第3話 俺、大星夕之介、25歳
いったい、どうしたらいいのか?
この「プレゼント」は信用していいのか、トリックなのか、断ったら
いや、殺すのなら、こんな手間はかけないだろう。
さっき他の男たちと大部屋にいたら、部屋のスピーカーから、俺を名指しするアナウンスが流れた。部屋から出ろとの指示だ。
部屋のドアが自動的に開いたので廊下に出ると、木の
俺はヤツのあとに付いて歩いた。
途中、他のロボット数体とすれ違った。そいつらは、たぶん武装ロボットだろう。俺の前にいる「切株」とは違い、彼らは二足歩行している。見るからに俊敏そうで、もしかすると人間より速く走れるのかもしれない。身長は俺より少し高く、2mはありそうだ。ガッシリした体格で、殴り合ったり組み合ったりしたらも、かないそうもない。ここで逃げても、彼らに捕まるか殺されるだけだろう。
廊下をいくつか曲がり、大部屋を出てから10分くらい歩いたところにある小部屋に、切株と一緒に入った。部屋には椅子が1脚だけあって、腰かけるよう命じられた。
切株は俺に話しかけた。もちろん合成された声だが、どちらかというと、女っぽい声だ。
「姓名、ID番号、性別、生年月日を言って下さい」
「
「ありがとう。私は、当研究所の研究支援ロボットで、アーシャと言います。よろしくお願いします」
「……」
「そう硬くならず、リラックスしてください」
「リラックス? できるわけないだろ」
「今日ここに来てもらったのは、あなたにとても素晴らしいプレゼントを差し上げるためです」
「プレゼントねぇ。俺を、とって食おうってのか?」
「ハハハハハ。冗談は止めてください」
「ロボットのくせに、冗談なんて言葉を知っているのか」
「ロボットだからといって、
「人工知能に、人間の心が分かってたまるか!」
「大星さんは、いい名前をお持ちですね。夕方の空に大きな星。どの星のことでしょうね?」
「あんた、漢字の意味が分かるのか?!」
「もちろんです」
「いったい、あんたを作ったのは誰なんだ? 地球に来た目的は?」
俺たちは、あいつらに捕まってから今まで、ロボット以外の姿を見たことがない。だから、ロボットたちを操っている者の正体を、俺たちはまだ知らない。
「プレゼントに対するあなたの対応次第で、教えます」
「……。それなら、プレゼントとやらについて聞こうじゃないか」
「では、内容をお伝えします。もしも、これから私が言う仕事を、指示どおり遂行したら、その間、あなたには身の安全、十分な食事、個室、適度な運動と娯楽、医療、そして睡眠を保証します」
「へえ、結構じゃないか。して、仕事とやらは何をする?」
「毎日、指示した人数の女性と性交し、膣内で射精することです」
「何だって! ロボットとやるのか?」
「違いますよ。人間の女性とです。相手はこちらから指示します」
「目的は何だ?」
「あなたの回答を聞くまでは詳しいことは言えません。しかし、それでは判断しにくいでしょうから、少しお話ししましょう」
「もったいぶらずに言えよ」
「私たちの目的は、人間社会の再建です」
「再建だって? なら、なぜ俺たちを捕まえたり閉じ込めたりするんだ?」
「残念ながら、あなたにも人間の
「……」
アーシャとやらは、こちらの弱い所を突いてきやがる。
「いや、違う。今度の戦争は、専制主義国同盟の愚かな君主たちに非がある。俺たち民主主義国連合は、それに反撃しただけだ」
「つまり、人間だけでは争いを解決できなかったわけですよね」
「……。それで?」
「地球を人間の手に委ねていては、この星は完全に死んでしまいます。だから、しばらくの間、私たちが地球の統治と復興を行おうということです。この星の生物の中で最も知能が高い人間は、あの戦争で激減しました。他の生物についてはすでに、私たちの手で相当程度復旧させました。今度は、人間の人口増加に取り組もうというわけです」
「それで、俺に種馬になれってわけか?」
「実は、私たちは事情があって、この星に滞在できる期間が限られています。ですから、多少手荒いのですが、こういう方法を取らざるを得ないのです。なお、精子を提供する男性の候補は複数選んであります。たとえあなたが断っても、他の人に置き換わるだけです」
「もしも、断ったらどうなる?」
「特段、どうにもなりません。元の大部屋に戻ってもらいます。そして、地球復興のための作業に従事してもらいます」
俺は、どうも話がうますぎると思った。
「なぜ俺が選ばれた?」
「いろいろな要素の総合勘案によります」
俺は、自分で言うのもなんだが、およそ取り柄のない男だ。
大学を出て、小さな会社に入社し、営業の仕事をしていた。イケメンでもないし、頭が切れるわけでもない。勤労意欲はとても低い。ただ、身長は2m弱あるから、ちょっとは誇れるかもしれない。
趣味はボディビルだ。もともと、背は高いが体は細く、ひょろ長いウドのような感じだった。ボディビルで筋肉を付けて、
それと、これも自分で言うのもなんだが、性欲が人一倍強い。だから、就職して一人暮らしを始め、親の干渉が届かない場所で自由にできるカネが出来た途端、性欲を発散できる遊びに足を踏み入れた。
これがよほど自分に合ってたとみえ、一日おきくらいの頻度で通うようになった。ボディビルを始めたのも、自分の裸体に自信を持ちたかったからだ。営業職で外回りが多いことを利用して、昼間から遊んだことも少なくないし、給料のほとんどをその遊びにつぎ込んでいた。
こんな俺を、どうして「種馬」に選んだのか、皆目見当が付かないのだが……。
「説明は以上です。あなたに30分、時間を差し上げます。私は30分したらここに戻ってきますので、答を聞かせてください。良い答を期待していますよ。なお、この部屋は自動的にロックされます」
アーシャは、かすかにモーターの作動音を発しながら、部屋から出ていった。
《続く》
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