第16話◆スライム科学――スライムの生態

「お、この草はポポだな。どこにでも生えてるやつだな。コイツは根っこをカラッカラッに乾燥させてお茶にするといいぞぉ。こっちのコイツは爺草といって食べると腹を壊すからダメなやつだな。おっ、こっちは赤オーク草といって、実は虫除けになるし、葉っぱは体を洗う時の湯に入れておけばあせもに効くぞ。茎の部分の皮は胃もたれに効くけど、皮を剥がした時に出てくる汁でかぶれる人もいるから気を付けろよ」


「ちょっと、グラン! 今は雑草を抜く作業をしてるの! なんで何でもかんでも持って帰ろうとしてるの! 純真無垢な子供達に変なことを教えないで!!」


「役に立つ草と、うっかり食べると腹を壊す草は知っておいたほうがいいかなって? 知識は場所をとらないし? アベルだって雑草を食ったことくらいあるだろ?」


「駆け出しの冒険者だった頃はどうしても食べるものがなくて食べたことあるけど、食べるものがあるのに雑草を食べてるグランと一緒にしないで! これだから野菜は嫌いなんだよ! ちょっと、ギルド長、なんでそんな可哀想な子を見る目で俺を見てるの!! 雑草を食べたのは昔の話!! 今でも雑草を食べてるのはグランだけだよ!!」


「野菜嫌いは関係ないと思うんだよなぁ。なんなら雑草より野菜のほうが高価だし……ん? スライムを見つけたか?

 ん? そこの君はスライムを見るのは初めてなのかい? このゼリーみたいな、ドロドロしたやつがスライムだよ、プルプルしてて意外と可愛いだろうー。これは色もほとんど付いてなくて綺麗な透明、大きさも小さくてまだ生まれたばかりの無害なスライムだな。

 そうそう、スライムは分裂によって生まれて、生まれたばかりの時は無色透明で無害なんだ。成長するにつれてスライムが食べたものがスライムの性質に反映され色も濃くなっていくんだ。

 毒のある草を食べ続けたら毒のあるスライムに、綺麗な水を食べ続けたら水属性の無害なスライムにって具合だね。まぁ野生にいるスライムはだいたいその辺のものを何でもかんでも食べてるから、色々混ざって弱い毒を持っていることが多いな。だから、こういう生まれたばかりでまだ属性のない無垢なスライムは珍しいんだ」


「珍しいのはわかるけど、何サラッと瓶を出してスライムを捕獲して持ち帰ろうとしてるの!? なんでスライム捕獲用に瓶を持ち歩いてるの? よく見ると腰にスライム入りの瓶をぶら下げるホルダーまで付いているね!? 用意周到すぎない!? それにもう家にたくさんスライムはいるでしょ!?」


「ス、スライムは生活に欠かせない生き物だから……いくらいても困らないから……。 な? スライムは家で飼うもんだよな? 下水路や下水を浄化するための水槽はスライムだらけだよな。

 君の家はリンゴの皮を食べさせてる? それはパンをフカフカにしてくれるスライムだな! そうそう、家庭から出るゴミの処理に利用されているスライムは、そのスライムゼリーが肥料になるよな。

 こんな風にスライムは魔物でありながら俺達の生活に近い場所で意図的に飼育され、俺達が快適に生活するための重要な役割を担っているんだ。

 ん? 近所にスライムの養殖場がある? いいなー、スライムの養殖場は一度見学に行ってみたいなー。スライムは便利で面白いよなー。

 おっと、またスライムを見つけたか? ん? これは大きさもあって色もかなり濃くなっているから要注意なやつだな」


「もうほとんど透けないくらいに濃い緑色に染まったスライムだねー。植物の多い場所にいるスライムは、植物を多く食べているから緑色のやつが多いんだよ。ここで気を付けなければいけないのが、そのスライムの周囲に生えている植物。

 ほらここにマーヤリスが植えてあるね。マーヤリスは白くて小さい鈴みたいな花がたくさん付いて可愛くて綺麗だけど、全体に強い毒を持っているんだ。

 スライムがこの植物の近くにいるってことは、マーヤリスを食べて成長した可能性が高いよね? そ、スライムの性質は食べたものに影響される。このスライムはマーヤリス系の毒を持っている可能性が高いんだ。

 スライムの倒し方はさっき教えたよね。じゃあ見つけた子がやってごらん? 核になっている魔石はだいたいスライムの中心辺りだけど、コイツは色が濃くなりすぎて体の中が透けて見えないから少し難しいね。一発で仕留めないと毒液が飛んでくるかもしれないけど、何事も練習だよ。大丈夫、優しいお兄さんが防御魔法をかけてあげたから気にせずやってごらん」


「核になっている魔石を壊すか取り出すかするとスライムは倒せるぞぉ。壊すとお金にならないからナイフを使って上手く取り出してみようか。

 中心付近を狙ってゆっくりナイフを刺した後、かき混ぜるようにうごかしてみて先端にカンツと手応えがあったら、それがスライムの魔石だ。掬うように外に出すだけでいいぞ。

 よっし、そうだ。それでもうスライムは倒せたぞ。この作業を手早くやらないと反撃をくらうから気を付けろよ。

 魔石を抜き取ったスライムの残骸、スライムゼリーは放っておいても溶けてなくなっちゃうけど、スライムゼリーも素材になるならな。マーヤリスの毒スライムなんて使うことはないと思うけど、いる? いらない? だよねー!」


「使うことはないと思うけどって言いながら、なんで瓶に入れて回収してるの? いらないって言われたから? それ、間違いなく毒スライムゼリーだよね? 何に使うつもりなの!?」


「や、いつか使……じゃなくて毒スライムのゼリーを放置すると、通りかかったペットが拾い食いをしたら危ないからな。そう、危ない危ない。危ないものは放置せずに持ち帰る! ゴミも放置しないでゴミ箱へ!! ゴミのない綺麗な町を維持するのも冒険者の仕事なのだー」







【スライムの生態】

・スライムとは

 ドロドロとしたゼリー状の生物。

 自分の体で包み込めるものなら何でも取り込み消化し、それを栄養として成長する。

 取り込んだものの性質がスライムの性質に反映される。

 野生のスライムに毒性のものが多いのは、色々なものを取り込みスライム内で混ざり合って変化した結果。

 倒すには核になっている魔石を破壊するか取り出す。ゼリーを攻撃してもノーダメージ。

 ゼリーを採取しても死なないため、ゼリーの採取目的で用途に合わせたスライムを養殖するスライム産業も盛んに行われている。


・生活とスライム

 何でも取り込み消化する、取り込んだもので性質が変わるという生態は、人々の生活の様々な場所で使われている。

 家庭ゴミ、汚物処理をしたスライムのゼリーは、定期的に業者が回収し乾燥させ肥料として利用される。

 食品や薬品、装飾品や装備品の素材にもなる万能生物。


・スライムの増殖

 分裂で増える。最初に核になっている魔石が二つに分かれ、それに僅かなゼリーを伴って独立。

 新しく生まれたスライムは、元のスライムの特性を受け継がず純真無垢で無色透明なスライム。




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