第17話◆魔物とは――魔物とはなんぞや

「スライムは太陽の光を浴びている時とそうでない時で、同じものを取り込んだとしても違う性質のスライムになるんだ。それにすでに何らかの特性を持っているスライムならまた別のものを作り出したりと、ちょっとした変化でまったく違うスライムになってしまうんだ。その結果意図しない非常に危険なスライムになってしまうこともあるから、スライムの取り扱いには注意するんだぞぉ? そうだなぁ、属性系の性質を備えたスライムは特にやばい。その中でも雷系がやばいな……これは電気分か――ああ、いや雷の作用によって物質が分解されて危険な気体を生み出しやすいんだ。雷系のスライムは珍しいのでつい色々弄ってみたくなるが、一気にやらず少量ずつ小さなスライムで試して見るんだ。まぁスライムの属性はちょっと金はかかるが、変化させたい属性の魔石を与え続けるとその属性のスライムになるぞ。それからスライムは時々体の中で取り込んだ物質を元に結晶を作って吐き出すんだ。この結晶は――」


「グラン? 誰も聞いてないよ? しかも早口で呪文みたいになってて思わず右から左に聞き流しちゃったよ。それに今はスライムの講義じゃないよ? ほら、グランが変な呪文を唱えるからギルド長もベンチに座って寝ちゃったよ。すごいねスライム呪文、あのギルド長にスリープがかかるなんて」


「ギルド長もいい年だからなぁ、仕事でお疲れなのかな? うぇ!? 起きてるじゃん!! めっちゃこっちに武器向けてるじゃん!! 武器を納めてくださーい、公園には小さいスライムくらいしかいませーん!!

 ん? 町には魔物の除けの結界が張られてるのに、なんで町の中にスライムがいるかって?

 町の中にいるスライムのほとんどは、家庭や店で飼育されているスライムが逃げ出したのがほとんどだな。小さくて形の定まらない生き物だからな、逃走対策をしていてもどうしても逃げられるし、家で飼っている人の中にはたまにしかスライムの様子を見ない人もいるしな。スライムも生き物だから、飼い主が世話を怠って餌が足りないと、自分で餌を探すために逃げ出してしまうからな。スライムを飼う時はちゃんと責任を持って世話をしなければいけないんだ」


「逃げ出したスライムはその辺のあるものをどんどん食べて、毒を持ちやすいし、大きくなれば小さなペットや子供を襲うようになるからね。そういうのを駆除するのも冒険者の仕事なんだ。今、君達がやっているように町の掃除をしながら、スライムの駆除をして町を綺麗で安全に保っているんだよ。

 それに町の中にいるスライムは飼育されているのが逃げ出したものだけではなく、外から入ってきたものもいるんだよ。

 魔物除けの結界があるのになんでかって? 町を守っている結界はね、弱すぎる魔物、小さすぎる魔物には効果がないように作られるんだ。

 なんでかっていうと、生き物っていうのはみんな自然の循環の中で大きな役割を持っているんだ。だから全部排除してしまうと、町の中の自然も人々の生活も壊れちゃうだ。だから町を守る結界は、大きな害のない生き物は通り抜けられるように作ってあるんだ」


「台所にあるザルみたいなイメージかな? 町の上にザルをふせるように結界が張ってあるんだ。大きな魔物や獣は通過できないけど、小さな魔物や虫、小鳥は通過できるみたいな。

 お? 知っていたか。そうだ、虫は花の花粉を運んでくれるし、鳥は害虫を食べてくれるし時々スライムを食ってるやつもいるな。そいつらがいなくなると、植物が受粉できなくなったり、虫が増えすぎて植物が食い荒らされたりするからな。

 そういう生き物が出入りできるように調整した結果小さな魔物が紛れ込んでくることもあるんだ。まぁだいたい無害だからほっといたらそのうちどっかに行くか、たまに害のないやつが緑の多い場所や水辺に住み着いてたりするな。ほら、あそこのリスみたいなのも魔物だな」


「でも、やっぱり時々小さくても危険なやつや、住民や町に被害が出る可能性のあるやつも入って来るから、そういうのを見つけたら住民は冒険者ギルドに通報して、冒険者が速やかに対応するようになっているんだ。そうだね、魔物関連は基本的に冒険者ギルドで人が原因の事件が治安部だね」


「うん? 魔物とそうでない生き物の違い? 魔物っていうのは便宜上、魔力を持つ生き物をひとくくりにそう呼んでいるだけだな。虫っぽく見えても魔力を持っていたらそれは魔物。獣も魚も鳥もその他の生き物もそうだな。

 この理論でいけば妖精も魔物の一種だし、外国には人間以外の全ての種族を魔物と呼ぶ国もある。ユーラティアは人間以外の種族も多いから、会話のできる種族は魔物とは呼ばないもんな。

 こんなふうに魔力を持つ生き物の中には魔物を線引きが難しいものも多いんだ、知能の高い魔物は人間の言葉を理解するし意思疎通ができるものもいる。人間とはかけ離れた恐ろしい姿をしているが、人間に非常に友好的な種族もいる。気持ち的にはそんな友好的な種族を魔物とは呼びたくないよなぁ?

 そうだなぁ、例外は多いが言語を使わず理性や知性より本能に沿った生き方をする生き物を魔物と呼ぶことが多いな」


「理性や知性より本能や欲望を優先するやつは人間にもいるからね。ふふふ……そんなの人間だけど魔物みたいなもんだよね? そうだよ、人間は時々魔物よりも魔物らしい生き物なんだよ。ふふ……君達も魔物にならないように気を付けてね」






【魔物とはなんぞや】

・魔物とは

 人間、人型以外の魔力を持った生物。主に言語を持たず本能的な行動が多いもの。

 人間至上主義の国では人間以外全て魔物として扱う国もある。


・魔物除けの結界

 小さな魔物、弱い魔物はすり抜けることができるザル状。


・スライムの秘密

 昼は呼吸と光合成をしている、夜は呼吸のみおこなう。

 昼は二酸化炭素を体内に取り込むので炭素化合物を作りやすく、夜は酸素化合物を作りやすい。


 取り込んだもの同士で反応して別の物質になったり分解されたりする。

 その時はスライムゼリーに反映されたり、もしくは結晶となって吐き出されたりする。


 スライムの属性を付けるのに一番簡単な方法はその属性の魔石をひたすら与える。

 雷属性のスライムは電気分解に近い反応をするので取り扱いには注意が必要。





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