ベトナム産イタリアン韓国海苔
儚き世を謳い生を嘆く蝉の如く、寄り樹に糊着す。唇には
「美鶴が白目で泡吹いて、机の上に寝そべってる……」
友の声を聞きつつ、時を測る。残りあと5日と12時間30分、それが刻限、余命である。
……。
……。
……うがあああああああ!!
もうやだ! あと5日の間に告白して付き合うなんて無理!
ふっつうに考えて成功しない! 前に振られてから、まだ2、3週間しか経ってないんだよ!? どんな顔して告白したらええねん!?
ただでさえ、成功するビジョンが見えないというのに、しつこい告白なんか、晴れてるのに雨が降るような成功率だろう。
まずい。このままだと、高良が夏乃さんに奪われてしまう。
でも、どうする? 有耶無耶にしようにも、夏乃さんが証拠となる音声データを握っている限り難しい。
だったらやはり、恋人にならなければいけない。それも偽ではダメだ。悔しいが、あの人の洞察力は優れている。騙しにかかればすぐに見抜かれてしまうだろう。
昼休みを迎えるまで、あらゆる可能性を考えたが、結論に至る。
あと五日以内に高良を落とすしかない。
限りなく薄い可能性ではあるけれど、0ではない。夏乃さんのことを伝えれば、やむなし私と付き合ってくれる可能性が残っているからだ。
でも、限りなく0に近いんだよなぁ。
「はあ……。生のぷりきゃあでGTR組みたい」
「言ってることヤバ」
現実逃避の独り言を咎めてきたのは、隣の席の女の子、中学からの友達の愛ちゃん。黒髪ロングのギャルで、清楚系ビッチの特徴、という記事の写真になってそうな女の子だ。
実際、異性相手でも距離感が近く、人気がある。七海とよく似ているが、七海が『キラキラ! ドキッ!』って感じなら、愛ちゃんは『ムラムラ、ドクンドクン』って感じで女子感ではなく、女感が強い。
「どしたん? 何落ち込んでんの?」
「まあちょっと、ほぼ不可能なことを成し遂げないといけない、っていう事実に打ちのめされてて」
「よぉわからんね。気分転換に美味しいもんでも食べ行く? 何食べたい?」
「ベトナム産イタリアン韓国海苔」
「どこの何?」
ため息をついたとき、背中の上に乗っかられた。
「みっ、つるー」
「重い、重い、重い」
そう言っても、のいてくれないのは、高校に入った時からの友達、夢だ。ミルクティーカラーのショートボブに甘えったらしい性格。小悪魔な一面も持っていて、後輩キャラとして、一部のオタクに大層人気そうな女の子だ。実際に、何人かの先輩は彼女に骨抜きにされているのを知っている。
「あれ? なんか元気ないけい?」
「元気ないけー」
夢は「んー」と見上げたのち、あっ、と手をうった。
「振られたんだ、美鶴」
「まだ振られてないわ!」
「えー、でも、美鶴の好きな人って、隣のクラスの、なんだっけ?」
「高梨くん」
「……何で知ってる」
私がそう言うと、二人は、当然じゃん、と話し出す。
「ゆめが、転校生の噂話をした翌日に、好き好きオーラ全開で、お昼誘いに行ってたし」
「私は、中学の頃、散々聞いてきたし」
どうやらモロバレだったようだ。いやまあ、別にいいんだけど。
それより、夢が気になる反応をしていた。
「夢、『えー、でも』ってどういうこと? 振られて当然みたいな反応じゃん」
「そりゃそーだよー。だって、何だっけ、高梨くん? 彼、今、女子からめっちゃ人気だから」
「そだね。もう彼女いてもおかしくないし」
は?
「ど、どどど、どういうこと?」
愛ちゃんは、何を焦ってるの? と続ける。
「そりゃ、モテるでしょ。三年サッカー部の上手い人たちに決勝点決めて、球技大会優勝の立役者だし。それつながりで、先輩らに顔広くなってるし。クラスでもいつのまにか、明るいグループだし」
「うん、うん。それに、先々週かなぁ? 友達が、一人帰る高梨くんを見たらしいんだけど、私服がすっごぉく、お洒落だったらしいよ。結構その話もまわってる感じ〜」
冷や汗が流れる。
高良が、モテ、る?
いや、高良の良いところは私が一番知っている。今までモテなかったのが不思議なくらい……ってそんなことはどうでもいい。
あと5日以内に彼女を作らなければ夏乃さんと付き合わなければいけないことが、高良に知られればどうなるだろうか。女の子選り取り見取りのこの状況、すぐにでも好みの女の子と付き合うのではなかろうか。
夏乃さんのことを高良に伝えるつもりだった。それは、高良への誠意と、ちょっとの打算。まあ罠を教えたところで夏乃さんを止めることはできないけれど、知ったからには伝えないといけない、って誠意と、止むを得ず私を選んでくれるかもしれないという打算だ。
だけど、こうなってくると迷ってしまう。伝えた方がいいに決まっているけれど、完全に望みが絶たれるとなれば、話は別。浅ましくも、伝えるわけにはないと思う。
でも、だとすると、何もなしに、ただの葵美鶴という個人として、高良と5日以内に付き合わなければいけない。いや、モテているという状況をみるに、できうる限り早く付き合わなければいけない。
そんなの無理じゃん。
そう思って私は、いやいや、と首を振る。
「私、高良のとこ行ってくる!」
私は立ち上がり、友の応援を背に教室を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます