第8話◆魔力と魔法――属性について

「やぁ、Aランクの冒険者アベルだよ。今日の初心者向け魔法講習の講師は、希代の天才魔導士の俺だからね、ありがたく話を聞くんだよ。

 うん? 助手? うん、彼はグラン、魔法は使えないけど今日の助手、黒板係」


「はーい、黒板係のグランだよー。魔法は使えないけど、安心しろ、魔法が使えなくても冒険者はやっていける!! ちょっと使える人が羨ましいくらいだ!!

 それと、アベルの"できる"は普通の人にはできない無茶振りも多いから、一般的な平均レベルの凡人の常識で無理なら無理って言うんだぞ? アベルと比較してできなくてもへこむ必要はないからなー。そう、誰でも最初は初心者!! 伸びしろしかない!!」


「やだな、最初の講習でそんな無茶振りはしないし、室内の座学だから危ない魔法は使わないよ。それじゃ、講義を始めるよー。グラン、黒板よろしくー」


「はいはい……ア"ァ"ッ」


「う"ゃ"!? ちょっとやめて! なんで講義始める前から黒板をひっかいたの!! 鳥肌が立ったじゃないか!!」


「や、書く前に綺麗に拭いておこうかと黒板消しで拭いたら、装備の金具が黒板を擦ってしまった」


「グラン、サイテー。黒板の周りに消音魔法をかけておこ。消音魔法は風属性の魔法でね、空気の振動を制御する魔法だよ。消音魔法は初歩的な魔法だから、ちょっと勉強すればすぐに使えるようになるよ」


「確かに消音魔法はよく使われる魔法だけど、黒板だけピンポイントで音を消すのは明らかに技術的に高度すぎるんだよなぁ」


「今は無理って思ってるようなことも、頑張ればできることはどんどん増えるからね。魔法は使えば使うほど伸びていくものだから、日頃からどんどん魔法を使っていこうね」


「アベルは魔法に頼り過ぎなんだよなぁ」


「今は魔法の授業だからいいの! それじゃ、まずは魔法の基礎の基礎、ほとんどの人が知っていると思うけど今日は講義なので基本の六属性魔力についてから説明していくよ。

 基本の六属性、それは自然にまつわる属性――火、水、風、土、光、闇この六つだよ。日常生活でよく使う生活魔法と呼ばれる簡単な魔法もこの基本の六属性のものなんだ。

 その六属性から派生したのが氷と雷。氷は水の上位、水属性を上手く扱えるようになると氷属性も上手く扱えるようになるからね。

 それから雷は風と水の複合属性。両方の属性を上手く扱えるようになった上で、同時に扱えるくらいならないと雷属性は扱えないよ。あと雷は危ないから使い方には気を付けてね」


「いいか、雷は危ないからな! 一歩間違えると自分がこんがりするし、仲間もこんがりしやすいからな! 使う前に雷の特性……いや雷に限らず、火も水も風も土も使う前にはその性質と、危険性を考えて場所にあったものを使うんだぞ! もちろん魔法に限ったことじゃないぞ!」


「うっわ、洞窟地形で火炎系爆弾投げるグランが言うと説得力に欠けるね」


「俺はちゃんと周囲の安全は確認してるから問題ない」


「問題しかないんだよなぁ。ま、常識ある君達なら閉所で爆弾なんか投げたりしないよね。うんうん、当たり前だよね。グランも言ったけど、魔法に限らず行動をする時は自分の行動が周囲にどんな影響を与えて、どういう危険性があるか考えて行動するんだよ。

 じゃあ魔力属性の話にもどるよ。魔力の属性にはこの基本の六つの他に聖と沌というものもある。聖というのは創世の神と同じ属性といわれている魔力で、生き物が使える聖の魔力はその一部だと聖職者は言っている。

 救いつまり癒やしを与える、あるべきものをあるべき場所に還す、そして物事を正す、そういったことを得意とする魔力だね。まぁ、聖の魔力は魔導士より聖職者や神殿のほうが専門だから俺の講義では基本的なことしかやらないよ」


「神殿ではお布施を払えば聖の魔力の講習に参加できるぞ。ついでにありがたい説法も聞くことになるけど。ヒーラーを目指すなら一度そっちの講習も受けてみるといいかもな」


「それから沌の魔力。これは原初の属性といわれ、世界ができた頃からある属性、全ての魔力の元になった属性、全てが入り交じり混沌としている属性だ。沌属性と相性がいい人はすごく珍しいんだよ。

 沌属性は全てが入り交じってる、つまり全ての属性の特性を備えている。入り交じってるのはそれだけじゃなくて、生と死、過去と未来さえも入り交じってる属性なんだ。

 ふふふ、そうだね沌属性はあんまりのめり込みすぎると、自分も沌属性の魔力に影響されて、自分とそれ以外の存在との境目がわからなくなっちゃうかもね」


「沌属性は扱いが難しいというか、相性が悪い人のほうが多いからな。ほとんどの人が経験があるとは思うが、強すぎる魔力や相性の悪い魔力は魔力酔いをして体調を崩しやすい。相性が悪い魔力ほど魔力酔いがしやすくなるな。

 そうそう、魔力のせいで気分が悪くなったらそこには自分と相性の悪い魔力があるか、自分の許容量以上の魔力があるってことだから、速やかにその場から離れることをおすすめする」


「魔力には個人で適性あるからね、自分の適性がある魔力は把握しておくんだよ?

 適性がある魔力は、そうじゃない魔力に比べて使った時に明らかに魔力の扱いがスムーズだとか、魔力の消費が少なくても高い威力が出やすいとかがあるから何となくわかると思うよ。ただし、適性が高すぎる子は自分の予想を超える威力の魔法が飛び出すことがあるから注意するんだよ。

 そう、適性のない魔法もちゃんと使えるよ。ただその適性とか相性の具合によって消費する魔力が変わってくるから、相性の悪い魔力は扱い難く感じるはずだよ。

 神殿や公的機関で鑑定してもらえば大雑把にわかると思うけど、生き物の鑑定は精度が高くなるほど金額も高くなるし、特殊な能力があったりすると面倒くさい人に絡まれることもあるからね。

 精度低めなら冒険者ギルドでもやってもらえるところがあるから、お金が貯まったら一度くらいギルドで鑑定をしてもらうといいかもね」


「そうだなぁ、生き物の鑑定ができる人もそれ用の魔道具も珍しいからな、どうしても能力の鑑定って高いんだよな。だが大雑把でも得手不得手を把握してると立ち回りもしやすくなるし、もしかすると自分の知らないレアスキルが眠ってるかもしれない。うん、ちょっとワクワクするよな」


「世の中には珍しいスキルやギフト、特殊な魔力もあるからね。魔法にも今説明した属性以外にも無属性というどの属性にも属さない属性があるんだ。属性が無いんじゃなくて、属する属性が無いって意味だね。

 その代表が空間魔法や時間魔法、すっごく珍しくて扱いの難しい魔法なんだよ。他にも召喚関係、契約魔法なんかも無属性だね。

 ん? そこの君、起きてる? 俺の講義で寝るなんてグラン並みに図太い子だね。他にも眠い子はいるかな? 眠くなったら言ってね、助手のグランに頼んでザラザラのガラス板を鉄の爪でひっかいてもらうから」


「や、それ、俺も辛いんだけど……」


「居眠りしなければ大丈夫だよ。ふふふ、誰か居眠りをしたらグランも一緒に被害を受けることになるから、居眠りをしないように頑張ってね」


「――解せぬ」


「じゃ、次は魔法の仕組みについて話そうか」







【魔力の属性】

・基本六属性

 自然にまつわる六つの属性。

 火、水、風、土、光、闇。

 氷→水の上位

 雷→水と風の複合


・その他の属性

 聖→創世神と同じ属性(と聖職者は言っている)

 沌→原初の魔力、全てが入り交じって混沌とした魔力

 無→どの属性にも属さない属性

 時間、空間、契約、召喚魔法など。


・属性と適性

 個人によってそれぞれ属性に適性がある。

 強力すぎる魔力に触れすぎると魔力酔いをする。

 適性が低い属性ほど魔力酔いをしやすい。

 適性の高い魔力はスムーズに扱うことができ、魔力の消費が少なく威力も出やすい。



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