第11話◆魔力と魔法――食と魔力

「あー、お腹空いた。やっぱ魔力と頭を使うとお腹が減るんだよねぇ」


「お前ほとんど魔法使ってねーだろ? 俺に弱い雷を落としたり、小さな氷とか石とか風とか火の玉をぶつけたりしたくらいだろ。それを浴びてた俺のほうが魔法防御で魔力が減ってたぞ!? あー、腹減ったー。あと室内で火の玉はやめろ、ギルド長に見つかったらまた何をやらされるかわからないぞ」


「バレるような証拠は残さないもんねー。あ、俺バハチョビポテトがいい。ふかしたパタイモにマヨネーズをベーコンと一緒に炒めて、すりおろしバハムートとマヨネーズと胡椒で味をつけてるやつ」


「は? そんな高級料理をここで出して鑑定されたらめんどくさいだろ?」


「鑑定阻害の魔道具を置いておくから大丈夫大丈夫ー。見て見て、こないだ兄上が使ってたから持って来ちゃった、書類留め型鑑定阻害装置。遠くから大事な書類を鑑定されないための道具なんだ。書類や分厚すぎない本が対象だけど、皿の上の料理くらいなら多分いけるよ」


「あ、ターンクリッ……プォォォッても面白そうな魔道具で気になるけど、それめちゃくちゃ機密度高いやつじゃねーのか? そんなもの持ちだしてきて怒られないのかよ」


「急に噛んでどうしたの? この留め具ならたくさんあるからバレないよ。それにこれはリリーさんの発案らしいよ。リリーさんもグランみたいに、ちょいちょい面白い小物魔道具を作ってるんだよね」


「へ、へぇ~。あ、ホントだ、留め具を皿に触れさせると鑑定結果がすごく大雑把になる。"ふかした芋"なるほど、間違ってないけど正確でもなくそれっぽい。隠したり明らかに違うものにしたりすると怪しいもんな。ふむぅー、そのさじ加減は付与の文言で指定してるのかなぁ、後でゆっくり見せてくれ」


「うん、いいよ。鑑定阻害しても匂いで人が寄って来ちゃった……君達さっきの講義にいた子達だね。すごく食欲をそそる匂いがする? ダメだよ、あげないよ。え? お腹空いた? そうだよ、魔力とか頭を使うとお腹がすくんだよ。って君達は講義を聴いてただけで魔力も頭もあんまり使ってないでしょ?」


「いやいや、座学は頭も使うし、座ってるだけで疲れるし、睡魔と戦うために魔力もきっと消費してる。うむ、あの講義室には睡魔っていう目に見えない気配もしない妖精が住んでて、講義を受ける者達にスリープ系の魔法をかけてくるんだ。助手の俺が立ったままウトウトしたのも睡魔のせいだ~。奴は座学、とくに語学の講義に現れるのだ~。同じようなやつで時間泥棒って妖精もいるな。そうそう誘惑系の魔法を使ってきて、それに釣られると時間を盗んでいく誘惑と時間魔法の使い手だ。図書室にもよくいるし、自宅にもいるよな。部屋の片付けとか、荷物整理してると出てきて気付いたら他のことをしてしまって気付いたらものすごく時間が過ぎてるやつ~。こいつらがどんなに魔法防御が高くても、防御を貫通して攻撃してくるから非常にやっかいなのだ~」


「素直な子達にホントか嘘かわからない微妙な話はやめて! 睡魔も時間泥棒もグランの被害妄想だよね? 語学の話をするとすぐ寝ちゃうし、片付けをしながら違うことに夢中になるし、図書室に行けば探してる本と全く関係ない本を読み始めて一日過ぎてるし、全部グランのせいじゃん。ん? 何見てるのさ、これのバハチョビポテトは俺の! あげないよ! 相席は許してあげるから、お腹空いたなら君達はそこの売店で何か買っておいで」


「鑑定阻害用の魔道具を置いても、自分で言っちゃってるんだよなぁ」







「座学ばっかりで動いてないのに腹が減る? まぁ生きてれば腹は減るな。頭を使うと腹は減る気がするし、魔力を使えば実際すごく腹が減る」


「そっそ、さっきは実演のために魔法を使ったからね、お腹が空いたんだ。うん、そうだね魔法をたくさん使うとお腹もすごく減るからね。魔法を中心に戦う人、スキルで魔力をたくさん消費するスタイルの人はしっかりご飯とおやつを食べるんだよ。ちゃんと仕事して動いていたら食べても太らないからね、しっかり食べてしっかり働けばいい」


「因果関係は証明されてないけど、基本的に魔力を多く含んでいる食材は美味しいからな、つまり強い魔物ほど美味しいと思っていい。だけど魔力抵抗が低すぎると魔力を多く含んだ食材は調理方法によっては、後で魔力酔いをするかもしれないな。といっても料理をすると魔力がかなり抜けるから、桁違いに魔力を含んだ食材とか、魔力に対して抵抗が全くない人じゃないかぎり普通に食事をしている程度なら大丈夫だ。そうだな、この理論でいくと自分が強くなれば強くて美味しい魔物をたくさん食べられるってことだな。うむ、だいたいあってる」


「強くなって強い魔物の肉をたくさん食べる、これは冒険者の醍醐味でもあるよ。魔力を含んだ食材は僅かながら自分の身体にも影響があると言われてて、魔力を含んだ食材をずっと食べてると少しずつ魔力が増えるという話もあるんだ。そうだよね、魔力を摂取してるんだから影響がないほうがおかしいよね?」


「講義中じゃないからって適当なこと言うなよ? でも魔物の肉は美味いからな。珍しい魔物を倒して、素材を売る前にちょっと味見をするのも冒険者の楽しみだからな。そのためには自分で解体できるようになって、簡単な料理方法も覚えておくといいぞ。野営用の携帯調理器具は冒険者の必需品だかな。料理が苦手? 料理はレシピ通りに作れば失敗しないから、まずは確実で簡単なレシピ本を読んで、手軽にできそうな料理をメモしておくといい。あ、これも俺の本なんだけど"徒然まかないごはん"っていう手に入りやすい魔物素材とお手頃な調味料を使った、野営で手軽にできる料理のレシピを纏めたものが資料室にあるからぜひ読んでみてくれ」


「えぇ、どんだけ本だしてるの……。でも、グランは簡単そうに料理するけど、実際にやってみるとなかなか上手くいかないんだよねぇ」


「む? 料理がどうしても美味くいかないって人は、レシピと違うことをどこかでやってる可能性があるな。同じ生き物の肉でも違う部位で代用しない、調味料も他のものを代用しないのと慣れるまでは分量は正確に、火力は強くしても調理時間が短くなるわけではないので書かれている火力を守る。野菜もそうだな、嫌いだからって入れなかったり、違うものに変えたりすると失敗する原因になることもある。いいか、最初はレシピに忠実にだ。チャレンジ、アレンジ、大惨事、よく覚えておくといい」


「えー、野菜はイラナイよー」


「お前の料理が微妙なのは必要な野菜を入れてないからだ。薬草も美味しく食べられるものが多いからな。魔力を含んでいるし、体にもいい効果がある薬草もたくさんあるから、まさに道草を食ってみるのも悪くないな」


「道草を食べる時はちゃんと鑑定してから食べるんだよ? お腹を壊すもののほうが多いからね? まぁ魔力は美味しいからニンジンを食べるくらいなら薬草を食べるけど。ん? 俺が食べてるの? 芋なのに美味しそう? うん、芋は野菜の仲間だけど美味しいね。あげないよ、これはバハムートっていうランクの高い魔物の素材が入ってるから、魔力の低い君達にはまだ早いね。え? ただのふかした芋にしか見えないのにって? アッ!」


「ははは、アベルはうっかりさんだなー」






【食と魔力】

・魔力と食事

 魔力を使うと腹が減る

 魔力消費=カロリー消費

 たくさん食べてもたくさん魔力を使えば実質ゼロカロリー。


・一説では

 魔力が多く含まれているものは美味しい。

 つまり強い魔物は美味しい。

 魔力を含んだ食材は身体にも影響を与え、微量ながら魔力の増加に繋がるという説もある。

 料理をすれば魔力が抜けるが、魔力を多く含んでいるものは魔力抵抗が低すぎる人には魔力酔いの可能性があるので食べ過ぎ注意。



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