いてくれ。え? 彼女? いねーよ!! 年中無休二十四時間営業で募集中だけどいねーよ!! ちくしょう!!」


「あーあ、グランの地雷を踏むから拗ねちゃったよ。はいはい、グランにいつまで経っても彼女ができないことはおいておいて、この"初めてのダンジョン講習"についておさらいしようか。

 君達はみんな今日初めてダンジョンに入るんだよね。ふふふ、冒険者といったらダンジョン探索だもんね楽しみでしょ? それとも怖い? うん、その怖いって感覚絶対忘れたらいけないよ」


「べ、別に拗ねてないし! と、ともかく、ランクの低いダンジョンでもアベルの言う通り怖い場所だということを忘れないでほしい。正しくダンジョンを知って、正しく恐れて、安全で快適、効率的に素材集め。これぞダンジョンの醍醐味、冒険者の楽しみ!!

 ダンジョンについて正しい知識と警戒心を持つことが、ダンジョンで稼ぐための近道であり、生き残るための方法なんだ。いいか、強くなったとしても絶対に油断してはいけないぞ」


「ダンジョンは冒険者にとって安定して収入を得られる場所だし、一攫千金も狙える場所だし、ダンジョンに行きたくて冒険者になった人も多いよね。でも、ダンジョンという場所は危険がとても多い場所なんだ。

 冒険者の死亡場所で一番多いのがダンジョン。そして、ダンジョンの死亡事故は意外なことに高ランクのダンジョンより、低ランクや中ランクのダンジョンのほうが多いんだ。なんでかわかる?

 高ランクのダンジョンに棲息する魔物はすごく強いけど、そこに入ることのできる冒険者が強くて、そして彼らは魔物やダンジョンの恐ろしさをちゃんと把握しているから事故が少ないんだ。大事なのは後半、魔物とダンジョンの恐ろしさを知っているということ。

 低ランク、中ランクのダンジョンで多い死亡事故は、冷静さを失わなければ回避できたこと、油断や無知が招いた事故がほとんどで、その中でも初めてダンジョンに入った時の事故が非常に多い。だからそれを減らすためにこの講習が設けられたんだよ。

 人材はギルドにとって大事な資産――宝物だからね、その大事な宝物達が無駄に傷ついたり命を落としたりすることを減らすための講習なんだ」


「今日行くダンジョンは王都から馬車で一時間かからない場所にあるDランクのダンジョンだ。

 町の近くにあって訪れる者の多いダンジョンはギルドから毎日朝と夕方に乗合馬車が往復しているからそれに乗って行くといいぞ。そうだな、朝の便で行って夕方の便で帰ってくる人が多いな、もしくはその逆で夕方の便で行って、一晩ダンジョンに籠もって朝の便で帰る。大きなダンジョンなら内部で何泊かして来ることもあるな。

 今日は日帰り、この馬車は講習者のための便だから帰るまで待っていてくれるよ。今日の目標はダンジョンの歩き方を実際に体で学んで、全員揃って無事に帰ることだな!

 おう、びびらなくていいぞ。ダンジョンの中では俺達や他の先輩冒険者の指示に従って行動していれば、多分おうちに帰れるんじゃないかなぁ? 指示に従わなかったらもしかするとちょーっと怖い目に遭うかもしれないな。

 どんなにランクの低いダンジョンでも不測の事態、不慮の事故は起こるもんだからな? 気を引き締めて油断をしないでいこう」


「グランが脅しすぎるから、みんなドン引きしちゃったよ? そんな全員揃って帰ることが目標だなんて、ダンジョンに入る時はその気持ちを絶対に忘れてはいけないことだし、絶対に気は緩めないでほしいけど今日は俺達が付いてるから怖がりすぎなくていいよ。

 君達がちゃんとダンジョンから生還できるように俺達先輩冒険者がいるんだから。そうだね、今日の目標は体のどこも欠けることなく戻ってくることかな? 生きていればお金さえあれば治療はできるからね。

 あ、俺は攻撃魔法は得意だけど回復系の魔法はからっきしだから怪我には気を付けてね」


「おい、さらにドン引きされてるぞ。そうビビリすぎる必要はないが、ランクの低いダンジョンでも決して油断してはいけない、それだけは覚えておいてくれ。

 それじゃ、今日行くダンジョンの話でもしようか。今日行くのはDランクのダンジョンだな、参加している人達はDランクもしくはEランクだよな?

 ダンジョンのランクというのは、立ち入ることのできる冒険者ランクを示している。DランクならDランク以上の冒険者が入ることができるということだ。

 ただし、ダンジョンによってはパーティーメンバーの平均ランクがダンジョンのランクを超えていれば、ダンジョンのランク以下の冒険者がメンバーにいても入ることができるダンジョンもある。これから入るダンジョンはその類のダンジョンだな。

 個人のランクが条件を満たしていないと入れないダンジョンと、パーティーメンバーの平均ランクが条件を満たしていれば入れるダンジョンがあるから、これはダンジョンに入る前にちゃんと調べないと無駄足になるぞ。それと、当然のことだが前者のほうがダンジョンの難易度は高いからな」


「当たり前の話だけど、ダンジョンのランクはその冒険者のランクなら入っても大丈夫だろうって目安だから、絶対大丈夫という保証ではないし、パーティー全体で平均レベルを満たしていても、ランクが足りてない人にとって危険であることには変わりないからね。

 強い人が一緒だから、引率してくれるから大丈夫というわけじゃないんだ。ランク――実力が足りてない人をカバーする必要がある場合は、それに伴う戦力低下も起こることを絶対に忘れたらいけないよ。

 もしランクの足りてない人をダンジョンに同行させる場合は、一番低いランクの人のことを考えて行動するんだ。これはその人のためだけではなく引率するほうの安全のためでもあるんだ。自分は強いから大丈夫と思っても、ダンジョンでは何があるかわからないからね?」


「このパーティーの平均ランクには、荷物持ちや雑用係を担当するポーターも含まれる。ポーターはわかるな? 収納系のスキルや魔法、マジックバッグなんかを持ってて荷物持ち要員だ。

 持てる荷物の量はそのまま稼ぎに直結するからな、といっても収納系のスキルや魔法を使える者は少ないし、いても制限があったり用量が厳しかったり、マジックバッグの類も容量が多くて性能のいいものは高いから、ランクが低いうちは荷物の問題が発生しやすい。

 そこでポーターだ。収納能力に優れていても、戦闘面で秀でてない者が荷物持ち専門の冒険者としていることがある。戦闘面が苦手なためランクが低い者が多いが、報酬を払えば荷物持ち専門としてパーティーに参加してくれる。

 報酬はそうだな、荷物を持つだけなら通常メンバーの半分からやや少なめくらいのとこが多いかな? まぁ能力と働き次第?

 戦闘に参加しないメンバーにそれくらい報酬を払ったとしても、持ち帰れる量が多いと結果プラスになるんだ。だから高性能のマジックバッグに手がでないランク帯のパーティーはポーターを入れて活動するところが結構あるな。ポーター専門の者もEからCくらいが多いし、需要と人材が噛み合ってるんだ」


「知らない人に荷物を預けるのは不安? 魔物を倒さないメンバーに報酬を払いたくない? 正式なメンバーでもないのに、ランクの低いポーターに合わせた場所に行くのは損した気分になる? そうだね、じゃあ一つ一つ説明していこうか。

 まず、知らない人に荷物を預けるのは不安という話、確かに知らない人に荷物を預けるのは不安だね。冒険者カードが身分証になっていることにも関係があるんだ。

 冒険者カードはね、冒険者の履歴書でもあるんだ。悪いことをすると冒険者ギルドに登録されて、カードで照会されちゃうんだ。そう、ポーターを引き受けて他人の荷物を盗んだらそれも登録されちゃうし、犯罪だからそんなことをした後に冒険者ギルドに行くと身柄を拘束されて治安部につれていかれちゃうね。

 もちろん冒険者ランクも大幅にダウンするか、もしくは最初からやり直し。たとえ冒険者登録を抹消して登録し直そうとしても、冒険者の登録情報――犯罪歴はずっと残り続けて魔力で照合されてバレちゃうんだ。ふふふふ……窃盗だけじゃないよ犯罪行為全般だからね。犯罪歴は他のギルド系や治安とも共有されるから悪いことはできないよ。魔力は人それぞれで違うからね、どこかで魔力を照会した時に悪いことは全部バレちゃうんだ」


「ポーターという役目は信用が重要な役目だから、ポーター歴が長い者や冒険者ランクの高いポーターほど信用できるな。ランクが高い者はそれに合った報酬じゃないとなかなか引き受けてくれないけどな。

 ポーターに関してはギルドにポーター登録の制度があって、そのギルドのポーターのランクや実績など情報を見ることができ、パーティーのランクや目的に合ったポーターを探すことができるんだ。これは受付にいったら一覧を見せてもらえるし、ポーターを目指すなら登録もできる。

 ん? 王都の伝説のポーター? 以前王都に高ランクのポーターがいて、その人がダンジョンから戻って来ると肉の相場が乱れてたって話を聞いた?

 へー、すごいポーターもいたもんだなぁ。まぁ、というくらいポーターと出会えれば稼ぎもすごく増えるんだ。中には戦闘面にも優れたポーターもいるし、ランクが低くても場数を踏んでいるポーターの立ち回りは戦闘職視点でも非常に参考になるぞ。そういうポーターと出会えるといいな」


「多分その伝説の相場破壊ポーター、多分目の前にいるから……ううん、なんでもない。それじゃ次、戦わないメンバーに報酬を払いたくない?

 ふふふ、働かない者にお金を払いたくないのはわかるよ。でも魔物を仕留めているかそうでないかで括っちゃうと、攻撃手段を持たないヒーラーもそう、罠解除や斥候が得意だけど火力低めで補助系の役割の人も、メイン火力のメンバーに比べて戦ってないことになっちゃうよね?

 でもそういったポジションの人は魔物と直接戦っていない、もしくは火力面での貢献が少なくてもパーティーには欠かせない人材だよね? そうだね、今はまだわかりにくいかもしれないね。君達がランクが上がってランクの高い場所にいくほど、こういうパーティーを陰から支えてくれる人のありがたみがわかるはずだよ。

 ポーターも同じ。荷物を運ぶ役割としてパーティーに参加してるんだ。だからその働きに見合った報酬を払うんだ。ふふふ……他人の働きをちゃんと見極めて認められない人はね、いずれそのツケが自分に返ってくるよ……ふふふ、心の隅にでも置いておくといいよ」


「たくさん持って帰ればたくさん儲かる! ポーターがいなかった場合の儲けを考えてみると、荷物を運んでくれたポーターに報酬を払うのは自然なことだし、ポーターのありがたみはわかるはずだ。

 それにポーターはその役割柄、戦闘力が低くても高いランクの場所に同行することが多い。もちろん同行したパーティーがある程度守ってくれるが、自身で生き残るだけの実力がなければならない。そのため危険な場所での立ち回り、無理な戦闘の回避方法、危険察知能力に秀でた者が多いんだ。

 ポーターと良好な関係を築くことができたらそういった話もたくさん聞けて、パーティーにとってもプラスになるはずだ。それにポーターは色んなパーティーと繋がりがあるから、冒険者同士の横の繋がりを作るきっかけにもなるぞ。

 個人やパーティー単位で動く冒険者だけど、横の繋がりがあると臨時でパーティーを組んだり、困った時に助け合ったりできるからな」


「それであっちこっち餌付けしてるのがグランだけど……。グランの言う通り冒険同士の横の繋がりは、疎かにするよりは大事にしたほうがいいね。いざとなった時に利用……助けてもらえることだってあるからね。

 じゃ、最後にポーターに合わせたら、ランクに行くのが損した気分になるって話。

 グランも言ったけど熟練のポーター、危険な場所の立ち回りを熟知してる人がほとんどだから、熟練のポーターならパーティーの足を引っ張るという場面って少ないんだ。むしろそういう状況になる場合、ポーターよりパーティー側に問題がある場合もあるんだ。

 実力に合った場所、余裕を持って回れる場所を選ぶのも冒険者の実力。そして実力ギリギリのところではなく、余裕のあるとこに行くほうが効率がいいんだ。それにポーターには荷物を預けてるから、ポーターに何かあると荷物もダメになるからねポーターが危ない時はちゃんと助けてあげるんだよ」


「おっと、ダンジョンの話のつもりがポーターの話になってしまったな。ダンジョンまでもう暫くあるから、もう少しダンジョンの話でもするか」






【ダンジョンとは】

・ダンジョンランク

 ダンジョンのランクは、立ち入ることのできる冒険者ランクになっている。

 パーティー全員がそのランク以上が必要なダンジョンと、メンバーの平均レベルがそのランク以上であればよいダンジョンとある。

 この平均レベルには荷物持ち役のポーターのランクも含まれる。


・ポーターとは

 収納関係の魔法やスキル、魔道具を持ち、荷物持ちを主な役目とする冒険者。報酬を払えばパーティーに同行して荷物を持ってくれる。

 ギルドにはポーター登録制度があり、ポーターの情報を一覧化してある。パーティーはこの情報を元にポーターを探すことができる。



・ダンジョン行き送迎馬車

 大きな町から近く冒険者の出入りの多いダンジョンにはギルドが乗合馬車を出している。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る