第12話◆冒険者とは――冒険者ってなんぞや?

「未来の冒険者の諸君、こんにちは。今日はちびっこ冒険者体験会にようこそ、現役Aランクの冒険者のグランお兄さんだよ。こっちの頭がピカピカ眩しいのはアベル、俺と同じ現役Aランクだよ。俺達二人が今日の先生だよ、よろしく」


「頭がピカピカじゃなくて髪の毛がキラキラなの! やぁ、ちびっこ達、アベルだよ。今日は現役冒険者のお兄さん達が冒険者について優しく教えてあげるからね。よーく聞いて帰るんだよ? でもグランは時々悪いお手本もするからね、その時はちゃんと俺が教えてあげるから、悪いお手本はやったらいけないこととしてしっかり覚えて帰るんだよ」


「お前のほうが悪いお手本ばっかりだろ!? まぁいいや、俺達の説明でわからないことや疑問に思うことがあったらいつでも質問をしていいからな。最後にも質問タイムを設けるから、気になることは遠慮なくどんどん質問して冒険者についてしっかり知って帰ってくれ。

 ん? そこの女子どうした? あ? 彼女はいるかって? うるせぇ、いねーよ! アベルも彼女いねーから安心しろ! あ? そこの男子はどうした? え? アベルは女じゃないのかって? 顔は確かに綺麗だがどう見てもデカイだろ!? ヒョロっとしててモヤシみたいだけど男だよ男! 良かったな! 初恋を拗らせる前に知れて!! まぁ、五年くらい前までは背が低くて可愛い顔をしてたから、よく女に間違われてたけど」


「余計な個人情報を漏らさない。いいね、冒険者たるもの依頼人はもちろん他の冒険者の情報を迂闊に他人に漏らさない。

 はい、わかったね? 今のグランの発言は悪い見本! 真似しちゃダメだよー。そして余計な情報は忘れるんだよー。

 うん、世の中には忘却の魔法なんてのもあるんだ。ちょっと頭の中をいじるからもしかしたら精神にダメージがあるかもね。ちゃんと忘れた? 良い子だね。良い子には忘却の魔法は使わないから安心してね」


「子供を脅すなんて大人げねーな? それじゃ、冒険者ギルドの説明に入るぞー。

 ここにいる君達は、冒険者になりたい、もしくは興味があるけどまだ十二歳になっていなくて冒険者には登録できない子達ばっかりだよな。そんな君達に、冒険者がどういう職業かを説明して、ちょっとだけ冒険者の仕事に触れてみようっていうのが今日の体験会だ。

 今日の体験会で冒険者の仕事の楽しさと厳しさをよぉく知って帰ってくれ。

 このちびっこ冒険者講習は、十二歳以下の子なら誰でも無料で参加できる講習会で、つい最近からユーラティアの大きな町で、月に一回くらいのペースを目標に行われるようになった新しい試みなんだ。

 ん? 無料でやってギルドは儲けがあるのかって? 君はしっかりしてる子だな。

 これは将来への投資、君達のような金の卵を見逃さないための投資。この講習会でかかる費用くらいなら、将来君達が立派な冒険者になれば回収できるってことらし……なんだよ」


「そうだね、こうやって講習をして冒険者に興味を持ってくれる人を増やすと共に、この講習会に参加することで身分証を持っていない子供達の数を把握して、その子達に簡易的な身分証を渡すのも目的なんだよ?

 身分証はね君達がこの国の一員ってことを示す証しなんだ。この講習会が終わった時にもらえるようになってるよ。うん、複雑な事情で誕生日や年齢がわからない子も、登録上の年齢と誕生日が決められるよ。

 どうやって決めるかって? 誕生日はだいたい君達の希望を聞いてもらえるよ。年齢は測定の魔道具で大まかな年齢を調べるんだ。

 生きているものを測定できる魔道具は高価だからね、でっかい町の冒険者ギルドにしかないんだ。そ、だからこういう年齢を証明すような身分証を発行する講習会が開かれるのはでっかい町だけなんだよ」


「そうだな、小さい町だと年齢を確認する術のないギルドもあるから、年齢が確認できない場合、運が悪いと見た目で年齢を判断されて登録を断られることもあるんだ。

 そういう時は大きな町に行けばちゃんと審査をして問題なければ登録をしてもらえるようになっている。でも時々そういう案内をしてくれないギルドもあるんだよなぁ。

 でも君達は今日年齢を証明する身分証がもらえるから、十二歳になればすぐに冒険者登録ができるぞ。そうだな、冒険者は十二歳になってからだな。

 なんで十二歳からだって? さぁ、詳しい理由は知らないけど、冒険者の仕事にはランクが低くても危険と責任が付き纏うし体力も必要だ。法律やルールの大切さ、そして自分にかかってくる責任、仕事をやれるだけの体力と体、それが揃う目安が十二歳くらいってことかな。

 だから十二歳でも見た目や言動が幼すぎて断られるっていうのは、体ができていない、社会的な責任を負うだけほど精神的に成長していないって意味でもあるということを頭の隅っこに置いておいてほしい。

 難しい? わかんない? そうだ、そういうことだな。冒険者に登録できる頃にはきっとこの意味がほんのりでもわかるように……その時もう一度教えられたら、わかるようになっているんじゃないかな?」


「同じ種族、人種であっても成長速度は生まれつきや生活環境でも変わるからね。人間以外の種族だとどうなってるかって? いい質問だね。

 人間と成長速度が近い種族は人間と同じ十二歳から登録ができる。

 エルフやドワーフみたいな人間よりずっと長寿だけど成長もやや遅い種族は、一応十二歳を超えていたら登録ができるけど身体能力や精神的な成長具合によっては、危ない仕事が増えるランクには上がれない。これは人間や他の種族も同じ。

 人間よりも短命で成長も早い種族、小型の獣人にはそういう種族が多いね。これは時と場合による。

 少し不公平に感じるかもしれないけど、冒険者という仕事ができる年齢――身体能力、思考能力が寿命の中でもっとも良いとされる時期を考慮して、冒険者ギルドの職員の中でも経験豊富な偉い人達が判断するんだ。

 人間の場合その時期がだいたい十代半ばからということで、十二歳って設定なんだ。だけど、地域によってはその地域限定で十二歳以下の登録も認められてるところがあって、十二歳にならなくてもその地域だけなら条件付きで活動できたりするんだ」


「難しい話が長くなって眠くなったか。まぁ、基本的に冒険者は十二歳から、特例がある場合はその地域の冒険者ギルドで確認だな。

 それじゃ冒険者について説明していくぞぉ。まずは、冒険者ってなんぞや? はい、そこの子、元気いいね。

 そうそう、魔物を倒してるヒーローだね。うん、ダンジョンの中で宝探しをすることもあるね。ん? 商人の馬車の護衛をしてた? よく見てるな、物事をちゃんと見て観察して覚えておくことはいつかきっと役に立つからな、いい習慣だな。

 ん? よく夜の町で騒いでるの見かける? 君は花街の辺りに住んでる子かな? うん、それはちょっと元気が有り余ってる奴らだな、そういう奴がよくいる酒場を知ってたら教えて? あとでギルド長に伝えておくから」


「君達は冒険者にどんなイメージを持っているかな? かっこいい? 楽しそう? 自由? 儲かりそう? それとも危険? ふふふ、全部正解だよ。君達次第で君達の冒険者生活は変わる。どういう冒険者になるか、それは君達次第だ。

 今日、実際に冒険者の仕事を見て、想像と違うとか思ったより恐いと思うかもしれない、だけどそれは間違っていないからね。今日見て思ったことを素直に受け止めて、今日の体験会が君達が将来進む道を選ぶ時の助けになればいいんじゃないかな?」


「年齢を満たしていて、法と規則を守る意思があり、他人との意思疎通能力があれば、ギルドで登録するだけで誰でも冒険者になることができる。本業のついでに冒険者をやることだってできるし、学校に通いながらでもできる。

 気軽に仕事ができるのが冒険者のいいところだ。しかしその反面、絶対という将来の約束はない。ランクが上がって稼げる仕事には命の危険がある仕事も多い。突然大きな怪我をして仕事が続けられなくなれば収入もなくなる。

 自由で楽しい、かっこいい、一攫千金のチャンスもある。しかしその影には危険が常に付き纏っているんだ。冒険者という職業を選ぶ時はそのこともよぉく考えて選んでくれ。

 じゃ、冒険者の仕事って具体的にどんなことをするかっていうと、さっき君達が挙げてくれた仕事だな。魔物を倒したり、ダンジョンを探索したり、偉い人やお金持ちの護衛をしたり。そうだな、このあたりは冒険者の花形の仕事だな。他にも素材を集めたり、町の警備をしたり、時には町や水路の掃除もしたり、今日の俺達みたいに講師の仕事もあるな。ようは何でも屋だ」


「意外だった? そうだよ、魔物を倒したりダンジョンに行ったりするだけが冒険者の仕事じゃないんだ。戦うだけじゃなくて、町の中の雑用や誰かのお遣い、そんなこともやるのが冒険者なんだ。

 ふふふ、地味だと思った? だけどその地味で安全な仕事があるから、戦う術のない人でも冒険者としてお金を稼げるし、そういう人がいるから人手が足りないところも助かってるんだよ」


「派手な仕事ばかりじゃない、いや地味な仕事のほうが多いくらいなんだ。だけどその地味な仕事をする冒険者がいるから、助かる人もたくさんいて、町が綺麗で安全なんだ。みんな誰かの役に立っていて、目立たなくてこっそり誰かを助けているヒーローなんだ。

 どうだかっこいいだろう? じゃあ、次はその冒険者ギルドがどういう仕組みになっているか説明していくぞ」




【冒険者ってなんぞや?】

・冒険者登録

 十二歳以上で法と規則を守る意思があり、他人と意思疎通が可能なら誰でも登録可能。

 人間と人間に近い成長速度の種族は冒険者は十二歳から。

 それ以外の種族はその種族の寿命、成長速度を考慮し、能力を確認して地位の高いのギルド職員が判断する。

(登録の多い種族はだいたいの目安が設定されている)

 年齢を証明するものがないと見た目で判断され、登録を拒否されることもある。

 大きな町には年齢確認ができる魔道具があり、そこで確認が取れれば登録ができる。

 

・ちびっこ冒険者体験会

 十二歳未満の子供を対象とした参加費無料の冒険者説明会。

 参加すると年齢を証明する身分証がもらえる。

 ※ちびっこ冒険者体験会ができた経緯※

 見た目で年齢を判断され登録ができず困る子供がいることを気にかけた、ユーラティア王国のとある王族の提案により開催されるようになったらしい。

 この体験会により、貧困層を中心とした登録されていない子供の数の把握。

 国は貧困層の子供の救済及び治安維持、将来の税収のため、冒険者ギルドは将来の冒険者獲得のための共同事業。


・冒険者のお仕事

 魔物討伐、ダンジョン探索、護衛以外にも町の掃除や警備、素材集めなど。

 ほぼ何でも屋。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る