もはや色仕掛けしかない

 廊下をせかせかと歩く。


 無策で教室を出たわけだけど、歩くことで脳が刺激され、唯一の落とし方を思いついた。


 もはや色仕掛けしかない。


 男を落とすにはどうすればいいか、偉人は言った。


 おっぱいさわらせりゃ一発よ。


 正直、どうしようもなく照れるし、こういったことは順序を踏みたかった。だが、贅沢を言える状況ではないし、別に嫌ではないどころか嬉しい。前菜、副菜、主菜と食していくことが理想だが、いきなりメインが出てきても美味しいものは美味しいのだ。


 高良の教室の扉に手に掛ける。がらがらと開いて、教室内を見渡す。


 あれ、いない。


「葵さん、何か用ですか!?」


 近くにいた男子に話しかけられる。あー、名前なんだっけ? 高良とサッカーしてたチャラ目の子、たしか、池くんだっけ。


 ちゃんと思い出せなかったので、名前は呼ばず、用件だけ尋ねる。


「高良しらない?」


「ああ、なんか怖い笑顔浮かべた七海に、どっか連れてかれてましたよ」


「そう! ありがとう!」


 私は急いで教室を出る。


 まずい、事態は緊急を要する。


 高良がモテるこの状況。私と同じく高良が好きな七海も焦りを感じてるはず。少なくとも面白いとは思っていないだろう。


 そんな七海が取る行動は、主に二つ。積極的なアプローチ、もしくは告白だ。非常に気に食わないが、七海と私は思考がにか寄るため、私の予想は間違っていない確信がある。


 だとすれば、七海が高良を誘拐した先は絞れる。人目のつかない、屋上か校舎裏。屋上には、他の人がいる可能性があるため、校舎裏一択。


 急げ私! おっぱい触らせて、横からかっさらわないと!


 廊下は走り、階段は段飛ばしで降りる。靴を履き替えて、校舎裏へ急ぐ。


 たどり着くと、案の定二人がいて、割り込もうとした。


 だけど、会話が聞こえて、足を止める。


「ねえ、転校生はロリコンなの?」


「いや違うけど」


「でも今朝、幼い女の子に告白されて、満更でもない顔してたよね?」


「あの人、ああ見えて、二十歳超えてるから」


「本当にロリコンじゃないの?」


「じゃないよ」


「じゃあ証明してくれる?」


 七海は私までどきっとするくらい小悪魔な笑顔を浮かべて言った。


「私、ロリとはかけ離れた身体してるんだけどなぁ〜」


 七海は胸の下で腕を組み、前屈みになった。


 ごくり、と私の喉が鳴った。


 大きすぎず形のいい胸が強調され、白いワイシャツがパンと張り、ネクタイがなだらかに滑る。キュッとした腰は細くて、でも丸みを帯びていて、両手で挟みたくなる。交差された脚はまさに美脚と言ってよくて、スカートから伸びる腿はエロくて仕方ない。


 清純派の控えめのグラビア、でもって、レースクイーンみたいにセクシー。綺麗と可愛いの頂点って感じ。


 高良の顔が赤い。でも不思議と嫌じゃない。


 それもそうか、女の私ですら、生唾を飲み込むほどだ。男子だったら、理性が吹き飛んでも仕方ない。なのに、顔が赤い程度ですんでいる。


「どう? 転校生?」


「……素敵だと思うよ」


「んー。言葉だけ? 手を出さないってことは、やっぱり転校生はロリコンさんなのかな?」


 七海が高良に一歩近寄る。


 今すぐ割りこんで、二人を引き離したい……でも。


 私は俯いて自分の体を見る。悪くはない、胸も小さくはないし、スタイルも良い方。だけど、七海とは天と地くらいの差がある。


 色仕掛け、効果ない……よね。


 出て行っても負けに行くようなもの。比較されでもしたら、立ち直れない自信がある。ましてや、色仕掛けなんてもってのほかだ。


 私は、行きの足取りの軽さなんて嘘みたいに、重い足取りでとぼとぼ帰った。






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