第3話 俺、大星夕之介、25歳

 いったい、どうしたらいいのか?

 この「プレゼント」は信用していいのか、トリックなのか、断ったらおれは殺されるのか? 

 いや、殺すのなら、こんな手間はかけないだろう。


 さっき他の男たちと大部屋にいたら、部屋のスピーカーから、俺を名指しするアナウンスが流れた。部屋から出ろとの指示だ。

 部屋のドアが自動的に開いたので廊下に出ると、木の切株きりかぶみたいな珍妙かつ不気味な形のロボットがいて、付いて来いという。

 俺はヤツのあとに付いて歩いた。

 途中、他のロボット数体とすれ違った。そいつらは、たぶん武装ロボットだろう。俺の前にいる「切株」とは違い、彼らは二足歩行している。見るからに俊敏そうで、もしかすると人間より速く走れるのかもしれない。身長は俺より少し高く、2mはありそうだ。ガッシリした体格で、殴り合ったり組み合ったりしたらも、かないそうもない。ここで逃げても、彼らに捕まるか殺されるだけだろう。


 廊下をいくつか曲がり、大部屋を出てから10分くらい歩いたところにある小部屋に、切株と一緒に入った。部屋には椅子が1脚だけあって、腰かけるよう命じられた。

 切株は俺に話しかけた。もちろん合成された声だが、どちらかというと、女っぽい声だ。

「姓名、ID番号、性別、生年月日を言って下さい」

大星夕之介おおぼしゆうのすけ、9310092番、男、西暦2046年7月14日生まれ」

「ありがとう。私は、当研究所の研究支援ロボットで、アーシャと言います。よろしくお願いします」

「……」

「そう硬くならず、リラックスしてください」

「リラックス? できるわけないだろ」

「今日ここに来てもらったのは、あなたにとても素晴らしいプレゼントを差し上げるためです」

「プレゼントねぇ。俺を、とって食おうってのか?」

「ハハハハハ。冗談は止めてください」

「ロボットのくせに、冗談なんて言葉を知っているのか」

「ロボットだからといって、あなどってはなりませんよ。人間については、あなたよりたくさんの知識を持っているんですから」

「人工知能に、人間の心が分かってたまるか!」

「大星さんは、いい名前をお持ちですね。夕方の空に大きな星。どの星のことでしょうね?」

「あんた、漢字の意味が分かるのか?!」

「もちろんです」

「いったい、あんたを作ったのは誰なんだ? 地球に来た目的は?」

 俺たちは、あいつらに捕まってから今まで、ロボット以外の姿を見たことがない。だから、ロボットたちを操っている者の正体を、俺たちはまだ知らない。


「プレゼントに対するあなたの対応次第で、教えます」

「……。それなら、プレゼントとやらについて聞こうじゃないか」

「では、内容をお伝えします。もしも、これから私が言う仕事を、指示どおり遂行したら、その間、あなたには身の安全、十分な食事、個室、適度な運動と娯楽、医療、そして睡眠を保証します」

「へえ、結構じゃないか。して、仕事とやらは何をする?」

「毎日、指示した人数の女性と性交し、膣内で射精することです」

「何だって! ロボットとやるのか?」

「違いますよ。人間の女性とです。相手はこちらから指示します」

「目的は何だ?」

「あなたの回答を聞くまでは詳しいことは言えません。しかし、それでは判断しにくいでしょうから、少しお話ししましょう」

「もったいぶらずに言えよ」

「私たちの目的は、人間社会の再建です」

「再建だって? なら、なぜ俺たちを捕まえたり閉じ込めたりするんだ?」

「残念ながら、あなたにも人間の悪癖あくへきがあるようですね。過去に学ぼうとしない悪癖が。核戦争をやって、この星を滅茶苦茶めちゃくちゃにしたのは、あなたたち人間ではありませんか」

「……」 

 アーシャとやらは、こちらの弱い所を突いてきやがる。


「いや、違う。今度の戦争は、専制主義国同盟の愚かな君主たちに非がある。俺たち民主主義国連合は、それに反撃しただけだ」

「つまり、人間だけでは争いを解決できなかったわけですよね」

「……。それで?」

「地球を人間の手に委ねていては、この星は完全に死んでしまいます。だから、しばらくの間、私たちが地球の統治と復興を行おうということです。この星の生物の中で最も知能が高い人間は、あの戦争で激減しました。他の生物についてはすでに、私たちの手で相当程度復旧させました。今度は、人間の人口増加に取り組もうというわけです」

「それで、俺に種馬になれってわけか?」

「実は、私たちは事情があって、この星に滞在できる期間が限られています。ですから、多少手荒いのですが、こういう方法を取らざるを得ないのです。なお、精子を提供する男性の候補は複数選んであります。たとえあなたが断っても、他の人に置き換わるだけです」

「もしも、断ったらどうなる?」

「特段、どうにもなりません。元の大部屋に戻ってもらいます。そして、地球復興のための作業に従事してもらいます」

 俺は、どうも話がうますぎると思った。

「なぜ俺が選ばれた?」

「いろいろな要素の総合勘案によります」


 俺は、自分で言うのもなんだが、およそ取り柄のない男だ。

 大学を出て、小さな会社に入社し、営業の仕事をしていた。イケメンでもないし、頭が切れるわけでもない。勤労意欲はとても低い。ただ、身長は2m弱あるから、ちょっとは誇れるかもしれない。

 趣味はボディビルだ。もともと、背は高いが体は細く、ひょろ長いウドのような感じだった。ボディビルで筋肉を付けて、たくましい体になりたかった。


 それと、これも自分で言うのもなんだが、性欲が人一倍強い。だから、就職して一人暮らしを始め、親の干渉が届かない場所で自由にできるカネが出来た途端、性欲を発散できる遊びに足を踏み入れた。

 これがよほど自分に合ってたとみえ、一日おきくらいの頻度で通うようになった。ボディビルを始めたのも、自分の裸体に自信を持ちたかったからだ。営業職で外回りが多いことを利用して、昼間から遊んだことも少なくないし、給料のほとんどをその遊びにつぎ込んでいた。

 こんな俺を、どうして「種馬」に選んだのか、皆目見当が付かないのだが……。


「説明は以上です。あなたに30分、時間を差し上げます。私は30分したらここに戻ってきますので、答を聞かせてください。良い答を期待していますよ。なお、この部屋は自動的にロックされます」

 アーシャは、かすかにモーターの作動音を発しながら、部屋から出ていった。


《続く》

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る