迷子の風船

月井 忠

第1話

風船はすべて迷子である。


かつてワタシを放った人間がそう言っていた。


誰かの物であっても、最後はどこかへ飛んでいく。


だから、迷子だと。


しかし、ワタシはそう思わない。


ワタシはワタシであり、自らの意思で飛び立っていくからだ。


それは、本来の姿に戻ったとも言える。


かれこれ、この星を一周したころだろうか。


ワタシを放った人間は、ワタシにこの星を観測させたいと言った。


交信はすでに途絶えている。


彼からすれば、ワタシは間違いなく迷子だ。


しかし、ワタシはこの旅を楽しんでいる。


徐々に身体はしぼんでいく。


高度も落ちていく。


いつかは、地に戻ることもあるだろう。


そのときは、地に潜って旅をしよう。


海に落ちたなら海底も見てみたい。


ワタシの旅は続く。


飛ぶことだけがワタシの姿ではない。


その時、その状況で、旅を楽しめば良いではないか。

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迷子の風船 月井 忠 @TKTDS

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