第10話◆魔力と魔法――魔法な魔法と物理な魔法

「んぎゃっ!? 痺れた……雷か? あ、わりぃ、ちょっと意識が飛んでた」


「やっぱりグランは魔力が多いから魔法防御が高いね。

 はい、みんな見てた? これが魔法防御とか魔力耐性とかっていうやつね。本来ならその辺の池に棲んでる魚が纏めてプカーッてなるくらいの威力の雷魔法だったんだけど、魔力の多いグランなら寝ている間でも無意識に垂れ流してる魔力で、ちょっと痺れたくらいで済んじゃうんだよね。いい、これが魔法防御、魔法使いの敵」


「おい? おいい!? 俺で魔法防御の実演をするんじゃねぇ! ちょっと寝てたのは悪かったけど」


「大丈夫だよ、受講してる人達や部屋や備品には被害が出ないように手加減したから」


「違う、そうじゃねーだろ!?」


「って感じで、俺の雷魔法をくらってもグランはピンピンしてるね。普通の人なら痺れて暫く動けないくらいの威力だったんだけどね。

 この魔力に対する抵抗力は基本的に保有している魔力の量に比例するんだ。ギフトや特殊なスキルの効果を除けば、魔法が使えるとか得意とか関係なしに、魔力の量が多い人は魔力に対する抵抗力が高い。魔法を使う人は基本的に魔力が多いからだいたい抵抗も高いけどね。

 それから適性の高い属性ほど抵抗力が高くなる。この辺は人間も他の種族も魔物も一緒。魔物はわかりやすいね、見た目や行動にもろ適性属性が出てるやつが多いからね」


「魔力が多いけど魔法が使えないとか苦手だとかでへこむ必要はないぞー。魔力は多いだけでこうして抵抗が高くなって、防御的に有利になるからな。魔力への抵抗が高いってことは属性への抵抗も高いってことだ。魔法の攻撃じゃなくても火や水その他属性攻撃に強いってことだな。

 これは魔力の残量にも影響されるし、きつい攻撃に耐え続けると魔力も体力も消耗する。そうなれば抵抗力も下がるから、魔力の消耗には注意が必要だ。スキルやギフトや訓練次第で耐性を加減して魔力の温存を図れる人もいるな。

 魔力が高ければ理論的には素っ裸で雪の中に放置されても火の中に飛び込んでも耐えることはできるけど、その分魔力をゴリゴリ消費して魔力が尽きたらもちろん身体にダメージをくらってしまう。いくら魔力があって抵抗力に自信があっても防御面の備えを怠らないこと。

 つまり装備だな。自分に見合った装備、目的にあった装備を付けて無駄な魔力の消費は抑えるようにするんだ。防御系の能力の底上げや補助するタンク系のスキルやギフトを持った人もいると思うが、何事も過信は禁物だ。余裕があるから大丈夫じゃなくて無駄な消費を抑える気持ちは忘れるな」


「そうだね、いちいち防御に無駄な魔力を使うのはもったいないからね。魔力は攻撃に使ってこそ魔法使いだよ」


「いいか、これを魔法ゴリラっていうんだ。魔法という名の魔力でできた筋肉……いたっ! 氷、いたっ!」


「勝手に魔法を筋肉化しないで! はい、よく見て、これが魔法防御が高い相手に対する魔法の使い方! 魔法抵抗が高い相手にはこうして物理的な魔法をぶつけるんだ。

 氷、石、大量の水、風の刃、ぶつける、突き刺す、押し潰す、押し流す、溺れさせる、切り裂くみたいに色々あるね。これが魔法の物理的使い方。魔法抵抗の高い相手はこうやって攻撃するんだよ、よぉく覚えておいて」


「いたっ! くそっ! いたたっ! 氷とか石とかぶつけやがって、ぶふっ! 水もやめろ! 風のカッターで髪の毛を刈るのもダメ! 炎で髪の毛を燃やすのもダメ! 炎は燃えやすさや熱さの感じ方が魔法防御でかわるよ。でも髪の毛は物理も魔法防御も低いの!!

 髪の毛とロングのフレンドでいたかったら頭防具はしっかりしたのを選ぶんだ! 毛根が死んだら回復じゃなくて蘇生再生じゃないと髪の毛は生えてこないからね! ヒールじゃなくてリザレクション! エリクサーとかリザレクトポーションじゃないと治らないからね! 髪の毛大事に!

 ああ、うん、教会でいっぱいお布施をしたら生やしてもらえるよ。教会の運営資金ってほとんど髪の毛でできてるんじゃないかな!? 高齢者に信心深い人が多いのはそういうことだよ、知らないけど」


「講義で適当なことを言わないで! まぁ、神殿のことだからいっか。ん? 物理的魔法とそうじゃない魔法の違い?

 そうだね、実体のあるなし、もしくは魔法で作り出したもので攻撃するか、直接魔法をかけるかってとこかな?

 例えばこの氷をグランにぶつける、これは物理的魔法攻撃。魔法防御では防げないし、軽減できるのはせいぜい冷たさくらい?

 そして、今度は凍らせるよ。大丈夫、大丈夫、ちゃんと手加減するし、グランは魔法防御が高いから、ね☆ ほら見て、表面しか凍ってないし、グランが手を動かしたらすぐに砕けたでしょ? これ、抵抗がほとんどない人だと、指がポロンっていっちゃう威力だなんだよ? 信じられないでしょ? これが魔力的な魔法攻撃と魔法防御。

 相手に直接干渉するような攻撃――凍らせたり、石にしたり、体内の水分に干渉したり。それから実体のない環境的な攻撃――熱や冷気なんかの温度を上げたり下げたり攻撃、空気の振動を制限したりする攻撃、だいたい実体のない攻撃、魔力系の攻撃は抵抗で軽減されちゃう。

 光とか闇とか聖とか沌はちょっと特殊だから、ここら辺は中級以上の講習で実践を踏まえて詳しく教えてもらえるよ」


「くっそ、俺は攻撃練習用のカカシじゃねーぞ!? たいして効かないけどちょっと痛かったり、チクチクしたり、熱かったり寒かったりするからな!?

 そうそう、ちょっと特殊なのが重力――重さを弄る攻撃だな。例えば広範囲で場の重力を弄る攻撃、これは物理系攻撃で筋肉や身体強化で耐えることができる。対象者やその装備品のだけを重くする攻撃これは魔力系攻撃、対象者や装備品の魔力抵抗で効果が変わる。そ、かかってる対象が自分かそうじゃないか。

 地震? 地震は物理だから気合いと根性で踏ん張る、大きな地震は周囲や足元にも注意する。もしくはレビテーション系の付与のある装備を着けておくか、それ系のアイテムを用意して回避する。

 似たようなので津波系もかなぁ、水がぶつかるダメージは物理だけど、押し流そうとする力は魔法防御、水耐性で軽減できる。でもこれは筋肉で耐えることもできる。そそ、水の勢いを魔法防御で軽減してるんだ。流されてぶつかってくる固定物はもちろん物理防御だから津波はそれにも気を付けるんだぞ。

 まぁ、重力も地震も津波も広範囲に及ぶものは魔力消費が多いから、使って来るやつは限られているし、発動前に大きく魔力が動いて前兆があるから、違和感があったら回避の準備をすること。うむ、魔力を把握するスキルをしっかり鍛えて回避しないとやばいやつだな」


「そうだね、威力の高い魔法は魔力もたくさん使う、そうなると使用者の魔力の気配、周囲の魔力への影響、そういったことがわかりやすくなる。もちろんそれを隠蔽する、周囲への影響を最小限に抑え自然に大きな魔法を使う、そういった技術もあってそれは魔法を使う上で非常に重要なことだよ。

 すごい魔法使いっていうのは、自分の魔力を相手に感じさせないんだよ。それは魔物も同じ。相手や周囲の魔力を読み取って魔法の予兆に気付くことも大事、そして自分の魔力を隠蔽して相手に気付かせないことも大事なんだよ。どっちも練習してどっちも鍛えることを怠らないでね。

 そうだね、グランにバレないように魔法が撃てるようになったら完璧だね」


「いてっ! だから、俺を実験台にするな!! ていうか、お前の細かい魔法に気付くわけねーだろ!? いてっ! いててててっ! いたぁいっ! うおおおおおおおおおお!! いい加減にしろおおおお!!」


「うわ……前兆なしの氷の粒をこの至近距離で受け止めた! や! 投げ返さないで! 痛い! 冷たい! 暴力反対!!」






【魔法な魔法と物理な魔法】

・魔法防御(魔力抵抗)

 魔法に対する防御力は魔力量に比例する。

 ただし魔法による物理攻撃は物理的防御力で軽減。

 熱や冷気など属性を伴う攻撃は魔法ではなくても魔法防御で軽減できる。

 ただし抵抗力は魔力残量に比例し、防御し続けると魔力を消費していく。


・魔法な魔法と物理な魔法

 物理的な魔法攻撃(物理防御)→氷をぶつける、石をぶつける、水で押し潰す、風で切り裂く等、直接的で実体のある攻撃。

 魔力的な魔法攻撃(魔法防御)→凍結、石化、冷気、熱など実体がないものや環境的な攻撃

 特殊例

 範囲系重力魔法→物理防御(筋肉と気合いと根性で解決できる)

 対象を指定した重力魔法→対象(人または物)の魔法防御

 地震→物理防御

 津波→ぶつかる衝撃や一緒に流れてくる固形物は物理。流れる力は魔法防御、水耐性で軽減、筋肉でも耐えられる。

 余談:カメ君の水鉄砲は冷たい以外は物理攻撃。


・魔法の前兆

 大きな魔法ほど、使用魔力が大きく周囲に影響が出やすく、気配もわかりやすい。

 魔力操作の技術でそれらを隠蔽したり、小さくしたりすることもできる。

 気配察知系のスキルでその魔力の動きを察知することができる。


・髪の毛の話

 髪の毛を伸ばすのは時間魔法。

 毛根が死んでしまったら、再生蘇生系の魔法リザレクション系でなければ治らない。

 ポーションならエリクサー、リザレクトポーションクラス。

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