第9話◆魔力と魔法――魔導と魔術

「はい、魔力の属性についての説明が終わったから、次は魔法についての説明だよ。魔法っていうのは魔力を自分の体の外で事象を具現化させて使うことだよ。

 例えば水や炎を出す、氷を作る、風を吹かせる、地震を起こす、明るくする、影を動かす。その事象を引き起こすための要素を魔力でやっちゃうことだよ。

 魔力を使うスキルと線引きが分かりにくいけど、大まかにいうと無属性を含めて属性があるもののことを魔法っていうんだ。魔力を使っても属性のないものはスキルだと思えばいいよ」


「わかりやすいのが身体強化の魔法とスキルかな? 身体強化系のスキルは魔力を使って自分の身体機能を上昇させる、一方身体強化系の魔法は属性に応じた強化を対象者の身体能力に上乗せする。火なら筋力、水なら体力、風なら速度、土なら防御、光なら魔力抵抗力、闇なら精神防御みたいな感じ?

 え? 身体強化魔法は体の中じゃないかって? 魔法のほうは体の外からの干渉、自分にかけている場合も他人にかけられるものを自分にかけている状態だ。一方スキルの身体強化は内部からの干渉だから自分にしか作用しない。

 え? わかるようでわからない? そうだな、俺が使えないのが魔法、俺が使えるのがスキル!!」


「うん、最後のはグランしかわからない説明だからボツ。

 魔法はね知識とイメージ次第でできるは幅はどんどん広がっている、スキルも応用次第で魔法と見分けのつかない使い方もできるね。光、闇や聖と沌、それから無属性も実体がないものばかりだから目視ではわかりにくいからね。

 魔法とスキルの線引きは分かりにくいかもしれないし知らなくても問題ないけど、これだけはわかってほしい。この属性だからこれはできない、魔法では特別なスキルと同じようなことは再現できない、そうやって魔法の限界を決めないでほしい。限界を自分で決めるとそれ以上できないという思い込みができてしまうから。できないと思っても、別の面からのアプローチを考えて自分で自分の魔法の可能性をどんどん見つけて広げてほしい。

 それが君達が魔法を上達するための秘訣、そして大魔導士の俺からのアドバイスだよ」


「…………」


「グラン、どうしたの? そんな驚いた顔して?」


「いや、アベルが非の打ち所がないドドドドド正論を言ってるなって思って? つべたっ! 氷つべたっ! 氷やめて、固形物いたっ!」


「グランは黒板係を真面目にやってて。それじゃ魔法について掘り下げていくよ。

 魔法にはイメージとして魔力を形にする魔導と、魔力に干渉できる言葉や文字や図形を使って形にする魔術がある。今、俺がグランの上に氷を降らせたのはイメージだけでやった魔導、俗に言う無詠唱ってやつだね。魔力が多くて魔力操作が得意で魔力のイメージをすぐに作れる人ならできちゃうね。

 うん、ある程度までは鍛えれば誰でもできるからね、簡単な魔法だけでも無詠唱でできるようになってると戦闘で有利だよ。そそ、すぐに発動できるのはもちろんのこと、詠唱や魔法陣なんか使ったらこれから何をするか相手にバレちゃうからね。そだよ、戦う相手が賢くないとは限らないからね」


「かっこいい魔法の名前を叫びながら、魔法をバンバン撃つのは憧れるけど、そんなことやったら相手に手の内がバレるからな。魔法に限らず物理攻撃もそうだぞー、技にかっこいい名前を付けて叫びたくなるけど、言葉が通じなくても叫び声で相手に攻撃の予兆がバレるからやめたほうがいいぞぉ。

 え? やらない? 別にかっこよくない? むしろ恥ずかしい? お、おう、そうだな?」


「そうだよ、普通叫ばないし、他人にやるなって言いながら自分は時々変なこと叫んでるよね?」


「あれはほら気合いを入れているというか、場合によっては声を出したほうが力が入るというか? そ、魔術の話をしてるから言葉の力! そう言葉の力だよ! 言葉にも力があるんだ、君達もよく覚えておきたまえ!!」


「まぁ、それこれから話そうと思ってたことだけど……。今グランが言った通り言葉には力があるんだ。

 褒められると嬉しい、たくさん褒められるとやる気が出て思った以上の成果が出た。辛い時にかけられたなにげない一言に救われた。逆に辛辣の言葉をひたすら投げかけられて、気持ちが沈んだ。できないと言い続けられ、本来はできるはずのことが失敗続きになった。辛い言葉を浴びせられて体調を崩した。そんな経験はないかな?

 そ、言葉にはその効果に上下はあるけど力があるんだ。言葉には魔力を乗せることができる。使い方を知って声に出せば呪文詠唱、さっきグランが言ってたみたいに技名を叫ぶ人もいることはいるね。

 文字に書けば装備品や術具などの魔道具にもなる。図形にすれば魔法陣や文様――これらのことをひっくるめて魔術っていうんだ。魔導という方法だけで魔法を使うこともできるけど、魔術と併用することで魔法の威力をあげたり、魔導だけでは足りない部分を補ったりするんだよ」


「魔術は魔法だけじゃなくて魔道具の作成や付与にも関係がある。基本的な魔術の知識があれば自分で装備品や日用品にも付与ができるし、その辺の使い捨てに投擲武器も作れる。魔導は知識がなくても魔力量と魔力操作の技術があれば使えるが、魔術は魔力が少なくて魔力操作が少々苦手でも知識があれば使えるんだ。

 ちょっと魔術の知識があれば冒険者生活も日常生活も便利になって小遣い稼ぎもできるぞ。魔術や付与の講義もあるから機会があればぜひ受けてみるといい。

 そうそう、例によって資料室に俺が書いてる"ガラクタウェポン"っていう付与を使ったお手軽武器のハンドブックがあるから良かったら読んでみてくれ」


「グランはなんでも小金稼ぎに結びつけるからね。それと魔術を使った使い捨ての投擲武器ってだいたい爆発する系だよね? 素直な初心者達に変なこと教えないで!! それに薬草以外にもハンドブックを出してたの!?」


「冒険者にとって細かい金策とお金のかからない戦闘スタイルは重要だぞ? 塵も積もれば山となるだ」


「その山の規模が時々おかしいんだよなぁ。あ、話が逸れた……もう! 真面目に黒板係をしてて!!

 じゃあ話を戻すよ。言葉には魔力が乗るといっても、言葉によって魔力との相性があるんだ。俺達が日常的に使っているユーラティア語――大陸共通言語は魔力とあまり相性がよくないんだ。これは言葉の歴史の話になるけど、日常生活をする上で使う言葉は魔力と相性が良すぎると人間には制御が難しいから、あえて魔力と相性の悪い言葉が使われるようになったとも言われてるよ。

 だから魔力と相性のいい言葉は普段俺達が使っている言葉じゃなくて、魔力の制御に慣れた種族が使っているもしくは使っていた言葉なんだ。エルフの言葉だったり、妖精や精霊の言葉だったり、昔この大陸にあった魔法王国の言葉だったり、更にその昔の言葉だったり。

 魔術を使いこなそうと思うとこの辺りの言語も習得することになるね。簡単な古代語は付与の時間でもちょっと習うよ、でも踏み込んだ講習は専門の講習になるから、受講料も高いし内容も難しい。それでも学びたいって人は受けてみるといいよ。

 専門講習はテストもあるからね。そ、ちゃんと理解できてないと習得履歴に加えてもらえないからね。うん、この手の習得証明のテストがある系の講座はすでに知識があるなら、テストに合格すれば技能として習得済みに加えてもらえるよ。

 ん? 俺? 俺は冒険者になる前に全部勉強してたからね、テストしか受けてないよ。貴族や大きな商会出身の子はそういう子が多いんじゃないかな? 大丈夫だよ、グランなんか居眠りしすぎて追加講習と追試だらけだったから。

 ね、グラン? え? グランなんで立ったまま寝てるの!? 教える側が寝てどうするの!? 言語の話にちょっと触れただけなのにどれだけ語学が苦手なの!?」




【魔導と魔術】

・魔法とは

 魔力を体の外で具現化させるもの。

 無属性を含め、何らかの属性がある。


・魔導と魔術

 魔導→イメージだけで魔力を具現化させること。

 多くの魔力と高い魔力技術が必要。

 魔術→詠唱や文字、魔法陣などを使って魔力を具現化させること。

 魔力の消費は押さえられるが、詠唱や文言、魔法陣を使うため、発動までの時間が魔導よりおそく予測されやすい。

 


・言葉の力

 言葉には力がある。

 言葉には魔力を乗せることができるが、言語によって誤差がある。


・身体強化

 魔法→属性による上乗せ強化(数値加算型)

 基礎体力が低い場合こちらのほうが効果が高い。

 使用者の魔力により増加率が決まる。

 アベルやリヴィダスが他人にかけているのはこちら。

 (リヴィダス自信はスキルの身体強化も併用可能)

 スキル→魔力による身体能力上昇(乗算型)

 使用者のスキル値と魔力により上昇率が決まる。

 高スキル+高魔力+基礎体力高で圧倒的な上昇率。

 グランやドリーやカリュオンが使うのはこちら。

 ただし、自分の身体限界を超えた上昇は反動で強烈な筋肉痛になる。



 

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