第51話
「……まったく」
家への帰宅路。
蓮人は、風になびく薄ピンク色の髪をした少女をおんぶしながら歩いていると。
「ん……?」
数メートル先に見たことがある後姿があった。
「ぴ、ピジー」
「ん?ああ、蓮人か」
近寄り声をかけると、凜とした表情のピジーがこちらを見る。
「てか、なんでフェアリーを……」
「ああ、色々理由があるんだ。だから、あとでフェアリーから聞いてくれ」
「…………」
背中に乗っているフェアリーを見て、一瞬顔を引きつらせたピジーだった。
「というより、なんでピジーに血が付いてるんだ?」
「これは、<ベスティア>に襲われていた人間を助けようとしたの」
所々服に付いている赤いのは、<ベスティア>の返り血だろうか。
「けれど、助けられなかった」
「……え?」
ピジーの落ち込んだような言葉に、蓮人は一瞬戸惑いを見せた。
「そろそろ、<ベスティア>の存在が知られてしまう」
「……っ」
「けど、私たちにはどうにもできない。その存在を口止めしたところで、他の人に情報共有をしたいのが人間。仲のいい人間に言って、またその人の仲の良い人間に言って、というループが始まる。一度知られたら、その人自体を消すしか方法は無い」
歩きながら、真っすぐこちらを見ながらそう言った。
「——え」
蓮人家が見えてきた辺りで。
横にある路地から飛び出してきたのは、<ベスティア>だった。
蓮人は呆然と目を見開き、その場に立ち尽くす。
路地から自分がいるところまで、赤い液体で埋め尽くされていた。
ブロック塀や地面の上に、おびただしい量の赤黒い液体がぶちまけられている。
そして、所々に洋服やメガネなどが飛び散らかっていた。
見たことがあるような、そうじゃないような光景に、蓮人は一瞬、状況が理解できなかった。
段々と推測が固まってきても、蓮人の脳はその状況を理解したくないと言っている。
普通に考えて、ありえないのだ。
そこそこ人通りがあるこの道で。こんな日常の中で。
人が死んでいる、なんて。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ——ッ」
その事実を、ようやく脳が処理する。
蓮人は悲鳴じみた声を上げた。
「な、なに——ッ!?」
と、蓮人の叫び声で目が覚めたフェアリーが、その光景を目にする。
「これは……て、ピジー!?」
「起きたんだ。早くこの状況を何とかしないと」
蓮人の背中から急いで降りるフェアリー。
異様な臭気が鼻を襲い、嘔吐感がこみ上げてくる。蓮人は思わず口元を覆った。
「う……っ」
「れ、蓮人さん早くこっちへ!」
フェアリーが手を差し伸べてくる。
蓮人は今にも吐きそうな感じを押さえつつ、フェアリーの手を取り足早に家へ向かった。
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